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第五章
4 宿屋のハル
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☆
宮殿を出てから一年くらい経っただろうか?
俺は国境近くの街道沿いの宿屋のメイドをしている。前の食堂で、宿屋の女将に紹介状を書いて貰って、今回は長期の仕事に就いている。
長い旅をしてやっと国境近くに来たが、問題が起きた。
隣国に渡った後に、荒涼地帯が続くので、歩いて国境付近を歩くと盗賊に遭ったり、殺されたりするらしい。その荒涼地帯を抜けるためには、どうしても馬が必要になる。
馬を借りるか、馬車を借りるか……。
値段を考えると、馬を借る方が安そうだ。
どちらにしても、移動の手段を考えると、賃金が足りない。
俺は女として雇って貰って、賃金を貯めることにした。
この宿場町には、幾つか宿屋があるが、紹介してくれた宿屋は大きな宿屋で、貴族様も立ち寄る。
料理も一流の料理人が調理するので、王宮で出されるような食事が並ぶ。
勿論、そんな立派な食事を従業員は食べることはできないが、まかないも、それなりに美味しい。
従業員もそれなりにいて、俺は女性の4人部屋で寝起きしている。
この世界にも二段ベッドがあるのだ。驚いた。
お風呂は、個室なので順番に入っている。
特殊な体の事は、今のところ見つかっていないが、毎日、緊張した日々を送っていることは確かだ。
「ハル、パンが焼けたから、食堂に持って行ってくれる?」
「はい」
「ハル、わたしも手伝うわ」
「ありがとう。ジル」
ジルは俺より若いメイドだ。同じ部屋で過ごしている。
薄茶色の髪に、オレンジ色の瞳をしている。
俺より年下だけど、俺よりしっかりしていて、俺のサポートもよくしてくれる。
俺のベッドの上の段を使っている。
親しみのある女の子だ。
食事はバイキング様式だ。パンを並べて、バターやジャムの入った器を並べる。
今日のお客は100人ほどが泊まっている。
日本で言うところのホテルのような所だ。
客室は50室あって、二人部屋になっている。
三食、食事は食堂ですることになっているが、特別料金を払えば、部屋まで料理を運ぶこともある。
極秘の貴族様の旅や新婚旅行で贅沢な旅をしようとしている旅人が、時々、部屋で食事をする。
深夜に食事やお酒のオーダーを取るが、それは交代制で、俺も担当をすることがある。
深夜帯は、手当が付くので、俺は割と好きだ。
早くお金を貯めたい俺にとって、僅かな手当も嬉しい。
貸し出されたメイド服を着て、俺は朝早くから、キッチンから料理を食堂に並べて行く。
シェフが自ら焼いてくれる卵焼きは、人気メニューでいろんなバージョンがあり、何度も卵焼きの列に並ぶお客様もいるほどだ。
俺はここで働くようになって、前世の事をよく思い出す。
恋人と旅行に行ったときに入ったホテルや旅館で食べた料理やいろんな思い出。
俺はスペアーだったが、俺の恋人は俺の事も平等に遊びに連れて行ってくれた。
彼は妻帯者だった。
だから出張の時は必ずお供をした。
彼の妻には、俺の事は高校の後輩だと話していた。本当は違うが、彼の妻は、夫の嘘を信じていた。
僅かな罪悪感と勝ち取った優越感と、それでも彼が本当に帰る家は、妻のいる家だった。
スペアーの俺は、我慢することも多かったが、不倫をしていたので、それは仕方の無いことだった。
いろんな旅人を見ると、昔の俺のようなお客も来る。
密かに、頑張れと応援している俺がいる。
この国は男同士の恋人同士が意外に多いことに、驚いた。
女同士のお客は、反対に少ない。
男同士でも夫婦と宿帳に書かれていることも多くて、国でも認められているんだと知った。
俺はこの国の事を殆ど知らない。
俺が転生したときに、第二王子の意識は消えていた。
だから、王宮の事も国の事も何も知らなかった。
彼の意識があれば、まだ順応できたかもしれないが、それも運命なのかと、最近、自分を受け入れる事ができるようになってきた。
ゲームで得た知識は、勿論、役に立つが、全て同じとは限らないことを俺は、最初に知ってしまったから、最近では参考にする程度にしている。
俺はこの国の王宮に戻るつもりは、微塵もない。
オブリガシオン様にお目にかかって、俺の体を元に戻して貰い、俺は大好きだったオブリガシオン様の事を忘れて、街で静かに生きて行こうと思っている。
そのために、今は女の姿で、毎日、地道に働いて馬を借りるお金を貯める事に専念する。
どうか、心からの平穏が早く来ることを祈っている。
宮殿を出てから一年くらい経っただろうか?
俺は国境近くの街道沿いの宿屋のメイドをしている。前の食堂で、宿屋の女将に紹介状を書いて貰って、今回は長期の仕事に就いている。
長い旅をしてやっと国境近くに来たが、問題が起きた。
隣国に渡った後に、荒涼地帯が続くので、歩いて国境付近を歩くと盗賊に遭ったり、殺されたりするらしい。その荒涼地帯を抜けるためには、どうしても馬が必要になる。
馬を借りるか、馬車を借りるか……。
値段を考えると、馬を借る方が安そうだ。
どちらにしても、移動の手段を考えると、賃金が足りない。
俺は女として雇って貰って、賃金を貯めることにした。
この宿場町には、幾つか宿屋があるが、紹介してくれた宿屋は大きな宿屋で、貴族様も立ち寄る。
料理も一流の料理人が調理するので、王宮で出されるような食事が並ぶ。
勿論、そんな立派な食事を従業員は食べることはできないが、まかないも、それなりに美味しい。
従業員もそれなりにいて、俺は女性の4人部屋で寝起きしている。
この世界にも二段ベッドがあるのだ。驚いた。
お風呂は、個室なので順番に入っている。
特殊な体の事は、今のところ見つかっていないが、毎日、緊張した日々を送っていることは確かだ。
「ハル、パンが焼けたから、食堂に持って行ってくれる?」
「はい」
「ハル、わたしも手伝うわ」
「ありがとう。ジル」
ジルは俺より若いメイドだ。同じ部屋で過ごしている。
薄茶色の髪に、オレンジ色の瞳をしている。
俺より年下だけど、俺よりしっかりしていて、俺のサポートもよくしてくれる。
俺のベッドの上の段を使っている。
親しみのある女の子だ。
食事はバイキング様式だ。パンを並べて、バターやジャムの入った器を並べる。
今日のお客は100人ほどが泊まっている。
日本で言うところのホテルのような所だ。
客室は50室あって、二人部屋になっている。
三食、食事は食堂ですることになっているが、特別料金を払えば、部屋まで料理を運ぶこともある。
極秘の貴族様の旅や新婚旅行で贅沢な旅をしようとしている旅人が、時々、部屋で食事をする。
深夜に食事やお酒のオーダーを取るが、それは交代制で、俺も担当をすることがある。
深夜帯は、手当が付くので、俺は割と好きだ。
早くお金を貯めたい俺にとって、僅かな手当も嬉しい。
貸し出されたメイド服を着て、俺は朝早くから、キッチンから料理を食堂に並べて行く。
シェフが自ら焼いてくれる卵焼きは、人気メニューでいろんなバージョンがあり、何度も卵焼きの列に並ぶお客様もいるほどだ。
俺はここで働くようになって、前世の事をよく思い出す。
恋人と旅行に行ったときに入ったホテルや旅館で食べた料理やいろんな思い出。
俺はスペアーだったが、俺の恋人は俺の事も平等に遊びに連れて行ってくれた。
彼は妻帯者だった。
だから出張の時は必ずお供をした。
彼の妻には、俺の事は高校の後輩だと話していた。本当は違うが、彼の妻は、夫の嘘を信じていた。
僅かな罪悪感と勝ち取った優越感と、それでも彼が本当に帰る家は、妻のいる家だった。
スペアーの俺は、我慢することも多かったが、不倫をしていたので、それは仕方の無いことだった。
いろんな旅人を見ると、昔の俺のようなお客も来る。
密かに、頑張れと応援している俺がいる。
この国は男同士の恋人同士が意外に多いことに、驚いた。
女同士のお客は、反対に少ない。
男同士でも夫婦と宿帳に書かれていることも多くて、国でも認められているんだと知った。
俺はこの国の事を殆ど知らない。
俺が転生したときに、第二王子の意識は消えていた。
だから、王宮の事も国の事も何も知らなかった。
彼の意識があれば、まだ順応できたかもしれないが、それも運命なのかと、最近、自分を受け入れる事ができるようになってきた。
ゲームで得た知識は、勿論、役に立つが、全て同じとは限らないことを俺は、最初に知ってしまったから、最近では参考にする程度にしている。
俺はこの国の王宮に戻るつもりは、微塵もない。
オブリガシオン様にお目にかかって、俺の体を元に戻して貰い、俺は大好きだったオブリガシオン様の事を忘れて、街で静かに生きて行こうと思っている。
そのために、今は女の姿で、毎日、地道に働いて馬を借りるお金を貯める事に専念する。
どうか、心からの平穏が早く来ることを祈っている。
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