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第一章   転生 

4   王太子とお茶会

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「よく来てくれたね、モモ」

「今日、お目にかかれるのを楽しみにしていましたわ」

 おれはモモじゃないけど、今はモモになりきっている。

 それにしても、王子様は美しい。

 黄金の髪に瞳まで黄金で、まるで甘い蜂蜜を纏っているようだ。

 ふんわり柔らかそうな髪は、背中まであり真っ直ぐでお行儀良く揃っている。きちんと手入れされた髪だ。顔立ちもくっきりしていて、薄い唇はビスクドールみたいだ。

 それを言ったら、モモもおれもビスクドールみたいだ。いつも人形のように美しいと言われている。

 今日のアスビラシオン様は、お洒落なブラウスシャツにラフなズボンを履いている。

 靴はピカピカで、とてもお上品だ。

「16歳になったお誕生会を開いてないのを思い出したんだ」

「ええ、無事に16歳を迎えることができました。春から王立学校に2年通います」

「そのままお嫁に来てもいいのだよ。礼儀作法もきちんと学んでいるようだし、母もモモのことを娘のように思っているようだから」

「いえ、まだまだ未熟者ですので、もっと勉強して参ります」

 おれは美しく見えるように微笑んだ。

 すると、王子も眩しい微笑みを向けてきた。

 まったく、心臓に悪い。同性だと分かっていても、あまりに美しすぎて、ドキドキが止まらない。

「お誕生日祝いを用意したんだ。受け取ってもらえるかな?」

「気を遣わなくてもいいのですよ。わたしと殿下とは婚約者でございますので」

「婚約者の誕生日を祝わない王子は、恥でしかないだろう。そうは思わないか?愛情を疑われてしまうのではないか?」

「わたしは殿下を信じておりますので、品物がなくても、こうしてお目にかかるだけでも、十分に幸せでございます」

「可愛い事を……」

 王宮に到着したおれは、応接室に招かれた。

 森が描かれた絵画に、大きな花瓶には、深紅の薔薇が生けられている。

 王太子殿下の従者が一人、確かラウという名だと思う。モモが想い続けている騎士が、入り口に置物のように立っているが、身動き一つもしないので、その存在も忘れてしまう。

 座り心地のいいソファーに並んで座り、テーブルの上には、チョコレートと紅茶が置かれている。

 殿下はソファーの後ろに隠していた四角い箱を取り出して、その蓋を開けた。

「まあ、とても美しいですわ」

 それは、おれの瞳と同じ色をした宝石、アメジストのネックレスだった。

「これを付けていいだろうか?」

「こんな高価なものを、ありがとうございます」

 殿下は箱からネックレスを取り出すと、おれの首にそれを器用に付けた。

 長い髪を持ち上げられたとき、首に殿下の手が触れて、ドキドキと胸が騒いだ。

「後は、リボンだ。私の印章が刺繍されている。付けてもいいか?」

「はい」

 殿下は手櫛で髪を梳くと、髪をハーフアップにしてそこにリボンで結んだ。

 ラベンダー色のリボンは、きっと瞳の色とお揃いにしたのだろう。

「美しい」

「ありがとうございます」

 殿下はクッションの下から手鏡を取りだして、おれに手渡した。

 ゴールドのチェーンに、綺麗な一粒のアメジストが輝いている。大きすぎず、そして小さすぎない。ちょうど似合う大きさで、カットが珍しいのか、キラキラ光る。

 リボンは見えないけれど、きっと綺麗なものなのだろう。

 モモが貰うべきものをおれが貰ってしまった。微かな罪悪感を抱えながら、嬉しそうに微笑む。

「……好きだ」

 頬にキスされて、そのまま抱きしめられる。おれは俯く。

 温かな体温に包まれ、幸せなのに、おれには言葉を返すことができない。

 モモは殿下のことを好きではない。

 でも、おれは殿下の事は、むしろ好きだ。これほどの愛情を受け取った事は、今まで無かったから。正直に言えば嬉しい。

「……わたしも好きです」

 言ってはいけない言葉を、うっかり返してしまった。

 モモが聞いたら激怒しそうだけど、答えずにいられなかった。

 殿下の腕の力が増したような気がする。

「結婚は早めにしよう」

「……はい」

 殿下は嬉しそうに微笑んでいる。

「あの、殿下、わたしは……」

「何も言わずにおればいい」

「話を聞かなければ、分からない事もありますわ」

「だが、今日は何も聞きたくはないのだ。そなたも話すのが辛かろう。せっかくの誕生日祝いの席で余計な事を考えるな」

「……はい」

 おれは殿下にずいぶん抱きしめられていた。

 帰りの馬車に乗るまでに、あと2度ほどキスをされた。

 チクチクと疼く罪悪感が、やはり胸を痛ませた。


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