63 / 67
63
しおりを挟む
篤志が来る前に朝霧さんと前島さんが見舞いに来た。
俺は自分の症状を話して、菜都美が心配だと話した。
同時に、加害者の子である篤志の事も心配であることも話した。
朝霧さんは「ここは皆で協力する」と言ってくれた。
俺はお願いしますと頭を下げた。
入院は最短で三日と言われた。三日後の検査で異常がなければ、家で安静にできるのなら退院できると言われた。
病院では暇だ。普段、菜都美の世話をしているから、自分だけの時間がまずない。
篤志はまだ戻って来てないのか、病院に来ない。
もう戻って来たのだが、菜都美が寝ている可能性もある。
スマホはあるが、俺が連絡したことで菜都美が泣いてしまう可能性があるから、電話やメールも止めた方がいいかもしれない。
安静って、退屈だ。
撮った写真を見ることくらいしかやることがない。
菜都美の写真を見ながら、産まれたばっかりの頃から成長していく様子を見ていると、感極まって涙が出てしまう。
絶望の4月から8ヶ月。
俺は自分でも、良くやったと思える。
思えるけれど、篤志と俺の関係はどうだろうか?
篤志が望むように結婚をしたが、篤志には我慢ばかりさせていたように思える。
菜都美を一番に考えるようにしてくれと、俺は我が儘を言ったのかもしれない。
自分の意見を無理に押しつけていたかもしれない。
篤志とは、もっと話し合う必要がきっとある。
俺は写真を見ながら、色々と反省をしている。
写真の量は篤志の写真より菜都美の写真の方が断然多い。
写真の数で愛情を数えるのは馬鹿馬鹿しいが、俺はちゃんと篤志を愛している。
その事を、きちんと伝えよう。
助けに来てくれたのに、来ては駄目だと禁止していたら、俺は叔父さんに殺されていたかもしれない。
篤志が来てくれたから、今生きている。
首を絞められたのは初めてだが、死が迫ってくるのを感じた。
あと少し遅ければ、俺は死んでいた。
篤志にも菜都美にも触れる事のできない存在になって、俺はきっと成仏できずに、篤志の周りに留まっていただろう。
きちんと「助けてくれてありがとう」と伝えよう。
家に帰ったら、菜都美の頭をいっぱい撫でてやろう。
入院して三日、誰も来なかった。
寂しくて、俺の心が壊れそうになった。
検査をして、頭の中にあった血液が吸収されたことがわかって、退院してもいいと言われて、俺は始めて篤志に電話をした。
いつものようにワンコールで出る篤志が愛おしい。
「あっちゃん、迎えに来てくれる?」
「もういいのか?」
「後は、自宅で安静にしていればいいって」
「すぐ菜都美と迎えに行く」
「待ってるね」
通話が切れた。
俺は病衣から着替えようとしたが、血のついた洋服しかなかった。
どうしよう。
マグカップや入院で買ってもらった物をコンビニの袋に入れて、仕方なく病衣のままで待つ。
電話から20分で篤志が迎えに来てくれた。
「パパ」と菜都美が俺を呼ぶ。
『んぱ』ではない。
「パパ、パパ。なちゅみ、いい子してたよ」
俺は嬉しくて、涙が出てきて、菜都美を抱きしめながら泣いてしまった。
「パパ、いい子いい子」と菜都美が俺の頭を撫でてくれる。
「菜都美、パパの頭は怪我をしているから、きっと痛いよ」
「いたい、だめ」
菜都美が俺の手を握ってくれる。
「真、着替えを持ってきた。クリスマスプレゼントだったけど」と手渡されたのは、篤志とお揃いのポロシャツで色違いだった。ズボンも靴下もポロシャツの下に着るTシャツもコートも真新しい物だった。
「こんなにも?」
「真、高校生の時に着ていた洋服をまだ着ていただろう。ずっと気になっていたんだ。仕送りはギリギリだったから、洋服も買ってないだろう?だから、全部、買い換えといた。菜都美と真の洋服を選びに三日間、デパートで遊んでいたんだ」
「あっちゃん、菜都美もありがとう」
篤志は、菜都美をベッドの真ん中に座らせると、俺を抱きしめてきた。
「寂しかった」
「俺も寂しかった。あっちゃん、俺を助けてくれてありがとう。あっちゃんのお陰で、俺、今生きている」
「俺、初めて父親を蹴ったけど、もう両親とは関わらないことにした。円城寺先生に接近禁止をお願いした」
「いいのか?」
「俺が決めた。俺の家族は真と菜都美だ。役所に行って、開示禁止をしてきた」
「ありがとう」
俺はまた泣いていた。
菜都美が心配そうに見ているけれど、涙は簡単に止まらない。
「愛している」と俺は篤志に伝えた。
「菜都美が見ているぞ」
「でも、嬉しくて」
「さあ、パパは着替えて」
「うん」と頷いて、俺は真新しい洋服に着替えて、温かなコートも着た。
今まで着ていた洋服より暖かい。
この温もりは篤志の愛情なのだと思った。
菜都美も可愛い服を着ている。
靴も新しく購入したようだ。
「パパ、かえろ」
「帰ろうな」
篤志は菜都美に靴を履かせた。
「パパ、あっこ」
「抱っこね」
三日ぶりに菜都美を抱っこした。
抱っこすると、菜都美が泣き出した。
「んぱんぱふえん」
「ごめんな、菜都美。いっぱい我慢したんだな」
俺は菜都美の頭をいっぱい撫でた。
俺は自分の症状を話して、菜都美が心配だと話した。
同時に、加害者の子である篤志の事も心配であることも話した。
朝霧さんは「ここは皆で協力する」と言ってくれた。
俺はお願いしますと頭を下げた。
入院は最短で三日と言われた。三日後の検査で異常がなければ、家で安静にできるのなら退院できると言われた。
病院では暇だ。普段、菜都美の世話をしているから、自分だけの時間がまずない。
篤志はまだ戻って来てないのか、病院に来ない。
もう戻って来たのだが、菜都美が寝ている可能性もある。
スマホはあるが、俺が連絡したことで菜都美が泣いてしまう可能性があるから、電話やメールも止めた方がいいかもしれない。
安静って、退屈だ。
撮った写真を見ることくらいしかやることがない。
菜都美の写真を見ながら、産まれたばっかりの頃から成長していく様子を見ていると、感極まって涙が出てしまう。
絶望の4月から8ヶ月。
俺は自分でも、良くやったと思える。
思えるけれど、篤志と俺の関係はどうだろうか?
篤志が望むように結婚をしたが、篤志には我慢ばかりさせていたように思える。
菜都美を一番に考えるようにしてくれと、俺は我が儘を言ったのかもしれない。
自分の意見を無理に押しつけていたかもしれない。
篤志とは、もっと話し合う必要がきっとある。
俺は写真を見ながら、色々と反省をしている。
写真の量は篤志の写真より菜都美の写真の方が断然多い。
写真の数で愛情を数えるのは馬鹿馬鹿しいが、俺はちゃんと篤志を愛している。
その事を、きちんと伝えよう。
助けに来てくれたのに、来ては駄目だと禁止していたら、俺は叔父さんに殺されていたかもしれない。
篤志が来てくれたから、今生きている。
首を絞められたのは初めてだが、死が迫ってくるのを感じた。
あと少し遅ければ、俺は死んでいた。
篤志にも菜都美にも触れる事のできない存在になって、俺はきっと成仏できずに、篤志の周りに留まっていただろう。
きちんと「助けてくれてありがとう」と伝えよう。
家に帰ったら、菜都美の頭をいっぱい撫でてやろう。
入院して三日、誰も来なかった。
寂しくて、俺の心が壊れそうになった。
検査をして、頭の中にあった血液が吸収されたことがわかって、退院してもいいと言われて、俺は始めて篤志に電話をした。
いつものようにワンコールで出る篤志が愛おしい。
「あっちゃん、迎えに来てくれる?」
「もういいのか?」
「後は、自宅で安静にしていればいいって」
「すぐ菜都美と迎えに行く」
「待ってるね」
通話が切れた。
俺は病衣から着替えようとしたが、血のついた洋服しかなかった。
どうしよう。
マグカップや入院で買ってもらった物をコンビニの袋に入れて、仕方なく病衣のままで待つ。
電話から20分で篤志が迎えに来てくれた。
「パパ」と菜都美が俺を呼ぶ。
『んぱ』ではない。
「パパ、パパ。なちゅみ、いい子してたよ」
俺は嬉しくて、涙が出てきて、菜都美を抱きしめながら泣いてしまった。
「パパ、いい子いい子」と菜都美が俺の頭を撫でてくれる。
「菜都美、パパの頭は怪我をしているから、きっと痛いよ」
「いたい、だめ」
菜都美が俺の手を握ってくれる。
「真、着替えを持ってきた。クリスマスプレゼントだったけど」と手渡されたのは、篤志とお揃いのポロシャツで色違いだった。ズボンも靴下もポロシャツの下に着るTシャツもコートも真新しい物だった。
「こんなにも?」
「真、高校生の時に着ていた洋服をまだ着ていただろう。ずっと気になっていたんだ。仕送りはギリギリだったから、洋服も買ってないだろう?だから、全部、買い換えといた。菜都美と真の洋服を選びに三日間、デパートで遊んでいたんだ」
「あっちゃん、菜都美もありがとう」
篤志は、菜都美をベッドの真ん中に座らせると、俺を抱きしめてきた。
「寂しかった」
「俺も寂しかった。あっちゃん、俺を助けてくれてありがとう。あっちゃんのお陰で、俺、今生きている」
「俺、初めて父親を蹴ったけど、もう両親とは関わらないことにした。円城寺先生に接近禁止をお願いした」
「いいのか?」
「俺が決めた。俺の家族は真と菜都美だ。役所に行って、開示禁止をしてきた」
「ありがとう」
俺はまた泣いていた。
菜都美が心配そうに見ているけれど、涙は簡単に止まらない。
「愛している」と俺は篤志に伝えた。
「菜都美が見ているぞ」
「でも、嬉しくて」
「さあ、パパは着替えて」
「うん」と頷いて、俺は真新しい洋服に着替えて、温かなコートも着た。
今まで着ていた洋服より暖かい。
この温もりは篤志の愛情なのだと思った。
菜都美も可愛い服を着ている。
靴も新しく購入したようだ。
「パパ、かえろ」
「帰ろうな」
篤志は菜都美に靴を履かせた。
「パパ、あっこ」
「抱っこね」
三日ぶりに菜都美を抱っこした。
抱っこすると、菜都美が泣き出した。
「んぱんぱふえん」
「ごめんな、菜都美。いっぱい我慢したんだな」
俺は菜都美の頭をいっぱい撫でた。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる