62 / 67
62
しおりを挟む
俺は菜都美の泣き声で目を覚ました。
「菜都美」
「んぱんぱふえん」
「真」
「ここは?」
「救急車の中だ」
「大袈裟だよ」
俺は動こうとしたが、担架に縛られていた。
「動かないでください」と救急隊の人に注意をされた。
なんだか顔と痺れるように痛む頭にガーゼが貼られているような感じがする。
「親父がすまない」
「叔父さんは?」
「警察に捕まった。馬鹿な父親だ」
「俺が悪いって思わないと、辛かったのかも」
俺は、菜都美の足に触れることができた。
「泣かなくてもパパは元気だよ」
「んぱんぱふえん」
病院に着いて、診察をして、検査もされた。
頭を鉄パイプで叩かれていたようで、検査入院になった。
菜都美は泣き疲れて眠ってしまった。
菜都美を俺のベッドの中に寝かせて、落ちないように柵を上げておく。
「あっちゃん、菜都美が夜中に目を覚まして、お腹を空かせないようにパンでいいから買っておいて。甘くないパンね。オレンジジュースも。ストローついているのだよ。果汁100%ね。鞄は持ってきた?」
「忘れた」
「そうしたら、おしめも買ってきて女の子のMサイズね。お尻ふきも忘れないで。まだ売店空いていると思う」
「真をひとりにしたくない。母親が来たら、殺されてしまうかもしれない」
「ナースコールあるから、誰か来たら看護師さん呼ぶから、菜都美の事お願い」
「分かった」
篤志は俺にキスしてから、部屋から出て行った。
俺は菜都美を抱きしめた。
怖いところを見せてしまった。
心に傷を付けたくないのに、どうして叔父さんは大切なこの時期に暴力など起こしたのだろう。
完全に刑事事件になってしまった。
頭と殴られた頬の痛みと同じくらい胸も痛い。
篤志が可哀想だ。
成人した子供の将来に口出すことはあっても、最後に決めるのは本人だ。
篤志は29才だ。
もう立派な大人なのに、いちいち口出しされるのは、俺でも嫌だ。
篤志の心中が心配だ。
今回は篤志は叔父さんを蹴って、窒息しかけていた俺を助けた。
篤志に自分の両親に手を上げさせては駄目だ。
怪我をさせても、無傷でも篤志の心が傷つく。
篤志は走って買い物をしてきたのか、珍しく息を乱している。
俺が言った物は確実に買ってきてくれたが、コップや歯ブラシや櫛、箸などの入院に必要な物は、何一つ買ってきていない。
「あっちゃん」
俺は篤志を呼んだ。
「キスして」
「いいのか?」
「早く」
篤志は俺にキスして、俺を抱きしめてきた。
篤志はやはり震えていた。
混乱しているんだ。
「真、死なないでくれ。俺をひとりにしないでくれ」
「俺は死なない。俺には菜都美を大人になるまで育てる義務があるからね。俺と結婚したあっちゃんも、俺と同じ義務があるんだよ。一緒に菜都美を育てよう。8ヶ月の赤ちゃんだから、目を離したら危ないんだよ。俺は小さな頃からあっちゃんが好きで、結婚できたことが嬉しい。だから、俺と一緒に菜都美を今は一番にしてあげよう」
俺は篤志の手を握った。
「分かった」
「あっちゃん、ありがとう」
「真の願いは、必ず叶える」
「俺もあっちゃんの願いを叶えるからね」
篤志はやっと少し落ち着いてきた。
「忘れ物、多いな」
「割り箸とコップと歯ブラシと歯磨き粉が欲しいな」
「買ってくる」
「あと、あっちゃんの夕ご飯ね」
篤志は照れくさそうに笑った。
「菜都美の歯ブラシも買ってくる」
「お願いね」
「任せろ」
やっと篤志がいつもの笑顔を見せた。
「あっちゃん、好きだよ」
「俺は真しか見えていなかった。菜都美は真の子だ。真の子は俺の子だ。これから、ひとりにしたりしない」
「あっちゃん、ありがとう」
篤志は俺にキスをすると、部屋から出て行った。
その日の夜に、弁護士の円城寺先生が来てくれた。
篤志の父親は、再逮捕になり、裁判の日まで投獄されるそうだ。
大塚電気の社長は、社長職を剥奪されたらしい。
何故、篤志に拘ったかと話し出したようだ。
篤志のプロのプログラミングの腕を自分の物にしたかったらしい。娘と結婚させたら、会社を任せられると思ったと言った。
全て自供をして、全て無くした元社長は、示談の話し合いを望んでいると言われた。
俺は承諾した。
お嬢様も「父親の言いなりに動いていました」と話した。
恋愛感情はありましたと告げていたようだ。
「付き纏ってすみません。もう近づきません」と謝罪をしたそうだ。
俺が示談を受け入れたので、後は弁護士の先生同士が話し合いをするようだ。
助けたい篤志の父親は、今日、俺に暴力を働いて、怪我をさせてしまったので、傷害事件になってしまった。
示談の話し合いで終わる内容ではなくなってしまった。
篤志の心が心配になった。
けれど、落ち着いた篤志は、俺と約束したとおりに、菜都美のことを一番に見てくれるようになった。
一泊入院して、俺は東京の病院に転院することになった。
篤志は菜都美と俺の実家に戻って、車で戻ることになり、俺はドクターヘリで運ばれた。
きっと菜都美が泣いていると思うと、気がかりだが、「責任を持って菜都美を真のところに連れて行く」と篤志が言った。
「菜都美は俺と真の子だから」と言ってくれた。
篤志の心の中で、何かが変化したような気がする。
俺は先に東京の病院に運ばれて、精密検査を受けている。
金属パイプは、俺の工場の物だと思う。
それをこっそり盗んで、俺が工場に入っていったのを見ていたのだろう。
軽い急性硬膜外血腫があるが、今は安静にしていればいいと言われた。
叩かれてできた外傷は、髪で隠せそうだ。
10針ほど縫われた。
短く切ったら、それこそ傷跡が目立ってしまいそうだ。
俺は髪が長くて、良かったと思った。
腕や腹や背中を叩かれたが、打撲と言われた。
指と手首が折れてなくてよかった。
プログラムを書ける術が残っていれば、多少の傷は我慢できる。
俺は弁護士の円城寺先生に「減刑で」とお願いしてある。
篤志の父親なので、厳罰は望んでいない。
その代わり、今後、俺と俺の娘に近づかないようにして欲しいと頼んだ。
篤志は実の父親なので、何かあれば手を貸さなければならない事もあるかもしれないので、篤志のことはお願いしていない。
篤志が円城寺先生に「自分も」と言えば、接近禁止命令は出されるだろうけれど、今はしていない。
検査は終わり、俺は暫く入院になってしまった。
篤志ひとりで、菜都美の世話ができるだろうか?
心配だ。
「菜都美」
「んぱんぱふえん」
「真」
「ここは?」
「救急車の中だ」
「大袈裟だよ」
俺は動こうとしたが、担架に縛られていた。
「動かないでください」と救急隊の人に注意をされた。
なんだか顔と痺れるように痛む頭にガーゼが貼られているような感じがする。
「親父がすまない」
「叔父さんは?」
「警察に捕まった。馬鹿な父親だ」
「俺が悪いって思わないと、辛かったのかも」
俺は、菜都美の足に触れることができた。
「泣かなくてもパパは元気だよ」
「んぱんぱふえん」
病院に着いて、診察をして、検査もされた。
頭を鉄パイプで叩かれていたようで、検査入院になった。
菜都美は泣き疲れて眠ってしまった。
菜都美を俺のベッドの中に寝かせて、落ちないように柵を上げておく。
「あっちゃん、菜都美が夜中に目を覚まして、お腹を空かせないようにパンでいいから買っておいて。甘くないパンね。オレンジジュースも。ストローついているのだよ。果汁100%ね。鞄は持ってきた?」
「忘れた」
「そうしたら、おしめも買ってきて女の子のMサイズね。お尻ふきも忘れないで。まだ売店空いていると思う」
「真をひとりにしたくない。母親が来たら、殺されてしまうかもしれない」
「ナースコールあるから、誰か来たら看護師さん呼ぶから、菜都美の事お願い」
「分かった」
篤志は俺にキスしてから、部屋から出て行った。
俺は菜都美を抱きしめた。
怖いところを見せてしまった。
心に傷を付けたくないのに、どうして叔父さんは大切なこの時期に暴力など起こしたのだろう。
完全に刑事事件になってしまった。
頭と殴られた頬の痛みと同じくらい胸も痛い。
篤志が可哀想だ。
成人した子供の将来に口出すことはあっても、最後に決めるのは本人だ。
篤志は29才だ。
もう立派な大人なのに、いちいち口出しされるのは、俺でも嫌だ。
篤志の心中が心配だ。
今回は篤志は叔父さんを蹴って、窒息しかけていた俺を助けた。
篤志に自分の両親に手を上げさせては駄目だ。
怪我をさせても、無傷でも篤志の心が傷つく。
篤志は走って買い物をしてきたのか、珍しく息を乱している。
俺が言った物は確実に買ってきてくれたが、コップや歯ブラシや櫛、箸などの入院に必要な物は、何一つ買ってきていない。
「あっちゃん」
俺は篤志を呼んだ。
「キスして」
「いいのか?」
「早く」
篤志は俺にキスして、俺を抱きしめてきた。
篤志はやはり震えていた。
混乱しているんだ。
「真、死なないでくれ。俺をひとりにしないでくれ」
「俺は死なない。俺には菜都美を大人になるまで育てる義務があるからね。俺と結婚したあっちゃんも、俺と同じ義務があるんだよ。一緒に菜都美を育てよう。8ヶ月の赤ちゃんだから、目を離したら危ないんだよ。俺は小さな頃からあっちゃんが好きで、結婚できたことが嬉しい。だから、俺と一緒に菜都美を今は一番にしてあげよう」
俺は篤志の手を握った。
「分かった」
「あっちゃん、ありがとう」
「真の願いは、必ず叶える」
「俺もあっちゃんの願いを叶えるからね」
篤志はやっと少し落ち着いてきた。
「忘れ物、多いな」
「割り箸とコップと歯ブラシと歯磨き粉が欲しいな」
「買ってくる」
「あと、あっちゃんの夕ご飯ね」
篤志は照れくさそうに笑った。
「菜都美の歯ブラシも買ってくる」
「お願いね」
「任せろ」
やっと篤志がいつもの笑顔を見せた。
「あっちゃん、好きだよ」
「俺は真しか見えていなかった。菜都美は真の子だ。真の子は俺の子だ。これから、ひとりにしたりしない」
「あっちゃん、ありがとう」
篤志は俺にキスをすると、部屋から出て行った。
その日の夜に、弁護士の円城寺先生が来てくれた。
篤志の父親は、再逮捕になり、裁判の日まで投獄されるそうだ。
大塚電気の社長は、社長職を剥奪されたらしい。
何故、篤志に拘ったかと話し出したようだ。
篤志のプロのプログラミングの腕を自分の物にしたかったらしい。娘と結婚させたら、会社を任せられると思ったと言った。
全て自供をして、全て無くした元社長は、示談の話し合いを望んでいると言われた。
俺は承諾した。
お嬢様も「父親の言いなりに動いていました」と話した。
恋愛感情はありましたと告げていたようだ。
「付き纏ってすみません。もう近づきません」と謝罪をしたそうだ。
俺が示談を受け入れたので、後は弁護士の先生同士が話し合いをするようだ。
助けたい篤志の父親は、今日、俺に暴力を働いて、怪我をさせてしまったので、傷害事件になってしまった。
示談の話し合いで終わる内容ではなくなってしまった。
篤志の心が心配になった。
けれど、落ち着いた篤志は、俺と約束したとおりに、菜都美のことを一番に見てくれるようになった。
一泊入院して、俺は東京の病院に転院することになった。
篤志は菜都美と俺の実家に戻って、車で戻ることになり、俺はドクターヘリで運ばれた。
きっと菜都美が泣いていると思うと、気がかりだが、「責任を持って菜都美を真のところに連れて行く」と篤志が言った。
「菜都美は俺と真の子だから」と言ってくれた。
篤志の心の中で、何かが変化したような気がする。
俺は先に東京の病院に運ばれて、精密検査を受けている。
金属パイプは、俺の工場の物だと思う。
それをこっそり盗んで、俺が工場に入っていったのを見ていたのだろう。
軽い急性硬膜外血腫があるが、今は安静にしていればいいと言われた。
叩かれてできた外傷は、髪で隠せそうだ。
10針ほど縫われた。
短く切ったら、それこそ傷跡が目立ってしまいそうだ。
俺は髪が長くて、良かったと思った。
腕や腹や背中を叩かれたが、打撲と言われた。
指と手首が折れてなくてよかった。
プログラムを書ける術が残っていれば、多少の傷は我慢できる。
俺は弁護士の円城寺先生に「減刑で」とお願いしてある。
篤志の父親なので、厳罰は望んでいない。
その代わり、今後、俺と俺の娘に近づかないようにして欲しいと頼んだ。
篤志は実の父親なので、何かあれば手を貸さなければならない事もあるかもしれないので、篤志のことはお願いしていない。
篤志が円城寺先生に「自分も」と言えば、接近禁止命令は出されるだろうけれど、今はしていない。
検査は終わり、俺は暫く入院になってしまった。
篤志ひとりで、菜都美の世話ができるだろうか?
心配だ。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる