幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 わんこのボディーを注文するために、実家に戻った。

 篤志の父親は、今は自宅に戻っているらしい。

 裁判があるが、一時金を払って釈放されているという。

 あまり刺激を与えたくないが、次のわんこのデザインとカラーを少し変えた。

 毎回同じより、違うカラーで出した方が購買者の刺激になるんじゃないかとクリスマスパーティーの翌日に皆と話し合った。

 小野田さんとカラーの打ち合わせをしたい。

 わんこのボディーの値段を幾らにするか正式に考えていなかったので、一体につき20万円としてもらえた。それでも安いと思うが、最初は五万円でいいと俺が言ったので、『工場の社長として考えろ』と朝霧さんに呆れられた。

 俺は社長の素質はないので、朝霧さんが考えた金額にしたのだ。

 工場の皆の給料を上げることができる。

 今度は10体ずつ欲しいと言われたので、合計30体だ。

 作るのは俺だが、工場の皆も喜ぶだろう。

 カラーはブラックが一番人気だったようなので、ブラックは外さない方がいい。ただ今度はメタリックブラックだ。

 メタリックブルーをメタリックグリーンで出すことにした。

 レッドも人気だったらしくメタリックレッドにして、全種類にイエローのラインを格好よく入れた。

 下書きを作ってきたので、それを工場のパソコンに入れる。

 俺が仕事をしている間は、篤志が菜都美を見てくれている。

 30体と数が多いので、期限は一ヶ月半となった。

 小野田さんと色合わせをして、ラインを入れるのが難しいと言われたので、今度はわんこの単価を上げてもらうように朝霧さんに言っておかなくては。

 俺は社長らしく考えた。


「社長、お正月は休みをいただいても宜しいでしょうか?」と小野田さんに聞かれて、うっかり忘れていた正月があった。

「勿論、休んでもらって構いません」


 やはり、俺は社長に向いてないのかもしれない。

 商品の仕上がりは、二ヶ月後となった。二ヶ月は長すぎる。


「半分でもできたら、入荷することはできませんか?」

「それはできます」

「馬鹿な社長ですみません。でき次第、作っていきたいので、10体できたらその都度、届けてもらえる?」

「分かりました」と小野田さんは微笑んだ。

「社長、私達に無理を言ってもいいのですよ。もっと傲慢になっても大丈夫ですよ」

「俺、慣れていなくて。でも、お給料は上がるんで、楽しみにしていてください」

「それは楽しみですね」


 工場の皆が集まってきて、新しいボディーを見ている。


「出来上がったら、またマンションに運んでもらえますか?」

「分かりました」

「普段の仕事は順調ですか?」

「問題なく順調です」

「何か異変があったら、できるだけ早く教えてください」

「承知しています」と小野田さんが答えた。

「正月前に、できるところまでやっておくか?」と工場の皆が張り切りだした。

「皆さん、怪我には気をつけてお願いします」


 俺は皆の邪魔になるので、工場から出て行った。

 家に入ろうと、工場から母屋に戻るときに、篤志の父親、叔父さんと会ってしまった。

 俺は迷ったが会釈をして、早く家の中に入ろうとした。


「この野郎、うちの息子を誑かしやがって」


 叔父さんは、まるで俺を待ち伏せしていたように、鉄パイプを持って俺に向かってくる。 

 咄嗟に、ノートパソコンで頭を庇うが、薄いノートパソコンは直ぐに真っ二つになり落下して、鉄パイプは俺の頭を殴打する。


「止めてください」


 俺は鉄パイプを手で受け止めてみるが、俺は普段から体を鍛えていないので、鉄パイプを受け止めきれずに、やられっぱなしだ。

 このままでは殺されてしまう。


「助けて!」と叫ぶと叔父さんは鉄パイプを地面に捨てて、俺を地面に倒して、顔を叩きだした。

「止めてください」

「貴様のせいで、息子が、篤志が変わってしまったんだ」

「痛い、叔父さん。止めてください」

「この野郎、死ね」


 散々殴った後、首を絞められた。苦しくて、意識が遠のく。

 俺はここで死ぬのか?

 まだ死ねない。

 菜都美を育てなければならない。

 篤志ともっと幸せに暮らしたい。

 やりたいことが、まだたくさんあるのに、ここで死んでしまうのか?

 篤志が走って出てきて、叔父さんを蹴り飛ばした。

 叔父さんは、自分の顔を押さえている。

 俺は咳き込みながら、新鮮な空気を吸う。


「親父、何やっているんだ」

「血が、血が出ている」と叔父さんが驚いたような声を出している。


 俺は篤志に助けられた。

「社長!」

 工場の中から人も出てきて、大騒ぎになってしまった。

 家の中から、菜都美の泣き声もする。


「あっちゃん、菜都美は?」

「すまない。置き去りだ」

「駄目でしょう。俺より菜都美を見てくれなくちゃ」


 工場の皆が叔父さんを捕まえて、俺から引き剥がしている。

 俺は這いずって、叔父さんの下から逃げ出して、母屋に走った。

 篤志は、俺の腕を支えてくれた。


「あっちゃん、俺は男だし大人だから、菜都美を最優先にして」

「俺は真が好きなんだ」

「菜都美を一番に好きになって」

「血が出ている」

「いいから、菜都美のところに」

 俺は目眩がして、倒れていく。


「菜都美をお願い」

「真、待ってて」


 篤志が母屋の方に走っていくのを見て、俺は意識を失った。

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