幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 クリスマス会は続いて、食事を食べ終わると、要らない物は素早く片付けて、真ん中のケーキに火が点る。

 俺は菜都美を抱きしめて、怖がらないように背中をポンポンした。


「んぱ」

「綺麗だね。蝋燭に火が点ったんだ」


 佐伯さんが「電気を消すよ」と言うと、ツリーの点滅と蝋燭の明かりだけになった。


「んぱ」

「怖くないよ」

「なっちゃん、フーしてごらん」と朝霧さんが言った。

「ふう」

「ちょっと難しいかも」と俺は言う。


 菜都美の唇に触れて、「ふー」と声を掛けると、俺の指に風を感じる。

 俺は菜都美の指に「ふー」と息を吹きかける。


「真君、一緒にしてあげて」

「はい」


 俺は菜都美と「ふー」と息を吹きかけた。

 その瞬間、電気が点いて、菜都美が目をぱちくりさせている。

 菜都美は、まだ「ふー」と息を吐く練習をしている。


「メリークリスマス」と皆が言う。

 菜都美は頭をポンポンしている。


「祐二、ケーキカットしてくれる?」

「ああ、任せておけ」


 前島さんは、自前の長いケーキをカットするナイフで、綺麗にカットしてくれた。

 6人と菜都美の分のケーキが配られて、菜都美のケーキには蝋燭が立っている。

 菜都美のイチゴだけ食べやすく小さく着られているところは、気配りの人、前島さんらしい。

 紙コップに、それぞれ飲み物が注がれて、俺はお茶をもらった。


「なちゅみ、おれんじ」

「菜都美はミルクがあるよ」

「おれんじ」

 紙カップにオレンジが注がれて、菜都美は喜んでいる。


「んぱ、ふー」

「やりたいのか?」

「ふー」


 篤志が菜都美の蝋燭に火を点すと、菜都美は今度は「ふー」と息を吐いて、火が消えた。


「なちゅみ、いい子?」

「いい子だね」


 俺は菜都美の頭を撫でる。


「なっちゃん、すごくいい子だね」と朝霧さんが褒めて、菜都美の頭を撫でている。

「菜都美ちゃん、いい子だね」と皆が言うから、菜都美はずっと自分の頭を撫でている。


 篤志が菜都美の頭を撫でて、菜都美にスプーンを渡した。


「蝋燭は食べられないから、取るよ」と俺は蝋燭を取って、見えない場所に片付けた。


「ふー」

「ケーキ食べてごらん。美味しいよ」


 俺はケーキを掬って、菜都美の口の中に入れた。


「うまうま」

「美味しいね。自分で食べられる?」


 菜都美はスプーンで掬って、ケーキを食べ出した。


「うまうま」


 皆の表情が柔らかくなる。

 菜都美が可愛くて、俺は菜都美がケーキを食べているところを動画で取った。

「真」と篤志に呼ばれて、顔だけ上げると、篤志は俺の写真を撮った。

 俺、写真嫌いだって言っているのに。

 でも、今日は特別の日だね。

 菜都美がケーキを食べると、俺も食べようとしたら、「んぱ。ぽんぽん」とお腹を叩いている。


「菜都美、もっと欲しいの?」

「ぽんぽん」


 俺がケーキをあげようとしたら、前島さんが菜都美のお皿にケーキを入れてくれた。


「すみません」

「菜都美ちゃんのケーキは半分にしておいたので」と前島さんが言った。

 俺もケーキを食べた。

 ものすごく美味しいケーキだった。

 菜都美がお代わり寄越せと言うだけある。

 篤志もケーキを食べている。

 俺も隠し撮りしておいた。

 菜都美とツーショットは、まだ持っていない。


 ジュースを飲ませるとき、紙コップの片方を潰して、菜都美の口の中に入れる。


「うまうま」

「美味しいの?」

「このオレンジジュースは愛媛から取り寄せた高級品なんだよ。菜都美は目利きも優れているのか?」と佐伯さんが言った。

「そんなに美味しいんだ?」

「真君も飲んでみて」と紙コップに入れてくれた。

 飲んでみたら、本当に美味しい。


「ぽんぽん」と菜都美はお代わりを要求している。

「佐伯、入れてやれ」

「真君、いいかな?」

「半分くらいで」


 佐伯さんは、菜都美のコップにオレンジジュースを注いでくれた。

 そっと、少しずつ菜都美に飲ませる。


「器用だね」

「真はほんとに器用で、俺はできないんですよ」と篤志が言っている。

 テーブルの上が片付けられて、今度はプレゼント交換になった。

「これは菜都美ちゃんに、皆からプレゼント」

 大きな包みに大きなリボンが付けられている。

「ありがとうございます」と俺と篤志はお礼を言った。

 篤志が受け取ったので、菜都美を椅子から下ろして、床に座らせた。

「菜都美、みんなにありがとうしてね」

「あっと」

 ぺこんと頭を下げるところが可愛い。

「菜都美、どうぞ」

 菜都美はリボンと格闘している。

 その間に、プレゼントを交換する。

 朝霧さんがスマホを出して、クリスマスソングを流した。


「スタート」で隣にプレゼントを回していくようだ。

「曲が終わったら、ストップね」と笑っている。


 きっと毎年恒例なんだと思った。


「ストップ」で俺のところには、真っ赤な袋に入った物がある。篤志はブルーの袋に入った物がある。

 俺の贈り物は前島さんのところにある。


「さあ、オープン」

 ここで開けるようだ。

 俺はリボンで止めた袋の中を見る。

 どうやらぬいぐるみのようだ。

 赤いスカートをはいた熊のぬいぐるみだった。

 手の中にすっぽり入るサイズで可愛い。

 隣を見ると篤志は袋から出すところだった。

 こちらも熊のぬいぐるみで、白いシャツにブルーのズボンをはいている。

 どうやらお揃いのようだ。


「おっ、今年は揃ったようだな」と佐伯さんと安井さんが言っている。

「朝霧と前島が毎年お揃いの物を持ってくるんだよ」と佐伯さんが言った。

「仲良しの印だろう」と朝霧さんが言っている。

「な、イケメン」と朝霧さんが前島さんに同意を示している。


 朝霧さんと前島さんの前には、俺の贈ったタオルと、どうやら篤志も無難にタオルを贈ったようだ。

 色違いのタオルを二人は持っている。

 確かに仲良しの印だ。

 可愛い熊のぬいぐるみは、菜都美のおもちゃになってしまいそうだけれど、鞄に付けておこう。

 足下の菜都美を見ると、大きなリボンに絡まっている。

「んぱんぱふえん」

 皆が菜都美の可愛い姿を写真に撮った。


「菜都美、どうしてそこまで絡まるの?」

「んぱんぱ」


 俺は絡まったリボンを取っていく。

 形の崩れたリボンの端を持たせると、菜都美の手を持ち、一緒に引っ張る。

 リボンはするりと、一本のひもになって、菜都美は不思議そうな顔をしている。


「袋から出せるか?」

「はーい」


 菜都美は袋の中に手を入れるが、どうやら少し重そうだ。


「んぱ」

「パパね」


 俺も袋に手を入れて、手前まで出してやった。

 どうやら、ソフトブロックのようだ。

 菜都美を手伝って、外に出すとロックを外して蓋も開けてやった。


「んぱ」

「どうするのかな?」


 菜都美は両手にブロックを持って、困っている。

 俺が見本を見せて、二つのブロックを繋げて見せると、菜都美もブロックを繋げている。

「直ぐに覚えるのか?」と朝霧さんが感心している。

 菜都美は、ひたすら長くくっつけていく。


「んぱんぱんぱんぱ」とご機嫌のようだ。


 せっかくご機嫌なのに、ここでわんこを見せると、せっかく遊んでいるのを邪魔してしまいそうで、俺はわんこを出すのは別の日にしようと思った。


「滝川くんと真君もプレゼントあるんでしょう?出してあげていいよ」

「でも、今、ブロックで遊んでいるから」

「私達が見たいんだ。菜都美ちゃんのわんこ」


 朝霧さんにはお見通しのようだ。

 俺は俺の部屋に隠してあった菜都美のわんこを連れてきた。

 ピンクでも輝くメタリックピンクは特注品だ。

 菜都美が顔を上げて、「わうわう」と呼んでいる。

 篤志が、菜都美にブロックのお片付けをさせている。箱の蓋を閉めてロックもすると、テーブルの下に入れた。


「わうわう」

「菜都美、おいで」

「はーい」


 菜都美はハイハイで近寄ってきた。


「ワンワン、呼んで」

「わうわう」


『音声確認しました』とワンワンが話す。

「今、菜都美専用になりました。俺も登録していますけれど」

 わんこに専用の椅子を取り付けると、菜都美を椅子に座らせて、ベルトで固定させる。


「わうわう」

「GO!」


 わんこは、菜都美を乗せて、歩いている。


「わうわう」

 菜都美はきゃきゃっと喜ぶ。

「わうわう、きー」

 篤志と佐伯さんが録画をしている。

 部屋の中を三周すると「STOP!」「伏せ」と声を掛ける。

 わんこは低くなり伏せの形になる。


「菜都美、下りるか」

「やだ」

「立て」

 わんこが立ち上がり、「歩く」わんこは俺の隣を歩いている。


「今、このワンワンは、俺の隣を歩く設定にしているんです。俺が止まれば、止まります」

「わうわう」


 俺は一度止まって、また歩き出した。


「盲導犬は、この距離感で歩きます。360度カメラを付けて、安全を確認させれば完成なんですけれど」

「距離感まで作れているならば、あと少しだな」と朝霧さんが言う。

「まあ、半分くらいです」

「なっちゃんのわんこには、いろんな物を隠してるんだろう?」

「はい、全部できます。この先も思いついたら、付けて行きます」

「なっちゃんのパパは凄いね」

「んぱ、きー」

「じゃ、そろそろ、お姫様が疲れてくる頃だろう。解散にするよ」

「オレンジジュース、置いていきますから、菜都美ちゃんに飲ませてあげてください」と前島さんが言った。

「ありがとうございます」

「さあ、帰るよ」と朝霧さんが前島さんの腕を引く。その後に、佐伯さんと安井さんがついていく。

「お菓子とか置いていくので、食べてね」と佐伯さんと安井さんが言って、玄関を出て行った。

「ありがとうございます」


 扉も閉めて出て行った。

 篤志が鍵を掛けた。

 菜都美がわんこの上で、眠そうにしている。


「STOP!」

 わんこの動きを止めて、菜都美をわんこの上から下ろした。

「わうわう」

「わんわんはここにいるから」

「はーい」

「トイレ行こうね」

「はーい」


 菜都美をトイレに連れて行っている間に、篤志が部屋の掃除をしている。


「菜都美、偉いね。間に合ったね」

「なちゅみ、えらい」


 菜都美は自分の頭を撫でて、その後に俺が菜都美の頭を撫でる。


「今度は、歯を磨こうね」

「はーい」


 洗面所の前で、横にして、歯を磨いていく。


「次はぐちゅぐちゅ、ぺね」

「はーい」


 菜都美にコップを寄せると水を含んで、ぐちゅぐちゅしてから、水を出した。


「お着替えするよ」

「なちゅみ、ねんね」

「もうちょっとね」


 新しい洋服を脱がせて、パジャマを着せる。抱っこしてリビングに行くと、布団が敷かれていた。


「あっちゃん、ありがとう」

「あっちゃん、ねんね」

「菜都美、おやすみ」

「みー」


 菜都美を布団に入れようとしたら、「わうわう」と犬を探している。

 菜都美のぬいぐるみのわんわんを持たせると、菜都美はわんこを抱っこして眠った。

 わんこが布団に落ちたら、回収をして、電池の交換をする。

 放置していたわんこを連れて帰らなくては。

 俺の部屋から、わんこの充電器を出すと、コンセントに繋げて、「充電」と声を掛けると、わんこが自動で、充電器の上に移動する。

 伏せの形で、自動充電する。

 篤志が珍しそうに見ている。

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