幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 ガラスの交換はお昼過ぎにしてもらって、菜都美に昼食を食べさせてから帰宅をする。

 菜都美は車に乗ると、ご機嫌になった。

 わんこのぬいぐるみを持って「んぱんぱんぱんぱ」と歌っているのか?曲は犬のお巡りさんで、「わうわうわうわう」と犬の真似はなかなかだ。

 俺と篤志は、菜都美の歌声を聞きながら、自然に笑顔になっていた。

 さすがに一日中わんこを持って歌を聴いているので、音程も赤ちゃんなのになかなか上手い。

 菜都美に専用のわんこをプレゼントしたら、どれほど喜んでくれるのか想像をすると楽しみで仕方がない。

 大きな熊はクリスマスには届かないらしい。

 それでも、今年中に届くらしい。

 大きな熊はお年玉にしてもいい。

 大きな熊を見たら、どんな顔をするだろう。

 自分より大きいので、最初は怖がる様な気がする。

 それでも、どんなリアクションをするのか楽しみで仕方ない。


「あっちゃん、菜都美をわんこに乗せても大丈夫だよね?」

「大丈夫だとは思うけれど、さすがに外に出かけるのは寒いと思うよ。まずは部屋の中がいいと思うよ」

「そうだね、外は寒いよね。寒波も来ているから、雪が降るかもしれない」


 天気予報は、毎日変更されている。

 今週は雪マークが付いていたので、雪が降ったら、菜都美に触らせてあげよう。

 一面の雪景色も、そんなに見られないから、記憶の欠片にしてもいいと思う。


「クリスマスまでまだあるが、先に見せてやるのか?」

「そうだよね、クリスマスまで10日もあるのに、俺が待ち遠しい。早くクリスマス来ないかな」

「真が子供みたいだな」

「俺が子供なの?」

「俺は真の小さい頃を良く覚えているよ。先に産まれて、これだけは良かったって思う」

「あっちゃんは、俺のお兄ちゃんみたいだったよね。本当の兄貴より、お兄ちゃんみたいで、ずっと小さな時から好きだったな。クリスマスやバレンタインデーとか誕生日に、女の人が出待ちしているのを見るのは嫌だったな」

「プレゼントは真からしかもらってないよ。みんなには『気持ちに応えられないから、ごめん』って返していた。


 俺へのプレゼントがゴミ箱に捨てられていたのを見たこともある。

 断るのが誠意だと思ったけれど、怒って捨てられたプレゼントは、誠意に応えなかったから八つ当たりされたのだろうと思った。わざわざ俺の目に付くところに捨てるって、嫌がらせに思えて気分が悪かったな」


「そんなプレゼントもあったのか。見える場所に捨てるなんて、くそ意地が悪いよな」


 篤志は笑った。


「俺はあっちゃんからしかもらってないよ。モテないからラッキーだったね」

「俺が牽制してたんだよ」

「それだったら、あっちゃんが卒業したあとももらってないよ?二年もあったのに」

「真の友達に、やたらと背が高くて目つきの悪い奴がいただろう?」

「山田君のこと?」

「あいつに真の番犬になってくれって頼んでいたんだ。あいつと真は仲がよかっただろう?」

「山田君は優しいのに、見栄えが怖いから友達できなくて、放っておけなかったんだ」

「その山田君に、真のこと守って欲しいと頼んだんだ」

「山田君、同じ工学部に入ったけど、院生にならずに卒業しちゃったんだ。誘ったけど、これ以上は学費を出してもらえそうもないって。院生になるにもお金がかかって、全ての人が上がれるわけでも無いんだ。山田君は確か大阪の方の会社に就職したんだよ。友達がいなくなって寂しくなったけど、新しく鈴木君ってあっちゃんみたいに背が高くて、体格のいい友達ができて、話し相手になってくれたんだ。鈴木君はまだ卒業してないけど」

「きちんと卒業まで見守ってくれたんだな。山田が卒業するときに後釜を連れてきてくれたんだろう」

「後釜?俺、本当にモテてなかったんだよ。女の子に声をかけられたこともなかったし。せいぜい工学部の男達だったな。みんな鈴木君の友達でたのしかったな」

 昔の話をしていたら、なんだか大学時代の楽しいことを思い出して、胸の奥が温かくなる。

 篤志は俺を置いて大学を去るときに、俺を守る手段を考えていてくれたようだ。

 話を聞くまで知らなかったが、何はともあれ、俺も大学を無事に卒業して、今は篤志と同じ職場に勤めている。

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