幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 篤志の車のエンジンの音がして、俺は泣いている菜都美を抱いたまま、カメラを見た。

 篤志が帰ってきて、扉の前で叔母さんに捕まって、中に入ってこられない。

 叔母さんは、篤志の頬を叩いて、背中やそこら中を叩いている。

 どうして、大人に成長した我が子を暴力で従わせようとするのだろう。

 篤志が可哀想だ。

 俺は篤志を助けたくて、玄関に向かった。

 俺は菜都美を抱いたままで玄関の鍵を開けて、地面に置かれている灯油の容器を家の中に一つ入れた。


「真君、お願いがあるの」

「帰ってください。あっちゃんに暴力を働く人の言うことは聞きません」

「主人を許して」

「これ以上、あっちゃんに暴力を働くなら、警察に電話します」


 俺はスマホを見せた。

 叔母さんは、動きを止めた。篤志は車から荷物を下ろすと、もう一つの灯油の容器を持って家の中に入って来た。

 叔母さんに叩かれた頬が、赤くなっている。


「あっちゃん、大丈夫?」

「力で従うと思っているのかな?恥ずかしい親だ」と言って、玄関の鍵を掛けた。


 菜都美はずっと泣いている。


「ノックの音が怖いみたいで、ずっと泣いているんだ」

「菜都美、もう怖くないよ。トントンの音はもうしてないだろう?」

「トントン、やー」

「そうだな、トントン嫌だな」


 篤志は菜都美の頭を優しく撫でている。


「あっちゅん、きー」

「菜都美を好きだよ」


 菜都美は俺の胸に凭れて、指を吸っている。

 泣き疲れたのかもしれない。

 離乳食はやめて、ミルクだけ飲ますと、そのまま眠ってしまった。


「菜都美、起きてからずっと泣いてたから、疲れたみたいだな」

 泣きながらミルクを飲んだから、背中をさする。

 小さなゲップをして、布団に横にする。

「あっちゃん、ほっぺ痛くない?赤くなってる」


 篤志はニッと笑った。


「母親も俺が幾つになったのか、分かってないんだよ。叩けば言うことを聞くと思っているんだ。俺の母親は、俺が言うことを聞かないと、直ぐ手を上げる人でね。まったくいい歳してまだ暴力で従わせようとする。俺が反撃したら、母親は一発で即死するだろうと想像できないのかな?」

「あっちゃん」


 俺は篤志を抱きしめた。


「あっちゃんは偉いよね。叔父さんにも叔母さんにも手を上げていない」

「俺、痛みを知っているから、叩くの嫌なんだよね。それにもう俺、親より強いから、一発殴ったら俺が捕まる。そ
んなつまらないことで、投獄されたくはない」

「あっちゃん、賢いな」


 俺は背中をさする。


「菜都美におやつを買ってきたけれど、後でだな」

「菜都美、昨日の窓が割れたのがショックだったみたいで、音に敏感になっているみたい」

「早くガラス屋さんが来てくれるといいけど」


 篤志はコンビニの袋から、ペットボトルとおにぎりを出した。


「食べようぜ」

「ありがとう」


 おにぎりを食べながら、篤志は「早く、日常に戻るといいな」と呟いた。

 俺も日常に早く戻るといいと思う。

 もうすぐクリスマスだから、早く楽しいことだけ考えたい。

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