幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 翌朝、扉を叩く音がした。

 俺と篤志はカメラを見る。

 扉をノックしているのは、篤志の母親だった。


「開ける?」

「放っておけばいい。どうせ真に父親を許して欲しいって言いに来たんだよ」

「許さなくていいの?」

「許さなくてもいい。静かになって、両親は冷静になれるんじゃないかな?」

「あっちゃんが、そう言うなら、放っておくけど。俺、あっちゃんが望めば、窓を割って家に入った事許してもいいよ。あっちゃんの父親だから」

「真は甘いな。でも、ありがとう」


 篤志が俺を抱きしめてくれる。

 菜都美はまだ寝ている。

 布団の中がぬくぬくで、気持ちがいいのだろう。

 一晩中、ストーブを焚いていたから、灯油を買いに行かないと、部屋の中はかなり冷えるだろう。


「早く帰ってくれないかな?」と篤志はカメラを見て溜息をついた。

「灯油が切れると菜都美が風邪を引く。ちょっと行ってくるけど、母親を入れては駄目だよ」と言って、篤志は灯油を入れるブルーの容器を二つ持ってきた。


 運がいいと巡回の灯油屋さんが来るけれど、ずっと家を空けていたので、何曜日の何時頃か分からない。

 篤志は容器を持って、玄関を出た。鍵は篤志が持って行った。

 玄関で親子喧嘩をしている。

 篤志の家庭は、空中分解しているようだ。

 男と男が結婚することはそんなに悪いことなのか?

 男だって人間だし、人間が集まれば、愛が芽生えることもあると思う。

 それがたまたま男だったってことだと思う。

 薄い玄関を通して、二人の会話が聞こえる。

 なんだか切ないな。

 叔母さんは、篤志の頬を叩いた。

 叩かれた篤志は、何のリアクションもしないで、車に容器を入れている。

 叔母さんの言葉は、全て無視している。

 叔母さんは、また玄関を叩いている。


「んぱんぱふえん」と菜都美が起きて泣き出した。


 いつもは機嫌良く起きるのに、扉の音で昨日の怖い事を思い出したのかもしれない。


「菜都美、おはよう」

「んぱんぱふえん」

「どうした?」


 おしめを替えないと、たくさん着ているから、脱がすのも大変だ。

 昨日はお風呂に入っていないので、少しかぶれている。

 お尻ふきで、丁寧に拭いて、おしめを着ける。

 菜都美の泣き声のお陰で、扉の音は消されている。

 叔母さんも諦めて帰ってくれるといいのだけれど。


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