幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 離れていた方がいいと思うが、どうしても月一で実家に戻り、経理の仕事と出勤簿の確認に行かなくてはならない。

 家に入ると、俺はまず部屋に掃除機を掛ける。

 事務所のシャッターは危険だから開けない。

 今日は篤志が菜都美を抱っこしてくれていた。動きやすいので、いつもより早く掃除を終えた。

 篤志は菜都美を畳に下ろした。

 今日は篤志に子守を任せて、一気に仕事を片付ける予定だ。


「まんま」

「もう食べるのか?」


「ぽんぽん」


 菜都美はお腹を押さえる。

 この家に来ると、いつも始めに離乳食を食べていたので、食べたくなったのだろう。

 篤志が菜都美のベビーフードを準備している。

 俺は出勤簿を確認するために、工場に入って確認していく。

 パソコンに入力して、工場の鍵を掛けて、家の方に戻って、溜まった経理の仕事を片付けていく。


「んぱんぱんぱんぱ」

「パパはお仕事だよ」

「んぱ」

「あっちゃんと遊ぼう」

「あー、あー、あー」

「ちゃん」

「ちゅん」

「あっちゃん」

「あっちゅん」

「菜都美、ちょっと違うけど、似てきたぞ」


 俺は篤志と菜都美をチラッと見て、顔がほころぶ。

 撫で撫でされまくって、菜都美が楽しそうに笑っている。

 篤志も元気が出てきて、良かった。

 早く片付けよう。

 会社のパソコンは遅いので、情報をノートパソコンに写して、素早く片付けていく。

 会社のパソコンと俺のパソコンを繋げれば、家でもできるが、どうしても出勤簿の確認はここに来てしなければならない。

 もっと効率的にできたらいいのに。

 今月はボーナスの計算もある。

 一般事務員を雇って、毎日一ヶ月勤めてもらってする仕事は、かなり溜まっている。

 それを一日で終わらせるのは、簡単ではないが、無理でもない。

 俺は事務員を雇うつもりは微塵もない。

 母ちゃんが据わっていた席に座って、菜々美さんの席にあるパソコンと繋げて、俺は全力で集中する。

 事務員も従業員も増やす予定はない。

 辞めたい者は引き留めるつもりもない。

 今ある者だけで、仕事を回して、慎ましく小さな工場を維持していく予定でいる。

 いつかこの会社は畳むつもりでいる。

 それは今ではない。

 人が減って、仕事が入らなくなったらであって、今のようにまだ力があるならば、存分に仕事をしていく。

 俺もこの会社のために力を全力で出す。

 菜都美がもっと成長したら、俺だけここにおいて、遊びに連れて行ってくれてもいい。

 俺はこの一日、工場の人間としてやるべきことをやる。

 仕事が一つ増えた。

 カメラの確認。これは同時にできない。

 篤志に頼めることだが、篤志は菜都美を見てもらっている。

 菜都美は歩く事ができるようになった。

 まだ一歳前だが、短時間の散歩ができる。まだよく転ぶから、外では手を繋がないと、頭を打ってしまう。

 篤志は家の部屋を全て使って、菜都美を遊ばせている。

 何もないけれど、菜都美の小さなわんこを持参している。

 早朝に家を出て、かなり早い時間から仕事を始める。今日はベビーフードは多めに持ってきている。万が一、時間が遅くなって時の事を考えている。

 昼食は篤志がおにぎりを作ってくれた。


「手伝おうか?菜都美は昼寝だ」と篤志が来てくれた。

「そうしたら、防犯カメラのチェックしてくれる?工場の入り口と家の玄関の方ね。工場に侵入していたら、工場の中も」

「了解」


 篤志もノートパソコンを持参してくれている。

 二人で並んで仕事をする。

 確定申告もあるから、時間があるときに纏めておいた方が良さそうだ。

 俺にも給料が出ている。

 それは、何かのために貯金をしている。

 いつかこの家も工場も手放すときが来るかもしれない。

 その時まで、俺が守る。

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