幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 抱き合った後、篤志の腕枕で俺は幸せを実感していた。

 溜まった物を少しずつ出すように、篤志は語り始めた。

 俺は黙って、篤志の言葉を聞いていた。


「親だから子の未来を考えるのは分かるが、親の考えを押しつけるのは人権を否定しているんじゃないかと考えていた。確かに俺は親の教育や愛情を授けてもらって、今の俺になったと思う。だからといって親の人形にはなりたくない。今の両親は、両親の希望を押しつけている。俺には五つ離れた兄貴がいるが、覚えているか?」

「いたのは覚えているけど、顔まで思い出せないな。5歳ってことは、俺とは7才離れているから小学校も一緒に通っていないよ」

「そうだよな。その兄は今はアメリカに行っている。両親の理想通りに育って、医師をしている。もう何年も会ってないが、両親はいつでもどこでも兄を自慢して歩いている。子供の頃の兄の顔は思い出せるが、今はどんな姿で、どんな顔をしているかも俺は知らない。両親は兄の顔が分かるだろうかと思っていた。兄は高校生の時からアメリカに留学して、そのまま帰宅は一度もしていない。手紙は『大学の医学部に入る』と書かれた絵はがきが一枚と『医師になった』と書かれた絵はがきが一枚届いただけだ。絵はがきがたった二枚だ。手紙も電話もない。どんな医者か?専門は何かも教えてもらってない。『偉いお医者様になられて良かったわね』と近所の人に言われて、喜んでいる。


 留学から医師になった兄を偉いとは思うが、実家から逃げ出しただけだと俺は思っている。俺まで寄りつかなくなったら、両親は兄の自慢話だけで人生を終えるのかと考えていた。兄と一緒に留学をした男がいたが、そいつも兄と同じ道に進んでいる。もしかしたら、兄達も留学という手段を使って、恋人になっている可能性があるんじゃないかと考えていた。そうしたら、両親は血の繋がった子供は一生抱けないことになるなと思っていた。兄は今、34才になるのか?兄がアメリカに行ったのは、俺が小学生の頃だ」


「小学生の顔を思い浮かべて、今を自慢してもなんだか虚しいな。手紙も電話もないなんて捨てられたも同然じゃないか?それでも、自慢の息子だと言えるってある意味凄い」

「そんな親を俺も捨てようとしている。俺もかなり頑張って、人が簡単にできない仕事に就いたが、両親から見たら、俺の仕事はたかが会社員だとさ」

「あっちゃんがしている仕事は、そんなに簡単な仕事じゃないよ」

「この間、父親に言われたんだ。本気で縁を切りたくなった。俺のことは何も認めていないんだ。社長になれば認めるみたいなことを言われて、虚しくなったよ。会社を動かしているのは社長じゃない。たくさんの社員がいて、それぞれ任された仕事をして会社は出来上がっているんだ。父親にはその仕組みが理解できないようなんだ。俺が中枢のプログラムを作っていることを理解できないんだ。お兄ちゃんはって、直ぐに兄と比べて、顔も声も十年以上音信不通の兄のことを自慢したいなら、あの家に俺がいなくなってもいいのかと考えてたんだ。なんだか虚しくないか?」


「虚しいな。あっちゃんはひとりしかいないのに、俺があっちゃんを奪ってしまってもいいのかな?」


 俺は笑った。


「俺を真にやるよ」

「やった!」


 俺は篤志を抱きしめた。

 もう叔父さんにも叔母さんにも返してあげない。

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