幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

文字の大きさ
上 下
39 / 67

39

しおりを挟む
 篤志が仕事に行ってから、まず部屋を掃除して、菜都美の布団を敷いて、ベビーラックに座らせていた菜都美を布団の上に寝かすと、直ぐに寝返りをして、俺を探している。

 俺はガーゼのハンカチでカーテンを作ると、「いないいないばー」をして、ハンカチを手の中に隠した。

 菜都美がきゃきゃっと笑う。


「いないいないばー」を繰り返して、飽きる前に止めておく。


 今度は俺が姿を消して、菜都美に俺を探してもらう。

 菜都美はハイハイを覚えた。どこでも行ってしまう。


「菜都美」

「んぱ」

「どこだ?」

「んぱんぱんぱんぱ」


 菜都美がハイハイして近づいてくる。

 俺がいつもいる作業場に到着したけど、俺は今日は菜都美の後ろにいる。



「菜都美」


 声を聞いて振り向いた菜都美が、にぱーっと笑う。

「んぱ」


 菜都美を抱っこして、昨日買ってきた犬のぬいぐるみを見せて、隠す。

「わうわう」

「わんわんどーこだ?」

「わうわう」


 俺はチラッと菜都美にぬいぐるみを見せると、菜都美がぬいぐるみを掴んだ。

 小さめなぬいぐるみは、菜都美が手に持てる大きさで、かみかみしても洗える物だ。

 菜都美は、ぬいぐるみと遊び始めた。

 布団を片手で引き寄せると、菜都美を布団に転がした。

 いい具合に、菜都美が遊び始めたので、俺は作業を始める。

 ネジを使う本職の方は、菜都美が寝てくれないと危ないから、昨日作業をしていた菜都美のオモチャ作りだ。

 もう一つ買ったぬいぐるみのお腹を開けて、綿を少し抜いておく。

 俺はヘッドフォンをすると昨日学習させていた音を確認する。

 小さなAIに子供の歌を入れて、菜都美という名前を音声化させていた。会話ロボットだ。犬が菜都美の言葉を聞いて、会話をしてくれる。基本の可愛い。いい子、大好き、パパ、あっちゃんは必ず出てくる。AIがお話を作って話してくれる。本軸になる子供向けの歌や本を学習させていたのだ。

 声は俺の声と篤志の声を入れておいた。どこまで本物と似ているか確かめてみたが、合格点だ。

 菜都美がどこまで興味を持つかお試しだ。

 AIを保護する小さな箱に入れて、乾電池と繋げる

 それをお腹を裂いたぬいぐるみに入れて、もう一度綿を詰めてもふもふにすると、糸と針でチクチク縫っていく。ON、OFFは右手を握るようになっている。綺麗にお片付けをして菜都美を見ると、菜都美はぬいぐるみに興味は失せて、俺のヘッドフォンに噛みついていた。

 涎でベタベタになったヘッドフォンは、大学在学中に研究費で買った50万のヘッドフォンだ。

 後で綺麗に拭いて置かないと。

 放置されたぬいぐるみを回収して、交換しておいた。

「菜都美、それはまんまじゃないよ」

「んぱ」

 顔を上げた菜都美は、顔中涎だらけになっている。

 菜都美を抱き上げて、洗面所に行くとタオルを濡らして、顔を拭く。

 菜都美を足下に下ろすと、タオルを濯いで、しっかり絞って、また菜都美を抱き上げる。

「あれは、ヘッドフォンだよ。まんまじゃないから食べたら駄目」

「んぱんぱふえん」


 叱られたのが分かったのか、抱きついて泣いている。


「怒ってないから、泣かなくてもいい」


 菜都美の頭を撫でると、俺にしがみついてくる。

 作業場に戻ると、菜都美を布団に座らせて、改造したぬいぐるみを持たせた。


『菜都美、いい子いい子』と俺の声が聞こえる。

 菜都美は驚いて、ぬいぐるみをポイとしてしまった。

『菜都美、いい子いい子』と篤志の声がすると、「あー、あー、あー」と言って、篤志の姿を探す。

 俺はヘッドフォンを持つと、菜都美を観察しながら、ヘッドフォンを綺麗に拭いていく。

『あっちゃん』

「あー、あー、あー」


 歌が流れて、菜都美は俺の方を見て、手を伸ばした。

 俺は菜都美を抱き上げると、ぬいぐるみを持って、部屋の中を歩く。

 俺はたぶん音痴だけれど、ぬいぐるみの俺は歌のお兄さんみたいに歌がうまい。


「んぱんぱんぱんぱ」

「菜都美、いい子いい子」と頭を撫でると、菜都美は安心した顔をした。

 やっぱり本物とAIの声は、同じように聞こえてもどこか違うんだよな。

 菜都美が戸惑っている。

 菜都美をベビーラックに座らせると、俺は冷蔵庫からリンゴを取り出して、菜都美のすりおろしリンゴを作っていく。ついでに俺の分も切って、菜都美と食べる。


「リンゴ美味しい?」

「まんま」

「リンゴ、ゆっくり食べて」

『リンゴ美味しい?ゆっくり食べて』


 自動学習するから、犬からも声がする。


「んぱ」


「パパ」

『パパ』

 菜都美は犬のぬいぐるみをポイッと捨てた。

 これは失敗かな。

 暢気な俺の声が、童謡を歌っている。

 本物に勝るものはないのかな。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

処理中です...