幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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「あっちゃん、おかえり」

「ただいま、今、食べてるのか?」

 俺はパンを囓っていた。

 昼食用のパンだ。
 モグモグ、ゴックンしている口に、菜都美が興味を持ち、手で触れてくる。

「菜都美、ただいま」

「あー、あー、あー」

「そろそろ離乳食始める頃かも。俺が食べてると、欲しがるんだ」

「離乳食か?」

「うん」

「最初は重湯かな」

「俺も一応、勉強してる」

「ご飯は作ったよ」

「無理に作らなくても、俺が帰ったら作るよ」

「俺、あっちゃんに甘えすぎだろう?」

「真は甘えてもいいんだ。仕事をしながら育児もしているだろう」

「最初のわんこじゃなくて、ワンワンの説明書はできたから、明日、朝霧さんに渡して欲しい。ワンワンは連れていっていいよ。最終の調整終わらせたから。充電器はそこの四角いのね。自動で充電に行くから。コンセントだけ刺してくれたらいいから」

「分かった」

 俺はUSBを篤志に手渡して、最後の一口を口に入れる。

「俺の作業時間入れたら、25万は安いよな?」

「電気代や真の作業時間を考えて、値段は決めると思うよ」

「お腹空いたけど、先にお風呂にしようよ。今日、出かけたから汗かいたんだ。俺も菜都美も」

「どこに出かけたんだ?」

「デパートで菜都美のオモチャ、犬のぬいぐるみを買ってきたんだ。よくよく考えて、菜都美のオモチャが一つも無いことに気づいて。あと、わんこって言葉は、砕けた言葉だろう。菜都美が『わうわう』って、言っているなら『ワンワン』って教えた方が正しいことに気づいたんだ。わんわんは犬って、ちゃんと正しい言葉で教えなくちゃいけないって気づいた」

「確かに、真の言うとおりだ」

「この犬の名前はどうする?製品の名前だ」

「俺達で決めていいのか?」

「作ったのは真だ。決定権はあると思うよ」

「俺、ずっとわんこって言ってたから」

「わうわう」

「ワンワンだよ、菜都美」

 俺は菜都美の頭を撫でた。

「んぱんぱんぱんぱ」


 菜都美は俺に抱きついてきた。


「菜都美、大好きだよ」

「んぱんぱんぱんぱ、きー」

「おお、今、好きって言ったのか?」

「何でも覚えるから、感情も教えなくちゃいけないと思って」

「菜都美は日々、進化してるな」

「あっちゃんの名前もそのうち言い出すかもよ」

「それは楽しみだな」

「今日は一緒に風呂、入るか?」

「それは楽しそうだ」


 俺は菜都美を抱っこしたまま、お風呂の準備をして、篤志は着替えに行った。

 篤志は、この暑いのに、スーツを脱がない。

 外では伊達眼鏡をしている。

 伊達眼鏡をしていても、篤志が格好いいのは変わらないけれど、ちょっと冷たく感じる。

 人除けの眼鏡らしい。

 バスタオルを広げて、菜都美のおしめと寝間着を用意する。

 菜都美を床に下ろして、先に俺はお風呂に入った。

 シャワーで頭を洗い、体もゴシゴシ洗う。

 お風呂の外で「んぱんぱんぱんぱ」と俺を探して、寝返りをうった菜都美と目が合う。

 寝返りは覚えたが、ハイハイはできない。


「んぱんぱふえん」


 甘えた泣き声で俺を呼んでる。

 シャワーで石鹸を流すと、俺は菜都美の服を脱がす。


「パパとお風呂だよ」

「んぱんぱんぱんぱ」

「ぱ」

「ぱ」

「ぱぱ」

「んぱ」

「ぱぱ」

「んぱ」


 お風呂で菜都美を洗いながら、言葉の練習をする。

 篤志もお風呂に入ってきて、菜都美の頭を撫でた。


「あっちゃん」

「あー、あー、あー」

「ちゃんが難しいかもな」


 篤志がシャワーを浴びて、そのシャワーを貸してもらって、菜都美の石鹸を流していく。

 篤志は頭を洗っている。

 菜都美の石鹸を流すと、篤志にシャワーを渡す。

 俺と菜都美は風呂に入った。

 38度よりもう少し冷たい。

 36度くらいだ。

 あまり暑すぎると、菜都美ものぼせてしまう。

 お風呂の中で足を床に付けると、ジャンプする。

 篤志がお風呂の中に入って、菜都美を篤志に手渡す。

 菜都美がきゃきゃっと喜んでいる。

 篤志の顔を手で触っている。

 篤志は朝と夜しかいないから、菜都美の認識が浅くなっても仕方がない。

 手で触って、覚えている。

「菜都美、バシャバシャするぞ」


 篤志が水面を叩くと、お湯が弾ける。

 菜都美が真似をして、お湯を叩く。


 バシャバシャ遊んでいる。

 きゃきゃっと楽しそうだ。

 俺もバシャバシャして、一緒に遊ぶ。


「んぱ」

「パパ」

 俺のところに来たいようだ。

 手を伸ばすと、菜都美は俺の手に捕まり、泳ぐように俺のところに来た。

 ガーゼで、濡れた顔を拭いて、抱っこすると、指を吸い出した。

 眠くなってきたようだ。


「あっちゃん、ちょっと抱っこしていて、直ぐに服着るから」

 篤志は菜都美を構いながら、意識を逸らしてくれている。

 その間に体を拭って、パジャマを着る。

 髪は簡単に拭って、タオルを肩に掛けておく。

「菜都美、おいで」

「んぱ」

「パパね」

 篤志から菜都美をもらう。

 バスタオルでくるんで、抱っこすると、菜都美が抱きついてくる。

「んぱんぱんぱんぱ、きー」

「菜都美、大好きだよ」

「んぱんぱんぱんぱ、きー」

「おい、俺より大好きなのか?」

「あっちゃん、大人げない」

 篤志が出てきて、俺にキスしてきた。

 優しいキスだ。

「菜都美もあっちゃんも大好きだよ」

 篤志は俺の濡れた髪をタオルで拭って、水滴が落ちない程度になると、風呂場に戻っていった。


「風呂洗ってくる」

「ありがとう」

 篤志は優しい。

 菜都美のパジャマを着せて、髪を梳かしていると、篤志が出てきた。

「菜都美、可愛いな」


 菜都美は頭をポンポンしている。

 篤志は菜都美の頭を撫でた。

 せっかく綺麗に髪を梳かしたのに、ボサボサになっている。


 確信犯だ。


「あっちゃん!」

「菜都美は可愛いだろう?」

「可愛いよ」


 菜都美は、また頭をポンポンしている。


 俺は菜都美の頭を「可愛い、可愛い」と撫でて、その後で櫛で梳かした。

 篤志は笑って、先にキッチンに向かった。

 俺は、菜都美を抱っこして、洗濯機を回す。

 それからダイニングに向かった。

 篤志は、菜都美のミルクを作ってくれていた。

 俺は菜都美にミルクを飲ませた。

 飲み終わって、背中をさすると、そのまま眠った。

 菜都美を布団に寝かせて、戻ってくると、ご飯をよそって、席に着いた。


「真、なんかパソコン増えてないか?」

「ああ、大塚電気の給料が入ってたから、新しいパソコン作った」

「これは私用か?」

「うん、一応、今は私用。菜都美のオモチャ作ってる」

「その後は、仕事か?」

「空いていれば、使うかもしれないけど、私用でいいよ」

「いいよじゃなくて、仕事で使うなら、朝霧さんの許可がいるだろう?」

「俺も遊びに作りたい物があるんだから」

「仕方がないな」

「怒んないでよ。面白い物作るから。お腹空いたから、いただきます」

「いただきます」


 俺がご飯を食べようとしたら、篤志が俺を抱き上げて、寝室に連れて行かれた。

 篤志のキスに酔って、幸せだと思う。

 菜都美が寝ているときしか抱き合えないから。

 篤志の熱い手が、俺を愛撫する。

 膨らみのない胸を悪戯していた手は、いつの間にか、結ばれる蕾みにローションを入れている。


「いいか?」

「あっちゃん、来て」


 体内に篤志の熱が埋まっていく。


「愛してるって、言えよ」

「菜都美に嫉妬しないでよ」

「嫉妬するよ。菜都美を俺も愛してるけれど、真の一番の座は明け渡したりしない」


 俺は笑ってしまった。


「愛してる、あっちゃん」



 篤志の唇が俺の唇に重なって、舌が絡み合う。

 篤志は俺の中で、愛を語っている。ちょっと激しくて、独占欲が強くて。

 でも、俺は幸せだよ。

 篤志に抱かれるのは好きだ。

 腰が砕けそうになるほど抱かれて、篤志に抱き上げられて、お風呂に一緒に入った。

 篤志が俺を洗ってくれる。

 濡れた髪は、ドライヤーで乾かしてくれた。


「あっちゃん、甘やかしすぎ」

「真は俺の愛する人だ。いつか菜都美が巣立っても、俺と真は一緒にいるんだ」

「うん」


 俺は篤志を抱きしめた。

 とっても幸せだよ。

「ずっと一緒にいてね」

「当たり前だ」



 俺は菜都美と同じように、頭を撫でられる。


「好きだ、好きだ」


 俺もちょっと背伸びをして、真似をして、篤志の頭を撫でる。


「愛してる、愛してる」


 またキスをして、俺のお腹がグーって鳴って、篤志はダイニングに俺を運んだ。

 菜都美みたいに、お姫様抱っこされて、いつものことだけど恥ずかしいよ。

 椅子に下ろされると、篤志はご飯を電子レンジで温めに行ってくれた。

 菜都美を見るとぐっすり眠っていた。

 温かいご飯で、冷めたおかずを食べる。

 ご飯は篤志の手作りの方が上だな。


「やっぱり、ご飯はあっちゃんに作ってもらおうかな。あっちゃんのご飯の方が美味しい」

「任せておけ」


 篤志は満足げに笑った。

 その笑顔も大好物なんだよ。


「あっちゃん、大好き」


 ポンと篤志の手が、俺の頭に触れた。


「抱き潰しちゃうだろう」

「それは駄目、菜都美が泣いたら困る」


 二人で微笑んで、ご飯を食べる。

 食後は、俺が歯磨きしている間に、篤志が台所を片付けた。

 俺が風呂場に洗濯物を干してる間に、篤志が歯磨きしている。

 菜都美が寝ている隣に、ダブルの布団を敷いて、そこに横になる。

 篤志が電気を消して、俺は篤志に抱きしめられながら眠る。



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