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「あっちゃん、ノートパソコン貸して」
家に帰ってきた篤志に、助けを求める。
「壊れたのか?ずいぶん使い込んでいたからな」と言っているのは、大学在中に研究費で購入したノートパソコンのことだろうか?
大学入学時に購入したパソコンは、スペックが足りなくなって使い道がなくなり後輩に譲った。
「そうじゃなくって、全部稼働しているから、実家の経理の仕事をするノートパソコンが欲しい。これは、実家の工場の経費で買うから」
あっちゃんの仕事は朝は9時~夕方5時まで就業時間で、時間外を頼まれると、一時間で一万円ずつかさむ。だから、ほとんど帰宅は早い。
自宅で作業している俺は、24時間パソコンが動いているので、時々、チェックをしているから、作業時間は長い。
「できればこっちの仕事でも使えるように、スペックの高いやつ探して」
バタバタ焦っている俺の肩を、篤志はポンポン叩きながら、「ちょっと落ち着け」と言う。
「ノートパソコンを探すのは、今でなくても食事とお風呂を終えてからでも、到着時間に差はない。まずは風呂か?ご飯か?」
「あー、ご飯忘れていた」
「昼はちゃんと食べたのか?」
「忘れた」
「真、大学にいたとき、ご飯食べていたのか?」
「差し入れくれるから、その時は食べていた」
「真、会社で仕事をした方が、健康的じゃないのか?」
「菜都美が、ゴロゴロできないだろう」
「俺達の就業時間は、朝9時~夕方5時まで。それ以降は一時間につき、一万円だぞ。真は
働き過ぎ」
「分かってるけど、働いてるのはパソコンで、俺は見ているか、菜都美と遊んでいるから」
「俺はパソコンが働いてる時は、コーヒー飲んで、スマホで遊んでるよ」
「でも、ノートパソコンがないとあっちの工場の経理の仕事ができない」
「後で見てやるから、まずはご飯を食べるか?」
「だから、作ってない」
「菜都美はどうしたんだ?」
「寝てる」
「それなら、俺が何か作るから、真はちょっと休め。どうせお茶も飲んでないんだろう?」
篤志はスーツの上着を脱ぐと、俺に渡した。
スーツを受け取って、それを篤志の部屋のハンガーに掛けて、篤志の部屋の窓の外を見て暗くなっていることに気づいた。
「あれ、夜だな」
この部屋は、自動で電気が点く。
暗くなればリビングとダイニングが明るくなる。
便利だけれど、時間の間隔が鈍る。
俺は音がするキッチンの方に歩いて行く。
麦茶が入れられたグラスが、二つダイニングテーブルに置かれている。
俺はグラスを持つと麦茶を一気に飲む。
喉がカラカラだったことに気がついて、直ぐに冷蔵庫の中から麦茶をグラスに入れて飲む。冷蔵庫の中は、見事に空だ。
菜都美が飲むミネラルウォーターが大量に入っている。
そういえば、ミルクはまだあるかな?と思って、ミルクの缶を開けると、あまりない。
「ちょっと買い物行ってくる。菜都美のミルクがない」
「ミルクなら買ってきた。まだ玄関に置きっぱなしだ。持ってきてくれ」
「ありがとう、あっちゃん」
俺は玄関に行って、エコバッグを三つ持ってきた。
「買い物もしてきてくれたの?」
「今日はマグロが特売になっていたから、食事ができてなくてよかった。今日は生で食べて、明日は、マグロのステーキにしよう」
「あっちゃんが作ってくれるの?」
「昼飯は、弁当作った方がいいのか?」
「いや、いいよ。ちゃんと食べる」
「大学時代、差し入れしてくれたのは、真のファンの子達だよ。俺がいるときから、俺に真に渡して欲しいって、よく預かった。俺が卒業してから、真のファンのお陰で、倒れずに研究できたんだろうな」
「俺のファンなんていたのか?」
「気づいていなかったのか、真はモテていたんだよ。俺がいたときは、「見ているだけですから」って、俺を不快にさせていたが、本当に見ているだけだったから、大目に見ていたんだ。名前はもう忘れたけれど、一線をわきまえた男だった」
「全然気づかなかった」
「報われないな、名前も覚えてもらえずに」
「俺って、鈍感なのか?」
「鈍感だろうな。真のこと好きだったんだと思うよ。でも、真は俺とできていた。それを知っていても、側にいたかったんだろうな」
「うん。その気持ちは分かるな。まだあっちゃんが告白してくれる前の俺も、側にいるだけで幸せだった。差し入れを買っていって、もらってもらえるだけで幸せだった」
そんな人が、俺にいたことが嬉しい。
俺は研究所から出ることは滅多になかったから。
「差し入れです」と手渡されたコンビニのビニール袋しか覚えていない。
見返りを求めない愛もあるんだと、改めて知った。
「あと、朝霧さんが真にシャンプーとトリートメントの差し入れくれたぞ。髪が傷んでたから伸ばすなら、身ぎれいにしろと言っていた」
俺は自分の髪に触れた。
確かに髪は伸びっぱなしで、毛先は傷んでボサボサになっていた。
髪を切ると、菜都美が混乱しそうだし。
「あっちゃん、後で毛先切って。でも、あんまり切らないで。菜都美が俺を認識しなくなると泣き出しそうで怖い」
「じゃ、後で切ってやろう」
「あっちゃん、嬉しそうに言わないで」
篤志は、俺にキスをして抱きしめてきた。
なんだか久しぶりで、キスだけで溶けてしまいそうになる。
お約束のように、菜都美が泣き出した。
「んぱんぱんぱんぱ、うぇん」
俺達は笑い合って、俺は菜都美のところにいった。
菜都美はリビングに置かれたパソコンの隙間で、ギャン泣きしていた。
「菜都美、どうした?」
「んぱんぱんぱんぱ」
「パパだよ」
「うっくうっくうっく」
何か言いたいことがあるようだ。
菜都美は目を覚ました時に、側にいなかったことを怒っているようだった。
おしめを替えて、キッチンに行くと、ミルクができていた。
「あっちゃんがミルク作ってくれたよ」
「あうあう」
「菜都美、ただいま。あっちゃん帰ってきたよ」
「あうあう」
俺はミルクをもらうと、ダイニングの椅子に座り、ミルクを飲ませた。
テーブルにはお刺身やお味噌汁。煮物、ご飯が並べられていく。
美味しそうで、お腹が鳴る。
「はぁ、お腹が空いた」
俺の言葉を聞いた篤志が、嬉しそうに微笑んだ。
俺も幸せだよ。
あっちゃんも幸せなんだよね。
家に帰ってきた篤志に、助けを求める。
「壊れたのか?ずいぶん使い込んでいたからな」と言っているのは、大学在中に研究費で購入したノートパソコンのことだろうか?
大学入学時に購入したパソコンは、スペックが足りなくなって使い道がなくなり後輩に譲った。
「そうじゃなくって、全部稼働しているから、実家の経理の仕事をするノートパソコンが欲しい。これは、実家の工場の経費で買うから」
あっちゃんの仕事は朝は9時~夕方5時まで就業時間で、時間外を頼まれると、一時間で一万円ずつかさむ。だから、ほとんど帰宅は早い。
自宅で作業している俺は、24時間パソコンが動いているので、時々、チェックをしているから、作業時間は長い。
「できればこっちの仕事でも使えるように、スペックの高いやつ探して」
バタバタ焦っている俺の肩を、篤志はポンポン叩きながら、「ちょっと落ち着け」と言う。
「ノートパソコンを探すのは、今でなくても食事とお風呂を終えてからでも、到着時間に差はない。まずは風呂か?ご飯か?」
「あー、ご飯忘れていた」
「昼はちゃんと食べたのか?」
「忘れた」
「真、大学にいたとき、ご飯食べていたのか?」
「差し入れくれるから、その時は食べていた」
「真、会社で仕事をした方が、健康的じゃないのか?」
「菜都美が、ゴロゴロできないだろう」
「俺達の就業時間は、朝9時~夕方5時まで。それ以降は一時間につき、一万円だぞ。真は
働き過ぎ」
「分かってるけど、働いてるのはパソコンで、俺は見ているか、菜都美と遊んでいるから」
「俺はパソコンが働いてる時は、コーヒー飲んで、スマホで遊んでるよ」
「でも、ノートパソコンがないとあっちの工場の経理の仕事ができない」
「後で見てやるから、まずはご飯を食べるか?」
「だから、作ってない」
「菜都美はどうしたんだ?」
「寝てる」
「それなら、俺が何か作るから、真はちょっと休め。どうせお茶も飲んでないんだろう?」
篤志はスーツの上着を脱ぐと、俺に渡した。
スーツを受け取って、それを篤志の部屋のハンガーに掛けて、篤志の部屋の窓の外を見て暗くなっていることに気づいた。
「あれ、夜だな」
この部屋は、自動で電気が点く。
暗くなればリビングとダイニングが明るくなる。
便利だけれど、時間の間隔が鈍る。
俺は音がするキッチンの方に歩いて行く。
麦茶が入れられたグラスが、二つダイニングテーブルに置かれている。
俺はグラスを持つと麦茶を一気に飲む。
喉がカラカラだったことに気がついて、直ぐに冷蔵庫の中から麦茶をグラスに入れて飲む。冷蔵庫の中は、見事に空だ。
菜都美が飲むミネラルウォーターが大量に入っている。
そういえば、ミルクはまだあるかな?と思って、ミルクの缶を開けると、あまりない。
「ちょっと買い物行ってくる。菜都美のミルクがない」
「ミルクなら買ってきた。まだ玄関に置きっぱなしだ。持ってきてくれ」
「ありがとう、あっちゃん」
俺は玄関に行って、エコバッグを三つ持ってきた。
「買い物もしてきてくれたの?」
「今日はマグロが特売になっていたから、食事ができてなくてよかった。今日は生で食べて、明日は、マグロのステーキにしよう」
「あっちゃんが作ってくれるの?」
「昼飯は、弁当作った方がいいのか?」
「いや、いいよ。ちゃんと食べる」
「大学時代、差し入れしてくれたのは、真のファンの子達だよ。俺がいるときから、俺に真に渡して欲しいって、よく預かった。俺が卒業してから、真のファンのお陰で、倒れずに研究できたんだろうな」
「俺のファンなんていたのか?」
「気づいていなかったのか、真はモテていたんだよ。俺がいたときは、「見ているだけですから」って、俺を不快にさせていたが、本当に見ているだけだったから、大目に見ていたんだ。名前はもう忘れたけれど、一線をわきまえた男だった」
「全然気づかなかった」
「報われないな、名前も覚えてもらえずに」
「俺って、鈍感なのか?」
「鈍感だろうな。真のこと好きだったんだと思うよ。でも、真は俺とできていた。それを知っていても、側にいたかったんだろうな」
「うん。その気持ちは分かるな。まだあっちゃんが告白してくれる前の俺も、側にいるだけで幸せだった。差し入れを買っていって、もらってもらえるだけで幸せだった」
そんな人が、俺にいたことが嬉しい。
俺は研究所から出ることは滅多になかったから。
「差し入れです」と手渡されたコンビニのビニール袋しか覚えていない。
見返りを求めない愛もあるんだと、改めて知った。
「あと、朝霧さんが真にシャンプーとトリートメントの差し入れくれたぞ。髪が傷んでたから伸ばすなら、身ぎれいにしろと言っていた」
俺は自分の髪に触れた。
確かに髪は伸びっぱなしで、毛先は傷んでボサボサになっていた。
髪を切ると、菜都美が混乱しそうだし。
「あっちゃん、後で毛先切って。でも、あんまり切らないで。菜都美が俺を認識しなくなると泣き出しそうで怖い」
「じゃ、後で切ってやろう」
「あっちゃん、嬉しそうに言わないで」
篤志は、俺にキスをして抱きしめてきた。
なんだか久しぶりで、キスだけで溶けてしまいそうになる。
お約束のように、菜都美が泣き出した。
「んぱんぱんぱんぱ、うぇん」
俺達は笑い合って、俺は菜都美のところにいった。
菜都美はリビングに置かれたパソコンの隙間で、ギャン泣きしていた。
「菜都美、どうした?」
「んぱんぱんぱんぱ」
「パパだよ」
「うっくうっくうっく」
何か言いたいことがあるようだ。
菜都美は目を覚ました時に、側にいなかったことを怒っているようだった。
おしめを替えて、キッチンに行くと、ミルクができていた。
「あっちゃんがミルク作ってくれたよ」
「あうあう」
「菜都美、ただいま。あっちゃん帰ってきたよ」
「あうあう」
俺はミルクをもらうと、ダイニングの椅子に座り、ミルクを飲ませた。
テーブルにはお刺身やお味噌汁。煮物、ご飯が並べられていく。
美味しそうで、お腹が鳴る。
「はぁ、お腹が空いた」
俺の言葉を聞いた篤志が、嬉しそうに微笑んだ。
俺も幸せだよ。
あっちゃんも幸せなんだよね。
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