幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

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 従業員達は、朝定時に出勤した。

 俺は工場で待っていた。


「皆さん、今日からゴールデンウィークだと忘れていました。ゴールデンウィークの一日目に出勤をさせてしまってすみません。もう一つ謝らなくてはならないことがあります」


 そこまで話すと、従業員は緊張した顔になっている。

 工場が倒産しましたなんて言ったら、泣き出しそうだ。

 もう目に涙を貯めている人もいる。


「お給料を支払ってないと思って、昨日、準備をしました」と言うと、そこら中でホッとした顔をしている社員がいた。


 そう簡単に会社は潰したくない。

 俺は一人ずつ名前を呼んで、手渡しで給料を支払う。


「この時代に手渡しは、危険だと思うので、給料を銀行振り込みにしたいと思います。書類は作っておきました。お給料と一緒に入っています。それを記入したらゴールデンウィーク明けに提出してください。今までタイムカードもなかったので、たぶんゴールデンウィーク中に取り付けられると思うので、出勤したらタイムカードを押してください。帰宅時にも押してから帰宅してください」


 従業員達は、「近代化した」と言っている。


「お休みの日に来ていただきましたので、一日、休暇を伸ばします。今日は帰宅してください。俺が休みを把握してなかったので、ご迷惑を掛けました」


 俺はお辞儀をした。

「一日、お休みをいただけるなら、今日は働いてもいいと思います」と小野田さんが言った。

「俺が勘違いをしていたので、今日もお休みにします」


 若手は喜んでいるが、大多数が仕事をするつもりでいる。

 皆さん、とても真面目だ。


「では、解散です」と俺は声を上げた。


 若手はあっという間に、姿を消したが、半分以上、戸惑っている。

 この人達は、昭和の人達なのだろう。

 とても誠実で、真面目に生きて来た人達だ。

 信頼できると、俺は名前を記憶した。


「大丈夫ですよ。今日は仕事はお休みですから。俺も色々することがあるので、安心してください」


 そこまで言うと、残っていた従業員達は帰って行った。

 俺は工場の鍵を掛けて、自宅の方に戻って行った。


「あー、あー、あー」と菜都美がご機嫌な声を出している。


 菜都美の声と一緒に篤志も「あー、あー、あー」と言っている。

 二人は仲良く会話をしているようだ。見ていても面白い。


「あっちゃん、菜都美はなんて言ってるんだよ?」

「さあ?あー、あー、あーが上手になってきたと思わないか?」

「うーん、菜都美は機嫌がいいと、いつも言ってるから」

「あっちゃんて、早く呼べるようにしなくちゃな?パパより簡単そうだし」


 俺は菜都美を抱っこしている篤志に負ぶさった。


「真は重いな」

「遊んでいないで、教授に電話したらどうだ?大学は休みじゃないと思うよ」

「おお、菜都美はパパのところに行っておいで」と言いながら、篤志は俺の腕に菜都美を抱かせた。


 菜都美はまだ首が据わっていない。

 三ヶ月になったら、首が据わるのか?

 あまり急いで保育園に入れるのも心配だ。

 俺は考える。

 たぶん保育園は乳幼児の募集は、あまりしていないだろう。

 仕事はしなくてはいけないが、菜都美の事を考えると、せめて一年は待った方がいいのかもしれない。

 幼稚園は三歳から入るのが一般的だ。

 本来ならば、三歳までは親が世話をした方がいいのかもしれない。

 お金はある。

 父ちゃんの保険とたぶん、今、裁判になっている犯人からも支払いなどがあるはずだ。

 菜都美が三歳になるまで、俺は家でリモートの仕事ができる職場を探すか、休むか。

 休むと、就職するときに、足がかりがなくなって、いいところに就職ができなくなりそうだ。


「悩むな」


 俺は菜都美の顔を覗き込む。


「パパと一緒にいたいか?」

「うーうー」


 菜都美は掌をグーにして、口の中に入れようとしている。

 グーの方が口より大きいから、入る事はないと思うけれど、入ったら危ない。


「菜都美、お手々美味しいか?」

「ブーブー」


 俺は顔中、涎だらけになっている菜都美の顔を見て、心が癒やされて、自然に微笑んでいる自分に気づいた。


「真、教授が来ていいって」と篤志が、部屋に入ってきた。


 振り向いた俺を見た篤志は、菜都美を抱いている俺にキスしていた。


「好きだ」

「俺も好きだよ」

「今の顔、めっちゃ可愛かった」

「菜都美の顔か?」

「違う、真の顔が、今すぐ抱きたくなりそうだよ」

「今は駄目だ。菜都美が寝ているときな」

「ああ」


 篤志の顔も幸せそうな顔をしていた。

 キスしたくなりそうになったけれど、俺はパパだから、菜都美優先だ。


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