幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

文字の大きさ
20 / 67

20

しおりを挟む
 従業員達は、朝定時に出勤した。

 俺は工場で待っていた。


「皆さん、今日からゴールデンウィークだと忘れていました。ゴールデンウィークの一日目に出勤をさせてしまってすみません。もう一つ謝らなくてはならないことがあります」


 そこまで話すと、従業員は緊張した顔になっている。

 工場が倒産しましたなんて言ったら、泣き出しそうだ。

 もう目に涙を貯めている人もいる。


「お給料を支払ってないと思って、昨日、準備をしました」と言うと、そこら中でホッとした顔をしている社員がいた。


 そう簡単に会社は潰したくない。

 俺は一人ずつ名前を呼んで、手渡しで給料を支払う。


「この時代に手渡しは、危険だと思うので、給料を銀行振り込みにしたいと思います。書類は作っておきました。お給料と一緒に入っています。それを記入したらゴールデンウィーク明けに提出してください。今までタイムカードもなかったので、たぶんゴールデンウィーク中に取り付けられると思うので、出勤したらタイムカードを押してください。帰宅時にも押してから帰宅してください」


 従業員達は、「近代化した」と言っている。


「お休みの日に来ていただきましたので、一日、休暇を伸ばします。今日は帰宅してください。俺が休みを把握してなかったので、ご迷惑を掛けました」


 俺はお辞儀をした。

「一日、お休みをいただけるなら、今日は働いてもいいと思います」と小野田さんが言った。

「俺が勘違いをしていたので、今日もお休みにします」


 若手は喜んでいるが、大多数が仕事をするつもりでいる。

 皆さん、とても真面目だ。


「では、解散です」と俺は声を上げた。


 若手はあっという間に、姿を消したが、半分以上、戸惑っている。

 この人達は、昭和の人達なのだろう。

 とても誠実で、真面目に生きて来た人達だ。

 信頼できると、俺は名前を記憶した。


「大丈夫ですよ。今日は仕事はお休みですから。俺も色々することがあるので、安心してください」


 そこまで言うと、残っていた従業員達は帰って行った。

 俺は工場の鍵を掛けて、自宅の方に戻って行った。


「あー、あー、あー」と菜都美がご機嫌な声を出している。


 菜都美の声と一緒に篤志も「あー、あー、あー」と言っている。

 二人は仲良く会話をしているようだ。見ていても面白い。


「あっちゃん、菜都美はなんて言ってるんだよ?」

「さあ?あー、あー、あーが上手になってきたと思わないか?」

「うーん、菜都美は機嫌がいいと、いつも言ってるから」

「あっちゃんて、早く呼べるようにしなくちゃな?パパより簡単そうだし」


 俺は菜都美を抱っこしている篤志に負ぶさった。


「真は重いな」

「遊んでいないで、教授に電話したらどうだ?大学は休みじゃないと思うよ」

「おお、菜都美はパパのところに行っておいで」と言いながら、篤志は俺の腕に菜都美を抱かせた。


 菜都美はまだ首が据わっていない。

 三ヶ月になったら、首が据わるのか?

 あまり急いで保育園に入れるのも心配だ。

 俺は考える。

 たぶん保育園は乳幼児の募集は、あまりしていないだろう。

 仕事はしなくてはいけないが、菜都美の事を考えると、せめて一年は待った方がいいのかもしれない。

 幼稚園は三歳から入るのが一般的だ。

 本来ならば、三歳までは親が世話をした方がいいのかもしれない。

 お金はある。

 父ちゃんの保険とたぶん、今、裁判になっている犯人からも支払いなどがあるはずだ。

 菜都美が三歳になるまで、俺は家でリモートの仕事ができる職場を探すか、休むか。

 休むと、就職するときに、足がかりがなくなって、いいところに就職ができなくなりそうだ。


「悩むな」


 俺は菜都美の顔を覗き込む。


「パパと一緒にいたいか?」

「うーうー」


 菜都美は掌をグーにして、口の中に入れようとしている。

 グーの方が口より大きいから、入る事はないと思うけれど、入ったら危ない。


「菜都美、お手々美味しいか?」

「ブーブー」


 俺は顔中、涎だらけになっている菜都美の顔を見て、心が癒やされて、自然に微笑んでいる自分に気づいた。


「真、教授が来ていいって」と篤志が、部屋に入ってきた。


 振り向いた俺を見た篤志は、菜都美を抱いている俺にキスしていた。


「好きだ」

「俺も好きだよ」

「今の顔、めっちゃ可愛かった」

「菜都美の顔か?」

「違う、真の顔が、今すぐ抱きたくなりそうだよ」

「今は駄目だ。菜都美が寝ているときな」

「ああ」


 篤志の顔も幸せそうな顔をしていた。

 キスしたくなりそうになったけれど、俺はパパだから、菜都美優先だ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...