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小野田さんに電話をしてみた。
実家の工場の工場長の小野田さんは、俺の電話に直ぐ出てくれた。
話を聞いてみると、大塚電気株式会社から電話はないらしい。
誰も訪ねてこないらしい。
思った通りで、「今から戻ります」と告げた。
社長は俺だと言っていた。
あの時はショックで、いろんな事を調べる心の余裕はなかったけど、今はあの時より冷静に考えられる。
事務処理の事も調べたい。
俺は自分の夜の弁当を買って、自宅に戻っていった。
会社の社員は待っててくれた。
もう夕方だけれど、全員集まっていてくれた。
「真坊ちゃん、お帰りなさい」
「小野田さん、坊ちゃんはもう止めてください。俺には娘もいるんですから」
「では、社長と?」
「照れるね、でも、俺が社長だから、社長って呼んでください」
俺の力強い声で、社員のみんなの顔に覇気が戻って来た。
「兄ちゃんの娘は、菜都美と名付けました」
菜都美は機嫌がよく、「ウックン、ウックン」と言いながら、指を吸っている。
新生児の時より大きくなっているので、ちょっとぷっくりしてきて可愛くなっている。
医師の話では、あと一ヶ月経つと、もっと皮下脂肪が付いてくるらしい。
菜都美は、事故の影響で、頭を打っている可能性があるので、定期的に医師に診てもらっている。
この間の診察の時の話では、多分、大丈夫だろうと言っていた。
でも、頭を打っていた場合、癲癇を起こす可能性があるから気をつけて見ていてくださいと言われている。
会社の社員は菜都美の姿を見て、頬を緩めている。
「小野田さん、大塚電気から連絡は一度もないのですか?」
「ありません」
「では、今はどんな仕事をなさっていますか?」
「社長に言われたとおり、短期の仕事を中心にしております」
「長期の仕事も受けてください。父ちゃんがいた時と同じくらい受けてもいいです。たぶん、大塚電気からは連絡は来ないと思います。来ても、俺が断ります。俺、あの会社を辞めるつもりです。どこの会社に就職するか、まだ決めていませんけど、どこの会社に就職しても、経理などの仕事は俺がしますので、溜めておいてください」
「今も溜まっております」
「ありがとうございます。俺は皆さんを信頼しておりますので、よろしくお願いします。今まで受けた事のない仕事が来たときは、俺に電話をください。ちゃんと社長の仕事もしますので。あと、俺の仕事のやり方で不満があるとか、心配だと思った時は、俺に連絡してください。よく考えてみますので」
「クビにするとか?」と若い社員がおどおどと口にした。
「横領などしたとき以外はクビにしたりしません。お給料は同じだと思ってください。煽てても増えることはないと思います。仕事が取れないとかなったら、減るかもしれないですが」
「今の所、変化はありません」と小野田さんは言った。
「俺、暫く、ここに住む予定なので、菜都美がギャン泣きするかもしれませんけど、驚かないでください」
「ギャン泣きですか?」
「最近は、ご機嫌ですけれど、お腹が空いたときとか、凄く泣いたりしますので」
社員の皆さんは、ほのぼのと微笑んだ。
「話は終わりです。解散していいですよ。っていうか、菜都美をお風呂に入れたいので解散です。また明日、お待ちしています」
笑顔で手を振ると、社員の皆さんは微笑んで頭を下げた。
「おやすみなさい」
「お疲れ様です」
菜都美を抱いて、菜都美の手で手を振ると、皆さんの顔がクチャクチャになって悶えてる?
菜都美は可愛いから、当然だろう。
最後は小野田さんだけ残った。
「社長が戻ってきてくださって、感謝します。みんな不安で。大塚電気からも連絡がないので、この会社は倒産かと話が出ていたのです」
「倒産はさせたくないな。俺が会社で仕事をしなくてもいい方法で維持できたら、いいな。ちょっと考えますね。経理の仕事は、どこかに就職しても俺がします。大丈夫ですよ。どうにかします」
小野田さんは、お辞儀をすると帰って行った。
会社の戸締まりはお願いしているので、俺は家の鍵を掛けると、取り敢えず菜都美とお風呂に入る準備をする。
お風呂を洗って、お湯の温度は38度にしておく。
少し冷たいと感じるけれど、お湯の40度で、赤ちゃんは火傷をしてしまうらしい。
色白な美人の菜都美の肌に、傷一つ付けるわけにはいかない。
季節も五月に入る。
ゴールデンウィークを避けて、教授に頼み込んだ。
大学は、大学独自のカレンダーがあって、休日でも授業があったりするから。
篤志には、今日は会っていない。
食事は要らないと言われたので、わざわざ顔を見せに行くこともない。
出かける前に、菜都美の荷物と俺の荷物を纏めて、箱に入れてきた。
拠点が決まったら、送ってもらえばいいと思って、大きなリュックとベビーカーに持てるだけの荷物を持ってきた。
残りの一ヶ月、この家に住んでもいいと思っている。
実家の工場の工場長の小野田さんは、俺の電話に直ぐ出てくれた。
話を聞いてみると、大塚電気株式会社から電話はないらしい。
誰も訪ねてこないらしい。
思った通りで、「今から戻ります」と告げた。
社長は俺だと言っていた。
あの時はショックで、いろんな事を調べる心の余裕はなかったけど、今はあの時より冷静に考えられる。
事務処理の事も調べたい。
俺は自分の夜の弁当を買って、自宅に戻っていった。
会社の社員は待っててくれた。
もう夕方だけれど、全員集まっていてくれた。
「真坊ちゃん、お帰りなさい」
「小野田さん、坊ちゃんはもう止めてください。俺には娘もいるんですから」
「では、社長と?」
「照れるね、でも、俺が社長だから、社長って呼んでください」
俺の力強い声で、社員のみんなの顔に覇気が戻って来た。
「兄ちゃんの娘は、菜都美と名付けました」
菜都美は機嫌がよく、「ウックン、ウックン」と言いながら、指を吸っている。
新生児の時より大きくなっているので、ちょっとぷっくりしてきて可愛くなっている。
医師の話では、あと一ヶ月経つと、もっと皮下脂肪が付いてくるらしい。
菜都美は、事故の影響で、頭を打っている可能性があるので、定期的に医師に診てもらっている。
この間の診察の時の話では、多分、大丈夫だろうと言っていた。
でも、頭を打っていた場合、癲癇を起こす可能性があるから気をつけて見ていてくださいと言われている。
会社の社員は菜都美の姿を見て、頬を緩めている。
「小野田さん、大塚電気から連絡は一度もないのですか?」
「ありません」
「では、今はどんな仕事をなさっていますか?」
「社長に言われたとおり、短期の仕事を中心にしております」
「長期の仕事も受けてください。父ちゃんがいた時と同じくらい受けてもいいです。たぶん、大塚電気からは連絡は来ないと思います。来ても、俺が断ります。俺、あの会社を辞めるつもりです。どこの会社に就職するか、まだ決めていませんけど、どこの会社に就職しても、経理などの仕事は俺がしますので、溜めておいてください」
「今も溜まっております」
「ありがとうございます。俺は皆さんを信頼しておりますので、よろしくお願いします。今まで受けた事のない仕事が来たときは、俺に電話をください。ちゃんと社長の仕事もしますので。あと、俺の仕事のやり方で不満があるとか、心配だと思った時は、俺に連絡してください。よく考えてみますので」
「クビにするとか?」と若い社員がおどおどと口にした。
「横領などしたとき以外はクビにしたりしません。お給料は同じだと思ってください。煽てても増えることはないと思います。仕事が取れないとかなったら、減るかもしれないですが」
「今の所、変化はありません」と小野田さんは言った。
「俺、暫く、ここに住む予定なので、菜都美がギャン泣きするかもしれませんけど、驚かないでください」
「ギャン泣きですか?」
「最近は、ご機嫌ですけれど、お腹が空いたときとか、凄く泣いたりしますので」
社員の皆さんは、ほのぼのと微笑んだ。
「話は終わりです。解散していいですよ。っていうか、菜都美をお風呂に入れたいので解散です。また明日、お待ちしています」
笑顔で手を振ると、社員の皆さんは微笑んで頭を下げた。
「おやすみなさい」
「お疲れ様です」
菜都美を抱いて、菜都美の手で手を振ると、皆さんの顔がクチャクチャになって悶えてる?
菜都美は可愛いから、当然だろう。
最後は小野田さんだけ残った。
「社長が戻ってきてくださって、感謝します。みんな不安で。大塚電気からも連絡がないので、この会社は倒産かと話が出ていたのです」
「倒産はさせたくないな。俺が会社で仕事をしなくてもいい方法で維持できたら、いいな。ちょっと考えますね。経理の仕事は、どこかに就職しても俺がします。大丈夫ですよ。どうにかします」
小野田さんは、お辞儀をすると帰って行った。
会社の戸締まりはお願いしているので、俺は家の鍵を掛けると、取り敢えず菜都美とお風呂に入る準備をする。
お風呂を洗って、お湯の温度は38度にしておく。
少し冷たいと感じるけれど、お湯の40度で、赤ちゃんは火傷をしてしまうらしい。
色白な美人の菜都美の肌に、傷一つ付けるわけにはいかない。
季節も五月に入る。
ゴールデンウィークを避けて、教授に頼み込んだ。
大学は、大学独自のカレンダーがあって、休日でも授業があったりするから。
篤志には、今日は会っていない。
食事は要らないと言われたので、わざわざ顔を見せに行くこともない。
出かける前に、菜都美の荷物と俺の荷物を纏めて、箱に入れてきた。
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