angel

綾月百花   

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Side愛梨、楸、薫、亮

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 オーディション受けて新生angelが誕生した日は、愛梨の部屋にみんなで集まって食事会をした。
 帰る途中でスーパーに寄ってお刺身を買った。
「海苔は多めに欲しい。酢も忘れずに」
 楸がカートを押して薫と亮がカゴに商品を入れていく。
「お刺身に好き嫌いある?」
「ないよ」
「何でも食べられる」
「俺も何でもOK」
 愛梨は新鮮なお刺身をいろんな種類でたくさんカゴに入れた。
 サニーレタスと大葉とキュウリも忘れずに。
「愛梨、乾杯用のお酒も買っていこう」
「いいよ」
 カゴの中にそれぞれ好きなカクテルや酎ハイ、ビールも入って行く。
 成人式はまだだが、みんな二十歳になっている。
 つまみのお菓子を数点カゴに入れてレジに向かう。


 寿司桶に大量な酢飯ができあがり、薫と亮がうちわでパタパタとご飯を冷ましている。
 サニーレタスを洗い、ちょうどいい大きさに裂いていく。お刺身とキュウリを短冊切りにして、大皿に盛り付けていく。
「愛梨、トマトも入れる?」
「いいね」
 楸がプチトマトを洗ってくれた。それを半分に切って、お皿に散らす。
「酢飯は冷めたか?」
「ちょっとまだ温いけど許容範囲だと思う」
 亮がご飯を摘まんで口に入れた。
「旨い!」
「全部食べるなよ」
 おかわりを手にしようとした亮に薫がうちわでパタパタと扇ぐ。
「楸、海苔を大量に半分に切って」
「了解」


 大皿をテーブルに置き、酢飯を隣に並べる。その隣に海苔を置くと準備完了だ。
 男子三人の胃袋は、ブラックホールのように大量に食べる。
 手には各自、乾杯用のお酒を持っている。
「じゃ、リーダー乾杯の音頭を取ってね」
 愛梨は楸に声をかける。
「どう考えても、リーダーは愛梨だと思うんだ」
「沈没していたangelを復活させてくれたのは愛梨だ」
「俺たち仕事を無くすところだった」
「でも、楸でいいじゃない?」
「僕は意志が弱いからリーダーは愛梨にしてほしい」
 三人の男子が、皆、拍手をする。
「私は楸をリーダーにしたかったのよ?」
 愛梨がじっと楸を見つめると、「やっぱり僕がする」と楸が手を上げた。
 楸は昔から愛梨に弱い。
 愛梨は満足そうに微笑む。
「新生angelの復活と愛梨のデビューを祝して乾杯」
「かんぱい」
「「乾杯」」
 手に持ったお酒をぐっと飲んで、みんなは愛梨が作った手巻き寿司を食べていく。
「僕たちのangelが危ないことに気付いていたのか?」
「楸が戻る度に少しも楽しくしていなかったから、スカウトに来てくれるいろんなプロデューサーに聞いたの。そしたらどこもあまりいい評判は聞かなかったの。どこが悪いのか、聞いてみたりして、それで今のままじゃいけないって思えたの。それに、いつも声をかけくれるお兄さんは株に詳しくて、スカウトされた会社を調べてあげると言って、親切に一覧を作ってくれたの。楸たちが入ったプロダクションは、会社自体に力がなくて、自転車操業みたいな感じだったから心配していたの」
 楸が愛梨にお寿司を作ってくれた。
 それを受け取って、口に運ぶ。
「愛梨は情報収集に長けているんだな」
「高校時代は虐められていたけれど、今は人に恵まれているのかな。路上ライブは情報収集をするにはいい場所だった。最後にお客さんと話すことによって、いろんな職業の人と出会えて、色々教わったわ」
 薫と亮は食べながら頷いている。
「楸も食べて、たくさん作ったけれど、余ったら大変よ」
「僕は食べているよ。愛梨こそまた一つしか食べてないよ」
「たくさん作ると美味しいわね」
 ご飯を少しにしてサラダをたっぷり載せて、好きなお刺身をたくさん載せて、大きな巻き寿司にして、豪快にかぶりつくと、みんなが笑った。
「そんなに大きな巻き寿司口に入るの?」
「んんんんっ」
 モグモグしているので話はできない。
 取り敢えず、頷いておく。
 三人が笑っている。
 久しぶりの楸の笑顔を見て、愛梨も薫も亮もホッとしていた。
 残ることを心配していたお寿司は、あっという間にみんなの胃袋に収まった。
「さすが男子よね。よく食べる」
「愛梨のご飯が美味しいんだよ」
「そうそう、ここで食べるのが一番美味しい気がする」
「どれだけでも食べられるから、いつでも作って」
 学生の頃は、食事代はレシートの金額を4等分にしているけれど、彼らは3等分で分けてくれた。
「愛梨はあまり食べないし、食事を作ってくれる手間賃も混みだよ」
「いいのかしら?」
「もらってくれないと、また作って欲しいとお願いできなくなる」
「遠慮せずに食べさせてもらっているし」
「俺も遠慮せずに、たっぷり食べたいから、また作って」
「それじゃ、また作るわね。食べたいものがあったら教えて、またみんなで食べましょう」
 学生の愛梨は、家族からの仕送りで食事を作っている。
 大勢で大量に食べさせる分までは、もらってないはずだ。
 安月給だったが、食べる分は稼げていた三人は、愛梨に甘えるときは気をつけるようにしている。
 そこら辺の店に入るより、美味しいご飯を食べさせてくれる。
 楸も薫も亮も、愛梨の作るご飯は大好きだし、この部屋に招かれるとホッとする。
 大切にしたい場所だから大切にする。
 angelを救ってくれた愛梨を、大好きだ。
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