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4 兄から離れる覚悟
1 志望校を変えます
しおりを挟む「昨日は急に出かけて心配してたんだぞ」
朝一番に父に叱られた。
「クリスマスイブのイルミネーションを見に行ってきたの。気付いたら終電の時間が過ぎてて、遠くまで歩いたから帰るのが遅くなったの。ごめんなさい」
「一人で行ったのか」
「うん」
「年頃の女の子が、そんな時間まで一人でうろつくなど、危険だろう」
「どうしても見てみたかったの」
「そういうことは、事前に言っておきなさい」
「はい」
朝食前に両親に謝った。
「お願いがあるの」
「名前を変えることは反対だ」
父親が先に言う。
「名前のことじゃなくて、大学を変えたいの」
「急にどうしたんだ?」
「自立したいの」
「大学を変えなくても自立はできるだろう?」
母が食後の紅茶を淹れて、椅子に座る。
「私、ずっと過去のトラウマで迷惑をかけてきた。一人で生活をして一人で生きていけるようにしたいの」
初めての両親へのお願いだ。
「発作を起こしたらどうするつもりだ?」
「ちゃんと病院に通院して、薬をもらう」
「それでも発作が起きたら?」
「死にはしないわ。ただ夢を見るだけ」
両親とも黙っている。
「京都に行ってみたいの。織物を生かした洋服を作ってみたいの」
「織物を生かした洋服なら、ここでも作れる。お母さんが先生だろう?」
「お母さんは、一生の先生だと思ってる。少しの時間でもお母さんに、いろいろ教わりたい。でも、一度、家を出て、一人で生きていく練習をしたいの」
「それなら、近所にマンションを借りればいい」
父は許してくれない。
亜里砂は首を左右に振る。
「それじゃ駄目なの。私は弱いから甘えてしまう。だから違う地方に行きたいの。誰にも会わない場所。京都が駄目なら、沖縄でも、北海道でもいい。何もない田舎の町でもいい」
「亜里砂はこの家から出ていきたいんだな?」
「出て行きたいの」
「どうしてだ」
いつも優しい父が怒った。
「この家は私には優しすぎて、辛すぎるの。私、お兄ちゃんのことが好きなの。兄妹としてではなくて。異性として」
仕方なく、ずっと隠しておきたかった気持ちを両親に打ち明けた。
「亜里砂ちゃん、ごめんね」
亜里砂は首を振る。
「お母さんが謝ることじゃないよ。私の心の問題なの。ちゃんと大人になったら、お母さんの弟子にしてください」
両親は家を出ることをしぶしぶ許してくれた。
「今から受けられる学校を探せるのか?」
「きちんと探す」
父は寂しそうだった。
友麻はドアの外で、亜里砂と両親の会話を聞いていた。
「間に合わなかったのか?」
亜里砂が学校に行った後、出かけようとした父親を引き留めて、友麻は頭を下げた。
「本当に好きなのは亜里砂だ」と打ち明けた。
「友麻、どっちの亜里砂なの?」
「妹の亜里砂だよ。事情があって頼まれただけだ」
テーブルを叩いて、友麻は叫ぶ。
「どんな事情か知らないけど、亜里砂は傷ついている。もう手遅れじゃないかしら?」
母は、やっと自分の娘に育った亜里砂を失うショックで友麻に辛く当たる。
「志緒理と結婚したとき、友麻に亜里砂を嫁がせるつもりで同衾を許した。まさか家から出ていきたいなんて言い出すとは思わなかった」
父親もショックで涙を流し、友麻の話をきちんと聞いていない。
友麻は部屋に戻りスマホのゲームを起ち上げて、ありさが来るのを待った。
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