リア充撲滅。眼力で焼き尽くしてやる☆

３ リア充撲滅

３ 慚愧（ざんき）

「亜里砂、起きられる？」
　体を揺すられ、亜里砂は目を開けた。
「病院に着いた。今から友麻を探してくる。ここで待っているか？」
　亜里砂は首を左右に振った。
「私も行く」
　薬でぼんやりしている亜里砂を母が支えている。
　病院内はまだ騒然としていた。
　血まみれで椅子に座っている患者や床に寝かされている患者もいる。
「早く手術してください。息子が死んでしまう」
「人手が足りないんです。気候が悪くてドクターヘリが来られないんです」
　床に座り込み泣いている人もいる。
「お兄ちゃんは？」
「今、お父さんが聞きに行っているわ」
「ホワイトボードの前にお父さんがいる」
　亜里砂は母の手を離して走り出した。
「お父さん、お兄ちゃんは？」
「この病院に入院したらしい。部屋に行くぞ」
「うん」
「命に別状はないらしい」
「よかったわ」
「安心は顔を見てからだ」
　階段を四階まで上がって病室に急ぐ。
　亜里砂は胸がドキドキしていた。
　大好きな人が命の危機にある。
　泣き崩れていた人やまだ処置されずに、疲れ切った顔をした怪我人。
　どんな姿でいるの？
（私の命をあげてもいいわ。助かって。無事でいて）
　病室につくと、婚約者の亜里砂が友麻の横に立っていた。
　亜里砂の足が止まった。
「友麻」母が声をかけると、「ごめん、心配かけて」と声が聞こえた。
（生きてた）
「亜里砂さんは無事ですか？」
「はい。無傷です」
「亜里砂さん、もう帰って。両親も来てくれたし」
　亜里砂は駆け込んで土下座をした。
「お兄さん、ごめんなさい。朝、私が酷いこと言ったから」
「亜里砂、そんなことしなくていいから」
　父親が亜里砂の腕を掴んで立たせようとしたが、亜里砂は頭を上げなかった。仕方なく、娘の手を離した。亜里砂は土下座し続けている。
「亜里砂さんもごめんなさい」
　婚約者の亜里砂は、困惑した顔をした。
「私こそ、ごめんなさい。こんな寒い季節に温泉に行きたいなんて言ったから」
「亜里砂さん、もう帰って」
　友麻はベッドの上から婚約者の亜里砂に言った。
「お先に失礼します」
　婚約者の亜里砂は友麻を置いて帰っていった。
（心配じゃないの？結婚するんでしょ？）
　あまりに冷たい婚約者の態度に亜里砂は腹を立てていたが、拳を握って言葉を噛みしめた。
『あんたはうるさいのよ、黙ってなさい、声を出したら焼いてやるわ』子供頃の生みの母の声が頭の中で響く。
（話しちゃいけない。黙ってなきゃいけない。お母さんが言ったとおりだった。私が言ったから事故が起きた。もう話をするのはやめよう）
「転院してもいいと言われたんだが、できそうか？」
「すみません。手を貸してもらったら動けます」
「志緒理さん、転院手続きお願いしてもいいか？」
「今、行ってきます」
　母が急いで走り抜けていく。
　体を起こした友麻は、土下座したまま動かない妹の姿を見て驚いた。
「亜里砂は悪くないよ」
　優しく声をかけるが、亜里砂は首を左右に振るだけで、言葉はもう発しなくなった。