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3 リア充撲滅
2 お兄ちゃんが事故に遭いました
しおりを挟む「友麻先輩、楽しそうですね」
「楽しいよ」
「スマホゲームですか?」
「二人でいるときも、いつもゲームしてるのよ」
婚約者の亜里砂が明るく答える。
「それはさすがに失礼でしょう」
生意気な後輩をルームミラーで睨む。
「これ以上、俺を巻き込むな。限界なんだよもう」
友麻はスマホのチャットルームを追っていく。
何度読んでも愛おしい。
家では顔も見られない。
亜里砂が眠る9時以降に家に帰るようにしている。
友麻は亜里砂に嘘はつけない。友麻がしていることを、亜里砂はきっと受け入れられない。亜里砂を傷つけないために距離を置いたが、友麻が思う以上に亜里砂は傷つき壊れていく。
亜里砂を傷つけないために友麻は亜里砂を避けたが、亜里砂も友麻を避けている。
家での会話は、ほぼゼロになった。
顔を見ることも、ほとんどない。
亜里砂の声を今朝、久しぶりに聞いた。
『リア充撲滅』
中二病らしい発言をよくする亜里砂らしい言葉だ。
今朝は昨夜の会話が可愛くて、顔が見たくなった。
両親が婚約者の話をしなければ、何ヶ月ぶりに一緒に食事が食べられたはずだった。
結果的に、亜里砂を傷つけてしまった。
亜里砂が出かけてすぐに、ゲームを起ち上げた。亜里砂が来るのを待っていた。
亜里砂のIDを確認していた友麻は、亜里砂にメッセージを送り続けた。
何度も無視されて、ブロックされるかと恐れたが、「友達が欲しい」という言葉で、返事が来た。
亜里砂よりレベルを上げ、亜里砂が立ち入ることのできない場所でゲームをすると、亜里砂は喜んで、チャットルームの言葉も増える。
楽しんでいるのだとわかるほど、文字は軽やかだ。
チャットルームの亜里砂は、すごく素直だ。
書く言葉もリアルの声を聞いているみたいだ。
普段、話さないことも、文字にすると話してくれる。
隠し事もしないし、心の内に抱えている悩みも時々話してくれる。
「次は昼休みかな」
ゲームを落として、スマホを胸のポケットにしまう。
今日は婚前前の子種仕込みだ。タイミング妊娠のために旅行に出た。
早く子供を作って欲しい。
「路面が凍結して、ハンドルもブレーキも言うことがききません」
「川島、車をスリップさせるな」
「もうスリップしてます」
「亜里砂さんは、頭をガードして」
「はい」
前方からバスがスリップをしながら向かってくる。
あっという間に、バスとぶつかって車が横転した。
「紅葉亜里砂さん、帰宅の準備をして職員室に来てください」
授業中に学年主任が亜里砂の教室にやってきた。
「はい」
(なんだろう?)
急いで鞄に荷物を入れて、教室を出て行く。
「お父様がお迎えに来ています。急ぎましょう」
「はい」
職員室の廊下に両親が立っていた。
「友麻が事故に遭ったらしい、すぐに行くから靴を履いておいで、車はわかるね」
「お兄ちゃんが事故?」
「様子がわからないんだ。とりあえず、向かいたい。いいね」
「うん」
亜里砂は下駄箱に向かって走った。
「多重事故らしいんだ。バスとぶつかって横転したらしい。怪我人が多くて、友麻の状態がわからないんだ」
「私、お兄ちゃんにリア充撲滅って言ったの。毒を吐いたの。だからお兄ちゃんが事故に遭ったんだ。ごめんなさい。お父さん、お母さん」
亜里砂の横には母がいる。
「今朝はお父さんたちが悪かった。亜里砂が気分を悪くするような事を無神経に話した」
「全部、私が悪いんだ。ごめんなさい」
「亜里砂は悪くないわ。お薬を持ってきたの。飲んで少し休みましょう」
「お母さん、ごめんなさい」
錠剤をわたされ、亜里砂は薬を飲んだ。
この錠剤を飲むと眠くなる。
「到着するまで、休みなさい」
「はい」
毛布を掛けられた。心配で仕方ないのに、無理矢理睡魔が来て、眠ってしまった。
「亜里砂には辛いかもしれないが、一人で留守番はさせられない」
「無事でいてくれたら、それだけでいいわ」
「路面が凍結しているらしい。途中でチェーンもはめた方がいいだろう」
三人の乗った車は、友麻が運ばれた病院に向かった。
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