上 下
15 / 38
2   お兄ちゃんのお見合い

1   お見合いの相手は亜里砂と同じ名前

しおりを挟む

 翌日、友麻が早く帰ってきた。
「あら、早いのね」
 母が友麻の顔を見て、珍しそうに言った。
 休みだった父もリビングにいた。
 亜里砂はバックに飾る花の作り方を母に教えてもらっていた。
「大事な話があるから、早めに仕事終えてきた」
「なに?」
 亜里砂の隣にいた母が友麻の前に移動する。
 父が紅茶を淹れている。
「亜里砂、カップを出してくれるか?」
「はーい」
 裁縫道具に針と花をしまうと、キッチンに急いだ。
「どれでもいい?」
「どれでもいいよ」
 シンプルなカップを出して、ダイニングテーブルに並べる。
 父がそのカップに紅茶を注いでいく。
 みんなストレートで飲むので、お砂糖は出さない。
 四人がダイニングテーブルに座ると、友麻は少し緊張した顔をした。
「結婚を勧められているんだ」
「相手は誰なの?」
「今、派遣されている中川物産の社長令嬢なんだ」
「あら、将来、社長になるのね」
 母は嬉しそうな顔をした。
 亜里砂は俯いた。
「今、待ってもらっているんだ。連れてきてもいいかな?」
「あら、いいわよ。和室に案内しなさい。お茶を淹れるわ」
「ありがとう」
 友麻は一度も亜里砂を見なかった。
「亜里砂、ワンピースに着替えておいで」
「会わなくちゃ駄目?」
「会ってあげなさい」
「うん」
 亜里砂は急いで部屋に戻ると、清楚な白のワンピースを着てリビングに戻った。
「亜里砂、お兄ちゃん離れしないとな」
「うん。お父さん」
「お茶の準備ができたわ、行きましょうか」
「どんなお嬢様だろうね」
 父が母に言うと母は笑った。
「友麻のストレートゾーンは結構狭いのよ。亜里砂しか興味がないかと心配してたくらいよ」
 亜里砂は昨晩、関係を拒んだことを悔やんでいた。
(あれが最後のチャンスだったんだね。選択ミスだったんだ・・・)
 

 客間の和室に淡いワンピースを着た女性が座っていた。
 女性の隣に友麻が座っている。
 女性は背中まである髪を下ろしていた。顔立ちはよく、綺麗な白い肌をしていた。
 まだ傷の残っている亜里砂とは違って、とても綺麗だった。
 亜里砂は女性をしっかり見てから、俯いた。
「中川物産の中川亜里砂さん。年齢は22歳。偶然だけど亜里砂と字面も同じだ」
 亜里砂は一度、顔を上げて、すぐに俯いた。
「亜里砂さん、父と母と妹だ」
「初めまして、亜里砂です。よろしくお願いします」
「結婚を前提に、お付き合いしようと思っている」
「そうか」
「まあ、素敵」
 両親は嬉しそうだ。
 両親が「よろしくお願いします」と頭を下げたので、亜里砂も頭を下げた。
「亜里砂さんの両親に挨拶して欲しいんだ」
「予定を組んでくれ」
「お願いします」
 今度は友麻と亜里砂さんが頭を下げた。
「亜里砂、もういいよ。部屋に行ってなさい」
「はい、お父さん」
 亜里砂は頭を下げると、客間を出た。
 ため息をついて、部屋に戻る。
 ワンピースを脱いで、室内着に着替えると、亜里砂はお風呂に入った。
『亜里砂』の札を下げて、服を脱いで浴室に入ると、昨夜、友麻につけられたキスマークが肌に散っていた。
 指でそこに触れる。
 悔やんでも時間は戻らない。
 泣きながら、体を洗って、お風呂に入る。
 涙が止まってから、お風呂から出た。
 室内着を着て、部屋に戻った。
 その夜から友麻は、亜里砂のベッドで寝なくなった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

偽りの愛の結婚

恋愛 / 完結 24h.ポイント:45,645pt お気に入り:414

ずっと抱きしめていたい

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:35

あなたの子ですが、内緒で育てます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:5,641

【R18】お見合い相手が変態でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:409

【完結】愛は今日も愛のために

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

私が王女です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:994pt お気に入り:506

元ツンデレ現変態ストーカーと亡き公国の魔女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:66

極上の男を買いました~初対面から育む溺愛の味~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,682pt お気に入り:77

PARADOX

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:0

処理中です...