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1 二度目の家族
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「もうすぐ夏休みだ。このまま学校を休みなさい」
「そうね、お母さんのお仕事を手伝ってもらおうかしら」
「私、どうしたのかな?今まで順調だったのに、どこかで選択ミスでもしたのかな?セーブポイントまで戻れたらいいのに」
「何を言っているんだ?」
遅めの夕食を家族で食べている。不思議なことを言い出した亜里砂を皆が見つめる。
「リセットはしたくないの。ちょっと前に戻れたら、やり直すことができると思ったの。今度は間違えないようにする。誰にも見つからないようにおとなしくする」
「亜里砂、ゲームじゃないんだから」
呆れたように友麻が言った。
「うん」
「亜里砂はおとなしくしなくていい。やっと自然な笑顔が見られるようになったんだ」
「私、笑ってなかった?」
「今は可愛くなったよ」
「昔は可愛くなかったの?」
「可愛かったよ」
「もうお兄ちゃん、今日は一人で寝るから」
「もう怖くないのか?」
「もう平気だもん」
四人で食事を食べた後、亜里砂は制服と体操服を干して、早めに部屋に戻った。
背中が痛かった。
三面鏡を広げて、じっと顔を見つめる。
(虐められる顔なのかな?)
『汚い、醜い、くさい』生みの母の声が耳元でする。
お風呂から上がったら、母が肌に薬を塗ってガーゼをあててくれた。
洗いすぎた体に、いい香りのするボディークリームを塗ってくれた。
(くさくないよね?お風呂も入ったから汚くない。顔は生まれつきだから仕方ないよね)
「じっと顔を見てどうかしたのか?」
「お兄ちゃん、私、虐められる顔をしてる?」
「めっちゃ可愛いけどな」
「お兄ちゃんの目は当てにならない」
キッチンから持ってきたグラスで薬を飲む。
「痛いのか?」
「煙草を押しつけられるよりは痛くない」
「その例え方はやめろよ。痛いときは痛いと言えよ」
「私、まだ壊れてるから。きっと人に嫌われる空気を出しているんだ」
「亜里砂、それは違う」
「お兄ちゃんも亜里砂を嫌いになるよ。今は同情してるだけ」
「亜里砂を嫌いになったことはないよ」
「きっと捨てられる」
亜里砂はベッドに横になった。
友麻に背を向けている。
仰向けに寝かすと背中が痛いかもしれないが、肩を押さえて、亜里砂に初めてキスをした。
「お兄ちゃん、なんで?」
「こういうときは、友ちゃんとか友麻って呼べば」
「そうじゃなくて」
「ずっと抱きたいと思っていた」
キスをされながら胸を愛撫される。
「お兄ちゃん、やめよ。まだセーブポイントだよ」
「亜里砂は見た目小さく見えるけど、ちょうど手に収まるサイズだな」
両胸を揉まれて、唇が胸に触れる。乳首を舐められて、体、ひくっと震えた。
「お兄ちゃん、やめよ。怖いよ」
「悪夢とどっちが怖い?」
亜里砂は黙った。悪夢の方がずっと怖い。
今夜は夢を見そうだった。
亜里砂をいたぶり続けた生みの母の声が、ずっと耳元で聞こえている。
「今夜はいい夢をみさせてやるから」
「うん」
亜里砂は友麻に身を任せた。
キスをされて、友麻の手が体をなぞる。
「綺麗だよ、亜里砂」
「綺麗?私が?」
「顔が好み」
「私の顔、醜くない?」
「亜里砂を初めて見た時から、可愛いと思ってるよ」
「初めて見た時?」
何度も触れるキスが重なる。
「この体だって初めて触るわけじゃない。亜里砂とは出会ったその晩から、毎日一緒に寝てるだろう」
「うん」
「何度も触れてる。キスだってしてた。亜里砂が気付かなかっただけ」
胸を揉まれて、顔が赤くなる。
「なんで教えたの?」
「今日の亜里砂は、夜、魘されているときと同じ顔をしてるから」
頬を撫でられ、亜里砂は目を閉じた。
「今日はずっと怖かった。親友だと思っていた蘭々まで私を避けた。私は蘭々の奴隷だと言われた。虐待をされたときから、少しも変わってない。『汚い、醜い、くさい』って言われ続けてきたけど、クラス中からも思われている。たばこを押しつけられた痛みを思い出さないと今日は生きていられなかった」
「辛かったな」
「うん」
向かい合うように抱きしめられて、亜里砂は友麻にしがみついた。
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