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1   二度目の家族

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(セーブポイントからやり直し!)
 できることなら、朝まで時間を巻き戻したい。
 蘭々から声がかからなくなった。蘭々だけじゃない、クラス全体で避けられている。
 学校に入学して、ハブられるのは初めてだ。
 教室で亜里砂は一人になった。
 俊が近づいてきて、亜里砂の前に座った。
 じっと俊の顔を見る。俊は無表情だ。
「蘭々は俊君のこと好きなの。だから、さっきの告白なしにして」
 目の前に紙が置かれた。
「別に僕は君のこと好きじゃないよ。ラブレターを書いた子から頼まれただけ。たった一言で、無視されちゃうんだね。女子って怖い」
 亜里砂は俊の顔を見て、小さな声で言葉を紡ぐ。
「性格、悪いのね」
「みんな見た目に騙されるんだ。顔がいいから?頭がいいから?内面は誰も見ていない」
 俊も声を潜めている。
「私はあなたのこと好きじゃないわ」
「僕も君のこと好きじゃない。蘭々の奴隷の亜里砂」
「蘭々の奴隷?私が?」
「亜里砂は鈍感なんだね。みんなそう思ってるよ」
 教室がざわめいている。
 俊は教室から出ていった。
 蘭々が駆けてきた。
「何を話してたの?喧嘩をしたの?」
「好きじゃないって言われただけ」
 蘭々がホッとした顔をした。
「告白しておいでよ」
 亜里砂は目の前に置かれた紙を握って立ち上がった。
「トイレに行ってくる」
「私もついて行きましょうか?」
「だから告白しておいでって」
 苛々していた。
(私が蘭々の奴隷?親友じゃなくて奴隷なの?)
 亜里砂はトイレに駆けていった。
 個室に入って、畳まれたノートの切れ端を開いてみた。
「放課後、校舎の裏に来いか。今日は早く帰らなくちゃいけないのに」
 扉を開けようとしても、扉は開かなかった。
 トイレの外でクスクス笑っている女子の声がした。
 誰かの手とホースが見えた。
(小学生か?虐めとかやめてよ)
 思った通り水を撒かれて、頭からぐっしょり濡れた。
(煙草みたいに熱くないから、大丈夫)
 泣きそうになるのを堪えて、昔の痛みを思い出す。あれ以上の痛みは存在しないはずだ。
 無理矢理扉を開いて、開きっぱなしの水道を止めた。
 鏡に映った自分の顔を見る。
(私って虐められやすい顔をしてるのかな?)
 生みの母に『汚い、醜い、くさい』と言われ続けていた。
 癒えていた心の傷が、また捲られていく。
 そのまま教室に戻っていく。
「亜里砂、どうしたの?」
「虐められているの。一緒にいると蘭々も虐められるよ」
「誰が亜里砂を虐めているの?誰よ?亜里砂を虐めるのは」
 犯人は蘭々だと思ったのに、蘭々は一生懸命亜里砂を守ろうとしてくれる。
 滅多に大きな声を出さない蘭々が、教室中に向かって声を上げた。
「ねえ、蘭々。放課後、付き合ってくれる?朝の手紙捨てたことで、呼び出されているの」
「怖いわ」
「私だって怖いわ。でも、捨ててって言ったのは蘭々でしょう?蘭々の下駄箱に入っていた物だし」
「わかった。一緒に行くわ」
 潔癖症の蘭々がハンカチを出して、顔を拭いてくれる。
「私が頼んだから、亜里砂が虐められているのね。ごめんなさい」
 涙まで流してくれる。
 疑った自分がとても醜く感じて、亜里砂は自己嫌悪に陥った。
「着替えていらして。濡れたままじゃ風邪を引いてしまうわ」
「そうする」
 ロッカーに行って鍵を開けて体操服を取り出すと、亜里砂はどこで着替えようかと考えた。トイレで着替えたら、また水で濡らされそうで怖かった。保健室なら下着を売ってくれる。さすがにパンティーだけだけど。
 場所を決めて、亜里砂は保健室に向かった。
 五時間目の授業の途中で、蘭々は倒れてしまった。
 目眩が酷いと言って、家から迎えが来た。
「亜里砂、ごめんね」と言いながら帰って行った。
(私も帰ろう。虐められに行く必要なんかないよ。わざわざ呼び出さないで、教室に
来ればいいのよ)
 授業後、濡れた制服と鞄を持って、体操服で帰って行く。
 その背中に石を投げられ、亜里砂はつんのめるように転んだ。
 石は一個じゃなく、何人も投げているようだ。頭を守るように抱えるが、背中は丸出しだ。たくさんの石が背中に当たる。
 教師がたまたまその様子を見ていて、駆けつけてきてくれた。
「こら、おまえたち、何をしているんだ?」
 教師は逃げ遅れた一人を捕まえて、石投げの犯人がわかった。


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