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1   二度目の家族

1   新しい家族

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 亜里砂が中学に入るのと同時に、父の祐輔は結婚した。
 新居は新しい母親が住んでいるマンションだ。
 亜里砂の治療にお金を使っていたので、うちはそんなに貯金はない。
 新しい母親の家に転がり込むように、引っ越しした。
 父親に急に仕事が入って、亜里砂は一人でマンションを訪ねた。
 オートロックの高層マンションだ。
 下でインターフォンを鳴らすと自動ドアを開けてくれた。
 聞いていた部屋番号の前まで来た。
 綺麗なまだ新しいマンションだ。
 エレベーターから玄関までは絨毯が敷かれている。隣に玄関はない。
 ワンフロアーが家のように見える。
 表札を見ると『稲田』ともう一つ『アンジュプロダクション』と書かれていた。
「すごいな。会社経営者?」
 小さな古いマンションで過ごしていた亜里砂にとって、ここは異世界に見える。
「ゲームスタート」
 亜里砂はインターフォンを鳴らした。
「いらっしゃい。亜里砂ちゃん」
 引っ越しの荷物も少ない。
 家電製品はすべて処分して、持ってきたのは着替えと勉強道具やぬいぐるみだ。
 宅配便の箱で、二人でたった4箱だ。
「荷物は届いているわよ」
「ありがとうございます」
 制服姿で、お礼を言う。
「ありがとうでいいのよ」
 亜里砂は強ばった顔で頷く。
「友麻、亜里砂ちゃんが来たから、お部屋に案内して」
 ふらりと出てきた友麻は19歳の大学生だ。
「おいで」
「うん」
 友麻は背が高く、まだやっと中学生になったばかりの亜里砂には見上げなくてはならない。
「この部屋、俺の部屋だったから、なんかが出てきたら教えて」
「うん」
「その制服、私立慈英学園の中等部だね」
「知ってるの?」
「俺も中学から大学まで、そこに通ってる」
「先輩なんだね」
「亜里砂、『うん』以外話せるんだな」
「話せるよ」
 亜里砂は頬を膨らますと、友麻は亜里砂の顔を見て声を上げて笑った。
「ベッドと机、適当に置いたから、位置変えたかったら言って。手伝うから」
「ありがとう」
 友麻はにこりと笑うと部屋から出て行った。
 ふーっと息を吐き、亜里砂は胸を押さえてその場に座り込んだ。
「どうしよう、ストレートゾーンど真ん中」
 父以外の異性でかっこいいと思ったのは、友麻が初めてだ。
 初めての顔合わせで、亜里砂は友麻に一目惚れをした。
 緊張して何も話せなかったが、それでも友麻が兄になるなら父の再婚もきっとうまくいくと思った。


 制服を脱いでルームウエアーに着替える。
 荷物を出して、クローゼットにしまっていく。
 下着とカットソーとスカートだ。夏や冬の服をしまっても、まだ余裕がある。
 もともと衣装持ちでもなかったので、クローゼットの片付けはすぐに終わった。
 教科書と本を机に並べると、机の片付けも終わってしまった。
 もともと友麻の部屋だったこの部屋は、カーテンが明るいピンクになっていた。
 ベッドのカバーもお揃いのピンクでレースまでついて、可愛い。
 新しく揃えてもらったのだと思うと嬉しい。
 抱き枕のふわもこのぬいぐるみをベッドに寝かせて、箱を崩していく。
「どこに置いたらいいんだろう?」
 リビングに入っていくが誰もいない。
『お母さん』とはまだ呼べない。困っていると友麻が出てきた。
「箱もらおっか?」
「うん」
 友麻は亜里砂の手から箱を受け取ると、片付けに行こうとする。
 その後をついて行く。
「母さん、部屋で仕事しているから、用があったら、部屋に行くかここで呼べば出てくるよ」
「うん」
「俺の部屋にも来ていいから」
「うん」
「お風呂の場所、わかる?」
 亜里砂は首を振る。
 友麻は、箱を部屋の隅に凭れさせると、亜里砂の手を握った。
 亜里砂の頬がかすかに赤く染まる。
(こいつ、俺に気があるのか?)
 顔をよく見ると、小さいのに、可愛い。
 顔は好みだ。
 握った小さな手も指先が綺麗だ。
(妹か、面倒かと思ったけど楽しそう)
 友麻は心の中で、微笑む。
(数年後、めっちゃ美人になりそう)
「お風呂はこっち」
 リビングの扉を開けると、扉を一つずつ開けて、教えていく。お風呂とトイレを教えると、物置の扉も開けて、中を見せていく。
「ゴミはここにゴミ袋があるから、入れればいいよ。玄関の横に客間がある。
 性格は真面目なのか、亜里砂は言われ場所をしっかり見て覚えている。
 扉を開けると、和室があり真ん中に大きな机が置かれている。
「ここは母親が仕事の関係者とよく使ってるよ」
「うん」
「ああ、そうそう。こっちの扉は母親の仕事場で、従業員が出入りしている。俺たちは関係ないから、顔を見たら頭くらい下げてやって」
「うん」
 扉のプレートに『アンジュプロダクション』と書かれている。
 そのプレートをじっと見ていると、友麻は亜里砂の着ている服を見て、笑った。
「1000円かな?」
「なにが?」
「そのワンピース」
 顔が赤くなる。
 スーパーの特価で買った税込み1000円の部屋着だ。外出着も大して変わらない。
「母親は、ファッションデザイナーで会社を立ち上げているよ」
「そうなんだ。私みたいな貧乏人が来る家じゃないね」
「亜里砂。それは違う。亜里砂は両親が結婚して、この家の子になったんだろう?」
「うん」
 亜里砂の視線が下がる。
(あれれ、両親の結婚承諾したんじゃないのか?嫌だったのか?)
「もう案内忘れてないかな?いちおう、俺の部屋教えておくよ。おいで」
「うん」
 また手を引かれて、廊下を歩いてリビングに入ると、また扉を開けて部屋が並ぶ廊下に連れられていく。
「右側が亜里砂の部屋で左側が俺の部屋。
 扉を開けて、中を見せる。
 パソコンが何台も置かれている。あとはベッドだけだ。
「パソコン部屋だったんだね。ベッド置いたら狭くなっちゃってごめんね」
「亜里砂が謝る必要はないだろう?」
 亜里砂は少しだけ考えて頷いた。
「うん」
「もう一つ、ここにもトイレと洗面台あるから」
 友麻は扉を開けて見せていく。
「一番奥の部屋が夫婦の部屋だ」
 廊下の突き当たりを、友麻は指を拳銃に見立てて扉を打つ真似をした。
「母親の部屋はリビングの奥だよ。会社と繋がっている」
「うん」
「今のうちにお風呂に入っておいでよ。夕方お風呂ラッシュになるだろうから」
「わかった」
「お風呂の使い方も教えた方がいい?」
「たぶんわかると思う」
「それなら行っておいで」
 手を放して、ポンと背中を押してやる。
 キョトンとした顔の亜里砂が振り返ったので、友麻は微笑んでやった。
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