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12   結婚

7   シオン

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 PKで捕まったシオンは、本物の牢獄に入れられていた。

「シオン、自分で何をしたのか分かっておるのか?」

 問いただしているのは、国王陛下だ。

「あのチビが悪い」
「チビとは誰だ」
「俺より年下の姉上になる女だ」
「姉になる事は分かっておるのだな?そのビエントの妻になるリリー嬢に何をした?」

 国王の声は低く、怒っているのが分かるほど辺りが静かだ。

「魔法で殺そうとした。失敗したようだが」
「この国の法律で、魔法で人を傷つけたら公開処刑だという事は知っておるな」
「国王様は自分の息子を公開処刑にするのか?」
「見ていた者も多く報道陣も来ておった。なんと愚かなことをした?国王の子ならば許されると思ったのか?」

 シオンは黙った。

「殺すならば殺せばいいだろう。どうせ父上は俺を息子だとも思っていないだろう?」
「息子だから困っておるのだ。他人ならば、すぐに公開処刑を行う」

 シオンはまた黙った。

「そんなにリリー嬢が嫌いなのか?」
「ただ気に入らなかった。異国の、それも幼い子供が自分にできない魔術を自在に操る姿を見て嫉妬したんだ。俺は空も飛べないのに」
「努力はしたのか?」

 またシオンは黙った。
 努力は何もしていない。

「リリー嬢は、毎日何時間も飛ぶ練習をしたそうだ。木の上から飛び降りたり、二階の窓から飛び降りたりして、足は傷だらけになっていたぞ。ビエントの話では、魔術を教えたのは、たった一日だったそうだ。その魔術を毎日練習して、幼い身で家出をしてビエントに会うために、旅に出た。鞄が重くて持ち上げられないからと、鞄を持ち上げる練習をしたらしい。シオンはそこまで努力をしたか?」
「してないよ。兄貴はできがよくて、弟は空も飛べない。俺は母親に似たのだろう。母上も飛べない」
「飛べないのではなくて、飛ぶ練習をしなかっただけであろう。どの属性も飛べると実証されておる。自分が飛べないと思い練習をしても、飛べるようにはならない。飛べると思い根気よく続ければ飛べるようになれるのだ」
「そんなこと飛べる者しかわからない」
「卑屈な心を持ち、嫉妬で、自分の可能性を潰したのは己だ」

 またシオンは黙った。

「マスコミがリリー嬢へのPKを報道し、国民が騒いでいる。このままお咎めなしにはできない。父の知り合いの国の騎士団に入り、心身共に磨き直してこい。国民には国外追放と報道しよう。父は、ビエントの補佐をして欲しかった。年頃の婚約相手を迎えて、結婚もさせたかった。だが、一番やってはいけないことをしてしまった」
「……国外追放」
「まずは五年頑張ってみなさい。私は友人に連絡を取って、いつもシオンの事を気にかけよう。国民が忘れた頃、戻れるように努力しよう」
「……父上」
「我が子を公開処刑にできない。いいか残されたチャンスは一度しかない。あちらの国で我が儘を通すようなら、処刑されても仕方がない。できるか?」

 俯いていたシオンは、顔をあげて、国王に頭を下げた。

「チャンスをくださり、感謝します。いずれ兄の補佐になれるように、心を入れ替えます」
「よく言った。行き先はエバシオ王国だ。同じ年頃の王子もいる。屈辱に感じることもあるだろう。自分のために心を入れ替えよ」
「はい」

 国王は自ら牢屋の鍵を開けると、息子が出てくるのを待つ。

「そんなしおらしいことを言うと思ったか。このクソ国王が!」

 シオンは国王に向かって魔術を放った。

「ライトニング・ウインド」

 国王はその場で倒れて、側近がシオンに魔術を仕掛けた。

「ウインドウシュートス」

 シオンは後ろの壁まで飛ばされ、壁に頭を打ち付けて倒れた。

「光の魔術師を、国王様が倒れました」

 王宮の中が騒がしくなった。
 シオンの牢屋の鍵はまたされて、そのまま放置された。






 国王は目を覚ましたが、息子に魔術をかけられたショックでベッドに伏せっている。

「父上、ご気分はいかがですか?」
「最低だ。シオンを助けようとしたが、あの子は性根が曲がっておる。私にまで攻撃してくるとは、こんな壊れた家庭しか作れなかったのだな」
「無事でよかったです。シオンの魔法は弱いが、近距離で受ければ威力はありますから……」
「……あれは、諦めるしかないか?公開処刑は王国の恥、自殺と見せかけて、暗殺させよう」
「……」

 ビエントは返答できなかった。
 あまり仲の良い兄弟ではなかったが……。性格が曲がっていったのは、子供の頃からだ。一緒に遊んだ思い出もない。
 ビエントの婚約者が決まり、リリーと出会ってからは、シオンは心を失ったようになっていた。

「父上、お食事は運ばせましょうか?」
「いや、リリー嬢の顔を見たい。起き上がろう」

 ビエントは父の背中を支える。ガウンを着せて、ダイニングまで連れて行く。

「……すまないな」
「いいえ、肩を貸すくらい、たいしたことはありません」






 時間ぴったりのように、リリーが帰って来た。

「ただいま、帰りました」
「おかえり」
「お疲れだね」

 コートを使用人に預け、手を洗わせてもらう。

「あと1日くらいで、山の住人はみんな下山できます。住宅街に活気が出てきていますよ」
「そうか」
「国王様、お加減が悪いのですか?」
「たいしたことはない」
「お大事になさってくださいね。寝込むのはとても辛いです」
「ああ、そうだね」

 リリーは優しく国王の手を握った。

「私は元気ですから、パワーを差し上げますわ」
「リリー嬢は優しいな」
「さあ、リリー、食事が並べられないぞ」
「ごめんなさい」

 リリーは礼儀正しく、椅子に座った。

「きっとビエント様が理想となさった光景が見られますよ」
「そんなに賑やかになったのか?」
「それはもう。子供の笑い声やおやつのにおいとか。公園がもう少しあった方がいいかもしれません」
「公園か、忘れていたな」
「せっかくなので、明日、視察なさいますか?」

 ビエントは父を見てから、「予定の確認をしよう」と答えた。

「ビエント行ってきなさい」
「父上?」
「妃が頑張っているのに、王子が王宮にいてはいけない」
「私はまだ妃ではないわ」
「立派な王妃だ」

 国王に言われて、リリーは背筋を伸ばした。



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