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11 ままごとのような時間
3 ビエントの帰国
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「なんと温かな家庭だろう」
「食事も美味しかったが、流れる空気が気持ち良かったな」
アトムスとモリオンが空を飛びながら、リリーの家の感想を言い合っている。
「……ああ、帰りたくない」
「殿下、しっかりなさってください」
嫌がるビエントをリリーが宥め、やっとリリーの父に挨拶して「必ず戻って来ます」と約束して空に飛び立った。
アトムスもモリオンも空を飛べる。
同じ魔法学校の優等生三人組だった。
ビエントは王宮に戻ると、父の部屋を訪ねた。
「父上、入りますよ」
ビエントは声をかけると、父の執務室に入っていった。部屋は書類が散らかり、父は机に足を載せて眠っている。
まったく行儀がなっていない。髭も剃っていないのか、無精髭がだらしなく伸びている。
元々精悍な顔立ちをしているのに、これでは妻でも逃げて行きそうだ。
逃げたのではなく追い出したのだったな。
ビエントは散らかった紙を拾いながら目を通していく。
「騎士団への勲章?今頃になって?」
日付を見ると、ビエントが家出をした翌日になっている。他の紙は道路工事の指示を待つものだったり、散策隊からの情報だったり、この様子では何も手を付けていないのだろう。
ビエントは父の体を揺すり起こした。
「父上、いい加減に起きないと、帰りますよ」
ぱっと父の目が開いた。
「ビエント」
「何をなさっているのですか?父上は国王陛下ではありませんか、国政をなさらなくてはいけない立場でございましょう」
「後継者のいなくなった国など整備しても、いずれ滅んで行くだろう」
「だからといって、放っておくのは無責任ではありませんか?」
「そうだな、無責任だ。だが、やる気が起きなくてな。私はどうしてアリアなんかと結婚したんだろう。お見合いだったが、昔から我が儘ばかりで、息子の婚約者に陰湿な虐めをして、国の英雄になった息子の婚約者を追い出してしまった。国民はリリー嬢の行方を捜しておるのに、なんと言ってマスコミに発言したらいいものか、分からなくなった。大切なお嬢様をお預かりしておいて、あまりにも酷い仕打ちを、マスコミが知れば、王家は冷酷非道と叩かれるであろう」
父は頭を抱える。
「リリーを訪ねたら、高熱を出し肺を患っていました。生死を彷徨い、ようやく外出できるようになりました。この王宮で寒かったと言っておりました。空調が壊されていたと聞いたときは、なんと陰湿な心を持った行いだと恥ずかしくなりました。洋服も春の洋服しか持っていなかったのに、洋服すら用意できなかったことは、この国の恥ですが、もう既に終わったこと。今は以前のように明るく元気になりました」
「そうか無事で良かった」
父なりにリリーを心配してくれていたようだ。
「明日から議会を開催しますよ」
「ビエントも出てくれるのか?」
「時々、リリーの様子を見に行かせてもらえるならば手伝いましょう。リリーはまだ療養中なので」
「本当にすまなかった。ご両親にもお詫びをしなくては」
「今回はお許しをしていただけましたが、次はありません。なので、私はいつもリリーを一番に考えて行動させていただきます」
「それでいい。どうかビエントが後継者になって欲しい。シオンはアリアに甘やかされて育った為に、アリアに似て我が儘放題だ。後継者には向かない」
父は大きなため息を漏らした後に、ビエントに頭を下げた。
「一緒に国政を行って欲しい」
「分かりました。まずは書類を見せてください」
父はやっとやる気を出したようで、溜まった書類をビエントに見せて、あれやこれやと相談を始めた。
国王の側近とビエントの側近は、顔を見合わせ、ほっと一息ついた。
「食事も美味しかったが、流れる空気が気持ち良かったな」
アトムスとモリオンが空を飛びながら、リリーの家の感想を言い合っている。
「……ああ、帰りたくない」
「殿下、しっかりなさってください」
嫌がるビエントをリリーが宥め、やっとリリーの父に挨拶して「必ず戻って来ます」と約束して空に飛び立った。
アトムスもモリオンも空を飛べる。
同じ魔法学校の優等生三人組だった。
ビエントは王宮に戻ると、父の部屋を訪ねた。
「父上、入りますよ」
ビエントは声をかけると、父の執務室に入っていった。部屋は書類が散らかり、父は机に足を載せて眠っている。
まったく行儀がなっていない。髭も剃っていないのか、無精髭がだらしなく伸びている。
元々精悍な顔立ちをしているのに、これでは妻でも逃げて行きそうだ。
逃げたのではなく追い出したのだったな。
ビエントは散らかった紙を拾いながら目を通していく。
「騎士団への勲章?今頃になって?」
日付を見ると、ビエントが家出をした翌日になっている。他の紙は道路工事の指示を待つものだったり、散策隊からの情報だったり、この様子では何も手を付けていないのだろう。
ビエントは父の体を揺すり起こした。
「父上、いい加減に起きないと、帰りますよ」
ぱっと父の目が開いた。
「ビエント」
「何をなさっているのですか?父上は国王陛下ではありませんか、国政をなさらなくてはいけない立場でございましょう」
「後継者のいなくなった国など整備しても、いずれ滅んで行くだろう」
「だからといって、放っておくのは無責任ではありませんか?」
「そうだな、無責任だ。だが、やる気が起きなくてな。私はどうしてアリアなんかと結婚したんだろう。お見合いだったが、昔から我が儘ばかりで、息子の婚約者に陰湿な虐めをして、国の英雄になった息子の婚約者を追い出してしまった。国民はリリー嬢の行方を捜しておるのに、なんと言ってマスコミに発言したらいいものか、分からなくなった。大切なお嬢様をお預かりしておいて、あまりにも酷い仕打ちを、マスコミが知れば、王家は冷酷非道と叩かれるであろう」
父は頭を抱える。
「リリーを訪ねたら、高熱を出し肺を患っていました。生死を彷徨い、ようやく外出できるようになりました。この王宮で寒かったと言っておりました。空調が壊されていたと聞いたときは、なんと陰湿な心を持った行いだと恥ずかしくなりました。洋服も春の洋服しか持っていなかったのに、洋服すら用意できなかったことは、この国の恥ですが、もう既に終わったこと。今は以前のように明るく元気になりました」
「そうか無事で良かった」
父なりにリリーを心配してくれていたようだ。
「明日から議会を開催しますよ」
「ビエントも出てくれるのか?」
「時々、リリーの様子を見に行かせてもらえるならば手伝いましょう。リリーはまだ療養中なので」
「本当にすまなかった。ご両親にもお詫びをしなくては」
「今回はお許しをしていただけましたが、次はありません。なので、私はいつもリリーを一番に考えて行動させていただきます」
「それでいい。どうかビエントが後継者になって欲しい。シオンはアリアに甘やかされて育った為に、アリアに似て我が儘放題だ。後継者には向かない」
父は大きなため息を漏らした後に、ビエントに頭を下げた。
「一緒に国政を行って欲しい」
「分かりました。まずは書類を見せてください」
父はやっとやる気を出したようで、溜まった書類をビエントに見せて、あれやこれやと相談を始めた。
国王の側近とビエントの側近は、顔を見合わせ、ほっと一息ついた。
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