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9   婚約について

2    リリーとアトミス

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 アトミスに教えてもらった高級チョコレート店でチョコレートを買って、リリーはアトミスの家を訪ねた。
 すぐに応接室に案内されて、アトミスがすぐに来た。

「リリーがいないから、夜、よく眠れないわ」

 リリーは微笑んで、チョコレートをアトミスに渡した。

「お茶菓子を持ってきたのね。こらからは何も持ってこなくてもいいのよ。我が家も茶菓子くらいは準備しているわ」
「一緒にチョコレートを食べたかったのよ」
「それならいいけど、気を遣わないでね」
「ええ」

 すぐに侍女が紅茶を出してくれる。
 アトミスはチョコの包みを取ると、チョコレートの箱を真ん中に置いた。

「私、ここのチョコレートが気に入っているの。とても美味しいもの」
「リリーはチョコレートが好きよね」
「アトミスは嫌いですの?」
「大好きよ」
「よかったわ」

 二人でチョコレートを口に含む。
 甘い味が口の中に広がり、わずかなほろ苦さも癖になるほど美味しい。

「ビエント様にシオン様の事を話したわ。今は、ダンジョンの攻略で無茶な指揮を執ったことを怒られているわ。死者が出たらしくて、国王陛下とシオン様は二人でお見舞いに行かれたわ。国王陛下にビエント様が話してくれると言っていたけれど、アトミスの気持ちは変わってないかしら?」
「ええ、シオン様は私を愛してはくれないわ。奴隷と言われて、私はシオン様を見るだけで嫌悪を感じるようになってしまったわ。お父様やお母様に、相談しました。相手は皇族なので、女性からの婚約破棄はできないと言われましたけれど、早く自由になりたいと思っていますの」
「私を訪ねて王宮に遊びにいらして、そうしたら国王陛下に出会う頻度も増しますわ」
「王宮に行ってもいいのですか?」
「私はビエント様の婚約者として、王宮に滞在しているので構わないですわ」
 アトミスは頬に指をあてて考えている。
「今から行ってもいいかしら?」
「もちろんよ。私のお部屋の侍女は私の国から連れて来た私の味方ですから、何でもおっしゃって構わないわ。外に漏れることもないわ」
「リリーって策士よね。騎士団長と洞窟に行ったとき、もう作戦を考えて団長をその気にさせたのでしょう?」
「そんなことはないわ。思った事を遠慮せずに話しただけよ」

 アトミスは微笑んだ。

「上着を着てくるわ。少しお待ちになって」

 アトミスはハイキングにでも出かけるように楽しそうに応接室を出て行った。
 リリーはもう一個チョコレートを食べて、紅茶を飲んだ。






 王宮の階段を二人で歩いて行く。ビエントが「ようこそ」とアトミスを招いてくれた。

「お邪魔します」
「アトミス嬢、あのことですが、本気ですね」
「はい。すぐにでも自由な身になりたいのです」
「わかりました。ではこちらへ」

 ビエントはリリーとアトミスを連れて、応接室の一つに招いてくれた。
 綺麗な器に入った紅茶が出され、茶菓子にチョコレートが一つお皿に載っていた。
 二人がチョコレートを口に入れたとき、突然扉が開いた。

「誰だよ。客なんて呼んでないぞ」

 シオンが部屋に入ってきた。

「何だよ、チビと奴隷か。なんか俺に用でもあったのか?急に呼び出すな、俺はおまえ達に用はない」

 一気に捲し立てたとき、背後にビエントと国王陛下が立った。

「シオン、兄の婚約者に対してチビと呼ぶとは、礼儀作法から学ばなければならないな。学ぶのが嫌なら、不敬罪で首でも落とすか?」
「父上」
「婚約者に対して奴隷とは、なんという無礼だろう。王家として恥ずかしい」

 アトミスは国王陛下の前に跪いた。

「国王陛下、この通り、シオン様は最初から私のことは奴隷と申しています。愛情はないとはっきり言っております。私が光の魔術師だから危険な時に助けてもらうために、側に置くと申しておりました。この間のダンジョンでの戦いの時でも、自分に麻痺が起きたときだけ私を呼び、麻痺の治療をしてもお礼の一つもしませんでした。この先、伴侶となる者としては、とても尊敬できません。どうか婚約破棄していただきたいと思います」

 アトミスは一気に話して、まだ頭を下げたままじっとしている。

「アトミス嬢。バカな息子で申し訳ない。婚約破棄は応じよう。私欲のあった婚約だったことは、認めよう。いい縁談があるように、力になることを約束しよう」
「ありがとうございます」

 アトミスは晴れて、婚約解消できた。

「この愚息は、家庭教師をつけて、躾からし直すつもりだ。心根が腐っておる。情けない」

 国王陛下はアトミスの肩に触れて、頭を上げるように、声をかけた。

「伯爵令嬢でありながら、騎士団に入り、何年も力を注いでくれてありがとう。今回のダンジョンの攻略も危険な任務と知りながら、よく耐えて戦ってくれた。ありがとう、アトミス嬢」
「お礼をいただけて、嬉しく思います。仲間がいたからこそ、頑張れた任務です」

 アトミスがリリーを振り返る。
 リリーは微笑んで、頷いた。

「父を通して、正式な婚約解消の使いを出そう」
「ありがとうございます」

 ビエント様がアトミスの腕を引き、立たせてくれた。

「ゆっくりリリー嬢と楽しんでくれ。ここにも遊びに来るといい」
「はい」

 アトミスは、今度は立ったままお辞儀をした。
 国王陛下は、シオンの耳を引っ張りながら、部屋から出て行った。






「やったわ」
「おめでとう。アトミス」
「リリーのお陰よ。いつも励ましてくれありがとう」

 アトミスはリリーを抱きしめる。

「アトミス嬢、弟が苦しめて、本当に申し訳なかった」
「いいえ、もう過去の事です」
「良かったわ、本当に」

 アトミスは涙を流しながら、喜んでいる。
 好きでもない相手と結婚なんて誰もしたくない。
 リリーは過去の自分を思い出しながら、アトミスの婚約解消を喜んだ。


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