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8   北のダンジョン攻略

2   ダンジョンの攻略(1)

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 200人は軽くは入れるダンジョンの洞窟の中に、182名が入った。端数の二人は団長と副団長だ。
 結局飛べると言った者まで運搬することになった。本当に5人は飛べるのだろうかと疑問を抱きながら運んだ。
 ダンジョンの中にシオンが先導するように、入っていく。
 態度だけはデカい。
 そこに技量が伴っているなら、リリーもシオンの事を多少見直すことはできるかもしれない。
 洞窟の中に入って行くと何の躊躇いもなく、シオンはボス部屋の洞窟の中に入っていった。

 普通ならみんなが集まってから、作戦を繰り返して、みんなの意欲が増したときに入って行くのだが、シオンが入ってしまったので、魔術学校の生徒も、後続の騎士団達も、急いで走り込むようにボス部屋に入った。
 雑魚の部屋では、やることはない。
 魔法学校の生徒が頑張って倒して、落ちた金貨は騎士団の仲間が拾った。
 拾っている姿を見て魔法学校の生徒は嗤っている。

「卑しい者たちだ」と言われても関係がない。
 捨てて行く方が勿体ない。
 正当な報酬として魔物が落としていくのだから・・・・・・。

 二つ目の洞窟の中に入っても、雑魚なので、見ているだけだ。時間はかかるが魔物は倒されて、ボスが落とした金貨を騎士団の仲間が拾った。
 戦わず、戦利品だけはもらえる。
 これはこれで楽でいい。
 騎士団の皆は最初から金貨を拾うつもりで来ているので、皆、大きな袋を持ってきている。

 三つ目のダンジョンはうなぎだった。空中を泳ぐように浮いているが、吐き出す魔物ごと偶然、容易く倒した。騎士団の仲間は、金貨を素早く拾うと、部屋を出た。

 四つ目のダンジョンは、耳の大きい象だ。リリーが想像したように、ボスの象は耳で飛んだ。
 狩りで出てくるサイズの象は走る。
 さすがに甘く見ているので、そろそろ無理が出てきた。
 象牙には毒がある。約30人が毒で倒れた。
 光の魔術師が治療をしているが、手が足らないほど毒を受けて怪我もしている。

「アトミス嬢、手伝ってやったらどうだ?」

 騎士団長が見かねて、アトミスに言ったが、

「彼らがすると言ったのですから、アトミス手伝わなくていいよ」
「……ええ」

 光の魔術師の仲間が、アトミスに声をかけてきた。
 完全に騎士団と魔術学校の生徒と亀裂が入っている。
 やっと子象とボスを倒した時は、彼らは膝をついていた。
 残った生徒は50人を切り約30人まで減った。
 ボスが落とした金貨を騎士団の仲間は拾う。アクセサリーも落としたが、魔力も力も弱い。リリーは手に持ったが、そこに置いてきた。

「次も毒持ちだぜ。せいぜい頑張ることだ」

 体格のいい騎士団の年長のガースがシオンに忠告する。
 シオンは悔しそうにしている。
 次はイノシシだ。イノシシの牙は大きくて、人を軽々突き刺しそうだ。
 そう思った矢先、魔法学園の生徒の一人が腹に牙が刺さり貫通した。生徒は口から血を吐き、意識を失っている。 イノシシは首を大きく振ると、突き刺した男子生徒を遠くに飛ばした。光の魔術師が走ってきて、傷を塞ごうとしている。

「解毒が先よ」

 アトミスはつい声をかけてしまった。

「分かっている。いちいちうるさい」

 リリーはアトミスの手を取り、その生徒から離れた。
 手出し無用と言われたのだから、何もしない方がいい。
 小さなイノシシがたくさん湧きだし、どうやって倒していいのか分からずに、一体ずつ倒して、また毒で倒れる。シオンも小さなイノシシの牙に刺され、倒れた。

「アトミス、助けてくれ」

 シオンがアトミスの名前を呼んだ。アトミスはシオンのところに向かうと、治療をした。
 簡単な解毒と治療だ。感謝の言葉も言わずに、シオンは走って行く。

「アトミス、そこは危険よ」
「どうして治してしまったのでしょうか?感謝もされないのに……」

 項垂れたアトミスの手を掴み、空中に避難する。

「そろそろ限界じゃないのか?」

 騎士団の誰かが、魔法学校の生徒の戦い方を見て、ぽつりと呟いた。
 たまたま火魔法がボスの腹に当たり、ボスは消えたが、まだ雑魚が残っている。
 一体ずつ倒して効率が悪い。
 ボスが倒れたので、報酬は落ちる。魔法学校の生徒が小さなイノシシと戦っているうちに、騎士団の者は、金貨を拾う。

「リリー嬢、可愛い髪飾りが出ているぞ」
「どれですの?」

 アハトがくれた髪飾りは意外と魔力が高い。

「ありがとう」

 その場で髪につけて、他を見る。指輪が多い。ピンクの濃い指輪は体力だ。取り敢えず、取れる物を拾って、ポシェットに入れる。

「次はトンボだけど、できるのか?」

 騎士団の年長者のガースが、負傷者の数を見て、シオンに聞く。

「できるよ。手出し無用」

 運び出された負傷者は更に増えて、残りは10名ほどになっている。倒れずに残った者たちが負傷者を運び出している。

「一端、休憩」シオンが言った。

「そんなにのんびりしていたら、今日中に終わらないぜ」
「そんじゃ、トンボは俺たちが片付けてくるから、治療頑張って」

 ガースが仕切って、ダンジョンに入って行く。魔法学校の生徒は治療と休憩だ。
 リリーは空を飛び、咆吼と共に出てきたトンボをトルネードにかけて、サンダーストームをかける。その間に、他の風魔法使いがトンボを半分に切断した。左右に別れた体は、火魔法の術者に焼かれた。
 あっという間に終わった戦いに、報酬をいただく。ひたすら金貨を集めていた者が、リリーの胸のポケットに金貨を入れた。

「婚約祝い」
「ありがとう」リリーは微笑んだ。
「リリーが王妃なら、この国もいい国になりそうだね」
「……だといいですわ」

 話したこともない相手だったが、認めてもらえたようで嬉しい。
 カチューシャにリボンまで落ちている。手に取ると魔力と体力だった。リボンを胸に可愛らしく結んで、カチューシャもする。残ったイヤリングや指輪をもらって、洞窟から出た。
 洞窟に出ると、まだ治療が行われている。

「次は俺たちが行く」

 シオンが今、戦える仲間を集めて、ダンジョンの中に入った。
 洞窟の中は広い。大きな青鬼と赤鬼がいる。

「騎士団組は下がっていろ」
 
 シオンは礼儀を知らないようだ。呆れて何も言えない。
 リリーはアトミスの手を握って、後方に下がった。

「あ、蝶々がいるわ」

 リリーが指を指すと、騎士団の皆が認識した。
 赤鬼と青鬼は、それほど強くはないはずだ。
 水魔法で濡らしておいて、雷を落としてやれば、すぐに死んだはずだ。それが倒してもすぐに起き上がる。

「何か仕掛けがあるのね」

 リリーはさっき飛んでいた蝶々を探した。

「アハト、あの蝶々燃やしてくださいな」
「いいぜ、任せろ」

 アハトは「ファイヤーストーム」で蝶を焼いた。すると、鬼の大きさが変わった。以前より巨大になった魔物を前にして、魔法学校の生徒は怖じ気づいている。

「ワポルお願い」
「はいよ。オーストーム」
「サンダーストーム」

 2回同じ技をかけたら、鬼は倒れて消えた。

「手出しするなって言っただろ。チビ」
「うるさい、ここでは力ある者が上だ」

 ワポルが冷たく言い放つと、眉を一瞬顰めて、シオン王子は離れていった。

「ワポル、ありがとう」
「当たり前の事を言っただけだぜ。礼はいらないぜ」

 ワポルは照れくさそうに言って、金貨を拾いに行った。リリーもその後を追う。
 魔物が落としたアクセサリーを吟味していると、また胸のポケットに「おめでとう」と言って、金貨を入れてくれた。
「ありがとう」
「うち等騎士団の姫だし」

 やはり話したことのない仲間だ。
 リリーは嬉しくて微笑んだ。金貨をくれた彼も微笑んだ。
 ブローチが二つお揃いで出ていた。それを二つ取って、魔力の低いものやデザインがよくない物は置いてきた。

「アトミス。お揃いよ」
「ありがとう」

 洞窟に出ると、団長と副団長が、負傷者をどこかに運んでいる。

「団長、どこに運んでいるんですか?」
「乗り物だ。避難に遅れる」

 リリーは頷いた。
 確かに、戦いが終わってから運んでいたら、夜になってしまうだろう。

「魔法学校のやつ運ぶのを手伝えよ。おまえ等の仲間だろう?」
「おまえ等のせいで、時間が遅れているんだ」

 騎士団の仲間は、なかなか進まない進行状況に、苛立ちを抱えている者もいる。

「うるさい、次は毒花だ」

 シオンはマスクを握ると、先に歩き出した。


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