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7   北の魔物の森

5   新しい狩り場

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 新しい狩り場は、空きができたという比較的寄宿舎から近い場所だった。
 五人で移動して、狩り場を掃除する。
 リリーが爆風で見晴らしをよくしていく。背後では、フィジとアトミスがリリーを守っている。
 威力が増したので、木々までなぎ倒している。
 これなら、遠くから押し寄せる魔物を早めに倒すことができるだろう。

「空きが出たって、辞めたのかな?それとも戦死?」
「戦死がでるほど、強い敵じゃないといいけれど……」

 アハトとワポルが話している。

「今日は気を引き締めて行くぞ」

 アハトが叫んだ

「おー」と男性諸君は声をあげた。
「分かりましたわ」
「気を引き締めますわ」

 アトミスとリリーは、淑女なので声を上げることはできない。
 幼い頃から淑女として教育されてきた令嬢には、言ってはいけない言葉がある。
 どこまでも、おとなしく。礼儀正しく。戦場であっても、伯爵令嬢として過ごしている。
 ただし、一度魔物を前にしたら、戦士に変わる。
 どこまでも凜々しく、魔物の息の根を止める。

「日が暮れてきたわ」
「そろそろですわね」

 アトミスの緊張がリリーにも伝わってくる。
 地響きが聞こえてきた。
 リリーは杖を構える。
 出てきたのは大きな耳をした象のような体をした大きな魔物大群だ。その後から、大きなうなぎのような長細い魔物が出てきた。
 リリーは爆風で押し寄せてくる魔物を遠ざけて、連続魔法で攻撃を始めた。

「ここのはでかいな」

 アハトが言った。

「うなぎの蒲焼きが食べたくなった」

 ワポルが大きなうねうねした魔物を見て、うなぎを想像したようだ。
 リリーは図鑑でしか見たことはないが、確かに似ている。
 大きな赤鬼と青鬼も跋扈していて、火を噴いている。

「鬼は火属性だ。ワポル頼む」
「了解。リリー一緒に攻撃しよう。水で攻めるから雷攻撃で痺れさせてやって」
「わかったわ」

 ワポルの攻撃に合わせて、サンダーストームで攻撃すると鬼は倒れた。
 小型のイノシシのような魔物もいる。細かくて、すばしっこい。

「トルネード」

 纏めて爆風の中に閉じ込めて、雷を落とす。あちこちで同じような攻撃をしているのだろう。そこら中で雷が落ちている。
 毒蜘蛛はいるし、大きなトンボは牙を剥き出し噛みつこうとしてくる。

「トンボも毒を持っていそうだな。トンボの尻尾に棘がある」

 アハトが叫んだ。

「ウォールウイング」

 リリーがトンボを半分に切ると、棘がある尻尾がうねる。その尻尾をアハトが焼いた。頭の部分はフィジが土魔法でねじりつぶした。
 牛のような大群もいる。
 アトミスが光り魔法で倒すが、数が多くて倒しきれない。

 リリーは「トルネード」をかけて、雷で焼き殺す。
 乱暴な方法だが、とにかく数が多い。一体ずつだと時間がかかるし、近づかれれば危険だろう。

 ゴオオオオオオオと耳に響く音がして、アハト達が耳を塞ぐ。
 この国の者は耳がいいから、辛いのだろう。アトミスも苦しそうだ。

 大量なコウモリのような大群がやって来た。大群が月の光を遮って、暗闇がますます暗くなる。
 リリーは「トルネード」でその大量な大群を巻き取りサンダーストームで焼き殺す。

「リリーありがとう」
「私はこの国の者ではないので、みんなほど聴力は良くないのよ」
「……助かった」

 止めどなく、魔物が湧き出す。とにかく目にした物は、すぐに攻撃していく。
 杖の威力は魔力を高め、攻撃力を上げている。
 このエリアは魔物の通り道なのか、大量な魔物が押し寄せてくる。
 大きな物から小さな物まで幅広く、初めて目にする魔物も多い。前の狩り場とは、雰囲気が違って、緊張感が増す。
 アハト達はゴオオオオオオオという音に疲弊している。
 リリーは音がしたら、早めに対処するが、湧き方が尋常ではない。
 やっと辺りが白み始め、魔物の数も減っていく。

「片付けますわ。後方支援、お願いします」
「任された」

 フィジとアトミスが後方支援をしてくれる。
 狩り場には魔物の死骸が山のように積もり、それを爆風で吹き飛ばす。四方を綺麗に片付けて、初めての狩りは終わった。

「参ったな、あの音は……」
「頭の芯まで響きやがる」
「目の前までチカチカしてくるぜ……」
「まったくですわ、以前の魔物退治より疲れますわ」

 四人はやはり聴覚からの疲弊が強いようだ。リリーは、それほどその音は気にならないが、四人はぐったりしている。

「金貨二枚だという理由は、あのコウモリのような魔物のせいだろうな」
「まるで拷問のようだ」
「金貨二枚では少ないのではないか?」

 アハト達は、ゲンナリしている。

「アトミス大丈夫?」
「リリーがいてくれて助かったわ」
「本当だぜ」

 寄宿舎の中に入ると団長が、「お疲れさん」と出迎えてくれた。

「あの音は何なんだよ」
「形はコウモリに似ているが、あれで獰猛な肉食だ。俺たちは音に敏感だから、音に悩まされて、怯んでいる隙に取り囲まれ食われることが多々ある」

 団長の言葉を聞いてアハト達は緊張していた。

「とんでもない奴だな」
「無事で何よりだ」
「うちにはリリーがいるから」
「リリー嬢は異国の令嬢だったな」
「そうですわ。そんなに酷い音に聞こえるの?」
「音だけで倒れそうですわ」
「……そうなの?」

 リリーは蒼白な四人を見て、攻略は大変そうだと感じた。

「さあ、飯を食ってこい」

 団長がアハトの背中を押した。

「へいへい」
「いったん部屋に戻って武器を置いてきますわ」
「俺たちもいったん戻る」

 手に持った武器を見せると階段へと向かった。
 三人は3階で廊下に出て、リリー達の後からアハト達も付いてくる。

「アハト達も3階なのですか?」
「俺たちは398号室だ」
「またお隣なのね」
「そうなのか」

 リリーは微笑む。

「また3段ベッドですの?」
「その通りだ。お嬢様達は特別室なんだな」
「前と変わらないわ」
「いいな~広い部屋」
「寝るだけだから別に不満はないけど」
「寝られればどこでもいいや」
「お嬢様達、また後でな」
「男性諸君もまた後でですわ」

 扉の前で別れて、それぞれ部屋に戻った。



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