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7 北の魔物の森
3 出発
しおりを挟む旅行鞄には着替えと下着、タオル、ネグリジェ、ガウンと身の回り品と子供の頃に使っていたポシェットに魔術品を入れた。もらえる金貨を入れるための袋を入れて、旅行鞄は閉じた。大きな鞄にボディソープやシャンプーやトリートメントを買いだめして入れた。化粧品も今回は新品をたくさん入れた。大きな鞄はいっぱいになり、かなりの重さになったが、重さは関係ない。杖やロットを背負えるように作って貰った頑丈な皮で作られたフォルダーに、自分の杖とロットを入れると、準備は完了だ。
「リリー、私に力がなくてすまない。どうか無事に帰って来て欲しい。笛は持ったか?」
「ええ、いつも持っているわ。この笛は私の宝物ですもの」
「笛を吹いてくれ、私も魔力がある。魔物の森に降り立っても戦える」
「王子様は公務や会議が忙しいのでしょう?時々、休暇をもらってきます」
「そうしてくれ。リリーの帰る場所はこの部屋だ」
「はい」
ビエントはリリーを抱きしめた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そっと抱擁を解かれると、リリーはモリーとメリーも抱きしめた。
「ありがとう」
「いいえ、どうかご無事で」
「元気に戻ってきてください」
「はい」
抱擁を解くと、リリーは赤いバックを斜めかけにすると、旅行鞄を持ち、もう片方の肩に大きな鞄をかけた。
そのまま窓から出て行く。アトミスの家に寄って、アトミスと合流する。
「リリー、洗濯機を持って行けるかしら?」
「任せてくださいな」
リリーは魔術で洗濯機を持ち上げる。
おおと歓声が上がった。
「二人とも気をつけて行くんだよ」
「はい、お父様、お母様、行ってきます」
「叔父様、叔母様行ってきます」
アトミスの両親と使用人達が見送りに出てきていた。リリーはアトミスの両親に頭を下げると、アトミスと手を繋ぎ、上空に浮上する。アトミスは大きな旅行鞄を持ち、サイドバックを持っていた。
「魔力が上昇する宝石を持って来ましたか?」
「ええ、どんな魔物かわからないもの」
「私も持ってきましたわ」
リリーは微笑む。
「スピード上げるわ」
「いいわよ」
「ところで場所はどこかしら?」
「どこかしら?」
「北に飛べば分かるかしら?」
「あそこに旗が上がっているわ」
森の中に青い屋根が見えた。その屋根に騎士団のマークが描かれている旗があった。
リリーは近づくとゆっくり降りて、大きな土壁でできた建物の中に入った。
「ごきげんよう、志願者です」
「リリー嬢とアトミス嬢ではないか」
「団長」
「前のところが攻略済みになってしまったから、こちらに派遣された。副団長もいるぞ」
リリーとアトミスは微笑んだ。
「特別室がちょうど空いている。同室でいいか?」
「同室でお願いしますわ」
「勿論ですわ」
アトミスが喜んで声を上げた。
「アハトとワポルとフィジも昨日、来たぞ。暇すぎると言って」
「また同じメンバーになれますか?」
「ああ、なれるだろう」
「やったわ」
「幸運だわ」
部屋に案内されて、鍵を渡された。
「ベッドを一つ入れるから、後で部屋に入るぞ」
「はい」
「団長、洗濯機を取り付けられますか?」
「任せておけ」
「では置くだけ置きます」
リリーは魔術で移動させる。
「リリー嬢、また面白い魔術を覚えたな」
「暇すぎて、いろんな物を持ち上げて回していましたわ」
団長は大声で笑う。
「団長、この時間は睡眠中ですよね」
「そうだった」
団長は簡単に洗濯機を使えるようにしてくれた。
クローゼットの前に荷物を静かに降ろす。
「着替えを取りに来てくれ」
「はい」
「わかりましたわ」
団長が部屋から出て行った。
「リリー、何をそんなに持ってきたの?」
「シャンプーとかトリートメントとかですわ。化粧品もたっぷり持ってきましたわ」
アトミスは微笑む。
「私も持ってきたけれど、そんなには持ってきてないわ」
クローゼットを開けて、自然に左右に別れた。
「引き出しもいるわね」
リリーは両親が買ってくれた洋服とビエントが買ってくれた洋服を一着は着て、二着ずつ持ってきた。
ポシェットを二つサイドの金具にかけて、部屋を整えていくと扉がノックされて、ベッドが運び込まれた。ついでに引き出しも持ってきてくれた。
リリーは引き出しを受け取り、旅行鞄の横に置いた。
大量なシャンプーやトリートメントはクローゼットの奥に並べて、杖は旅行鞄の奥に立てた。
モリーが作ってくれた杖を背負うためのフォルダーをハンガーにかけて、片付けは終わり、アトミスと事務所に出かけた。
ドッグタグは着けてきた。
アトミスは本当に婚約の笛を持ってきていなかった。
連絡先を書いて、制服をもらう。
リリーも成長し体ができてきて、アトミスより一つ下のサイズを着られるようになった。ブーツもそれほど変わらない。
「リリー、私を呼ぶときは、アトミスよ。正式に婚約パーティーを開いたから、私が不敬罪に問われてしまうわ」
「寂しいですわ」
「私は私ですから変わらないわ」
「わかったわ、アトミスでいいのね」
「ええ、そうよ」
「そういえば、アトミスのお誕生日はいつですか?」
「お休みの間に過ぎて18歳になったわ」
「プレゼントをしたかったです」
「リリーの時もプレゼントはなかったわ」
「そうですけれど……」
二人は並んで階段を上がっていく。今回も3階の階の399号室だ。
「今日からまたリリーと寝てもいい?」
「いいですわよ」
「リリーがいるとよく眠れるのよ。今夜からよく眠れそうよ」
アトミスはいろんな事を考えていて、それで眠れなかったのだろう。
「楽しみですわ」
アトミスの気持ちが晴れるといい。
リリーはアトミスに寄り添っていたかった。
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