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7 北の魔物の森
2 ビエントの苦悩
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「おかえりなさい、ビエント様」
「リリー、ただいま」
頬にキスされて、照れくさい。
手で頬を擦り、ビエントの手を握り、ソファーに座る。
リリーはアトミスから聞いたことを話した。
「そんなことはないだろう」とビエントは言った。
「それでも、昨日のパーティーでは、アトミスさんは、シオン様と一緒にいなかったし、アトミスさんが笛を吹くまで姿も見せなかったのですよ。姿を見せたら、あまりに酷い仕打ち。私なら国王様に直談判しますわ」
「おいおい」
リリーが言うと、リリーならやりかねないとビエントは思う。
ビエントは初めて聞いた内容だが、確かに光の魔術師だから婚約してもいいだろうと言っていたことは覚えている。
「それでアトミスさんが北の魔物の森の戦士になられると言うので、私も戦士に戻ろうと思います」
恐れていた言葉が飛び出した。
「リリーとアトミス嬢とは別人だ」
「戦場では背中を預けられるのは信頼できる相手ですわ。アトミスさんが魔物を倒す戦場に戻るなら、私も戻ります。毎日、暇すぎて体も鈍ってしまいますし、杖も使ってみたいので……」
リリーは立ち上がり、掌の上で風の渦を作っている。
ゴオオオオオオオと風が回る音がする。
圧倒されるほどの、ものすごい魔力が放出されている。
これ以上、怒らせると王宮が吹っ飛ぶかもしれない。
「……シオンの婚約破棄の話をしてみよう」
リリーは座ると、風の渦を消した。
「アトミスさんは酷く傷つき、泣きくれておりましたの。このまま放ってはおけませんわ」
「わかった。父上と母上にすぐに話そう」
リリーは頷いた。
「と言う訳なんですが、実際はどうなんでしょう?」
王妃は、微笑した。
「シオンはビエントように飛ぶ力もなく、魔力が低い。低いが王族という立場上、戦場に行かねばならぬこともあるでしょう。ビエントはシオンが可愛くはないのですか?」
「話は誠なのですね。アトミス嬢が嘆き悲しんで婚約破棄をしていただきたいと昨日シオンに言ったそうですが、断られたとか」
「あの子は自分の事しか考えられないようですわね。アトミス嬢は美しく立派な戦士ですわ。シオンの嫁に相応しいではありませんか?」
「愚かな弟を押しつけられたアトミス嬢が可哀想ではないでしょうか?北の魔物の森への志願を考えているようです。アトミス嬢が志願するならリリーも一緒に行くと聞きません」
「いいではないですか。我が国で一番の戦士ですものね。城に置いておくより戦場で戦ってダンジョンとやらを片付けてくれれば、シオンが戦場に行かなくてもよくなりますわ」
「今、リリーとシオンを天秤にかけましたね?リリーは私の婚約者です」
「あのわんぱくな子ならやり遂げるでしょう。行かせればいいのではないですか?」
「母上」
ビエントは内心で、アアアアアア!と叫び出したいのを堪えている。
「リリー嬢はまだ14歳。結婚をするには早いでしょう。年頃になるまで、子供は外で遊ばせた方が健康な体になります」
「遊びではありません。戦士は命をかけて毎日戦っております。父上も視察したではありませんか。何か言ってください」
「王妃が決めたことだ」
「それでも、リリーの事を想っている私の気持ちは分かってくださらないのですか?」
国王は「ふむ」と言って黙ってしまった。
「金貨の量を増やせば、喜んで戦いにやってくる者は多いでしょう。魔術に長けた者が、魔物を倒せば良い事ではありませんか?」
ビエントは握りしめた拳が震えるほど怒っていた。
父上は母上の言いなりで言葉すら出てこない。母は、戦士を軽々しく扱っているし、リリーの事もただの戦士だと思っている。
昨日の婚約発表はいったい何だったのだろうか?
「モリーとメリー、私はまた戦場に向かおうと思うの。この屋敷にいなくなるわ。お父様のところに送りましょうか?」
モリーとメリーは微笑んでいる。
「お嬢様が帰られる場所がここならば、待っていましょう」
「待っていてくださるの?」
「もちろんでございます」
リリーはクローゼットを開けて、鍵の付いた鞄を開けると、金貨を5枚ずつ二人に与えた。
「戦場は危険なの。もし何かあれば、お父様のところに戻ってください。金貨は銀行で換金できます」
「こんなことなさらなくても、大丈夫でございますよ」
金貨を返そうとする侍女の手を握って、リリーは頭を下げた。
「後悔はしたくないの」
「それほど言われるならば、これは預かっていましょう」
「お嬢様が安心していられますように、預かっています」
二人の侍女はリリーに頭を下げる。
「モリーとメリーにお願いがあるの。杖とロットを背中に背負えるような物を作って欲しいの」
リリーは誰でも触れられる杖とロットを持ってきた。
「できるかしら?」
「見せてください」
モリーとメリーが杖やロットに触れる。
「背中に背負えるようにすればよろしいのでしょうか?」
「そう、背中に背負いたいの。片手で持っていると、手が塞がってしまいます。荷物も持ちたいの」
「お嬢様、背中をお借りしますね」
モリーとメリーは、杖を背中につけて、考えてくれている。
メジャーでリリーの体を測定しながら、記録している。
「至急いりますね?」
「できるだけ早く作って欲しいの」
「畏まりました。杖とロットはお借りしても構いませんか?」
「はい。私専用の物は、他人が触れられないの。形は同じだから持っていって構いません」
「では、私は作成を始めますので」
モリーが部屋から出て行った。
「お嬢様、お風呂に入りましょう」
メリーがお風呂の支度を始める。
リリーはもう決めていた。北の魔物の森へ行こうと。
「リリー、ただいま」
頬にキスされて、照れくさい。
手で頬を擦り、ビエントの手を握り、ソファーに座る。
リリーはアトミスから聞いたことを話した。
「そんなことはないだろう」とビエントは言った。
「それでも、昨日のパーティーでは、アトミスさんは、シオン様と一緒にいなかったし、アトミスさんが笛を吹くまで姿も見せなかったのですよ。姿を見せたら、あまりに酷い仕打ち。私なら国王様に直談判しますわ」
「おいおい」
リリーが言うと、リリーならやりかねないとビエントは思う。
ビエントは初めて聞いた内容だが、確かに光の魔術師だから婚約してもいいだろうと言っていたことは覚えている。
「それでアトミスさんが北の魔物の森の戦士になられると言うので、私も戦士に戻ろうと思います」
恐れていた言葉が飛び出した。
「リリーとアトミス嬢とは別人だ」
「戦場では背中を預けられるのは信頼できる相手ですわ。アトミスさんが魔物を倒す戦場に戻るなら、私も戻ります。毎日、暇すぎて体も鈍ってしまいますし、杖も使ってみたいので……」
リリーは立ち上がり、掌の上で風の渦を作っている。
ゴオオオオオオオと風が回る音がする。
圧倒されるほどの、ものすごい魔力が放出されている。
これ以上、怒らせると王宮が吹っ飛ぶかもしれない。
「……シオンの婚約破棄の話をしてみよう」
リリーは座ると、風の渦を消した。
「アトミスさんは酷く傷つき、泣きくれておりましたの。このまま放ってはおけませんわ」
「わかった。父上と母上にすぐに話そう」
リリーは頷いた。
「と言う訳なんですが、実際はどうなんでしょう?」
王妃は、微笑した。
「シオンはビエントように飛ぶ力もなく、魔力が低い。低いが王族という立場上、戦場に行かねばならぬこともあるでしょう。ビエントはシオンが可愛くはないのですか?」
「話は誠なのですね。アトミス嬢が嘆き悲しんで婚約破棄をしていただきたいと昨日シオンに言ったそうですが、断られたとか」
「あの子は自分の事しか考えられないようですわね。アトミス嬢は美しく立派な戦士ですわ。シオンの嫁に相応しいではありませんか?」
「愚かな弟を押しつけられたアトミス嬢が可哀想ではないでしょうか?北の魔物の森への志願を考えているようです。アトミス嬢が志願するならリリーも一緒に行くと聞きません」
「いいではないですか。我が国で一番の戦士ですものね。城に置いておくより戦場で戦ってダンジョンとやらを片付けてくれれば、シオンが戦場に行かなくてもよくなりますわ」
「今、リリーとシオンを天秤にかけましたね?リリーは私の婚約者です」
「あのわんぱくな子ならやり遂げるでしょう。行かせればいいのではないですか?」
「母上」
ビエントは内心で、アアアアアア!と叫び出したいのを堪えている。
「リリー嬢はまだ14歳。結婚をするには早いでしょう。年頃になるまで、子供は外で遊ばせた方が健康な体になります」
「遊びではありません。戦士は命をかけて毎日戦っております。父上も視察したではありませんか。何か言ってください」
「王妃が決めたことだ」
「それでも、リリーの事を想っている私の気持ちは分かってくださらないのですか?」
国王は「ふむ」と言って黙ってしまった。
「金貨の量を増やせば、喜んで戦いにやってくる者は多いでしょう。魔術に長けた者が、魔物を倒せば良い事ではありませんか?」
ビエントは握りしめた拳が震えるほど怒っていた。
父上は母上の言いなりで言葉すら出てこない。母は、戦士を軽々しく扱っているし、リリーの事もただの戦士だと思っている。
昨日の婚約発表はいったい何だったのだろうか?
「モリーとメリー、私はまた戦場に向かおうと思うの。この屋敷にいなくなるわ。お父様のところに送りましょうか?」
モリーとメリーは微笑んでいる。
「お嬢様が帰られる場所がここならば、待っていましょう」
「待っていてくださるの?」
「もちろんでございます」
リリーはクローゼットを開けて、鍵の付いた鞄を開けると、金貨を5枚ずつ二人に与えた。
「戦場は危険なの。もし何かあれば、お父様のところに戻ってください。金貨は銀行で換金できます」
「こんなことなさらなくても、大丈夫でございますよ」
金貨を返そうとする侍女の手を握って、リリーは頭を下げた。
「後悔はしたくないの」
「それほど言われるならば、これは預かっていましょう」
「お嬢様が安心していられますように、預かっています」
二人の侍女はリリーに頭を下げる。
「モリーとメリーにお願いがあるの。杖とロットを背中に背負えるような物を作って欲しいの」
リリーは誰でも触れられる杖とロットを持ってきた。
「できるかしら?」
「見せてください」
モリーとメリーが杖やロットに触れる。
「背中に背負えるようにすればよろしいのでしょうか?」
「そう、背中に背負いたいの。片手で持っていると、手が塞がってしまいます。荷物も持ちたいの」
「お嬢様、背中をお借りしますね」
モリーとメリーは、杖を背中につけて、考えてくれている。
メジャーでリリーの体を測定しながら、記録している。
「至急いりますね?」
「できるだけ早く作って欲しいの」
「畏まりました。杖とロットはお借りしても構いませんか?」
「はい。私専用の物は、他人が触れられないの。形は同じだから持っていって構いません」
「では、私は作成を始めますので」
モリーが部屋から出て行った。
「お嬢様、お風呂に入りましょう」
メリーがお風呂の支度を始める。
リリーはもう決めていた。北の魔物の森へ行こうと。
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