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6   王宮での暮らし

4   帰省

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 暇だ。
 リリーには侍女がつけられたが、話すことがない。
 アトミスからもらった服を着て、アクセサリーはボスのドロップ品だ。イヤリングにネックレス。アトミスとお揃いの指輪をして、左右で紅茶と紅茶のポットを浮かべて、お手玉のようにくるくると自在に操る。
 重く大きな乗り物を操っていたからか、器用なことができるようになった。
 手を使わずに、カップにお茶を注ぐことも難しくない。
 浮かんだカップを手に取り、適温になったお茶を飲む。
 味は美味しい。
 いつも一緒に寝ていたアトミスがいないと寂しい。
 ビエントは会議や視察で忙しそうだ。リリーは一人で、やることがない。
 
 そうだ、実家に帰ろう。

 カップとポットを置くと、手紙を書く。




 実家に帰ります  リリー





 テーブルの上に置いて、リリーはすぐに支度を始める。
 お財布には金貨が一つと、アストラべー王国のお金とフラーグルム王国のお金を入れて、赤いバックにお財布を入れて、大きめな鞄に着替えを入れると、窓から飛び出した。


 お土産に、アトミスに教えてもらった、高級チョコレートの店に寄って、大きな物を二つ買って、そのまま飛び立つ。ストームをかけて、一気に実家に戻った。力が付いたお陰か、お店を出てから、20分ほどで家に着いた。
 チャイムを鳴らすと、執事が出てきた。

「お嬢様」
「ただいま」
「すぐにお入りください」
「お嬢様がお帰りだ」と執事が声を上げると、両親が出てきて、兄も飛び出してきた。

「リリー久しぶりだね」

 兄が嬉しそうに声を上げた。

「たたいま帰りました」
「おかえり、元気だったか?」
「リリー、大きくなったわね」

 両親に抱きしめられて、一緒に応接室に入っていく。

 モリーとメリーも駆けつけてくる。
 定位置に座ると、すぐにお茶が出てくる。

「今日はアストラべー王国の有名なチョコレート店で買ってきたチョコレートです」

 二箱出して、一つを開ける。

「どうぞ召し上がって」
「ああ、ありがとう」

 父も母も兄も嬉しそうだ。

「まだ寄宿舎に住んでいるのか?」
「いいえ、ダンジョンを壊しましたので、国境に魔物は出なくなりました。今は、王宮に住ませていただいていますわ」
「まあ、ビエント様が用意なさってくださったの?」
「はい。お部屋を用意してくださいました」
「それは良かったわ」

 母は安心したように声を上げた。

「魔物退治をしてないと暇すぎて、やることがありませんの」
「ビエント様がいるだろう」

 父が声を上げた。

「ビエント様は会議や公務に忙しくて、構ってもらえませんわ」
「我が儘を言ってはいけません」

 母がリリーを窘める。

「そうなんですけど、つけられた侍女とお話もできなくて、声の出し方も忘れそうですの」

「はぁ」とリリーはため息をつく。

「モリーとメリーを連れていくか?」

 父がリリーに問いかける。

「異国に連れて行くなんて、モリーとメリーが可哀想よ」
「お嬢様が望まれれば、私は付いていきますわ」
「私もお嬢様が寂しい思いをされているなら、付いていきます」

 モリーとメリーは、恭しく頭を下げる。

「でも、申し訳ないもの……」

 リリーはダンジョンでの戦いを楽しく話して、目の前で、並んだカップをくるくる回して見せる。

「奇天烈なことをするんだな」

 父が感心している。

「魔力が漲っています。アストラべー王国から20分ほどで来ることができました」
「まあ、そんなに早く来られるのね」

 母が驚いて声を上げる。

「はい。以前より力が増しましたので。お父様方をアストラべー王国にお連れすることもできます」
「どうやって皆を連れていくんだい?」

 兄が不思議そうに聞いてくる。
 リリーは部屋に飾られた大きな花瓶を持ち上げて、移動させて見せる。

「これはどんな仕掛けがあるんだ?」
「魔力で操って動かしています。皆が乗れる乗り物があれば、簡単です」
「リリー、あなたなんて力を持ったのでしょう」

 母が驚いている。

「毎日魔物と戦っているうちに力が付きました。ダンジョンへの運搬も私がしました。左右に50人ずつ、2回送りました。100人以上を送ったことになります」
「すごいではないか」

 父は誇らしげだ。

「今回は何日いられるの?」
「テーブルに実家に帰ると書き置きしてきたので、それほど心配はされないと思います」
「まあ、きちんとビエント様にお話ししてから帰ってきなさい」
「もう帰って来てしまったわ」
「とんだお転婆だ」

 兄が呆れている。

「ああ、そうだわ。ドレスができているわ。着てみてくれる?窮屈なところがあったら直さなくてはいけないから」
「楽しみですわ。ビエント様がこの間、ドレスを見繕ってくださったのですけど、縁起の悪い青ですの。瞳の色が青だからとおっしゃって」
「青も似合っていたが」

 両親も兄も苦笑している。


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