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5   ダンジョンへの攻撃

3   力試し

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 20人は乗れそうな柵の付いた頑丈な乗り物が寄宿舎へと運ばれてきた。1つではなく2つだ。
 騎士団長は「これを持ち上げて運んで欲しい」とリリーに言った。
 しばらく狩りは休んでいいから練習をして欲しいと。

 リリーは呆然とした。

 人は運べるし、魔物も持ち上げることはできたが、人が乗ったその頑丈な物を両手で持って欲しいと言われて、困惑した。
 落としたら、みんな死んでしまう。責任重大だ。

「取り敢えず、一つから初めて欲しい」と……。

 リリーは昼のみんなが寝ている時間に、その練習をすることになった。その時間しか魔物があまり出没しない。
 リリーが練習をしている間は、見張りに騎士団長が背中を守ってくれると約束してくれた。

 気を溜めて、大きな乗り物を持ち上げる。そのまま上昇して実際に飛んでみる。
 一つはそんなに難しくはなくできたが、一つを持ったまま、二つ目を持つのはかなりの集中力が必要だ。
 一つを持ち上げておいて、もう一つを持ち上げる。
 どうしてもバランスが崩れてしまう。ただの荷物なら持てるだろうが、載せるのは人命だ。傾いて落としてはいけない。
 騎士団長は乗り物にバケツで水を汲んでそれを置いた。
 一度、降ろして、もう一度持ち上げる。一つ目は完璧に上げられるが、同時に二つ目を上げようとすると、どうしてもバランスが崩れる。

「やっぱり難しいか?」
「載せるのが人なので、怖いです。確実に運ぶために、いつも手を繋いでいます」
「今回はできるだけ大勢を一度に運んでもらいたい」

 リリーはため息をついて、座り込む。

「疲れたかい?」
「……はい。座ったままで失礼します」

 リリーは座ったままで、乗り物を浮かせていく。
 浮くことは浮く。
 あとはバランスだけだが、そのバランスが難しい。
 バケツが偏って倒れてしまう。

「1日目でここまでできるなら、可能かもしれないな」
「団長、私は機械ではありませんわ」

 一旦降ろして、体を解す。

「そうだ。ご褒美にアイスクリームでも食べさせてあげよう」
「私はまだ子供ですけど、アイスクリームごときで心は動きません」
「それなら殿下に来ていただこうか?」
「団長、こんな曲芸している姿なんかご覧に入れられません」
「曲芸か、面白いことを言うね」
「それなら、私が落ちないように気をつけてみるのはどうだろう?」

 団長は二つ目の乗り物に乗った。

「うわっ!」

 一気にバランスが崩れる。それを必死に調整している。

「団長、鬼ですか?」
「バランスが良くなったではないか?」
「やっぱり鬼ですね!」
「そのまま少し上がってごらん?」
「なんですって?」

 リリーは座ったまま、上昇して1メートルほど上げた。

「なかなかいい調子じゃないか?」
「団長、私、アイスクリームではなくて、チョコレートが食べたいです。とびっきり美味しいのですよ」
「できたら食べさせてあげよう」

 ああ、いけない。
 これはまるで子供ではないか。

「そのままもう少し飛んでみてはどうかな?」
「団長が落ちたら怖いので、手を繋いでください」
「いいとも」

 団長が乗り物の上を歩いてきて、手を握った。
 リリーは寄宿舎の屋根まで上がった。

「もっと行けるんじゃないか?」

 手を握っているので、最悪、乗り物を捨ててもいいかと上空まで上がる。そのまま森の上を彷徨う。

「できるではないか」
「この調教師めが!」
「あはははは!」

 騎士団長は乗り物の上で声を出して笑っている。

「山の方まで飛んでみてくれ」
「落ちても知りませんわよ」
「ああ、手を繋いでいるから、私は無事だろう」

 山まで飛んで戻ってくると、ゆっくり乗り物を降ろしていく。

「できたじゃないか」
「団長は鬼畜です。私は道具じゃないんですからね」

 リリーは怒る!

「チョコレートを食べさせてあげよう。今夜の夕食にシェフに作ってもらおう」
「約束ですからね」

 リリーは疲れて、そのままバタリと後ろに倒れると、眠ってしまった。

「よく頑張ったね」

 団長はリリーを抱き上げると、医務室に寝かせた。
 部屋に運べば、同室のアトミスを起こしてしまう。
 食堂に行ってシェフに美味しいチョコレートをリリーに食べさせてくれと頼む。
 団長は重い乗り物を入り口から退けるために押したり引いたりした。

「明日からは少し場所を移動しよう。こんなに重い物をよく持ち上げたものだ」

 副団長が出てきて、二人で1メートルほど移動させて、入り口を広くする。

「彼女、やりましたね」
「本当にすごい魔力だ」

 団長と副団長は嬉しそうに寄宿舎の中に入った。


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