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4 婚約
4 婚約者は王子
しおりを挟むビエントに連れられて、パーティー会場の外にある庭園に出てきた。
月光に照らされて、白い花が浮かんで見える。
ビエントに手を引かれて、ベンチに座った。
手はずっと繋がれている。
「ビエント様、本当に王子様なのですか?」
「シオンの兄だ。第一王子になるな」
「他国の私で務まるのでしょうか?」
「リリーは賢いし、頑張り屋だ。その美しい白銀の髪は、この国ではリリーしかいないだろう。さぞかし映えるだろうなあ。そのドレスも美しい。実家から持ってきていたのか?」
「はい。ビエント様に見ていただきたくて、鞄に詰めて来ましたわ」
「そのドレスを見ていると、リリーが大切に育てられていたとわかる」
「ありがとうございます」
リリーは深く頭を下げる。
まさか、ビエントが王子だとは知らずに、好きになって、国まで追いかけてきてしまった。
その事に後悔はないけれど、実際、王子様だと分かると、自分がどれほど恐れ知らずだったのかと思わずにいられない。
「騎士団の方には、私の婚約者だと伝えてあるが、退団できるか相談してみよう。パーティーメンバーから二人抜ければ、他チームとパーティーを組み合わせられるように調整できるだろう」
「アトミスお姉様が抜けた穴は大きく、同じメンバーの士気が落ちています。今回、気力の下がった男性メンバーの気力が戻るように、一週間のお休みをいただきました」
「アトミス嬢は光魔術師だったな」
「はい」
「あれからポーションは使ったのか?」
「はい。ポーションでは毒が抜けず、メンバーに抱えられて逃げました。寄宿舎の光魔術師の先生に治療していただきました」
ビエントがリリーを抱きしめる。
「危険すぎる。リリーを戻せない」
「あの魔物は、どこから湧き出してくるのでしょう?」
「あの森の奥にある突き出た山の洞窟から、夜になると大量に出てくる」
「その山が魔物を産んでいるのでしょうか?」
「ダンジョンになっている可能性が高い」
「ダンジョンですか?」
「魔物の親玉が魔物を生み出していると言った方がわかりやすいか?」
リリーはそっと胸を押して、ビエントの顔を見上げる。
「それならダンジョンを攻撃したらどうでしょうか?魔物の親玉を倒せば魔物は生まれては来なくなりませんか?」
「それをするには大勢の魔術師が必要で、危険も伴う」
「でも試してみる価値はありそうですね」
「魔物の巣の中に入れとは言えない。命の保証もできないからな」
「そうですね」
手を繋ぎ合って、話していると、「兄様」と声をかけられた。
「どこに行かれたかと探しておりました。私の婚約者です」
ビエントはリリーの手を引くと、明るいパーティー会場へと戻った。
「リリー」
アトミスが驚いたような顔をした。
「兄様の婚約者の方ですか?」
「ああ、リリーという。隣国まで探しに行った姫だ」
「私の婚約者のアトミスとリリー嬢は仲のよい仲間だと先ほど聞きましたが」
「アトミスお姉様、私の婚約者のビエント様です」
「リリーが私の姉になるの?」
アトミスは驚いたような顔と困惑した顔をまぜこぜにした複雑な顔をした。
「引き続き、仲良くしてやってほしい」
ビエントはアトミスに声をかけた。
「もちろんでございます」
アトミスの笑顔が引きつっている。
「お姉様、婚約者が王子様だと先ほど知りました」
「……そうなのね」
アトミスは心の中でため息を漏らす。
「リリーは家族に連絡はしないし、私を呼ばなくなった。婚約をしてもなかなか会えず、話もゆっくりできず、話すチャンスがなかったのだ」
「魔物の森に好きな人を呼び出すことなど、できるはずがないわ。危険な思いをして欲しくはないもの」
ビエントとリリーは手を繋いで、互いに向き合って話をしている。
その姿は、仲睦まじく見える。
「リリー写真を撮ろう。父上も母上も心配しているだろう。送って差し上げよう」
「お願いします」
「では」とビエントは、シオンの前から離れていった。
アトミスは複雑な気持ちだった。
やっと良縁が舞い込んだ。アトミスが屈辱的に婚約破棄されたとき、学園でアトミスは居場所がなくなるほど級友に嘲られ、辛すぎて学園を去った。
やっと親が見つけてくれた前よりもよい縁談・・・・・・。
王家に入れば誰もアトミスを笑う相手はいなくなると思っていたのに、妹のような存在のリリーが第一王子と婚約をしていた。
アトミスは立場上、リリーに頭を下げなくてはならない。
やっと14歳になったばかりの幼い妃に。
『お姉様』と呼ばせることは、これからさせてはならない。位がリリーの方が上だ。
「アトミスどうかしたのか?」
「いいえ、リリーが第一王子の婚約者だと知って、ビックリしてしまいました」
「姉妹のように過ごせばいい」
「はい。シオン様」
……そう姉妹のように。
今までと同じ距離で過ごせばいい。
リリーは素直な子だ。アトミスを馬鹿にしたりしないだろう。
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