上 下
28 / 117
3   魔物の森

11   14歳のお誕生日(2)

しおりを挟む

 食後、リリーは騎士団の制服のままで、アトミスを待った。アトミスは美しい洋服を着ていた。薄化粧をして、白い靴を履いていた。いつもの制服姿とは全くイメージが違う。まさに美しい令嬢だ。

「リリーお願いね」
「上空を飛びますから、落とし物には気をつけてくださいね」
「ええ、わかったわ」

 アトミスは小さな鞄を左手に持っている。

「手を繋ぎましょう」
「……はい」

 アトミスはリリーと手を繋いだ。
 リリーが集中して、気を高めていくと、アトミスの体が浮き上がっていく。そのままリリーも浮き上がっていく。
 アハトやワポル、フィジも見ている。

「行ってきます」
「いっといで」

 リリーが三人に言うと、三人が仲良く声を揃えて答えた。一気に上空に飛び上がった。

「すごいわ、リリー」
「手を離さないでね」
「わかったわ」 

 朝の景色は美しく、王都まで見渡せる。

「どこかしら?」
「我が家が見えるわ」
「近くかしら?」
「街の中に屋根が青で丸い温室がある家、わかるかしら?」
「わかりました。この際、家まで送りますね」

 リリーはストームかけて、スピードを上げる。

「すごいわ。リリー」
「落とされないでくださいな」

 あっという間に、アトミスの家の庭に降りた。
 庭が広くて、立派な建物だ。さすが伯爵家である。

「素敵なお屋敷ですね」
「お茶でもいかが?」
「嬉しいお誘いですけど、帰らなくてはいけませんわ」
「……そうね」

 リリーは微笑んで上空に上がっていく。手を振り、勢いよく飛んで行く。

「王都まではそんなに遠くはないのね」

 胸の笛に触れる。
 今吹いたら会えるかしら?
 笛を吹こうか迷っていると、

「リリー」

 すごいスピードで飛んでくる人がいた。

「ビエント様……」
「ずいぶん久しぶりだ。父上から手紙をいただいたが、なかなか会いに行けなくて申し訳ない」
「今、私は魔物の森の騎士団に入っています。今日はお友達を家まで送りに来たのです。笛は危険な場所なので吹けません」

 リリーは首にさげている笛を握った。

「少し話をしたい。下に降りないか?」
「……はい」

 ビエントの手がリリーの両手を掴んでいる。
 くるくる回るように、公園へと降りていく。
 ビエントはリリーと手を繋いだまま、公園のベンチに座った。

「私はリリーに婚約者になってほしいとリリーの父上に手紙を書いた」
「……え? 誠ですか?」
「リリーからの笛の音を待っていたが、どんなに待っていても、笛の音はしなかった……」
「私、ビエント様に会いたくて、家出をしたんです。笛を吹いて来ていただくのではなくて、自分の足でビエント様に会いに行こうとして。けれど、私は未熟者でした。魔術も中途半端で魔物の森で傷を負い、光魔術師のお姉様に治していただいたんです。もっと強くならなくてはと思いました。今、修行中なんです」
「傷は治ったのか?」
「はい、それは綺麗に治りましたわ」
「それでリリー、返事を訊かせてはくれないか?」

 リリーは首を傾ける。

「私はリリーに正式に婚約者になって欲しい」
「本気ですか?隣国の伯爵令嬢ですよ?この国の伯爵令嬢ならお力になれるかもしれませんが……」
「何もなくても、リリーを好きになった」
「承ってもいいのでしょうか?私もビエント様をお慕いしておりますの」
「危険な騎士団から抜けはくれないか?」
「パーティーメンバーに迷惑をかけてしまいますわ。私も騎士団の一人で責任を持たされていますので……」

 リリーは婚約してもらえて嬉しかったが、騎士団を辞めることはできない。

「私が抜けたら、パーティーは四人になり、危険になりますの」
「リリーが入る前までは四人パーティーだったのだろう」
「それはそうですけど……」

 ビエントはリリーを抱きしめる。
 ウエストに入っているポーションが、二人の間で触れる。

「ポーションを飲んだことはあるのか?」
「いいえ。光魔術師のお姉様がいらっしゃいますから」
「安全なのだな?」
「おそらくは、大丈夫だと思います」
「わかった。騎士団にいてもいい。笛を吹いてくれ。これは婚約の約束の笛だ」
「危険な場所なの」
「危険な場所でもリリーに会いたい。こうして王都まで来られるなら、リリーが王都まで来てくれてもいい」
「睡眠時間がなくなってしまいます」
「わずかな時間でも会いたい」
「休暇がもらえたら、会いに来ます」
「そうしてくれるか?」
「はい」
「リリー今日は誕生日だな。おめでとう。やっと14歳だ」
「ありがとうございます。やっと14歳です」

 頬にキスをされて、拘束を解かれた。

「寄宿舎まで送ろう」
「いいのですか?」
「どれほど、飛行が上手くなったのか見てみたい」
「さすが師匠です。どうぞ見てくださいな」

 リリーはビエントと手を繋ぎ、一気に上空に上がった。

「それでは行きますよ」

 リリーはトルネードを出し、飛行を早くするが、その手を引かれた。

「ゆっくり戻ろう。デートだ」
「……はい」
「飛行は上達したな」
「ありがとうございます」

 二人は手を繋ぎ、ゆっくり飛んだ。







 寄宿舎に着いて、ビエントはリリーの頬にもう一度キスをすると、手を離した。

「ゆっくり眠りなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」

 ビエントは上空に上がった。

「さあ、寄宿舎に入りなさい。危険だ」
「はい」

 リリーはビエントに手を振り、寄宿舎の中に入った。
 窓から上空を見ると、ビエントはまだ寄宿舎の上空にいたが、しばらくしたら飛んで行った。




 リリーは部屋に戻り、制服を脱いでお風呂に入った。
 頬が緩む。ビエント様と婚約できていると知って、リリーは嬉しかった。
 時計を見ると、もうお昼近かった。
 早く眠らなくては。アトミスの目覚まし時計を借りてセットをする。
 布団に入ってアイマスクをすると、すぐに眠りに落ちた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:55

社畜転生~令嬢に転生した私が魔剣使いになって世界を救うまで~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:10

しのぶ想いは夏夜にさざめく

BL / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:7

婚約破棄をした相手方は知らぬところで没落して行きました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:2,935

冷徹弁護士は甘い罠を張る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:65

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:5,026pt お気に入り:1,447

花冠の聖女は王子に愛を歌う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:904pt お気に入り:33

処理中です...