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3 魔物の森
11 14歳のお誕生日(2)
しおりを挟む食後、リリーは騎士団の制服のままで、アトミスを待った。アトミスは美しい洋服を着ていた。薄化粧をして、白い靴を履いていた。いつもの制服姿とは全くイメージが違う。まさに美しい令嬢だ。
「リリーお願いね」
「上空を飛びますから、落とし物には気をつけてくださいね」
「ええ、わかったわ」
アトミスは小さな鞄を左手に持っている。
「手を繋ぎましょう」
「……はい」
アトミスはリリーと手を繋いだ。
リリーが集中して、気を高めていくと、アトミスの体が浮き上がっていく。そのままリリーも浮き上がっていく。
アハトやワポル、フィジも見ている。
「行ってきます」
「いっといで」
リリーが三人に言うと、三人が仲良く声を揃えて答えた。一気に上空に飛び上がった。
「すごいわ、リリー」
「手を離さないでね」
「わかったわ」
朝の景色は美しく、王都まで見渡せる。
「どこかしら?」
「我が家が見えるわ」
「近くかしら?」
「街の中に屋根が青で丸い温室がある家、わかるかしら?」
「わかりました。この際、家まで送りますね」
リリーはストームかけて、スピードを上げる。
「すごいわ。リリー」
「落とされないでくださいな」
あっという間に、アトミスの家の庭に降りた。
庭が広くて、立派な建物だ。さすが伯爵家である。
「素敵なお屋敷ですね」
「お茶でもいかが?」
「嬉しいお誘いですけど、帰らなくてはいけませんわ」
「……そうね」
リリーは微笑んで上空に上がっていく。手を振り、勢いよく飛んで行く。
「王都まではそんなに遠くはないのね」
胸の笛に触れる。
今吹いたら会えるかしら?
笛を吹こうか迷っていると、
「リリー」
すごいスピードで飛んでくる人がいた。
「ビエント様……」
「ずいぶん久しぶりだ。父上から手紙をいただいたが、なかなか会いに行けなくて申し訳ない」
「今、私は魔物の森の騎士団に入っています。今日はお友達を家まで送りに来たのです。笛は危険な場所なので吹けません」
リリーは首にさげている笛を握った。
「少し話をしたい。下に降りないか?」
「……はい」
ビエントの手がリリーの両手を掴んでいる。
くるくる回るように、公園へと降りていく。
ビエントはリリーと手を繋いだまま、公園のベンチに座った。
「私はリリーに婚約者になってほしいとリリーの父上に手紙を書いた」
「……え? 誠ですか?」
「リリーからの笛の音を待っていたが、どんなに待っていても、笛の音はしなかった……」
「私、ビエント様に会いたくて、家出をしたんです。笛を吹いて来ていただくのではなくて、自分の足でビエント様に会いに行こうとして。けれど、私は未熟者でした。魔術も中途半端で魔物の森で傷を負い、光魔術師のお姉様に治していただいたんです。もっと強くならなくてはと思いました。今、修行中なんです」
「傷は治ったのか?」
「はい、それは綺麗に治りましたわ」
「それでリリー、返事を訊かせてはくれないか?」
リリーは首を傾ける。
「私はリリーに正式に婚約者になって欲しい」
「本気ですか?隣国の伯爵令嬢ですよ?この国の伯爵令嬢ならお力になれるかもしれませんが……」
「何もなくても、リリーを好きになった」
「承ってもいいのでしょうか?私もビエント様をお慕いしておりますの」
「危険な騎士団から抜けはくれないか?」
「パーティーメンバーに迷惑をかけてしまいますわ。私も騎士団の一人で責任を持たされていますので……」
リリーは婚約してもらえて嬉しかったが、騎士団を辞めることはできない。
「私が抜けたら、パーティーは四人になり、危険になりますの」
「リリーが入る前までは四人パーティーだったのだろう」
「それはそうですけど……」
ビエントはリリーを抱きしめる。
ウエストに入っているポーションが、二人の間で触れる。
「ポーションを飲んだことはあるのか?」
「いいえ。光魔術師のお姉様がいらっしゃいますから」
「安全なのだな?」
「おそらくは、大丈夫だと思います」
「わかった。騎士団にいてもいい。笛を吹いてくれ。これは婚約の約束の笛だ」
「危険な場所なの」
「危険な場所でもリリーに会いたい。こうして王都まで来られるなら、リリーが王都まで来てくれてもいい」
「睡眠時間がなくなってしまいます」
「わずかな時間でも会いたい」
「休暇がもらえたら、会いに来ます」
「そうしてくれるか?」
「はい」
「リリー今日は誕生日だな。おめでとう。やっと14歳だ」
「ありがとうございます。やっと14歳です」
頬にキスをされて、拘束を解かれた。
「寄宿舎まで送ろう」
「いいのですか?」
「どれほど、飛行が上手くなったのか見てみたい」
「さすが師匠です。どうぞ見てくださいな」
リリーはビエントと手を繋ぎ、一気に上空に上がった。
「それでは行きますよ」
リリーはトルネードを出し、飛行を早くするが、その手を引かれた。
「ゆっくり戻ろう。デートだ」
「……はい」
「飛行は上達したな」
「ありがとうございます」
二人は手を繋ぎ、ゆっくり飛んだ。
寄宿舎に着いて、ビエントはリリーの頬にもう一度キスをすると、手を離した。
「ゆっくり眠りなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ビエントは上空に上がった。
「さあ、寄宿舎に入りなさい。危険だ」
「はい」
リリーはビエントに手を振り、寄宿舎の中に入った。
窓から上空を見ると、ビエントはまだ寄宿舎の上空にいたが、しばらくしたら飛んで行った。
リリーは部屋に戻り、制服を脱いでお風呂に入った。
頬が緩む。ビエント様と婚約できていると知って、リリーは嬉しかった。
時計を見ると、もうお昼近かった。
早く眠らなくては。アトミスの目覚まし時計を借りてセットをする。
布団に入ってアイマスクをすると、すぐに眠りに落ちた。
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