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3   魔物の森

5   魔物の森の宿(2)

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「まあ、お部屋は広いのですね」
「伯爵令嬢なので、特別扱いをされていますの。ここにもう一つベッドを入れてもらいますね。バスルームも男達の共同の大浴場とは別で、この部屋には一人用の内風呂がついていますの。ただ二人同時には入れないので、順番で入りましょう」
「ご実家の権力様々ですね」
「あらリリーも伯爵令嬢ですから、特別室を与えられたかもしれませんが、一人だと不安でしょう?」
「ええ、とても不安ですの」
「仲良くしてくださいね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「アハト達は、三人部屋でお隣よ」

 リリーは微笑んだ。

「どんな風にベッドを置くのでしょうか?」
「そのうち見せてもらうといいわ。私も初めて見た時、驚いたのよ」

 アトミスはクスクスと上品に微笑んだ。

「荷物は、そうね。クローゼットを半分こしましょうか?」

 クローゼットを開けると半分くらい空いていた。

「私が右側を使っているのでリリーは左側でいいかしら?引き出しは新しくもらってきましょう」

 リリーは鞄をクローゼットに寝かせた。

「鞄は後で綺麗に拭きますね」
「ワンピースはかけておけばいいわ」
「はい、そうします」

 アトミスのワンピースは上品で美しかった。数着しかかけられていないが品の良さが伝わってくる。

「お風呂を案内するわ」
「はい」
「左側がトイレで右側がお風呂よ」

 扉を開けて見せてくれる。
 お風呂は洗い場と浴槽がついていて、シャワーもついていた。

「シャンプーは支給品ですか?」
「支給品もあるけど、私は持ち込んでいるわ。良かったら、使ってもいいわよ」
「でも、二人で使ったらすぐに無くなってしまうわ」
「私は実家から送ってもらっているの。気にしないで使ってくださいな」
「それでは、お借りします」




 リリーはストールをワンピースに巻いたまま食堂にやって来た。

「好きなものを好きなだけ食べてもいいのよ」
「はい」

 アトミスがするように、トレーとお皿を持った。いろんな料理がずらりと並んでいる。アトミスは好きなものを選んでお皿に載せていた。
 立食パーティーと同じなのねと気付いた。
 アトミスの後について、料理を取っていく。見たこともない食べ物も並んでいる。リリーはアトミスと同じ物を選んで取った。飲み物はオレンジジュースを選んだ。

「同じ物でいいの?」
「この国には初めて来たので、見たこともない食べ物が並んでいたの。同じ物なら食べられるかと思って真似をしたのですわ」

 アトミスは微笑んだ。

「さあ、いただきましょう」

 この国の料理は美味しかった。
 社交パーティーに出されるような美味しい料理がふんだんに置かれているようだ。

「私達は毎日命をかけた戦いをするから、貴族のパーティーのような美味しくて栄養のある物しか置いてないわよ」

 アトミスがまた微笑んだ。
 オレンジジュースは実家で搾られていたものと同じくらい美味しかった。

「本当に美味しいですわ」
「時々、国王陛下が労いに来てくださるのよ」
「国王陛下がいらっしゃるのですか?すごいですね」
「リリーも英雄よ」

 今度はリリーが微笑んだ。
 本当に姉ができたようで嬉しい。
 帰りに事務所で引き出しをもらって部屋に戻ったら、ベッドが置かれていた。ベッドの上に寝間着とタオルとハンガーも置かれていた。

「待遇がとてもいいわ」
「そうでしょ?医師や看護師も常駐しているから安心なのよ」

 アトミスは親切に教えてくれる。

「リリー、先にお風呂に入ってもよくってよ」
「私は後で構いませんわ。鞄を拭きたいので、お先に入ってきてくださいな」
「それなら、先にいただくわね」

 リリーは持ってきたタオルを一枚雑巾にして、クローゼットを開けて、左端に引き出しを置き、旅行鞄を出した。鞄を拭くと思った以上に汚れていた。
 何度も雑巾を洗って、綺麗にすると、鞄の中から中身を出した。
 フラーグルム王国の紙幣はこの国では使えないだろう。
 ワンピースとドレスを取り出すと、紙幣の入った袋は旅行鞄の中に仕舞った。
 ポシェットの中がすっきりしてしまった。
 大きな鞄は邪魔になる。左に置いた引き出しを少しずらして、一番左に立てて置いた。
 その隣に引き出しを置いて、ドレスカバーに入ったドレスとワンピースを二枚下げた。
 お気に入りだった淡いピンクのワンピースにはシミがあり、よそ行きにできるのは、汚れの目立たない紺色のワンピースだけだ。その紺色ワンピースも目立たないだけで、薄汚れている。

 新しいワンピースが欲しいけれど、鞄の中には入らなかった。仕方がないけれど切ない。それに無一文でなんだか心細い。
 勢いだけで家出してきたが、着る物もないしお金もない。
 思い出したように、支給された制服を取り出した。
 アトミスが着ていた物と同じブルーのワンピースだ。首元に襟があり前開きのワンピースだ。ポイントに白いラインがウエストに入り胸のポケットに騎士団のエンブレムがついていた。スカートに二つポケットがついている。たたみ皺ができていたので、袋から出していく。
 制服は3着あった。
 着る物はなんとかなったが、下着は支給されるのだろうか?化粧品はどうなんだろう?肌に塗るクリームも、もう少なくなってきた。
 ……心細い。
 リリーはクローゼットの前で膝を抱えていた。


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