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2 冒険に出ます
7 リリーからの手紙
しおりを挟む「ご主人様、大変です。お嬢様からお手紙です」
この家の執事が、応接室にいる父の元に駆け寄ってきた。
「なんですって」
母も兄も父の側に寄って手紙を見る。
絵はがきだ。
天使の絵が描かれている。その絵はがきを反対に向けると、この家の宛先と、見覚えのあるリリーの筆跡が見えた。
『お父様、お母様、お兄様、我が家の皆様へ、
ご心配をかけています。私は今、アストラべー王国の国境におります。今から魔物の森に入っていきます。どうしてもお会いしたいお方がいるの。どうぞ我が儘を許してください。どうか家族の繁栄と健康を祈っております。 リリー』
「アストラべー王国の国境だと?なんでそんな危険な場所におるのだ?」
父親は頭を抱える。
母は、胸を押さえている。
「リリーはアストラべー王国に行きたいのではありませんか?」
ハスタはお転婆なリリーらしいと思ったが、アストラべーの国境からアストラべー市外へ続く森は魔物が出ると有名だ。
無事に越えてくれるといいが、これが最後の手紙になるかもしれない。
「なんて無謀な事を考えているんだ」
父は疲れたように、椅子に座り、頭を抱える。
国中に捜索願を出して、顔写真を印刷してもらい、手配をしたのは、リリーが居なくなって三日目のことだ。
リリーの失踪には、国王も彼女を傷つけた原因の一端があるので、捜索もしてくれたが、すでに婚約破棄した令嬢のことだ。国王も自分の息子のことの方が可愛い。
国王は第一王子を後継者にせずに、最近では第二王子の教育に力を注いでいる。国王にとってリリーの事は過去のことになっている。
アコラサード伯爵家の家長、スパーダに議会の委員長の役職をつけたのは、謝罪のつもりだろうが、娘を傷物にされた汚名は、そんなことでは拭えない。
長男のハスタは、第二王子の側近とされたが、リリーはフラーグルム王国では、陰口を言われる立場になってしまった。
リリーが家出したときに申し込まれた婚約の話は、あれ以来なんの進展もない。当の本人が居ないのだから、話し合いを持たれても、アコラサード伯爵家としても困るのだが。
「リリーどうか無事でいてくれ」
父と母が神に祈っている。ハスタも一緒に神に祈った。
たった13歳で婚約破棄されて、人生を投げ出すには早すぎる。
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