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2 冒険に出ます
6 指名手配
しおりを挟む三日かかると言われた国境に、お昼に着いた。
国境は賑わっている。宿屋もあるし、馬車もある。
リリーは迷っていた。馬車に乗って魔物の森を抜けて行く方法と、突撃していく方法と……。
二択あるが、リリーは旅券を持ってはいない。
身分証明証は持っているが、リリー・ホワイト・アコラサード伯爵令嬢とわかっても、通してはくれない。
旅券はあらかじめ、旅に出る目的と目的地を国に申請しなくてはならない。当然、家出では旅券は出ないだろう。
朝アウロが準備してくれたサンドイッチを食べて、売店でオレンジジュースを買って飲んだ。
久しぶりのビタミンの味だ。お屋敷のオレンジジュースの方がずっと美味しいが、家出の身で贅沢は言ってはいけない。
アルと婚約破棄されたリリーは、これからの婚約はゴミのような婚約者しか現れないだろう。それならビエント様にお目にかかって、好きだと伝えたい。
たったそれだけのことで、家出をして、危険な旅をしている。
「お嬢さん、旅券をお持ちではないのではないか?」
「……そんなことはないわ」
「偽造の旅券を売っている。良かったら買うか?1000オールだ」
「そんな大金、持っていません」
「お嬢様に見えたんだがね」
黒い眼鏡をしたひげ面の男が声をかけてきた。
「そういえば、指名手配をされている女の子の髪が君の白銀の髪と同じだったけど、本物じゃないだろうね?」
「……指名手配?」
リリーはストールを頭に被ると、掲示板を見た。
「……お父様だわ」
大至急連絡を寄越してくるようにと書き足されていた。家族に何かあったのかしら。
すごく不安だ。お母様は心臓が弱く、お父様は血圧が高い。お兄様はやんちゃだし。心配は尽きない。
「リリーお嬢様ですか?」
「違います」
国境警備隊に声をかけられ、すぐに露店の方に行く。
電話があったが、声を聞いたら決心が鈍りそうで、それでも愛して止まない家族が心配だ。
リリーは絵はがきを買って、手紙を書いた。
背中に背負うリュックを買って、水を大量に買った。分厚いビニールに入れられて水は飲みづらそうだが、魔物の森は休憩なしで一晩走り続けなければ通れないらしい。
長いチューブがついていて、それを吸うと水が飲めるらしい。
ちょうど昼過ぎで、馬車で走って行く人々がいた。
リリーは露店の後ろから上空に飛んだ。そのまま馬車を追いかけて、その先の馬車も見つけた。馬車は大量に走っているようだ。スピードを上げて、飛んで行く。ストームをかけて、暴風に乗るように飛んでいく。魔物はどこにいるのだろう?
危険なのは夜なのかもしれない。明るいうちに、できるだけ進んでおこう。
森の上から飛んでいるので、先が見える。ストームの早さを調節して、速度をあげる。
地上では大きなイノシシに似た魔物が、馬車の前に出て、銃で撃たれている。象に似たような耳が大きな生き物が、馬車を押しつぶそうとしているところを見つけて、リリーは上空からトルネードをかけた。大きな象のような魔物は吹き飛ばされていった。リリーは自分の位置を魔物たちに教えてしまった。鳥類の魔物が襲いかかってくる。
「ライトニング・ウインド」
一匹ずつならなんとかなるが、何体も一緒に攻撃されると、苦しい。
「ラウガン」
爆風で吹き飛ばす。もっと上空に昇っていくと魔物はそんなに追いかけてこない事がわかった。
「高く飛べないのね」
追いかけてきた一匹を「ライトニング・ウインド」で落とすと、ストームをかけて、スピードを上げる。
上空から王都が見えた。もう少しだ。
太陽が沈んでいく。徐々に夜の時間になっていく。
「駄目だ。方向がわからなくなる」
リリーは王都のある場所をしっかり見た。
王宮にほんのり灯りが灯っている。あれを見失ってはいけない。
リリーはスピードを上げて飛んで行く。
ただ一点を見つめて。
時々現れる魔物に攻撃しながら。
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