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2 冒険に出ます
5 アウロとチェーン(2)
しおりを挟む旅に必要な物は、食べ物と飲み物だ。
パン屋に連れて行ってもらい、バケットを五本とジャムを買った。後は飲み物だ。急な雨で水をくめなかったことから、雨合羽を買った。
「それだけでいいのか?」
「あまり重いと持てないでしょ?」
「そうだよな。あの鞄、かなり重かったし」
「水筒に水をいただいていくわ」
「井戸の水?」
「飲み水でしょう?」
「そうだけど、水とパンで過ごすの?」
「うん」
「体に悪いよ」
「だから、早くアストラべー王国に着きたいの」
夕食はお肉が出てきた。豪華な食卓だ。
「誰も刈れなかった草を刈ってくれたんだ。なんて気持ちがいいんだろう」
奥様も叔父様も喜んでいる。
「風が草を揺らす音がうるさくてね。夜もゆっくり眠れなかったんだ」
「風の音がうるさいのですか?」
「ここは高台にある一軒家だろう。草が生えすぎて、この草がなくなればいいとずっと思っていたんだ」
「広範囲ですから、刈るのも大変ですね」
「アウロの奥さんにならないか?」
「私には使命があるで、すみません」
「そうかい」
早めの夕食で、就寝時間も早い。日の出と共に起きて、日暮れと共に眠るのだと言っていた。台所で食器を洗い片付けると、「お疲れさんだったね」と奥様はお茶を淹れてくれた。
「本当はいいところのお嬢さんなんだろう。台所も立ったこともないほどの」
「手際が悪くて申し訳ございません」
「ちゃんとできてるよ。明日出かける前に、また温泉に入って行きなさい」
「はい。ありがとうございます」
早朝の温泉は肌寒さと暖かさが混ざりあい、気持ちがいい。
もう一度、洗濯をして、風を当てて乾かす。
家族は早起きで、もう食事の支度を始めている。
チェーンが畑で野菜を採っている。
「かあちゃん、何個だった?」
「5個でしょ」
玄関から顔を出した母親が、「チェーン」と大声を出した。
「あんた、イノシシだ。チェーンが危ない」
リリーは振り向いて、畑を見る。
親子連れのイノシシがチェーンの真後ろにいて、チェーンが振り向き大声で泣き出した。
「ライトニング・ウインド」
場所を移動して、チェーンに当たらない位置から攻撃技を仕掛ける。イノシシならいつも練習している。親を殺して、子供も倒した。
チェーンの両親が駆けていく。
「チェーン、大丈夫か?」
「よかった、無事か?」
怪我はなかったようだ。
「リリーさん、ありがとう。この子の命の恩人だ」
リリーは首を左右に振る。
「無事で良かったです」
洗濯物を取り込んで、二人に頭を下げる。
鞄に洗濯物を入れて、鍵を閉める。
屋敷のシェフがくれたバケットを入れる袋にバケットはしっかり五本入っている。
「朝食は食べていきなさい」
「いただいてよろしいですか?」
「娘の命の恩人に、こんなことしかできなくて、すまないね」
「食事は嬉しいです」
アウロがスープをたっぷりつけてくれた。
「かあちゃん、パンすぐ焼けるだろう?」
「ああ、あと2分くらいだ」
「それなら、これいいよな」
アウロはサンドイッチを包んで袋に入れてくれた。
「これは今日の昼用だ」
「ありがとう」
「リリーは食べろ。出発が遅くなる」
「うん」
優しさが嬉しい。
サンドイッチは卵とハムサンドと2種類ある。
たくさん食べて、スープもたくさん飲ませてくれた。
「ごちそうさまでした」
「気をつけて行くんだよ」
「お姉ちゃん、ばいばい」
「元気でな」
「ちゃんと食べろよ」
アウロがサンドイッチを手渡してくれる。
リリーはその袋を鞄の取っ手に縛った。
「ありがとうございます」
鞄を跨ぐと、空に飛んでいった。
道沿いに真っ直ぐ行けばいい。
背後からストームをかけたら早くなるだろうか?
爆風は危ないだろうか?突風をかけてみる。いつもより早くなった。試しに暴風を少しかけてみる。
「うわっ」
早くなったが不安定だ。鞄をしっかり持ち、スピードを上げていく。
ビエント様に会いたい。
笛を吹けば会えるのに、今は自分の力で会いに行きたい。
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