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エピローグ

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 唯はもう臨月を迎えていた。

 龍之介が言ったように、この子の成長は早いのか、人の予定日とは違っていた。

「唯様、破水しています」

「水が流れてきたわ」

 お腹の中で赤ちゃんが動く。

「人の体で生まれてくるのかしら?それとも龍?」

「唯、落ち着いて。人型でほとんどが生まれてくる」

「ほとんどって、違うこともあるの?」

「希だ」

 龍之介が唯の腰を撫でる。

「赤ちゃんが暴れているの。お腹が破れてしまいそう」

「大丈夫だ」

 龍之介は唯のお腹を透視して、健康な人の形をしていることを再度確認して、弱気な唯を励ます。

「痛い」

「陣痛ですね」

 汗を拭いてくれているみのりが確認してくる。

 唯は何度も頷く。

「間隔はどれくらいになってきましたか?」

 元気な声で、龍星が唯の部屋に入ってきた。

「3分です」

 みのりが時計を見て答える。

「こんな忙しいときに何をしに来た」

「弟妹が生まれるんです。俺が取り上げなくてはと。産科も勉強してきました」

「おまえは、端にでも寄っていろ。それは父親の役目だ」

「父上、俺は不要ですか?」

 龍星が今にも泣き出しそうな声で訊ねる。

「おまえを取り上げたのは、俺だ」

 龍之介は龍星の肩を押すと、唯のベッドに近づいて、唯の膣口に触れる。

 開いた膣口から赤子の頭が見える。

「唯、次の陣痛で力め」

「はい。あああ、痛いです」

「口は閉じて、しっかり力みなさい」

「んんんんっ、はぁはぁはぁ・・・」

「次の陣痛で、できるだけ長く力むんだ」

「うん、んんんんっ」

「頭が出てきた、しっかり力みなさい」

「はあ、はぁ、苦しい、龍之介様」

「もう少しだ」

 龍之介は唯の膣を見ながら、励ましていく。

「んんんんっ」

 しっかり頭が出ると、龍之介は赤子の体を支えて、するりと赤子を取り出した。

「兄様、お湯の準備を」

「了解した」

 室内にベビーバスとタオルの篭がひょいと現れる。

 もう一度陣痛が来て、胎盤が落ちてきた。

「唯、どっちがいい?」

「もう生まれたのでしょう?」

 赤ちゃんの元気な泣き声が聞こえる。

 今更どっちがいいか聞かれても変えることはできないのに、この神様は性転換でも行いそうだ。

「どちらでもいいわ」

 臍の緒を龍之介は霊気で切って、生まれたての赤子を唯に見せる。

 唯が微笑む。

「龍星、弟ができたわ」

 まだ赤く濡れた我が子を抱いて、唯は微笑む。

「唯様、沐浴してきます」

「おねがいします」

 みのりに子を預ける。

 唯はまた肩で息をしている。

「安産祈願をするのを忘れたわ」

「俺はしておいたけど」

「神様は誰にお願いするの?」

「神の神だ?」

「それは誰?」

「秘密だ」

 龍之介が、汗で濡れた唯の髪を撫でる。

「龍星の時より辛かったわ」

「頑張ったな、唯」

 龍之介が唯にキスをする。霊気を送り込まれ、体が少しずつ楽になってくる。

「唯様、赤ちゃんが母乳を欲しがっていますよ」

 みのりが赤ちゃんに絹の肌着を着せて連れてきた。

 唯は両手を開いて、赤ちゃんを受け取ると、胸をはだけ乳首を赤ちゃん含ませる。

 勢いよく蜜が出て行く。

「この子も蜜で育つの?」

「最高のご馳走だよ」

 赤ちゃんの小さな手が、唯の浴衣を掴んでいる。

「かわいい」

 唯の顔が嬉しそうだ。

「目の色は龍之介様と同じ青ね。きっと龍星と並んだら、三人兄弟に見えるんでしょうね」

 拗ねていた龍星が、赤ちゃんを覗きに来た。

「どう、弟は?」

「子守は任せてください。武道も武術も勉強も何でも教えられます」

「頼もしいお兄ちゃんね」

 龍星が照れくさそうに笑う。

「この子の名前は何にしましょう?」

 唯は龍之介を見つめる。

「名付け辞典は使わないでね」

「唯に名付けてもらおう」

「父親の仕事でしょう?」

「俺は名付けのセンスがないからな」

 コ行の花姫の名前を思い出して、唯はクスクス笑う。

 龍之介は唯の下腹部に触れている。

 なかなか止まらない血を止めて、収縮していく子宮の痛みを取っていく。

「それなら俺がつけましょうか?」

 張り切った龍星が声を上げた。

「それは自分の子にしろ」

 龍之介は龍星のすねを蹴る。

「せっかく家族四人になったのに、俺を婿に出すおつもりですか?」

 みのりが赤ちゃんの位置をずらしてくれる。

 もう片方の胸を吸わせるときに、龍星が唯の胸を見て頬を染めた。

「唯の胸は吸わせぬぞ。嫁が欲しければ、花姫から選んでこい」

「母上以上の花姫はおりません」

「極上の母から生まれたのだ。それだけで十分幸せだろうが」

「母上、俺も飲ませてください」

 龍星は唯の背中にしがみついた。

「龍星はもう母乳はいらないでしょう?」

「母の甘い蜜の味が忘れられません」

 唯は大きな息子も可愛く感じていた。

 母乳を与えることはしないが、起き上がれるようになったら、手作りのおやつを作ってあげようと思った。
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