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11   四神獣の誕生と花姫の解放

6   青龍の指輪

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「父上、指輪ができました。時間がかかり申し訳ございません」

「どれ、見せてみろ」


 龍星から箱を受け取り、箱を開ける。

 緑に近い青い指輪を指先に取る。

 形も輝きも青波に負けないほどしっかりと造られている。


「披露宴はいつにしますか?明日は元日なので正月明けにでも企画しましょうか?」

「唯と相談して決めよう」

「準備は任せてください」


 龍星は無事任務を終えて、満足げだ。


「父上、披露宴は後日でも結婚はなさってください。俺が証人です」


 龍之介は指輪を箱に戻すと、生意気な口をきく息子の額を指先で弾いた。

 今夜は正月参りで参拝者は増える。

 毎年大晦日から正月の間は、神社の中の宮殿で過ごしていたが、この指輪を早くわたしたい気持ちも確かにある。

 受け取ってもらえるか心配でもある。

 手に刻まれた花の刻印を見て、やはりすぐにでもわたしたくなった。


「唯はどこだ?」


 部屋に訪ねると、みのりが三神獣たちと散歩に出かけたと答えた。

 三神獣たちは、幼い唯の姿に夢中になっている。暇さえあれば唯を誘いに来る。

 龍之介は唯の散歩コースにやってきた。

 足を傷めた唯を抱き上げているのは玄武だ。立派な体格に唯を片手で抱き上げる。

 朱雀と白虎は、小鳥と子猫の姿で、唯に甘えている。オレンジの小鳥は唯の肩に乗りピヨピヨ鳴いているし、子猫は腕に抱かれている。

 もふもふの白い毛皮は柔らかく、気持ちがいいのだと唯が言っていた。

 龍之介の前では見せない笑顔を浮かべて、楽しげに過ごしている。


「人の姿は不自由だろう?」

「人の体は脆いですね。すぐに壊れてしまいます」

「幼い高祖花姫様も可愛らしいが、成長された姿は花より美しい。天上に戻ってはいかがか?」

「玄武、ごめんなさい。今は戻れません」

「それではこの傷を治してさしあげよう」

「それもごめんなさい。今の私は人です。時間が経てば治るでしょう」


 玄武は不満げに顔を歪めた。


「何も望んでくれぬのか?」

「何も望むものはありません」

「昔から無欲だったが、人の体ではなにかと不自由だろう。ここに来る参拝者は、ずいぶん我が儘なことを望んでくるが」

「性格はそんなに急に変わりません」


 湖を一周回って、唯が住んでいる屋敷に送る途中で、龍之介と出会った。


「これは青龍殿、今から高祖花姫様を部屋へ送るところだった」

「ちょうど話があって探しておりました。このまま高層花姫様をいただいてもよろしいか?」

「我々の高祖花姫様だ。大切に扱えよ」


 龍之介は玄武たちに頭を下げると、唯に手を差し出した。

 その手に唯は手を伸ばす。龍之介に抱き上げられて、玄武たちに別れを告げる。


「玄武たち、ありがとう。それではまた」

「高祖花姫様、また後ほど」
 

 小鳥は朱雀になり、子猫は白虎になり、それぞれの屋敷に戻っていった。

 唯は三人を見送った後、龍之介を見上げた。


「龍之介様は私を唯と呼んでください」

「高祖花姫様なのだろう?」

「今はただの人です。花姫であることは変わりませんが。彼らは私を探して天上から降りてきてしまったのです。迷惑をかけてしまってごめんなさい」

「迷惑だと思ったことはないよ」

「もうひとつ、ごめんなさい。車椅子は必要ないと言われ連れてこられました。お手を煩わせます」

「車椅子は必要ない。俺が唯を抱きたい」


 龍之介は唯を抱いたまま、唯が好んで座っていたベンチに腰掛け、隣に座らせる。


「龍之介様は、いつも優しいですね」

「優しくするのは、唯だけだ」

「そうかな?龍之介様が怒っている姿を見たことがないような気がします」

「そんなことはないよ。俺は怒るときは怒る」


 唯は微笑む。


「唯、大切な話がある」

「なんでしょうか?」

「俺と結婚して欲しい」

「私、まだ15歳ですけどいいのですか?本当のお召し上げは16歳ですよね」

「もう召し上げた。同じだろ?」

「それならお受けします」


 唯はにっこり笑って、龍之介につけた花の刻印に触れる。


「左の薬指はもう二本入っていますけど、どこに指輪をしましょうか?」

「右手も出してくれ」

「はい」


 唯は両手を龍之介の前に出した。

 龍之介はいたん指から指輪を抜くと、一番目の指輪を右手の薬指に入れた。迷いながら、二度目の指輪も右手の薬指重ねて入れた。

 左の薬指は空になった。


「これは龍星が造った指輪だ」
 

 龍之介は箱を出して、唯に指輪を見せる。


「色が青ではなくて緑っぽいですね」

 箱から指輪を取り出すと、左の薬指に指輪をはめた。

 唯は左右の手を目の前に並べて、指輪を見比べる。


「歳を取っていくと、青から緑へと変化していく」

「指輪の色で年齢がわかるのですね。そういえば、出雲の龍神様が最初の指輪を見て、失礼なことを口にしていました」

「最初の指輪もそれなりに歳は取っていたが、出雲の龍神様から見れば、子供のような年齢だっただろう。今、もし、龍星が指輪を造ったら、もっと綺麗な青色になるはずだ」


 唯は頷くと、緑色をした指輪を撫でた。


「この指輪も大切にします。息子が造った指輪を愛する人からもらえたのですね」

「唯が喜ぶと俺も嬉しい。龍星も喜ぶだろう」

「うん。龍星にも見せなくちゃ」


 嬉しそうな唯を抱きしめて、ポンと消えた。

 隠れていていた玄武たちが、「逃げられたか」と呟いた。


「今から披露宴を行う。招待者は三神獣殿だ。身内だけでする」

 唯を抱き上げて、屋敷の中を歩く。

「達樹、みのり、すぐに白無垢の準備をしてくれ」

「畏まりました」

「お召し替えはどういたしましょう?」

「人の世界で白いドレスを買ってきてくれ」

「畏まりました」


 達樹とみのりはその場から消えた。


「内輪だけで披露宴をしよう。他の神には唯の転生は秘密だ」

 唯は微笑む。

 龍之介が龍神から人の形になるときに普通に身につける着物のように、唯は高祖花姫として覚醒してから、自然に白いドレスを身につける。肩を出し膝丈のドレスはシンプルだが、よく見ると白い布は花と蔦の模様が透けて見える。光沢もよく肌から輝いて見える。

 今着ているドレス以上に美しいドレスがあるとは思えないが、区切りとして披露宴はしたかった。


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