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10 15歳でお召し上
1 15歳でお召し上
しおりを挟む唯はその場に倒れて、すぐに父親が迎えに来た。
親鳥の習性だ。
唯の父親の前に、龍之介が姿を見せた。
父親がひれ伏す前に、龍之介が「そのままでよい」と父親の動きを止めた。
テニスコートにいる生徒達は動きを止めている。
龍之介が時間を止めている。
「青龍様。大切な唯様を申し訳ございません」
「この怪我は知っておった。無理を許した。今から治療をしたいが、唯の部屋を借りてもいいか?」
「はい」
「では唯の部屋へ」
龍之介は唯を抱き、テニスコートから唯の部屋に瞬間移動をした。
その瞬間、時間が戻った。
生徒達は静かに帰って行く。
今まで何をしていたのか忘れている。部長は勝間から三木に替わっている。
「佳奈、すごい汗ね、タオルをどうぞ」
「ありがとう」
佳奈は何かを探すように周りを見回して、友人達と更衣室に移動して着替えて帰っていった。
……
…………
………………
唯の部屋は、女の子らしい明るい部屋だ。
部屋には龍星と辰成が既にいた。
「龍星と辰成だ。唯の足の治療をする」
父親は、龍星の顔を見て、「唯様のお子ですか?」と尋ねた。
「親の言うことも聞かず、勝手に接触しておる。学校では学友だ」
「さようですか」
「治療が終わったら声をかける」
「はい」
父親は部屋から出て行った。
龍之介は唯をベッドに寝かせた。
「汗ぐっしょりでかわいそう」
龍星が唯の顔を見て言う。
唯はワンピースタイプのテニスウエアーを着ている。
テニスウエアーも顔も長い髪も汗に濡れていた。
唯のすべてが愛おしい。
汗に濡れた体は気持ちが悪かろう。
龍之介は四人で御嵩の屋敷に飛んだ。
「神様やるじゃん」
「龍星は黙っておれ」
唯を抱き上げたままの龍之介は、「清めてくる」と言って部屋を出て行った。
大きな風呂場で裸にした唯を湯につけて、洗っていく。
「まだまだ幼いな」
綺麗に洗った後、唯に寝間着の浴衣を着せて、二人のいる場所に戻った。
布団が敷かれている。
そっと寝かせて、唯の髪をタオルで拭っていく。
「そなたたちは治療をしてくれ」
「神様は手伝わないのか?」
「髪が濡れていたら、かわいそうだろう」
手慣れた様子を見て、二人は顔を赤くする。
「ほれ、早く治してやれ」
「治すよ、俺の母上だ」
龍星は唯の足首の砕けた骨を繋げていく。
辰成も唯の足の治療を始めた。
「神様、たぶんすごく痛いと思うんだ。痛みとってやって」
放っておいたら口づけしそうな龍之介に、唯の治療の手伝いを申し出る。
「痛みも取ってやればいいだろう?」
「同時にしていると時間がかかるんだよ。母上にも負担になる」
「わかったよ」
龍之介は唯の膝から下に麻酔をかけて、痛みを取るように霊気を注ぐ。
霊気酔いを起こさない程度に加減している。
「神様、ちゃんと天罰は与えたんだな。ナイスなタイミングだった」
「長年神をやっていると、タイミングはうまくなる」
「あいつ、俺たちみたいな優秀な医者にかかれないから、一生不自由な足のままだ。どうせ母上と同じ傷にしたんだろう?」
「当然、同じ痛みを分け与えたよ。俺は神様だからね。平等に与えないと不満も出るだろう?」
「なかなかエグい神様だ」
「龍星、靱帯も切れているぞ。転んだときに切れたのだろう」
「さっきより細かく砕けている。神様、霊気酔い見ていてくれ」
「唯の顔は蒼白だぞ。ああ、そうだ」
龍之介は思い出したように立ち上がって消えて、すぐに戻ってきた。
唯の指に指輪をはめている。
すっと顔色が良くなる。
二つの指輪を見て、龍星と辰成は胸が痛くなった。
(父上は二度も母上を目の前で亡くしたんだな)
龍星も父が嘆き悲しんでいる姿を見ている。
幼いながらも、母上が死んだのだと龍星は気付いた。
母の腕を探して、龍星も何度も泣いた。
龍星の顔つきが変わる。
「母上の足がまた歩けるように治すぞ」
「了解した」
龍星と辰成は一晩をかけて、砕けた骨を修復した。傷ついた靱帯や血管や腱、筋肉まで綺麗に元に戻した。
二人で足に固定包帯を巻いていく。
「父上、母上は人の体ですから、一ヶ月以上ベッドから動けません」
「そうか」
「杖をつく練習は三ヶ月以降になると思います。完治しても、元のようには歩けません。激しい運動はできませんし、テニスはもうできないでしょう。お召し上げを早くして、父上の鱗を飲ませれば、完治は早くなり足も綺麗に治ると思います」
龍之介は唯の頭を撫でている。
「龍星はお召し上げを早くしろと言っておるのだな?」
「はい。母上の足が不自由なままでは、母上は一生足が不自由なまま過ごさなければならなくなります」
「7ヶ月も早く召し上げるのか」
「今なら治せますが、7ヶ月後では無理です」
「わかった、このまま召し上げよう。すぐに鱗を持ってくる」
龍之介は消えた。
屋敷の前の湖が流れ込む洞窟で、青龍の姿になると鱗を一枚抜いた。
人の形になり、片手で鱗を持ち上げ、瞬間移動をして唯の眠る部屋に戻った。
「調合は龍星がするのか?青波に頼んでもよいが」
「俺がする」
「できるのか?」
「青波に教わった。できる」
「それなら頼む。指輪は造れるのか?」
「初めて造りますが、造り方は習っております」
「龍星に頼もう。唯の体の治療と指輪の製造を頼む」
「はい。承ります」
龍星は龍之介に頭を下げた。
「すぐに調合します」
「いいか、絶対に殺すなよ」
「はい。俺も母上を亡くしたくはありません」
「不安があれば、青波に相談しなさい」
「はい」
龍星と辰成は鱗を持って姿を消した。
「唯、すまない。16歳まで自由にさせてやれなかった」
龍之介は、幼い唯の頬を撫でる。
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