上 下
59 / 76
10   15歳でお召し上

1   15歳でお召し上

しおりを挟む

 唯はその場に倒れて、すぐに父親が迎えに来た。
 
 親鳥の習性だ。

 唯の父親の前に、龍之介が姿を見せた。

 父親がひれ伏す前に、龍之介が「そのままでよい」と父親の動きを止めた。

 テニスコートにいる生徒達は動きを止めている。

 龍之介が時間を止めている。


「青龍様。大切な唯様を申し訳ございません」

「この怪我は知っておった。無理を許した。今から治療をしたいが、唯の部屋を借りてもいいか?」

「はい」

「では唯の部屋へ」

 龍之介は唯を抱き、テニスコートから唯の部屋に瞬間移動をした。

 その瞬間、時間が戻った。

 生徒達は静かに帰って行く。

 今まで何をしていたのか忘れている。部長は勝間から三木に替わっている。


「佳奈、すごい汗ね、タオルをどうぞ」

「ありがとう」


 佳奈は何かを探すように周りを見回して、友人達と更衣室に移動して着替えて帰っていった。


……
…………
………………



 唯の部屋は、女の子らしい明るい部屋だ。

 部屋には龍星と辰成が既にいた。


「龍星と辰成だ。唯の足の治療をする」


 父親は、龍星の顔を見て、「唯様のお子ですか?」と尋ねた。


「親の言うことも聞かず、勝手に接触しておる。学校では学友だ」

「さようですか」

「治療が終わったら声をかける」

「はい」


 父親は部屋から出て行った。

 龍之介は唯をベッドに寝かせた。


「汗ぐっしょりでかわいそう」


 龍星が唯の顔を見て言う。

 唯はワンピースタイプのテニスウエアーを着ている。

 テニスウエアーも顔も長い髪も汗に濡れていた。

 唯のすべてが愛おしい。

 汗に濡れた体は気持ちが悪かろう。

 龍之介は四人で御嵩の屋敷に飛んだ。


「神様やるじゃん」

「龍星は黙っておれ」

 唯を抱き上げたままの龍之介は、「清めてくる」と言って部屋を出て行った。

 大きな風呂場で裸にした唯を湯につけて、洗っていく。

「まだまだ幼いな」

 綺麗に洗った後、唯に寝間着の浴衣を着せて、二人のいる場所に戻った。

 布団が敷かれている。

 そっと寝かせて、唯の髪をタオルで拭っていく。


「そなたたちは治療をしてくれ」

「神様は手伝わないのか?」

「髪が濡れていたら、かわいそうだろう」


 手慣れた様子を見て、二人は顔を赤くする。


「ほれ、早く治してやれ」

「治すよ、俺の母上だ」


 龍星は唯の足首の砕けた骨を繋げていく。

 辰成も唯の足の治療を始めた。


「神様、たぶんすごく痛いと思うんだ。痛みとってやって」


 放っておいたら口づけしそうな龍之介に、唯の治療の手伝いを申し出る。


「痛みも取ってやればいいだろう?」

「同時にしていると時間がかかるんだよ。母上にも負担になる」

「わかったよ」


 龍之介は唯の膝から下に麻酔をかけて、痛みを取るように霊気を注ぐ。

 霊気酔いを起こさない程度に加減している。


「神様、ちゃんと天罰は与えたんだな。ナイスなタイミングだった」

「長年神をやっていると、タイミングはうまくなる」

「あいつ、俺たちみたいな優秀な医者にかかれないから、一生不自由な足のままだ。どうせ母上と同じ傷にしたんだろう?」

「当然、同じ痛みを分け与えたよ。俺は神様だからね。平等に与えないと不満も出るだろう?」

「なかなかエグい神様だ」

「龍星、靱帯も切れているぞ。転んだときに切れたのだろう」

「さっきより細かく砕けている。神様、霊気酔い見ていてくれ」

「唯の顔は蒼白だぞ。ああ、そうだ」

 龍之介は思い出したように立ち上がって消えて、すぐに戻ってきた。

 唯の指に指輪をはめている。

 すっと顔色が良くなる。

 二つの指輪を見て、龍星と辰成は胸が痛くなった。


(父上は二度も母上を目の前で亡くしたんだな)


 龍星も父が嘆き悲しんでいる姿を見ている。

 幼いながらも、母上が死んだのだと龍星は気付いた。

 母の腕を探して、龍星も何度も泣いた。

 龍星の顔つきが変わる。

「母上の足がまた歩けるように治すぞ」

「了解した」


 龍星と辰成は一晩をかけて、砕けた骨を修復した。傷ついた靱帯や血管や腱、筋肉まで綺麗に元に戻した。

 二人で足に固定包帯を巻いていく。


「父上、母上は人の体ですから、一ヶ月以上ベッドから動けません」

「そうか」

「杖をつく練習は三ヶ月以降になると思います。完治しても、元のようには歩けません。激しい運動はできませんし、テニスはもうできないでしょう。お召し上げを早くして、父上の鱗を飲ませれば、完治は早くなり足も綺麗に治ると思います」


 龍之介は唯の頭を撫でている。


「龍星はお召し上げを早くしろと言っておるのだな?」

「はい。母上の足が不自由なままでは、母上は一生足が不自由なまま過ごさなければならなくなります」

「7ヶ月も早く召し上げるのか」

「今なら治せますが、7ヶ月後では無理です」

「わかった、このまま召し上げよう。すぐに鱗を持ってくる」


 龍之介は消えた。

 屋敷の前の湖が流れ込む洞窟で、青龍の姿になると鱗を一枚抜いた。

 人の形になり、片手で鱗を持ち上げ、瞬間移動をして唯の眠る部屋に戻った。


「調合は龍星がするのか?青波に頼んでもよいが」

「俺がする」

「できるのか?」

「青波に教わった。できる」

「それなら頼む。指輪は造れるのか?」

「初めて造りますが、造り方は習っております」

「龍星に頼もう。唯の体の治療と指輪の製造を頼む」

「はい。承ります」


 龍星は龍之介に頭を下げた。


「すぐに調合します」

「いいか、絶対に殺すなよ」

「はい。俺も母上を亡くしたくはありません」

「不安があれば、青波に相談しなさい」

「はい」


 龍星と辰成は鱗を持って姿を消した。


「唯、すまない。16歳まで自由にさせてやれなかった」


 龍之介は、幼い唯の頬を撫でる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...