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5   転生転生

3   緑色の水薬

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 白いガウンにピンクの羽織を着た唯は、みのりに手を引かれ地下神殿の階段を下りていく。

 前には灯りを付けた達樹が歩いている。


「暗いのね」

「地下神殿へ続く階段なので」

「それに、寒いわ」

「羽織を着ていても寒いですか?」


 前世で、唯が寒がっていたので、途中までという約束で羽織を羽織っている。


「地下神殿で何をするの?」

「処女検査をされるのだと思います」

「私、処女よ。誰にも捧げてないわ」


 唯の友達は中学時代から男性と性交をしている者もいたが、唯は厳しく母に躾けられていた。

『大切な人と結ばれるのですよ』と。

 大切な人が誰だかわからなかったが、友人たちのように気軽に体を許すことはしたくなかった。


「検査なんか、されたくはないわ。戻る」


 唯は下りたばかりの階段を上り始める。


「気の強さは、お変わりになっていませんね。今日は青龍様もいらしていると思います。嫌なことはされないと思います」


 みのりはそっと唯の手を引く。


「本当に、嫌なの」

「これは花姫のしきたりなのですよ」

「今の時代、処女の方が珍しいのよ。大切にしてきたのに、誰にも見せたくないし、触らせたくはないわ」


 唯はみのりの手を振り払って、逃げ出した。


「唯様」


 目の前に、達樹が立った。


「どうして?達樹は先に歩いていたのに」

「瞬間移動です」

「失礼」と言うと、唯の体を横抱きにして瞬間移動で地下まで移動した。

「いや、放して。部屋に戻るの」


 みのりが灯りを持って、唯の隣に来た。


「唯はやんちゃだったか?」


 龍之介が近づいてきて、達樹の手から唯の体を受け取り横抱きにする。


「検査なんか、いや」

「霊気で見るだけだ。触ったりはしない」

「ほんとに?」

「唯の記憶はすべてが戻っているわけではないのか?」

「全部なんか戻ってない。私は昔の私じゃない」

「そうだな。唯は生まれ変わっている。性格も変わっているだろう」

「だから、嫌なの。暗いところも怖い」


 唯は龍之介の腕の中で、足をばたつかせて、本気で逃げだそうとしている。


「なんと愛らしい」


 そんな唯を抱いたまま、龍之介は青波に唯の姿を見せる。


「ずいぶんお転婆な子に育ったな」


 青波の姿を見て、唯は震えだした。


「何もしないで」

「唯は処女だ。霊力でわかるだろう。青波は触るな」

「まったく、唯には甘い」

「薬を持ってこい」


 呆れた顔をしながら、青波は湯飲みを持ってきた。


「これを飲みなさい」

「毒?」

「毒ではない。俺の鱗を煎じたものだ。唯の体を守るために飲んでほしい」

「怖いことはしない?」

「しない。約束しよう」


 龍之介は寝台に座らせると、唯の口元に湯飲みを持っていった。

「さあ、飲んで」

「苦くない?」

「苦くはない」


 唯はしぶしぶ湯飲みの中のものを飲む。

 甘くはないが、苦くもない。においもない。


「毎日、三回、青波が飲ませに行くが、きちんと飲んでくれ」

「うん」

「青波は御嵩家の医師だ。無愛想だが怖くはない。いいな」


 唯は頷いた。


「身体測定をする。服を脱ぎなさい」

「いや。これを脱いだら、裸になっちゃう」

「唯、処女検査はしないでおくが、身体検査は受けてくれ」


 唯は泣きながら、羽織を脱ぎガウンを脱いだ。

 片手で胸を隠し、片手で下肢を隠す。


「誰にも見せたことないのに」

「青波、できるだけ触れるな」

「無茶を言う」


 唯のサイズを測って、青波はガウンを着るように言った。後の検査は肌を晒さなくてもできる。


「龍之介様、下着を着ることを許してください」

「許そう」


 今の龍之介は唯に甘い。なんでも望みを聞くだろう。

 病院でされるような体の検査をされて、健康診断は終わった。

 ぐすぐすと泣く唯に、龍之介は唯の指に指輪をはめた。


「なんですか?」

「昔の唯がはめていた結婚指輪だ。はめてくれないか?」


 指輪は唯の指のサイズにぴったりだった。


「でも、これは前世の私の遺品でしょ?」

「新しい指輪は青波が作ってくれる。それまでの間、これをはめていてくれるか?」


 唯はじっと指輪を見つめる。

 青く光る指輪は美しい。

(前世の私は、きっと幸せだった。赤ちゃんができるほど龍之介様と抱き合ったんだよね?)


「俺の霊気が唯を守る」

「いいんですか?今の私と昔の私は別人です」

「魂は同じだ。見ればわかる」

「お目にかかりたかったけれど、今の私が龍之介様を好きになれるかわからないのに」

「好きだと言わせる」


 龍之介は一歩も引かなかった。


(100年も願い続けて、やっと私が生まれたんだ。それほど愛されていたんだよね?)


 龍之介の気持ちを考えると、突き返すことはできなかった。


「お預かりします」

「それは唯のものだ」


 龍之介は唯を抱きしめる。


「ここは冷える。部屋に戻るぞ」


 龍之介は唯を抱えたまま部屋まで瞬間移動をした。

 達樹とみのりも一緒に戻ってくる。


「みのり、唯に風呂を。体が冷えておる」

「すぐに準備をします」


 龍之介は畳にあぐらをかいて、唯を抱いている。


「龍之介様、今の私もお好きですか?」

「ずっと見ておった。生まれてからずっと。16歳まで立派に育った」

「見守ってくださったのですか?」


 龍之介は嬉しそうに微笑んでいる。

 唯は不安だった。

 前世の記憶では確かに龍之介を助けるために必死になっていた。

 それほど大切な人だったのだろう。

 指輪を見つめて、過去の自分に嫉妬していた。

 自分の命をかけても守りたいほど、愛していた。この龍之介様を。


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