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気高く咲く花のように ~モン トレゾー~ 4話
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「おはようございます。遅くなりました」
授業を終えて、撮影場所に合流すると、スタジオがざわついていた。
葵の後ろから救急隊が走ってくる。
マネージャーの小池が葵を背中に庇う。
「葵、お帰り」
葵の肩をポンとたたいて、篠原が顔を出した。
撮影用の衣装を着ている。
「篠原さん、何かあったんですか?」
「松坂さんが、器材につまずいて転んでしまったんだ。転んだ先に立てかけてあった器材が倒れてきて、潰されてしまったんだ。たぶん肋骨や足が折れてるな」
「主演女優どうするんでしょう?」
「今日のところは、保留のまま解散になるだろうな」
「ドラマ延期になるのかな?」
「どうかな?まだ何も分からない」
担架に乗せられた松坂が救急隊に連れて行かれる。その後から、松坂のマネージャーが電話をしながらついて行く。
「松坂さん、痛そう」
「早く治るといいな」
「うん」
監督がパンパンと手を叩いて、ざわついた周りを静かにさせる。
「こんなことになっちゃたから、今日は解散ね。連絡は事務所を通してするから待っててね」
キャストたちがスタジオから出ていく。
「小池さん、今日も僕が葵を連れて行きますから、帰ってもらって大丈夫ですよ」
「そうですか。毎日お世話になります。それでは失礼します」
葵が言葉を発する前に、マネージャーはさっさと背を向けて帰っていく。
「小池さん、僕は家に帰りたいのに・・・」
「往生際が悪いな、葵」
「だって」
篠原は毎日、葵を抱く。
それが当然のように。
優しくしてくれる篠原のことは嫌いではないが、まだ感情が追いついていない。
「篠原さん、今日のご飯はお肉にしてね。美味しくないと許さない」
「ワインもつけてあげようか?」
「ワインは別にいいよ。僕だけ飲んでも楽しくないし、ワイン渋いからちょっと苦手なんだ」
「葵はまだおいしいワインを飲んだことがないんだな。渋いワインもあるが、甘口も辛口もいろいろあるんだよ」
「そうなんだ?」
「おいしいワインを飲みに連れて行ってやらないとね」
「今はワインいらない。僕はお腹が空いてるんだ」
「学食で食べてこなかったの?」
「時間がなかったんだよ。コンビニのおにぎり一個じゃ足りない。小池さん一個しか買ってきてくれなかったんだ」
「それは可哀そうだね。お弁当の残りあったかな?いや、食事に行くならお腹は空かせておけ。美味しいもの食べさせてやる」
膨れっ面のままうんうんと頷いて、「帰ろう」と篠原の腕を引っ張る。
「篠原ちゃん、葵ちゃんの声がしたような気がしたんだけど、来てるかしら?」
「来てますよ」
篠原が答えた。
「篠原ちゃんと葵ちゃんは、ちょっと残ってて」
ふたりで顔を見合わせて、監督の近くに寄っていく。
スタジオに人がいなくなると、監督がやっと動き出す。
開いていたスタジオの扉を閉じて、戻ってくる。
カメラマンが一人残っていた。
「葵ちゃんのことだから、セリフは全部入ってるでしょう?」
「誰のセリフでしょうか?」
監督が台本をぽんと叩いた。
「まるっと一冊のことよ」
「完全に全部覚えてるわけじゃないですよ」
篠原が人の悪そうな顔で笑っている。
葵がいつも台本のすべてを覚えていることを知っているのは、子役の頃から付き合いのある者だけだ。
篠原は付き合いが長いので知っている人だ。
「このセットどこからか分かるわね。さあ、私に葵の演技を見せてちょうだい」
「無茶言いますね」
葵は鞄を椅子の上に置くと、篠原と一緒にセットの中に入っていく。
ハンガーに掛けられた真紅のバスローブを身に着け、最初の立ち位置につくと、大きく深呼吸をひとつした。
「スタート」
監督の声でカメラが回り出す。
『奥様、今夜は冷えてまいりました。温かくしておやすみください』
『いやよ。まだ眠くなんてないんですもの。それよりも真澄、温かな紅茶を淹れてくださる?』
真紅のバスローブを身に着けた、葵が演じる。
誘うような艶のある視線と繊細な手の動き。声はソプラノだ。
優雅に足を組む。ただ足を組んだだけなのに、目が離せない。
バスローブの隙間から垣間見える、白い足が色っぽい。
その白い太腿を自分の指先で、誘うようにゆっくりなぞる。
『眠る前ですから、ハーブティーにいたしましょうか?』
『眠れなければ、真澄が眠らせてくれればいいわ。この胸も秘めた場所もあなたにならあげられる』
『奥様、私は、ただの使用人でございます』
『私を愛すれば、あなたにお金の不自由はさせないわ』
『奥様』
『可愛い弟の手術のために、お金がほしいんでしょう』
『弟のことまでご存じなのですか』
『主人はしょせん小田原の養子よ。この家のことは頭首のお父様と同じくらい知っているわ』
『それでも、私は』
『悩む必要は、ほんの欠片もなくってよ』
心の底から声をあげて笑う。
奔放な奥様の役だ。
『さあ、私の指に誓いのキスをなさい』
どこまでも強気な主人公。
この主人公の弱みは火遊びだった遊びが本気になってしまったことだ。
『ご主人様には、逆らうわけに参りません』
『あなたのご主人様は、この私よ』
妖艶に笑って、真澄の頬を打つ。
『あなたは私のものよ。誰にもわたしはしない』
頬を打ったその場所を、掌がそっと包み込む。
『好きなのよ、あなたを。真澄を独占したいのよ』
滴る蜜のような甘い誘い。瞳をめいっぱい甘くさせる。
『奥様、もったいないお言葉ですが、私は仕える身です。どうかお許しください』
「はい、OK!葵ちゃん、すごーく色っぽいわ。最高よ。奥様って言うよりドSの若奥様って感じかしら?」
バスローブを脱いで、セットの上から降りて行く。
「松坂さんの真似はしなかったので。僕自身の演技です」
「篠原ちゃん、どうだった?」
「松坂さんのような熟女ではありませんが、葵は葵の色気がありますね。下から見上げられたときは、ぞくっと背筋が震えました」
「そうよね、あの目は葵ちゃんの魔性の目ね」
モニターに今撮った映像が流れている。
篠原の横に立って、葵は自分の演技をじっと見る。
舞台では女性の役も何度もこなしている。もともと葵は舞台の仕事が多い。2・5次元俳優。恋人育成ゲームから派生した月のシンフォニーの主要メンバーでもある。モデルもするし、歌ったり踊ったりしながらミュージカルのような演技もする。だから葵の声域は普通の役者より広いし美しく響く。仕草も細やかで視線の動かし方もうまい。葵を評価する雑誌やコメンテーターにはよく言われていることだ。葵自身は、目の前の仕事をひとつずつ乗り越えてきただけなのだが、よい評価をされれば気持ちは嬉しくなり遣り甲斐に繋がる。
「ねえ、篠原ちゃん。葵ちゃんを主演女優にしちゃっていいかしら?」
「僕は構いませんよ」
「さすがに主演女優だと、女優陣に睨まれそうですね」
葵はすっと肩を竦める。
「今から新たに主演女優を探す時間がないのよね。セリフが全部入ってて、美人で声域が広い葵ちゃんは使い勝手がいいのよ」
「僕は便利屋ですか?僕の役の弟はどうするんです?」
「葵ちゃんがやればいと思うのよね」
「はあ」
そんなに簡単に決めていいのか?
「ゼネラルプロデュサーとスポンサーに相談してくるわ。葵ちゃんはOKでいい?」
「僕でいいなら」
「いい返事もらえて嬉しいわ。今日はよく休んで。帰っていいわよ」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
ポンと肩を叩かれ、篠原が葵の肩を抱く。すっとその腕を抜け出して、葵は椅子に置いた鞄を持つと、振り向いてニコッと笑う。
「篠原さん、早く着替えてきて。本当にお腹ぺこぺこ」
「わかったよ」
篠原は控室の方に歩いて行く。その背中を見ながら、顔を真っ赤にさせていた。
『赤い誘惑』というお話は、人気作家が書いた恋愛小説で、人妻が使用人と恋に落ちる話だ。いわゆる不倫の話で、人妻がひたすら使用人を誘惑する。キスシーンやエッチシーンも多い。最後はベッドシーの合間に毒を飲んで心中するが、死ぬのは人妻だけだ。愛するものを残していく悲恋ものだ。恋愛初心者の葵には難しい役だ。少し演じただけで、許容オーバーだった。篠原相手に口説きまくるのは、正直恥ずかしいしどうしたらいいのかもさっぱりわからない。
監督は、このドラマの関係者たちと映像を見ながら検討会をするのだろう。そこで却下と言われればいいと思う。主演女優は女優がすべきだ。
きちんと演じたことも、その場で断らなかったことも、俳優としてのくだらないプライドだ。
葵は自販機のあるロビーに移動し、椅子に座ってホットチョコを飲みながら篠原を待った。
あんなに感じていた空腹は、なくなっていた。
役が来たらどうしようと悩んだのは、初めてのことだった。
「元気がないな。どうかしたのか?」
「僕でいいならなんて、言わなきゃよかった」
ステーキをフォークでつつきながら、葵は重い溜息をついた。
「僕が演じられるような役じゃないんだ」
「十分に魅力的な奥様だったがな」
葵は俯いて首を左右に振る。
長い髪が葵の頬を隠す。魅力的な目元も影を落としている。
「今までオーディションを受けて、絶対役を取るんだって執着をしてきたけど、今回は役が回ってこないでって、あれからずっと思ってるんだ」
「僕と共演できるのにか?」
「僕には演じきれない」
「どうして?」
「大人の恋愛なんて僕にはわからない。この間、初めてキスしたばかりの人に、人を誘惑するような役ができると思う?」
柔らかいお肉をナイフで切って、口に運ぶ。
味は美味しいのに、心から美味しいと感じられなくて、お肉にも申し訳なくなる。
「役者は与えられた役を演じるのが仕事だ」
「わかってるよ」
腹が立つほど、苛立つ。
(言われるまでもなく、そんなことわかっている)
お肉をひたすらナイフで切って、裂いて、バラバラにしてプレートの上は雑然と散らかっていく。
いつも上品になんでも綺麗に食べる葵だが、目の前の肉に八つ当たりしている。
「僕は役者失格だ。役者ができる器じゃなかったんだ」
「今日はずいぶん自虐的だな。散らかした肉ちゃんと食べろよ」
「わかってる」
ずたずたに裂かれた肉を、フォークで集めて口に運ぶ。
まるで離乳食のように、ほとんど噛まずに飲みこめてしまう。
せっかくのお肉の味が台無しだ。
「まだ正式に決まったわけじゃない。でもまあ、あの監督のことだ。葵に決めてくるだろうな」
「逃げられない気がする」
すべてを口の中に入れて、プレートの上を空にすると、葵は大きなため息を落とした。
「どうして、そんなに落ち込むんだ?」
「何でもできる篠原さんには分からないよ」
「ラブシーンが多いからか?」
葵は顔あげた。
ぱっと顔が赤くなる。
「篠原さんは、誰が相手でもできるんだよな?」
上げた顔がすとんと下がる。
考えないようにしてきた事実だ。
もともと篠原は松坂とキスもラブシーンもする予定だった。
篠原に恋人だと言われても、何度も抱かれても、台本を読むと篠原の恋人は松岡で、決して自分ではなかった。
役が回ってきて、自分が恋人役に抜擢されたとしても、松坂のような大人の演技ができるとは思えない。
思えない自分にも苛立ちを感じてしまう。
もし、他の誰かが選ばれても、この苛立ちは消えない。
「仕事だからな」
篠原の言葉が胸に刺さる。
「僕は子役のうちに引退しておけばよかった」
そうしたら、篠原と深い関係にもならず、見放されたまま会うこともなかっただろう。
ずっと憧れの人のままでいられた。
わけの分からない苛立ちも、どうにもならない胸の痛みも感じることはなかった。
「帰るか?葵」
「うん」
俯いたまま、葵は立ち上がった。
「おいで、葵」
肩を抱かれそうになって、葵はそれを拒んだ。
「触らないで」
「葵?」
「僕たち別れよう」
篠原がびっくりした顔をしている。
「とにかく、うちに帰ろう。話はそれからだ」
「うん」
葵は篠原の数歩後を歩いた。
「恋人じゃなかったら、苦しくなくなるかもしれない」
「なにが苦しんだ?」
「篠原さんが誰かとキスをしたりラブシーンを演じるところを見ること」
篠原は難しい顔をしていた。
「選ばれたとしたら、相手は葵だ。何か問題でもあるのか?」
「僕はもうテレビの仕事はしない。篠原さんとも、もう会わない」
「話が飛躍しすぎていて、理解が追いつかない。分かるように話してくれ」
「つらいんだ」
葵はソファーに座ったまま、頭を抱える。
「こうして一緒にいることも。触れられることも、抱かれることも全部」
「嫌いになったのか?」
葵は首を横に振った。
「恋愛というカテゴリーで好きかどうかもまだわからない」
葵はソファーから立つと、荷物を纏めだした。
もともと鞄の中から出し入れしていただけだから、ほとんど散らかってはいない。
「葵、別れるなんて、許さない」
「許されなくてもいい」
火傷の薬は忘れないように、先に鞄に入れた。
商売道具の台本も大切だ。
洋服にメイク道具。
学校の教科書とパソコンが入ったパソコンバック。
揃えているうちに、涙の滴がスカートの上に落ちる。
「どうして泣いているんだ?」
「泣いてなんてないよ」
そう言いながら、静かに涙が流れている。
「今までありがとう。さようなら」
両手に鞄を持って、葵はリビングから出て行こうとしたが、背後から抱きしめられた。
「葵、行くな」
「もう決めたんだ。離して」
「自己完結させるな。一つずつ解決させていこう」
「無理だ」
腕の中でもがく。
荷物を落として、篠原の拘束を解こうと突き飛ばそうとしたが、逆に抱きしめられて動けなくなる。
「どんなことがあっても手放さないと言っただろう」
「それは篠原さんが勝手に言ったことだ。僕は言ってない」
「つべこべ言うな」
体を担ぎ上げられて、足が浮く。
「下ろせよ」
「出ていくって言うなら、出ていけないようにしてやる」
寝室に連れて行かれて、ベッドの上に放り出される。
「痛っ」
衝撃で息が詰まる。
体を起こす前に、篠原が覆いかぶさってくる。
呼吸を奪うようなキスをされて、酸欠で意識が遠くなる。
目の前がちかちかしてきたころ、唇が離れて行った。
胸元からワンピースが引き裂かれる。
シフォンのワンピースは容易く布きれに変わってしまった。
ワンピースだったもので、片手を縛って、ベッドに繋がれた。
「放して」
「放してやらない」
トランクスも脱がされて、素肌にはワンピースの残骸と足の包帯だけになる。
足と足の間に体を滑り込ませ、足を開かれる。
また抱かれるのかと思ったけれど、足を抱え上げられて、蕾に触れてきたのは篠原の欲望ではなかった。
舌先が蕾を突く。添えられた指が、秘められた場所を拓く。
「やだ。そんなのやめて」
指で開かれた場所に、舌先が忍び込んでくる。ぺちゃぺちゃと濡れた音がする。
耳を塞ぎたくなるほど淫靡な音だ。
「篠原さん、やめて」
「やめない」
指先が柔らかくなってきた蕾の中に入ってくる。
一度に二本の指の挿入は、狭い場所をいっぱいに広げてくる。
「葵のいい場所、教えてやろうか?自分で指入れられる?」
「いやだ」
首を左右に振ると、「入れろ」と命令される。
空いた片手が葵の手を握って、下肢へと導く。
「中指を僕の指と指の間に、入れて」
「やだ」
強引に葵の手を蕾に導いて、無理やり指先を蕾の中に誘導する。
体の中は、想像以上に熱かった。
「僕の指についてきて」
しかたなく言われるままに、体の奥へと指を挿入していく。
「少し固くなってるの分かるか?」
「うん」
「そこに触れてごらん」
そろりと触れると、電流が流れたように体が跳ねた。
「やだ」
挿入していた指を引き抜いて、目の前の肩を押す。
「もう覚えてるんだよ。体が快感を」
篠原の手がそこを撫でたり、とんとんと突く。
その度に悲鳴のような声が上がる。
「怖い」
「これは気持ちがいいと言うんだ。その証拠に、葵は勃起してる。
空いた片方の手が、葵の欲望を握った。
「今日も元気がいい。蜜が溢れている」
先端に漏れた蜜を陰茎に塗りこむようにしながら、葵を追い上げていく。
花園の奥の感じる場所を突きながら、葵の敏感な先端部分を指先が突く。
「やめて、苛めないで」
「優しくしてるじゃないか」
葵は激しすぎる快感に、ぽろぽろ涙を流していた。
「出る。もう、我慢できない」
「我慢しなくていい」
「あああん」
腰を揺らしながら射精をしていた。
「たくさん出たね」
嗚咽する葵に、優しいキスが唇に触れる。
精液で濡れた手が、葵の胸に触れる。
羽が触れるような優しさで撫でられて、腰が揺れる。
つんと乳頭が立ちあがってくる。
その先端を撫でたり摘まんだり篠原は、葵の様子を見ながら試している。
唇で甘く噛まれて、泣き声が大きくなる。
「胸は噛まれた方が好き?先端を撫でられるのも好きみたいだね」
「ちがう」
「僕には分かるんだ。葵しか見てないから」
胸ばかりを重点的に攻められて、体が熱くなる。
「また勃起してる。敏感な体だね。このままイきたい?」
葵は首を左右に振る。
射精するほどの強い快感ではない。
嬲られてる感じだ。
「まだ葵は経験が浅いから、少し物足りないかもしれないね?」
葵の性器に触れる。
握って扱かれる。
熱が集まってくる。
もう少しで射精しそうなところで寸止めされた。
「篠原さんっ」
「そうだね、名前の呼び方が問題かもしれない。純也って呼んで。昔みたいに」
葵は首を左右に振った。
「もう、あの頃には戻れない」
「頑固だね」そう言うと、葵の熟した先端をぺろりと舐めた。
根元は握ったままで。
舐めて、先端の括れを甘噛みされて、最後に強く吸われた。
「ああん」
射精せずにイった。
頭が一瞬真っ白になった。
呼吸が乱れて体が震える。
葵はぽろぽろ泣いていた。
「今のはドライだ。初めてだろう?今度はきちんとイかしてあげるよ」
そういうと、葵の勃起したものを口の中に含んで、先端を舌で転がす。
「あ、ああっ、だめ」
転がすのに飽きたころに、葵の雄を篠原の舌が舐める。
張り詰めた竿の部分も舐め上げられ、初めての体験に腰が震える。
「そんなことしないで」
「したいんだよ」
ぺちゃぺちゃとした濡れた音が、耳を犯す。
「気持ちいだろう?先端が濡れてきた」
ぱくっと食べられたように感じられた。
「あっ」
篠原が、葵の先端を頬張った。
舌先が鈴口を突く。
「だめ」
先端を舐めまわすと、今度は口腔を締め付けて上下運動を始める。
「ああああっ」
敏感なところが狭くて締め付ける場所を往復する。
全身を貫く快感が走りぬけ、葵は身を歪めながらあっという間に弾けていた。
篠原は残滓まですべて吸うと、こくりと飲みこんだ。
「ごめんなさぃ」
「謝る必要はないよ。最初から飲むつもりだったからね。僕とした方が、女を抱くより気持ちがいいと思うよ」
「僕は他の誰かとしたいわけじゃない」
「葵は僕としたいんだよね?」
「そんなこと言ってない。ああっ」
内股を篠原の手が撫でる。
「葵、ここ感じるんだろう?見てればわかる」
「ああっ」
涙の残った頬を、篠原はぺろりと舐めて、葵の中に自身を挿入した。
一気に奥まで挿入されて、葵の雄が一気に弾けた。
「葵は女の子みたいに奥を突かれるのも好きだよね」
「ちがう」
激しく奥を突かれて、息が弾む。
「違わないよ?また勃起してる」
深く浅く、葵の中を突きながら葵の体のラインをなぞる。
「葵が美しすぎて、いつもどうやって抱こうかって、そればかり考えているんだ」
足を抱えて、白く綺麗な太腿にキスをして舌を這わせると、葵の中が締め付けてきた。
「感じるんだね」
「篠原さん、篠原さん・・・」
「葵は好きな人相手じゃなくても、こんなに感じて、乱れたりするの」
「わかんないよ。全部初めてなんだから」
強すぎる快感は、気持ちよさを通り越して拷問になる。
「もう、やめて」
深い場所を早いリズムで突かれて、ぎゅっと抱きしめられて体の深い場所が熱を感じた。
「僕は葵を好きだから、どんなに抱いても抱き足りないんだ」
体の中から、篠原が出て行った。
瞬きをするたびに涙が流れているその頬を、篠原は何度も舐めて、魂が抜けたように体を投げ出している葵の拘束を解いてやる。
腕に抱き篠原自身を跨がせた。
「今度は自分で僕を君の中に入れて」
葵はふるふると首を振る。
「葵は僕を愛してないの?」
「愛してなんて・・・」
いないとは言えなかった。その代わりに新しい涙が溢れてくる。
「体は、こんなに僕を受け入れてくれているのに」
葵の体を持ち上げて、蕾の上に欲情した篠原をあてがった。
膝立ちの葵の足は力尽きそうで震えている。
「篠原さん、僕は」
「葵を好きだよ。好き以外の言葉は受け付けない」
「僕は篠原さんを独占したいんだ。こんなに我が儘な気持ちは、篠原さんの足を引っ張る。僕は篠原さんを好きだけど、俳優の篠原さんも大好きなんだ。足を引っ張るくらいなら僕なんていないほうがいいんだ。僕が篠原さんの前から消えたら、また、8年前みたいに、篠原さんは僕を忘れる。忘れた方がいいんだ」
「葵、それは違う。僕は忘れていたわけじゃない。見守っていただけだ」
「それでも、僕はずっと寂しかった。嫌われたと思ってた。今、好きだと言われてもピンとこないくらい。僕は篠原さんを思い出に変えていたんだ」
震えていた足が限界を迎えて、篠原の欲望が葵の蕾を開きかえたとき、葵は強引に体を捻った。そのままベッドの下へ落ちていく。
ダンと大きな音が響く。
「葵!」
「っ!」
身構えることもせずに転落して、葵は床に転がっていた。
自分で起き上がる力は、もう残ってはいない。
落ちた衝撃と打ち付けた痛みで、また新しい涙がこぼれた。
「怪我は?痛いところはないか?」
「松坂さんの代わりに僕が怪我すればよかった」
床に倒れている葵の体を抱き上げると、葵は閉じた瞼を震わせていた。
どこかが痛むのかもしれないが何も答えず涙を流していた。
そのまま腕に抱いて篠原はベッドに座った。
「独占してくれていいんだよ。その方が僕は嬉しい」
「きっと重く感じる」
「僕の方が、ずっと葵を好きだと思うよ。素直な葵も大好きだ。今みたいな頑固な葵も大好きだよ。立派な俳優になった葵も大好きだ。どの葵も独占したくて、葵の心を置き去りにして無理やり抱いた」
「好きだと言われて、嬉しかったんだ。だけど、それと同じくらい怖いんだ」
「なにが怖いんだ?」
「昔みたいに僕の目の前から消えられるくらいなら、最初から与えないで」
「トラウマにさせてしまったのか」
大切に抱きしめられて、篠原の肩に頬を埋める。
「前にも言ったけど、僕は葵を手放さないし、葵には僕以外を好きにはさせない」
葵は頷いた。
「信じてくれるか?」
「篠原さんの愛を信じさせて」
「ドラマのフォローは僕が責任をもってする。だから、葵は葵らしい演技をすればいい」
「うん」
「小池さん、AVでもなんでも、男女の絡みのあるドラマのDVDを集めて、僕に見せてください。あとバスローブとアクセサリー、一般的なのでいいので」
松岡の代役の正式なオファーが来たのは、翌日のことだった。
役作りにもらえた日数はたったの三日。
「今、ここにあるのは十本くらいかな?」
「取り敢えず、それを貸してください。僕には知識がなさすぎるんです。できるだけたくさん知識が欲しい」
「家に届ければいい?」
「はい」
事務所に呼びだされ、葵はそのまま自宅に戻っていた。
「役作りをしたいから、三日間家に戻りたい」と言ったら、篠原は「行っておいで」と帰ることを許してくれた。
合鍵を交換する条件は出されたが。
火傷の手当は、毎日しに行くよと言われて、了承した。
史郎が口にしたギブ&テイクだ。
できるだけたくさんのドラマを見て、女性らしい動きと声の出し方を記憶していく。
実際に台本の通りに演技して、自分の姿もチェックしていく。
「葵、シャワー浴びるぞ」
「んっ」
篠原が購入してくれた洋服は、女性らしい動きをするための必需品になっていた。
バスローブを脱いで浴室に入っていくと、篠原は苦笑しながら、葵の体を洗い流してくれる。
「前より色気がなくなってる気がするが」
「今はいいんだ。演技してないから」
エッチは仕掛けてこない。
葵が本気で学ぼうとしている姿をみて、応援してくれているようだ。
その優しさに胸がいっぱいになる。
「篠原さん、いつもありがとう」
「火傷の手当をしているだけだぞ」
「顔見せてくれて、嬉しい」
甘えるように抱きつくと、キスをくれる。
キスに慣れていない葵のための、レッスンのキスだ。
いろんなパターンがあることに気づいていた。
濃厚なキスは、まだ慣れない。
葵からもキスをする。
誘うのは葵だからだ。
先に教わった順番でキスを返していく。
「成長が早い」
葵ははにかむように微笑む。
「今は何を見てるんだ?」
「AVだよ」
「やりたくなったりしないのか?」
「見てるのは、セリフと女優の動きだけだから」
火傷の薬を塗って包帯を巻いてくれる。
もう痛みはかなり軽くなっている。
赤みも最初に比べてずいぶん小さくなってきている。
痕はきっと残らないだろう。
ベッドから落ちたときの痣の方が目立つほどだ。
「眠っているのか?」
葵は微笑むことで答える。
「倒れるなよ」
約束はできない。
「食事は食べてるのか?」
「小池さんがコンビニでお弁当買ってきてくれる」
「腹が減るだろう?」
「今は仕方ない」
もう一度キスをして、そっと体を押す。
それがさよならの合図だ。
「また来るよ」
「気を付けて帰ってね」
玄関で見送って扉が閉まると、葵はリビングのテレビの前に移動する。
新しいディスクを入れて、女優の話し方や動きを覚えていく。
ラブシーンはどうしても自信が持てない。
思い出すのは激しく求愛してくる篠原の姿だ。
反転させればいいのかと気づいたが、ラブシーンはひとりでは練習できない。
今回は舞台ではなく、ドラマだ。
順序がぐちゃぐちゃなのはいつものことだ。
イメージが掴めるまで後回しにしてもらえばいい。
どこまでも原作に忠実に演じるために、原作の本も何度も読み返して主人公を探る。
葵は2.5次元の役者だ。
二次元のストーリーと登場人物を忠実に三次元で演技する。
表情や仕草、話し方、視線の動かし方まで読み取っていく。
それが、2・5次元だ。
主人公を掴めたところで、今度は台本の中の主人公を忠実に再現していく。
カメラを設置して、実際に動いてみる。
何度もその作業を繰り返して、あっという間に三日が過ぎた。
朝、迎えに来た篠原に、葵は自分からキスをした。
体が熱くなる激しいキスをしたい。
「うまくなったな、葵」
「篠原さん、僕を抱いて。ラブシーンはひとりで練習できない」
「今がいいのか?それとも帰ってからがいいのか?」
「今だと、遅刻するかな?」
篠原は笑うと葵を抱き上げて、ベッドに運ぶ。
ふわりとロングのウイックの髪が白いシーツに広がる。
きめの細かな色白な肌に、薄化粧を施した葵の顔は、どこからどうみても少女のように可愛らしい。
キスをしながらブラウスのボタンを外していく。見えてくるのは篠原が最初に選んだブラジャーだった。
篠原が嬉しそうに笑んだ。
わずかにできた胸の谷間にキスが落ちてきた。
ブラをずらして、掌が胸を包んで少し強めに揉んでくる。
葵は女性としてそこにいた。
篠原が女をどんな風に抱くのか見てみたかった。
抱かれやすそうな洋服を選んで、下着もすべて女性ものを身に着けた。
耳にはイヤリングをして、細いネックレスもしている。
装飾品がどんな動きをするのかも気になった。
強く胸を噛まれて、甘い声があがった。
声の出し方は練習したが、突然の快感で演技は難しい。
それでも以前より女性らしい仕草を見せる葵に、抱いている篠原は気づいていた。
「篠原さん、いつもより熱くなってる」
「こんなに色っぽい葵は見たことがない」
「嬉しい、あっ」
「嫌がってたのに、パンティー履いてるんだな」
「篠原さんが喜びそうだったから」
サイドのリボンを解きながら、下半身から下着を剥ぎ取っていく。
スカートのウエストは外さないんだ。
スカートをまくり上げられて、葵の雄を口に含む。
「あ、篠原さん」
「久しぶりだから溜まっているだろう」
以前してくれたようにフェラチオが始まった。
前より激しく求められて、葵の性器はすぐに限界を迎える。
篠原の口の中にすべてを出し切って。
荒い呼吸を整えながら、篠原の表情をずっと観察する。
足を拡げられ、結ばれる場所に、篠原はキスをして、舌先で突いてくる。
以前は簡単に入ってきた舌が、入ってこない。
指先が添えられて、交わる場所を左右に拡げられる。
わずかにできた隙間に、篠原はキスをして、そのままその場所を噛みつくようにキスを深めてきて、葵は耐え切れす、悲鳴を上げていた。
高く響く艶のある声だ。
足の間にある篠原の欲望が、大きくなったような気がした。
結合部に唇をあてがったまま、何かが注がれていくのが分かった。
「なに?」
「葵が出したもの」
「え?」
「潤滑剤代わりになる」
「そうなんだ?」
舌と指が、交わる場所を拡げていく。
「ああ、だめ」
「久しぶりだから、硬くなってる」
「少しくらい痛くてもいいから、先に進んで」
「ここに手を抜く奴は、愛されてないと思った方がいい」
「女の人も、こんなふうに触るの?」
「答えたら、葵は泣くんじゃないのか?」
「今は泣かないから。質問に答えて」
「女は自分で濡れてくる。もちろん指でも触る」
「わかった」
篠原は女性と抱き合ったことがあるのか。
確かにショックを受けた。それを言わせたのは自分なのに。
「葵の胸は柔らかいな」
下着に押されて盛り上がった胸にキスを落とす。
先端を甘く噛まれて、以前とは違う甘い痺れが下半身を直撃した。
「胸だけでも感じるだろう?」
「あああっん」
胸を弄りながら、下半身を解されていく。
指が三本入ったところで、篠原は動きを止めた。
「先にイくか?それとも入れていい?」
「入れて」
「葵から誘われる日が来るとはな」
指が抜かれて、いつもより大きく見える篠原が、葵の蕾を押してきた。
「久しぶりだから、痛かったら言えよ」
「うん」
ぐっと押し開かれて、先端の太い部分が入ってきた。
「あっ、あっ、あっ」
「深呼吸だ、忘れたのか?」
篠原が動きを止めた。
「忘れてた。女の人も深呼吸するの?」
「女は濡れてるから、すぐに入る」
「それなら、僕も女の人を抱くように抱いてみて」
「なに言ってるのか分かってるのか?男と女は仕組みが違うんだ」
「それでも、僕は今女になってるんだ」
「まったく」
篠原は浅い場所で何度か腰を使うと、吐精をした。
いつもより早い。
今度は一気に奥まで入れられて、葵は体を反らせて、甘い声を漏らす。
何度も奥を突かれて、気持ちよくて泣きそうになる。
「葵、痛くないな?」
「気持ちよすぎて、おかしくなりそう」
「おかしくなってみろよ」
「どんなふうに?」
「ストッパーを外せ」
「篠原さん、どうしよう。すごく好きだって言いたい」
「どうしようじゃなくて、好きと言ってくれ」
クスクス笑いながら篠原がキスをしてくる。
「好き。もっと強く抱きしめて」
「かわいいな、ずっと抱いていたくなるくらい」
腰を使われると、喘ぎ声がでる。声が高くて自分の声じゃないみたいだ。
快感が強くて最後はすすり泣きに変わる。
「そろそろ出すぞ」
何度も頷く。
ぎゅっと抱きしめられたとき、葵は篠原と絶頂を迎えていた。
体の奥が震えている。
「好き」
「好きだよ、葵」
愛されていると分かるほど、優しく体を包まれる。
ずっとこうしていたいと思えるほど。
浴室でもう一度抱き合ったあと、葵はスタジオ入りした。
今日は試し撮りだ。
スタッフは最小限だ。
「セリフを少し変えさせてもらった。基本は小説に忠実に。葵の年齢が若いから、言葉遣いを自然にさせた。ストーリー展開は今までと同じだ」
めったに顔を出さないプロデューサーが葵に新しい台本をくれる。
「できるか?」
「はい」
「いい返事だ」
「一度読ませてもらっていいですか?」
「是非、そうしてくれ。時間が押してるんだ」
「はい」
「学校の方の授業もあるな?」
「はい。すみません。両立させてください」
「スケジュールはマネージャーと打ち合わせしておく。怪我と病気は絶対にするな」
「気をつけます」
「葵に限ってないと思うが、肌に色っぽいあとはつけてくるな」
「え?」
「わからないなら、それでいい」
葵の隣で、篠原がクスクス笑っている。
「なんですか?」
「キスマークつけてくるなと、言われたんだ」
ぱっと葵の顔が赤くなる。
プロデューサーと監督が声を上げて笑った。
「葵ちゃん大丈夫?今から演じるのは、激しいエッチシーンもあるのよ?」
「あああ、あの。頑張ってイメージトレーニングするので、撮影は後の方に」
「そこだけが心配なのよね」
「がんばります」
「一時間後、試し撮り始めるから、台本読んで覚えてくれるか?」
「少し、集中させてください」
「会議室をひとつ開けるから、そこを使って。篠原さんも台本読み返してくださいね」
「わかりました」
新しい台本を握りしめて、葵は篠原と会議室に移動した。
「葵、まだ終わらないのか?」
「三日間、缶詰だったから、宿題のレポートができてないんだ。これ出さないと単位もらえない」
ノートパソコンを開いて、タッチタイピングで文字を打ち込んでいる。
「篠原さん、先に休んでください」
「連日の徹夜は許せないな」
「留年はしたくないんです。ああ、もう。話しかけないで。集中できない」
葵は篠原の家に戻ってきていた。
「今夜のエッチはお預けか」
「朝したじゃないですか」
「まだ色気が足りない」
「今夜は駄目です。課題が優先。仕事は明日」
「僕とのエッチは仕事じゃないだろう?」
「プライベートでも今日は課題優先」
「仕方ないな。早く寝ろよ」
「うん」
カタカタとタイピングの音が響く。
葵の頬にキスをすると、篠原は寝室に入っていった。
「両立って、やっぱり大変だ」
あくびがふわりと出る。
「試し撮りでOKもらえてよかった」
これから本格的な撮影が始まる。
主演女優となると出番は一番多くなる。
今より忙しくなるのかと思うと、気分が滅入った。
滅入ったところでまた滅入った。
篠原は女性の体も知っている。
付き合っていたのだろうか?今はどうなんだろう?
胸の谷間に口づけしていた篠原を思い出して、一気に沈んだ。
(やっぱり女がいいのかな?)
恋人だと言われても、やはり不安で、胸が痛くなる。
(僕は篠原さんを本気で好きになってしまったんだな)
史郎を見て学んだ、恋愛の心の変化を思い出し、自分をあてはめみて、胸に手を当てた。
好きという気持ちは、心にいろんな変化を起こさせる。
「恋しいな」
触れられたい。
早く課題を終わらせよう。
少しでも一緒にいられるように。
再びタイピングを始める。
「おはようございます。遅くなりました」
授業を終えて、撮影場所に合流すると、スタジオがざわついていた。
葵の後ろから救急隊が走ってくる。
マネージャーの小池が葵を背中に庇う。
「葵、お帰り」
葵の肩をポンとたたいて、篠原が顔を出した。
撮影用の衣装を着ている。
「篠原さん、何かあったんですか?」
「松坂さんが、器材につまずいて転んでしまったんだ。転んだ先に立てかけてあった器材が倒れてきて、潰されてしまったんだ。たぶん肋骨や足が折れてるな」
「主演女優どうするんでしょう?」
「今日のところは、保留のまま解散になるだろうな」
「ドラマ延期になるのかな?」
「どうかな?まだ何も分からない」
担架に乗せられた松坂が救急隊に連れて行かれる。その後から、松坂のマネージャーが電話をしながらついて行く。
「松坂さん、痛そう」
「早く治るといいな」
「うん」
監督がパンパンと手を叩いて、ざわついた周りを静かにさせる。
「こんなことになっちゃたから、今日は解散ね。連絡は事務所を通してするから待っててね」
キャストたちがスタジオから出ていく。
「小池さん、今日も僕が葵を連れて行きますから、帰ってもらって大丈夫ですよ」
「そうですか。毎日お世話になります。それでは失礼します」
葵が言葉を発する前に、マネージャーはさっさと背を向けて帰っていく。
「小池さん、僕は家に帰りたいのに・・・」
「往生際が悪いな、葵」
「だって」
篠原は毎日、葵を抱く。
それが当然のように。
優しくしてくれる篠原のことは嫌いではないが、まだ感情が追いついていない。
「篠原さん、今日のご飯はお肉にしてね。美味しくないと許さない」
「ワインもつけてあげようか?」
「ワインは別にいいよ。僕だけ飲んでも楽しくないし、ワイン渋いからちょっと苦手なんだ」
「葵はまだおいしいワインを飲んだことがないんだな。渋いワインもあるが、甘口も辛口もいろいろあるんだよ」
「そうなんだ?」
「おいしいワインを飲みに連れて行ってやらないとね」
「今はワインいらない。僕はお腹が空いてるんだ」
「学食で食べてこなかったの?」
「時間がなかったんだよ。コンビニのおにぎり一個じゃ足りない。小池さん一個しか買ってきてくれなかったんだ」
「それは可哀そうだね。お弁当の残りあったかな?いや、食事に行くならお腹は空かせておけ。美味しいもの食べさせてやる」
膨れっ面のままうんうんと頷いて、「帰ろう」と篠原の腕を引っ張る。
「篠原ちゃん、葵ちゃんの声がしたような気がしたんだけど、来てるかしら?」
「来てますよ」
篠原が答えた。
「篠原ちゃんと葵ちゃんは、ちょっと残ってて」
ふたりで顔を見合わせて、監督の近くに寄っていく。
スタジオに人がいなくなると、監督がやっと動き出す。
開いていたスタジオの扉を閉じて、戻ってくる。
カメラマンが一人残っていた。
「葵ちゃんのことだから、セリフは全部入ってるでしょう?」
「誰のセリフでしょうか?」
監督が台本をぽんと叩いた。
「まるっと一冊のことよ」
「完全に全部覚えてるわけじゃないですよ」
篠原が人の悪そうな顔で笑っている。
葵がいつも台本のすべてを覚えていることを知っているのは、子役の頃から付き合いのある者だけだ。
篠原は付き合いが長いので知っている人だ。
「このセットどこからか分かるわね。さあ、私に葵の演技を見せてちょうだい」
「無茶言いますね」
葵は鞄を椅子の上に置くと、篠原と一緒にセットの中に入っていく。
ハンガーに掛けられた真紅のバスローブを身に着け、最初の立ち位置につくと、大きく深呼吸をひとつした。
「スタート」
監督の声でカメラが回り出す。
『奥様、今夜は冷えてまいりました。温かくしておやすみください』
『いやよ。まだ眠くなんてないんですもの。それよりも真澄、温かな紅茶を淹れてくださる?』
真紅のバスローブを身に着けた、葵が演じる。
誘うような艶のある視線と繊細な手の動き。声はソプラノだ。
優雅に足を組む。ただ足を組んだだけなのに、目が離せない。
バスローブの隙間から垣間見える、白い足が色っぽい。
その白い太腿を自分の指先で、誘うようにゆっくりなぞる。
『眠る前ですから、ハーブティーにいたしましょうか?』
『眠れなければ、真澄が眠らせてくれればいいわ。この胸も秘めた場所もあなたにならあげられる』
『奥様、私は、ただの使用人でございます』
『私を愛すれば、あなたにお金の不自由はさせないわ』
『奥様』
『可愛い弟の手術のために、お金がほしいんでしょう』
『弟のことまでご存じなのですか』
『主人はしょせん小田原の養子よ。この家のことは頭首のお父様と同じくらい知っているわ』
『それでも、私は』
『悩む必要は、ほんの欠片もなくってよ』
心の底から声をあげて笑う。
奔放な奥様の役だ。
『さあ、私の指に誓いのキスをなさい』
どこまでも強気な主人公。
この主人公の弱みは火遊びだった遊びが本気になってしまったことだ。
『ご主人様には、逆らうわけに参りません』
『あなたのご主人様は、この私よ』
妖艶に笑って、真澄の頬を打つ。
『あなたは私のものよ。誰にもわたしはしない』
頬を打ったその場所を、掌がそっと包み込む。
『好きなのよ、あなたを。真澄を独占したいのよ』
滴る蜜のような甘い誘い。瞳をめいっぱい甘くさせる。
『奥様、もったいないお言葉ですが、私は仕える身です。どうかお許しください』
「はい、OK!葵ちゃん、すごーく色っぽいわ。最高よ。奥様って言うよりドSの若奥様って感じかしら?」
バスローブを脱いで、セットの上から降りて行く。
「松坂さんの真似はしなかったので。僕自身の演技です」
「篠原ちゃん、どうだった?」
「松坂さんのような熟女ではありませんが、葵は葵の色気がありますね。下から見上げられたときは、ぞくっと背筋が震えました」
「そうよね、あの目は葵ちゃんの魔性の目ね」
モニターに今撮った映像が流れている。
篠原の横に立って、葵は自分の演技をじっと見る。
舞台では女性の役も何度もこなしている。もともと葵は舞台の仕事が多い。2・5次元俳優。恋人育成ゲームから派生した月のシンフォニーの主要メンバーでもある。モデルもするし、歌ったり踊ったりしながらミュージカルのような演技もする。だから葵の声域は普通の役者より広いし美しく響く。仕草も細やかで視線の動かし方もうまい。葵を評価する雑誌やコメンテーターにはよく言われていることだ。葵自身は、目の前の仕事をひとつずつ乗り越えてきただけなのだが、よい評価をされれば気持ちは嬉しくなり遣り甲斐に繋がる。
「ねえ、篠原ちゃん。葵ちゃんを主演女優にしちゃっていいかしら?」
「僕は構いませんよ」
「さすがに主演女優だと、女優陣に睨まれそうですね」
葵はすっと肩を竦める。
「今から新たに主演女優を探す時間がないのよね。セリフが全部入ってて、美人で声域が広い葵ちゃんは使い勝手がいいのよ」
「僕は便利屋ですか?僕の役の弟はどうするんです?」
「葵ちゃんがやればいと思うのよね」
「はあ」
そんなに簡単に決めていいのか?
「ゼネラルプロデュサーとスポンサーに相談してくるわ。葵ちゃんはOKでいい?」
「僕でいいなら」
「いい返事もらえて嬉しいわ。今日はよく休んで。帰っていいわよ」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
ポンと肩を叩かれ、篠原が葵の肩を抱く。すっとその腕を抜け出して、葵は椅子に置いた鞄を持つと、振り向いてニコッと笑う。
「篠原さん、早く着替えてきて。本当にお腹ぺこぺこ」
「わかったよ」
篠原は控室の方に歩いて行く。その背中を見ながら、顔を真っ赤にさせていた。
『赤い誘惑』というお話は、人気作家が書いた恋愛小説で、人妻が使用人と恋に落ちる話だ。いわゆる不倫の話で、人妻がひたすら使用人を誘惑する。キスシーンやエッチシーンも多い。最後はベッドシーの合間に毒を飲んで心中するが、死ぬのは人妻だけだ。愛するものを残していく悲恋ものだ。恋愛初心者の葵には難しい役だ。少し演じただけで、許容オーバーだった。篠原相手に口説きまくるのは、正直恥ずかしいしどうしたらいいのかもさっぱりわからない。
監督は、このドラマの関係者たちと映像を見ながら検討会をするのだろう。そこで却下と言われればいいと思う。主演女優は女優がすべきだ。
きちんと演じたことも、その場で断らなかったことも、俳優としてのくだらないプライドだ。
葵は自販機のあるロビーに移動し、椅子に座ってホットチョコを飲みながら篠原を待った。
あんなに感じていた空腹は、なくなっていた。
役が来たらどうしようと悩んだのは、初めてのことだった。
「元気がないな。どうかしたのか?」
「僕でいいならなんて、言わなきゃよかった」
ステーキをフォークでつつきながら、葵は重い溜息をついた。
「僕が演じられるような役じゃないんだ」
「十分に魅力的な奥様だったがな」
葵は俯いて首を左右に振る。
長い髪が葵の頬を隠す。魅力的な目元も影を落としている。
「今までオーディションを受けて、絶対役を取るんだって執着をしてきたけど、今回は役が回ってこないでって、あれからずっと思ってるんだ」
「僕と共演できるのにか?」
「僕には演じきれない」
「どうして?」
「大人の恋愛なんて僕にはわからない。この間、初めてキスしたばかりの人に、人を誘惑するような役ができると思う?」
柔らかいお肉をナイフで切って、口に運ぶ。
味は美味しいのに、心から美味しいと感じられなくて、お肉にも申し訳なくなる。
「役者は与えられた役を演じるのが仕事だ」
「わかってるよ」
腹が立つほど、苛立つ。
(言われるまでもなく、そんなことわかっている)
お肉をひたすらナイフで切って、裂いて、バラバラにしてプレートの上は雑然と散らかっていく。
いつも上品になんでも綺麗に食べる葵だが、目の前の肉に八つ当たりしている。
「僕は役者失格だ。役者ができる器じゃなかったんだ」
「今日はずいぶん自虐的だな。散らかした肉ちゃんと食べろよ」
「わかってる」
ずたずたに裂かれた肉を、フォークで集めて口に運ぶ。
まるで離乳食のように、ほとんど噛まずに飲みこめてしまう。
せっかくのお肉の味が台無しだ。
「まだ正式に決まったわけじゃない。でもまあ、あの監督のことだ。葵に決めてくるだろうな」
「逃げられない気がする」
すべてを口の中に入れて、プレートの上を空にすると、葵は大きなため息を落とした。
「どうして、そんなに落ち込むんだ?」
「何でもできる篠原さんには分からないよ」
「ラブシーンが多いからか?」
葵は顔あげた。
ぱっと顔が赤くなる。
「篠原さんは、誰が相手でもできるんだよな?」
上げた顔がすとんと下がる。
考えないようにしてきた事実だ。
もともと篠原は松坂とキスもラブシーンもする予定だった。
篠原に恋人だと言われても、何度も抱かれても、台本を読むと篠原の恋人は松岡で、決して自分ではなかった。
役が回ってきて、自分が恋人役に抜擢されたとしても、松坂のような大人の演技ができるとは思えない。
思えない自分にも苛立ちを感じてしまう。
もし、他の誰かが選ばれても、この苛立ちは消えない。
「仕事だからな」
篠原の言葉が胸に刺さる。
「僕は子役のうちに引退しておけばよかった」
そうしたら、篠原と深い関係にもならず、見放されたまま会うこともなかっただろう。
ずっと憧れの人のままでいられた。
わけの分からない苛立ちも、どうにもならない胸の痛みも感じることはなかった。
「帰るか?葵」
「うん」
俯いたまま、葵は立ち上がった。
「おいで、葵」
肩を抱かれそうになって、葵はそれを拒んだ。
「触らないで」
「葵?」
「僕たち別れよう」
篠原がびっくりした顔をしている。
「とにかく、うちに帰ろう。話はそれからだ」
「うん」
葵は篠原の数歩後を歩いた。
「恋人じゃなかったら、苦しくなくなるかもしれない」
「なにが苦しんだ?」
「篠原さんが誰かとキスをしたりラブシーンを演じるところを見ること」
篠原は難しい顔をしていた。
「選ばれたとしたら、相手は葵だ。何か問題でもあるのか?」
「僕はもうテレビの仕事はしない。篠原さんとも、もう会わない」
「話が飛躍しすぎていて、理解が追いつかない。分かるように話してくれ」
「つらいんだ」
葵はソファーに座ったまま、頭を抱える。
「こうして一緒にいることも。触れられることも、抱かれることも全部」
「嫌いになったのか?」
葵は首を横に振った。
「恋愛というカテゴリーで好きかどうかもまだわからない」
葵はソファーから立つと、荷物を纏めだした。
もともと鞄の中から出し入れしていただけだから、ほとんど散らかってはいない。
「葵、別れるなんて、許さない」
「許されなくてもいい」
火傷の薬は忘れないように、先に鞄に入れた。
商売道具の台本も大切だ。
洋服にメイク道具。
学校の教科書とパソコンが入ったパソコンバック。
揃えているうちに、涙の滴がスカートの上に落ちる。
「どうして泣いているんだ?」
「泣いてなんてないよ」
そう言いながら、静かに涙が流れている。
「今までありがとう。さようなら」
両手に鞄を持って、葵はリビングから出て行こうとしたが、背後から抱きしめられた。
「葵、行くな」
「もう決めたんだ。離して」
「自己完結させるな。一つずつ解決させていこう」
「無理だ」
腕の中でもがく。
荷物を落として、篠原の拘束を解こうと突き飛ばそうとしたが、逆に抱きしめられて動けなくなる。
「どんなことがあっても手放さないと言っただろう」
「それは篠原さんが勝手に言ったことだ。僕は言ってない」
「つべこべ言うな」
体を担ぎ上げられて、足が浮く。
「下ろせよ」
「出ていくって言うなら、出ていけないようにしてやる」
寝室に連れて行かれて、ベッドの上に放り出される。
「痛っ」
衝撃で息が詰まる。
体を起こす前に、篠原が覆いかぶさってくる。
呼吸を奪うようなキスをされて、酸欠で意識が遠くなる。
目の前がちかちかしてきたころ、唇が離れて行った。
胸元からワンピースが引き裂かれる。
シフォンのワンピースは容易く布きれに変わってしまった。
ワンピースだったもので、片手を縛って、ベッドに繋がれた。
「放して」
「放してやらない」
トランクスも脱がされて、素肌にはワンピースの残骸と足の包帯だけになる。
足と足の間に体を滑り込ませ、足を開かれる。
また抱かれるのかと思ったけれど、足を抱え上げられて、蕾に触れてきたのは篠原の欲望ではなかった。
舌先が蕾を突く。添えられた指が、秘められた場所を拓く。
「やだ。そんなのやめて」
指で開かれた場所に、舌先が忍び込んでくる。ぺちゃぺちゃと濡れた音がする。
耳を塞ぎたくなるほど淫靡な音だ。
「篠原さん、やめて」
「やめない」
指先が柔らかくなってきた蕾の中に入ってくる。
一度に二本の指の挿入は、狭い場所をいっぱいに広げてくる。
「葵のいい場所、教えてやろうか?自分で指入れられる?」
「いやだ」
首を左右に振ると、「入れろ」と命令される。
空いた片手が葵の手を握って、下肢へと導く。
「中指を僕の指と指の間に、入れて」
「やだ」
強引に葵の手を蕾に導いて、無理やり指先を蕾の中に誘導する。
体の中は、想像以上に熱かった。
「僕の指についてきて」
しかたなく言われるままに、体の奥へと指を挿入していく。
「少し固くなってるの分かるか?」
「うん」
「そこに触れてごらん」
そろりと触れると、電流が流れたように体が跳ねた。
「やだ」
挿入していた指を引き抜いて、目の前の肩を押す。
「もう覚えてるんだよ。体が快感を」
篠原の手がそこを撫でたり、とんとんと突く。
その度に悲鳴のような声が上がる。
「怖い」
「これは気持ちがいいと言うんだ。その証拠に、葵は勃起してる。
空いた片方の手が、葵の欲望を握った。
「今日も元気がいい。蜜が溢れている」
先端に漏れた蜜を陰茎に塗りこむようにしながら、葵を追い上げていく。
花園の奥の感じる場所を突きながら、葵の敏感な先端部分を指先が突く。
「やめて、苛めないで」
「優しくしてるじゃないか」
葵は激しすぎる快感に、ぽろぽろ涙を流していた。
「出る。もう、我慢できない」
「我慢しなくていい」
「あああん」
腰を揺らしながら射精をしていた。
「たくさん出たね」
嗚咽する葵に、優しいキスが唇に触れる。
精液で濡れた手が、葵の胸に触れる。
羽が触れるような優しさで撫でられて、腰が揺れる。
つんと乳頭が立ちあがってくる。
その先端を撫でたり摘まんだり篠原は、葵の様子を見ながら試している。
唇で甘く噛まれて、泣き声が大きくなる。
「胸は噛まれた方が好き?先端を撫でられるのも好きみたいだね」
「ちがう」
「僕には分かるんだ。葵しか見てないから」
胸ばかりを重点的に攻められて、体が熱くなる。
「また勃起してる。敏感な体だね。このままイきたい?」
葵は首を左右に振る。
射精するほどの強い快感ではない。
嬲られてる感じだ。
「まだ葵は経験が浅いから、少し物足りないかもしれないね?」
葵の性器に触れる。
握って扱かれる。
熱が集まってくる。
もう少しで射精しそうなところで寸止めされた。
「篠原さんっ」
「そうだね、名前の呼び方が問題かもしれない。純也って呼んで。昔みたいに」
葵は首を左右に振った。
「もう、あの頃には戻れない」
「頑固だね」そう言うと、葵の熟した先端をぺろりと舐めた。
根元は握ったままで。
舐めて、先端の括れを甘噛みされて、最後に強く吸われた。
「ああん」
射精せずにイった。
頭が一瞬真っ白になった。
呼吸が乱れて体が震える。
葵はぽろぽろ泣いていた。
「今のはドライだ。初めてだろう?今度はきちんとイかしてあげるよ」
そういうと、葵の勃起したものを口の中に含んで、先端を舌で転がす。
「あ、ああっ、だめ」
転がすのに飽きたころに、葵の雄を篠原の舌が舐める。
張り詰めた竿の部分も舐め上げられ、初めての体験に腰が震える。
「そんなことしないで」
「したいんだよ」
ぺちゃぺちゃとした濡れた音が、耳を犯す。
「気持ちいだろう?先端が濡れてきた」
ぱくっと食べられたように感じられた。
「あっ」
篠原が、葵の先端を頬張った。
舌先が鈴口を突く。
「だめ」
先端を舐めまわすと、今度は口腔を締め付けて上下運動を始める。
「ああああっ」
敏感なところが狭くて締め付ける場所を往復する。
全身を貫く快感が走りぬけ、葵は身を歪めながらあっという間に弾けていた。
篠原は残滓まですべて吸うと、こくりと飲みこんだ。
「ごめんなさぃ」
「謝る必要はないよ。最初から飲むつもりだったからね。僕とした方が、女を抱くより気持ちがいいと思うよ」
「僕は他の誰かとしたいわけじゃない」
「葵は僕としたいんだよね?」
「そんなこと言ってない。ああっ」
内股を篠原の手が撫でる。
「葵、ここ感じるんだろう?見てればわかる」
「ああっ」
涙の残った頬を、篠原はぺろりと舐めて、葵の中に自身を挿入した。
一気に奥まで挿入されて、葵の雄が一気に弾けた。
「葵は女の子みたいに奥を突かれるのも好きだよね」
「ちがう」
激しく奥を突かれて、息が弾む。
「違わないよ?また勃起してる」
深く浅く、葵の中を突きながら葵の体のラインをなぞる。
「葵が美しすぎて、いつもどうやって抱こうかって、そればかり考えているんだ」
足を抱えて、白く綺麗な太腿にキスをして舌を這わせると、葵の中が締め付けてきた。
「感じるんだね」
「篠原さん、篠原さん・・・」
「葵は好きな人相手じゃなくても、こんなに感じて、乱れたりするの」
「わかんないよ。全部初めてなんだから」
強すぎる快感は、気持ちよさを通り越して拷問になる。
「もう、やめて」
深い場所を早いリズムで突かれて、ぎゅっと抱きしめられて体の深い場所が熱を感じた。
「僕は葵を好きだから、どんなに抱いても抱き足りないんだ」
体の中から、篠原が出て行った。
瞬きをするたびに涙が流れているその頬を、篠原は何度も舐めて、魂が抜けたように体を投げ出している葵の拘束を解いてやる。
腕に抱き篠原自身を跨がせた。
「今度は自分で僕を君の中に入れて」
葵はふるふると首を振る。
「葵は僕を愛してないの?」
「愛してなんて・・・」
いないとは言えなかった。その代わりに新しい涙が溢れてくる。
「体は、こんなに僕を受け入れてくれているのに」
葵の体を持ち上げて、蕾の上に欲情した篠原をあてがった。
膝立ちの葵の足は力尽きそうで震えている。
「篠原さん、僕は」
「葵を好きだよ。好き以外の言葉は受け付けない」
「僕は篠原さんを独占したいんだ。こんなに我が儘な気持ちは、篠原さんの足を引っ張る。僕は篠原さんを好きだけど、俳優の篠原さんも大好きなんだ。足を引っ張るくらいなら僕なんていないほうがいいんだ。僕が篠原さんの前から消えたら、また、8年前みたいに、篠原さんは僕を忘れる。忘れた方がいいんだ」
「葵、それは違う。僕は忘れていたわけじゃない。見守っていただけだ」
「それでも、僕はずっと寂しかった。嫌われたと思ってた。今、好きだと言われてもピンとこないくらい。僕は篠原さんを思い出に変えていたんだ」
震えていた足が限界を迎えて、篠原の欲望が葵の蕾を開きかえたとき、葵は強引に体を捻った。そのままベッドの下へ落ちていく。
ダンと大きな音が響く。
「葵!」
「っ!」
身構えることもせずに転落して、葵は床に転がっていた。
自分で起き上がる力は、もう残ってはいない。
落ちた衝撃と打ち付けた痛みで、また新しい涙がこぼれた。
「怪我は?痛いところはないか?」
「松坂さんの代わりに僕が怪我すればよかった」
床に倒れている葵の体を抱き上げると、葵は閉じた瞼を震わせていた。
どこかが痛むのかもしれないが何も答えず涙を流していた。
そのまま腕に抱いて篠原はベッドに座った。
「独占してくれていいんだよ。その方が僕は嬉しい」
「きっと重く感じる」
「僕の方が、ずっと葵を好きだと思うよ。素直な葵も大好きだ。今みたいな頑固な葵も大好きだよ。立派な俳優になった葵も大好きだ。どの葵も独占したくて、葵の心を置き去りにして無理やり抱いた」
「好きだと言われて、嬉しかったんだ。だけど、それと同じくらい怖いんだ」
「なにが怖いんだ?」
「昔みたいに僕の目の前から消えられるくらいなら、最初から与えないで」
「トラウマにさせてしまったのか」
大切に抱きしめられて、篠原の肩に頬を埋める。
「前にも言ったけど、僕は葵を手放さないし、葵には僕以外を好きにはさせない」
葵は頷いた。
「信じてくれるか?」
「篠原さんの愛を信じさせて」
「ドラマのフォローは僕が責任をもってする。だから、葵は葵らしい演技をすればいい」
「うん」
「小池さん、AVでもなんでも、男女の絡みのあるドラマのDVDを集めて、僕に見せてください。あとバスローブとアクセサリー、一般的なのでいいので」
松岡の代役の正式なオファーが来たのは、翌日のことだった。
役作りにもらえた日数はたったの三日。
「今、ここにあるのは十本くらいかな?」
「取り敢えず、それを貸してください。僕には知識がなさすぎるんです。できるだけたくさん知識が欲しい」
「家に届ければいい?」
「はい」
事務所に呼びだされ、葵はそのまま自宅に戻っていた。
「役作りをしたいから、三日間家に戻りたい」と言ったら、篠原は「行っておいで」と帰ることを許してくれた。
合鍵を交換する条件は出されたが。
火傷の手当は、毎日しに行くよと言われて、了承した。
史郎が口にしたギブ&テイクだ。
できるだけたくさんのドラマを見て、女性らしい動きと声の出し方を記憶していく。
実際に台本の通りに演技して、自分の姿もチェックしていく。
「葵、シャワー浴びるぞ」
「んっ」
篠原が購入してくれた洋服は、女性らしい動きをするための必需品になっていた。
バスローブを脱いで浴室に入っていくと、篠原は苦笑しながら、葵の体を洗い流してくれる。
「前より色気がなくなってる気がするが」
「今はいいんだ。演技してないから」
エッチは仕掛けてこない。
葵が本気で学ぼうとしている姿をみて、応援してくれているようだ。
その優しさに胸がいっぱいになる。
「篠原さん、いつもありがとう」
「火傷の手当をしているだけだぞ」
「顔見せてくれて、嬉しい」
甘えるように抱きつくと、キスをくれる。
キスに慣れていない葵のための、レッスンのキスだ。
いろんなパターンがあることに気づいていた。
濃厚なキスは、まだ慣れない。
葵からもキスをする。
誘うのは葵だからだ。
先に教わった順番でキスを返していく。
「成長が早い」
葵ははにかむように微笑む。
「今は何を見てるんだ?」
「AVだよ」
「やりたくなったりしないのか?」
「見てるのは、セリフと女優の動きだけだから」
火傷の薬を塗って包帯を巻いてくれる。
もう痛みはかなり軽くなっている。
赤みも最初に比べてずいぶん小さくなってきている。
痕はきっと残らないだろう。
ベッドから落ちたときの痣の方が目立つほどだ。
「眠っているのか?」
葵は微笑むことで答える。
「倒れるなよ」
約束はできない。
「食事は食べてるのか?」
「小池さんがコンビニでお弁当買ってきてくれる」
「腹が減るだろう?」
「今は仕方ない」
もう一度キスをして、そっと体を押す。
それがさよならの合図だ。
「また来るよ」
「気を付けて帰ってね」
玄関で見送って扉が閉まると、葵はリビングのテレビの前に移動する。
新しいディスクを入れて、女優の話し方や動きを覚えていく。
ラブシーンはどうしても自信が持てない。
思い出すのは激しく求愛してくる篠原の姿だ。
反転させればいいのかと気づいたが、ラブシーンはひとりでは練習できない。
今回は舞台ではなく、ドラマだ。
順序がぐちゃぐちゃなのはいつものことだ。
イメージが掴めるまで後回しにしてもらえばいい。
どこまでも原作に忠実に演じるために、原作の本も何度も読み返して主人公を探る。
葵は2.5次元の役者だ。
二次元のストーリーと登場人物を忠実に三次元で演技する。
表情や仕草、話し方、視線の動かし方まで読み取っていく。
それが、2・5次元だ。
主人公を掴めたところで、今度は台本の中の主人公を忠実に再現していく。
カメラを設置して、実際に動いてみる。
何度もその作業を繰り返して、あっという間に三日が過ぎた。
朝、迎えに来た篠原に、葵は自分からキスをした。
体が熱くなる激しいキスをしたい。
「うまくなったな、葵」
「篠原さん、僕を抱いて。ラブシーンはひとりで練習できない」
「今がいいのか?それとも帰ってからがいいのか?」
「今だと、遅刻するかな?」
篠原は笑うと葵を抱き上げて、ベッドに運ぶ。
ふわりとロングのウイックの髪が白いシーツに広がる。
きめの細かな色白な肌に、薄化粧を施した葵の顔は、どこからどうみても少女のように可愛らしい。
キスをしながらブラウスのボタンを外していく。見えてくるのは篠原が最初に選んだブラジャーだった。
篠原が嬉しそうに笑んだ。
わずかにできた胸の谷間にキスが落ちてきた。
ブラをずらして、掌が胸を包んで少し強めに揉んでくる。
葵は女性としてそこにいた。
篠原が女をどんな風に抱くのか見てみたかった。
抱かれやすそうな洋服を選んで、下着もすべて女性ものを身に着けた。
耳にはイヤリングをして、細いネックレスもしている。
装飾品がどんな動きをするのかも気になった。
強く胸を噛まれて、甘い声があがった。
声の出し方は練習したが、突然の快感で演技は難しい。
それでも以前より女性らしい仕草を見せる葵に、抱いている篠原は気づいていた。
「篠原さん、いつもより熱くなってる」
「こんなに色っぽい葵は見たことがない」
「嬉しい、あっ」
「嫌がってたのに、パンティー履いてるんだな」
「篠原さんが喜びそうだったから」
サイドのリボンを解きながら、下半身から下着を剥ぎ取っていく。
スカートのウエストは外さないんだ。
スカートをまくり上げられて、葵の雄を口に含む。
「あ、篠原さん」
「久しぶりだから溜まっているだろう」
以前してくれたようにフェラチオが始まった。
前より激しく求められて、葵の性器はすぐに限界を迎える。
篠原の口の中にすべてを出し切って。
荒い呼吸を整えながら、篠原の表情をずっと観察する。
足を拡げられ、結ばれる場所に、篠原はキスをして、舌先で突いてくる。
以前は簡単に入ってきた舌が、入ってこない。
指先が添えられて、交わる場所を左右に拡げられる。
わずかにできた隙間に、篠原はキスをして、そのままその場所を噛みつくようにキスを深めてきて、葵は耐え切れす、悲鳴を上げていた。
高く響く艶のある声だ。
足の間にある篠原の欲望が、大きくなったような気がした。
結合部に唇をあてがったまま、何かが注がれていくのが分かった。
「なに?」
「葵が出したもの」
「え?」
「潤滑剤代わりになる」
「そうなんだ?」
舌と指が、交わる場所を拡げていく。
「ああ、だめ」
「久しぶりだから、硬くなってる」
「少しくらい痛くてもいいから、先に進んで」
「ここに手を抜く奴は、愛されてないと思った方がいい」
「女の人も、こんなふうに触るの?」
「答えたら、葵は泣くんじゃないのか?」
「今は泣かないから。質問に答えて」
「女は自分で濡れてくる。もちろん指でも触る」
「わかった」
篠原は女性と抱き合ったことがあるのか。
確かにショックを受けた。それを言わせたのは自分なのに。
「葵の胸は柔らかいな」
下着に押されて盛り上がった胸にキスを落とす。
先端を甘く噛まれて、以前とは違う甘い痺れが下半身を直撃した。
「胸だけでも感じるだろう?」
「あああっん」
胸を弄りながら、下半身を解されていく。
指が三本入ったところで、篠原は動きを止めた。
「先にイくか?それとも入れていい?」
「入れて」
「葵から誘われる日が来るとはな」
指が抜かれて、いつもより大きく見える篠原が、葵の蕾を押してきた。
「久しぶりだから、痛かったら言えよ」
「うん」
ぐっと押し開かれて、先端の太い部分が入ってきた。
「あっ、あっ、あっ」
「深呼吸だ、忘れたのか?」
篠原が動きを止めた。
「忘れてた。女の人も深呼吸するの?」
「女は濡れてるから、すぐに入る」
「それなら、僕も女の人を抱くように抱いてみて」
「なに言ってるのか分かってるのか?男と女は仕組みが違うんだ」
「それでも、僕は今女になってるんだ」
「まったく」
篠原は浅い場所で何度か腰を使うと、吐精をした。
いつもより早い。
今度は一気に奥まで入れられて、葵は体を反らせて、甘い声を漏らす。
何度も奥を突かれて、気持ちよくて泣きそうになる。
「葵、痛くないな?」
「気持ちよすぎて、おかしくなりそう」
「おかしくなってみろよ」
「どんなふうに?」
「ストッパーを外せ」
「篠原さん、どうしよう。すごく好きだって言いたい」
「どうしようじゃなくて、好きと言ってくれ」
クスクス笑いながら篠原がキスをしてくる。
「好き。もっと強く抱きしめて」
「かわいいな、ずっと抱いていたくなるくらい」
腰を使われると、喘ぎ声がでる。声が高くて自分の声じゃないみたいだ。
快感が強くて最後はすすり泣きに変わる。
「そろそろ出すぞ」
何度も頷く。
ぎゅっと抱きしめられたとき、葵は篠原と絶頂を迎えていた。
体の奥が震えている。
「好き」
「好きだよ、葵」
愛されていると分かるほど、優しく体を包まれる。
ずっとこうしていたいと思えるほど。
浴室でもう一度抱き合ったあと、葵はスタジオ入りした。
今日は試し撮りだ。
スタッフは最小限だ。
「セリフを少し変えさせてもらった。基本は小説に忠実に。葵の年齢が若いから、言葉遣いを自然にさせた。ストーリー展開は今までと同じだ」
めったに顔を出さないプロデューサーが葵に新しい台本をくれる。
「できるか?」
「はい」
「いい返事だ」
「一度読ませてもらっていいですか?」
「是非、そうしてくれ。時間が押してるんだ」
「はい」
「学校の方の授業もあるな?」
「はい。すみません。両立させてください」
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「気をつけます」
「葵に限ってないと思うが、肌に色っぽいあとはつけてくるな」
「え?」
「わからないなら、それでいい」
葵の隣で、篠原がクスクス笑っている。
「なんですか?」
「キスマークつけてくるなと、言われたんだ」
ぱっと葵の顔が赤くなる。
プロデューサーと監督が声を上げて笑った。
「葵ちゃん大丈夫?今から演じるのは、激しいエッチシーンもあるのよ?」
「あああ、あの。頑張ってイメージトレーニングするので、撮影は後の方に」
「そこだけが心配なのよね」
「がんばります」
「一時間後、試し撮り始めるから、台本読んで覚えてくれるか?」
「少し、集中させてください」
「会議室をひとつ開けるから、そこを使って。篠原さんも台本読み返してくださいね」
「わかりました」
新しい台本を握りしめて、葵は篠原と会議室に移動した。
「葵、まだ終わらないのか?」
「三日間、缶詰だったから、宿題のレポートができてないんだ。これ出さないと単位もらえない」
ノートパソコンを開いて、タッチタイピングで文字を打ち込んでいる。
「篠原さん、先に休んでください」
「連日の徹夜は許せないな」
「留年はしたくないんです。ああ、もう。話しかけないで。集中できない」
葵は篠原の家に戻ってきていた。
「今夜のエッチはお預けか」
「朝したじゃないですか」
「まだ色気が足りない」
「今夜は駄目です。課題が優先。仕事は明日」
「僕とのエッチは仕事じゃないだろう?」
「プライベートでも今日は課題優先」
「仕方ないな。早く寝ろよ」
「うん」
カタカタとタイピングの音が響く。
葵の頬にキスをすると、篠原は寝室に入っていった。
「両立って、やっぱり大変だ」
あくびがふわりと出る。
「試し撮りでOKもらえてよかった」
これから本格的な撮影が始まる。
主演女優となると出番は一番多くなる。
今より忙しくなるのかと思うと、気分が滅入った。
滅入ったところでまた滅入った。
篠原は女性の体も知っている。
付き合っていたのだろうか?今はどうなんだろう?
胸の谷間に口づけしていた篠原を思い出して、一気に沈んだ。
(やっぱり女がいいのかな?)
恋人だと言われても、やはり不安で、胸が痛くなる。
(僕は篠原さんを本気で好きになってしまったんだな)
史郎を見て学んだ、恋愛の心の変化を思い出し、自分をあてはめみて、胸に手を当てた。
好きという気持ちは、心にいろんな変化を起こさせる。
「恋しいな」
触れられたい。
早く課題を終わらせよう。
少しでも一緒にいられるように。
再びタイピングを始める。
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