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気高く咲く花のように ~モン トレゾー~ 3話
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「葵、これも似合うんじゃないか?」
篠原はブティックに葵を連れてきた。
値札を見ると、史郎が購入した洋服より桁が一つ二つ多い。
「あのさ、僕はずっと女装してるつもりはないんだけど」
「僕の自己満足だ」
「いらない」
ぷいっと顔を背けて、椅子に座るとブティックの店員がメニューを持ってきた。
コーヒーと紅茶しか載ってないメニューを見て、「アイスティーストレートで」とオーダーした。
葵は夏でも冷たいものはあまり飲まないが、熱い紅茶をこぼして火傷をした後だけに、今は熱い紅茶は飲みたくはなかった。
「篠原さんもオーダーしてあげて、店の人、困ってる」
「僕もアイスティーストレートで」
数着持ってきて、葵に見せる。
「明日は、何を着るつもりなのかな?」
「いつもの普段着」
「それは却下。まだ足を安静にするようにと医者に言われただろう」
「安静にさせてくれないのは、篠原さんだと思うけど」
稽古の帰りに病院に寄って、診察を受けてきた。
『感染はしてないから、できるだけ安静に、清潔にしてください』と言われたばかりだ。
『思い切ってスカートをはいたのは、足への刺激を考えるとよかったと思うよ』
この一言で、篠原はやる気を出してしまった。
「試着はしてみない?」
「したくない」
「僕の好みで選んでいいのかな?」
ちらりと篠原の持っている洋服をみると、まるで普段着とはかけ離れていた。
「パーティーに行くんじゃないんだけど、分かってる?着てくのは仕事場と学校!」
「似合うんじゃないかと思ってね」
「それ、全部却下。自分で探す」
仕方なく立ち上がって、店内を見渡す。
(できるだけ地味で、動きやすいもの)
「そうだ。下着も何着かお願いするよ。サイズは、今、付けてるサイズで」
じろっと篠原を睨む。篠原はクスッと笑うと、下着売り場に移動した。
店員がハンガーラックに洋服をかけて持ってきた。
「学校に着て行かれるなら、この辺りが無難かと思われます。色は五色展開になっておりますので、お好みのものを選んでください」
史郎好みの葵に似合う色合いとデザインが中に混ざってる。
今、着てるのと変わらない。
「それでいいです。色だけ決めればいいか?」
「念のために試着お願いします」
ハンガーラックごと試着室に入れられて、どうしようか迷ってると、篠原が入ってきた。
「僕の好みか確かめないとね」
色違いの洋服を、葵の前にあてがって、気に入った色合いだけを残していく。
「楽しそうだね、篠原さん」
「楽しいよ」
「くれぐれも変な事するなよ」
小さな声で呟くと、篠原は爽やかに笑った。
「手伝うだけだ」
ファスナーを降ろされてワンピースが床に落ちる。
「ブラジャーのサイズ、計りたいそうだが、どうする?」
「今のでちょうどいい」
「店員に計られたくないわけだな?」
「あたりまえだろう。僕の裸はそんなに安くない」
「自覚があって安心した」
「なんだよそれ」
ブラジャーのホックを外され、床に落とされる。
「じっとしてろよ」
篠原がメジャーで葵を測定していく。
床に落ちたブラジャーと一緒に、外に出ていく。
今のうちに洋服を身につける。
どれもきついところはなくて、動きやすそうだ。
篠原が選んだ色合いも、葵によく似合う。
最後のワンピースを脱いだところで、篠原が今度はブラジャーを持ってやってきた。
「サイズの確認してくれ」
「わかった」
腕を通すと背後でホックをはめてくれる。
「パットと胸寄せ効果で、谷間もできるんだな」
感心したように、篠原は呟いて、次のブラジャーを手渡した。
「全部試着するのか?」
「着心地は全部違うだろう。せっかくなら着心地も見栄えもいいものがいいだろう?」
「今のは気に入った。次を着ろ」
「結局は篠原さんの好みのものがいいんだろう?」
「脱がす楽しみができるからな」
「篠原さんのイメージが変わっていく」
「嫌いになったか?」
葵は首を左右に振った。
強姦のようにいきなり襲われて、騙されるように抱かれて、うんざりするほど抱かれても、嫌いになれない。自分から距離を取って、本当に距離を置かれるとは思わなかった。離れていた8年間はずっと寂しくて、ずっと憧れの人で、遠くから見ていただけだった。今、昔のように近くにいるのが、まだ夢を見ているようで、目覚めるのが怖い。
「篠原さんの好きなようにコーディネートしていいよ」
「僕色に染めてやる」
優しくキスされて、頬が赤らむ。
「今、挑発はするな。抱きたくなるから」
「僕はいつもと同じだよ」
「そうだな。僕が浮かれているんだろう」
次々試着して、篠原好みの服と下着をそろえてもらった。着ない下着も混じってはいたが、葵はなにも口を出さなかった。その洋服に合わせた靴や鞄も忘れずに買ってくれた篠原は、ずっと楽しそうで機嫌がよかったから。
「明日は授業があるから」と言ったら、葵のマンションに寄ってくれた。
以前家に寄ったときは、時間がなかったから玄関で待ってもらったが、今回は家の中に招待した。
「部屋は綺麗にしてるんだな」
「必要最低限のものしか置いてないだけだよ」
葵の部屋に上がった篠原は、興味深そうに葵の部屋の中を見て歩いている。
2LDKの部屋は、がらんとして広い。
リビングダイニングは続きになっていて、ダイニングに半円型のテーブルが対面キッチンに付けてある。
椅子はふたつ。
リビングには大型テレビが置かれている以外には、窓辺に脚立のついたカメラが一つと、壁側には大きな姿見が置かれているだけだ。
だだっ広いそこは、まるで稽古場だ。
「自分を撮って研究してるのか?」
「僕は十五の時から2・5次元俳優もしてるから、アニメやコミックの中の人と同じに見えないとダメなんだ」
「僕がその年齢の時は、そういう選択はしなかったな」
「コスプレみたいだから、篠原さんみたいな正統派な俳優には認められないかもしれない」
「そんなことはない。葵のしている仕事も立派な俳優だ」
「篠原さんにそう言ってもらえると、嬉しい。僕が考えて選んだ道なんだ」
ベッドルームに置かれた勉強机から教科書やノートを取ってリュックに詰めて、パソコンバックにノートパソコンを入れる。
荷物はそんなに多くはない。
「もう一部屋は使ってないのか?」
「ほんのちょっとマネージャーが使ってた。ご飯、すごくまずくて。いびきも煩いから翌日出て行ってもらったんだ」
篠原がクスクスと笑う。
「見てみる?」
葵は自室から出て、隣の扉を開けて電気をつけた。
「部屋は十畳くらいあるかな?」
「ピアノを弾くのか?」
「ピアノは三歳の時から習ってた。僕は舞台で歌も歌うから練習用だよ」
電子ピアノの横に椅子が三客並んで置かれて、それ以外はがらんとしている。
「椅子は五客あるのか?」
「普段は小池さんか史郎くらいしか来ないけど、時々先輩たちが遊びに来てくれるんだ。おふとんも五人分あるよ」
「合宿みたいな感じか」
「そう」
葵は自分の部屋に戻っていき、普段ははかないトランクスをクローゼットから取り出し、紙袋に入れる。
数着普段着も入れておく。
ずっと女装するつもりはない。
忘れていけないのは、肌のお手入れをする化粧品類。
メイク落としとパックは必需品だ。
エステのCMに出ている以上、肌の手入れに手を抜けない。
普段使いのバックにスマホの充電器やストールを入れてできあがり。
「お待たせしました」
「荷物はそれだけか?」
「学校のものと身の回りのものだよ。もうしばらくお世話になります」
篠原はにっこり笑うと、荷物を持ってくれる。
「ずっといてくれても構わないよ」
「同居?」
「同棲かな」
「・・・」
顔が熱くなって、言葉が返せない。
「どうして黙るのかな?」
先に歩いていた篠原が振り向いて、葵の顔を見てクスッと笑った。
「・・・取り敢えず、火傷が治るまで」
「了解」
エレベーターのボタンを押すと、すぐに開いた。
地下の駐車場のボタンを押す。
すぐに到着して、葵の部屋の駐車場に止めている篠原の車に荷物を載せる。
車に乗り込むと、スマホの着信の音がした。
バックから取り出して、見てみると史郎からの着信だった。
篠原はスマートに運転している。
ちらりとそれを見てから、ラインを開く。
数えきれないほどのメッセージに、史郎がどんなに心配していたかをくみ取れる。
『仕事が忙しくて見られなくてごめん。またあとで、連絡入れる』
それだけ打ち込んで送信すると、スマホを握ったまま篠原を見上げる。
「小池さんか?」
「史郎から。鈴村さんって葵のどこが好きになったんだ?写真が僕だから、あんなにメッセージ送ったりしたのか?」
「最初は見た目で惹かれたみたいだな。やり取りの中で本気になっていったって言ってたかな」
「史郎と鈴村さんを会わせてみたら、うまくいくと思う?」
「どうだろうな?鈴村が男を好きになるかどうかまではわからない」
「そうだよね」
「それでも会わせてみたいんだろう?」
「うん。うまくいかなくても後悔はさせたくないんだ」
ちらりと時計を見て、篠原は車を路肩に寄せた。
「明日から撮影に入るから時間がなくなるな。いっそ今から顔合わせだけでもさせるか?」
午後の二十時は学生には遅い時間だが、仕事を持っている者にはそれほど遅くはない。
「今から食事に行くつもりだったんだ。ついでだ、鈴村を呼び出す。葵は史郎君の家を教えてくれるか?」
「それはもちろん」
篠原はポケットからスマホを取り出し、鈴村に電話をした。
「仕事中だ?仕事は明日にしろ。今から言う場所にすぐに来い。おまえの葵ちゃんに会わせてやる。来なきゃ一生会えないと思え。場所は―――」
『行く、絶対に行く』と電話越しに聞こえる。
続いて篠原はもう一軒電話をかけた。
「篠原だ。急で悪いが、個室を用意してくれるか?すまないな」
篠原はにこっと笑うと、葵の頬を撫でた。
「史郎君の家の場所教えてくれるか?」
「はい」
篠原はナビを入力して、車を静かに走らせた。
葵も史郎に電話をかける。
「今、車で向かってる。和也さんに会わせるから、準備して待ってて。あと十五分で到着するから」
ナビに出てくる到着時間をそのまま伝える。焦った声の史郎をそのままにして、通話を消した。
「ありがとう、篠原さん」
「もっと早く会わせるべきだった」
「うん」
長い髪をさらりと撫でられる。
ウイックであっても、撫でられると嬉しい。
史郎を車の後部座席に乗せて、葵は助手席に乗った。
説明は後ですると言うと、史郎はおとなしく頷いた。
史郎なりにお洒落してきたのか、普段は見かけない白地に紺のボーダーカットソーを身に着け、紺の上着を羽織っている。
ズボンはベージュのアンクルパンツに白いスニーカーだ。
大学生らしい爽やかないでたちだ。
普段からお洒落をしていたら、女子たちが放っておかないだろうに。
いつも大学に着てくる服装は、くたびれたTシャツとブルージーンズだ。
いつかのために、史郎は準備をしていたのだろう。
新品の洋服と靴に微笑みが浮かぶ。
「さあ、ついたよ」
「ありがとう、篠原さん」
「え?篠原さん?鈴村さんじゃないのか?」
「史郎、この方は俳優の篠原純也さんだよ。僕たちと同じで代理だったんだ。本人に会ってみたいだろう?」
「うん」
「僕も会ったことがないから。篠原さん、あとはよろしくお願いします」
「今日は顔合わせのつもりでね」
「はい。すごいげーのーせーじんが、ここにふたりもいるのか」
葵が唇の前で人差し指を立てると、史郎は何度も頷いてみせた。
鈴村はすでに到着していた。
趣のある料亭だ。
パコーンとししおどしが鳴る。
昼間に来たら、素晴らしい庭園が見えるだろう。
和服を着た女将に案内された部屋は、鳳凰の間。
名前から想像するとかなり高額な部屋のような気がする。
女将が声をかけると、襖が開けられた。
明るい部屋の中には、黒檀のテーブルが置かれて、上座には鳳凰の掛け軸と上品な花が生けられている。
篠原に続いて、葵と史郎が部屋の中に入っていく。
「史郎君は鈴村の隣でいいかな?」
史郎はじっと鈴村を見ていた。
「史郎、ほら」
背中を押すと、我に返ったように動き出す。
「自己紹介をするよ。隣に座っている美女は悠木葵さん。鈴村の隣に座っているのが。名字聞いてないな」
「稲生史郎です」
史郎が答えて、深く頭を下げる。
「鈴村和也です」と史郎の隣で頭を下げた鈴村は、葵の顔をじっと見つめている。
「鈴村、葵は俳優の悠木葵で、鈴村が熱を上げていた相手は、おまえの隣の史郎君だ。葵も僕と同じ身代わりだ」
「えっ!」
「はい、身代わりです。僕はしかも男です」
「嘘だろう」
「訳があって、今も女装してます」
「やっぱり落胆しますか?しますよね」
史郎が項垂れる。
「葵、あとは二人で話をさせよう」
「史郎はまだ大学生なので、帰りは送ってあげてください」
葵は立ち上がると、丁寧にお辞儀をした。
「篠原さん、素敵な席をありがとうございます。お部屋、高額だったんじゃありませんか?」
「葵、なんでそんなよそよそしい話し方をするんだ?」
「なんとなく」
とんと車の背もたれに体を添わせて、葵はウイックの長い髪を指先に巻きつける。
「そうだな、今日の夕食は軽く十万くらいかな?ふたりの俳優をもてあそんだ代償としては高くないぞ」
「十万って、鈴村さん、大丈夫なのか?史郎がパニック起こさなきゃいいけど」
「親友想いなんだな」
「幼馴染で腐れ縁なんだ。あいつ芸能人だからって特別扱いしないんだ。げーのーせーじんとか言って、個性のひとつくらいにしか思ってないところが気に入ってる」
「鈴村も芸能界に疎いな。気づいたと思うが、葵の名前を出しても、まったく反応しなかっただろう?僕のことも芸能人だって知らずに話しかけてきたな。半年くらいたって、まわりに何か言われたのか、馴れ馴れしくしてすまなかったと謝りに来たが、それも、まわりに言わされた感じで、その鈍さが気に入って四年間一緒に過ごしたな。卒業してからも、飲みに行こうぜって誘ってくるのは、あいつだけだったな」
「ふたりともどこか似てる」
葵が言うと、篠原は「そうだな」と頷いた。
出会うことはできた。この先はふたりが決めることだ。
「なんか、ほっとした」
「僕もだ」
ふたりでクスクス笑いながら、車が走っていく。
「おなかすいた」
「なにが食べたい?」
「食べられるものなら何でもいい。コンビニのパンでもいいよ」
「葵はそういうものを食べてきたのか?」
「手軽だし。台本読みながら食べられるから時間の無駄にならない」
「食育しないといけなさそうだ」
「そういう面倒なことはいいから、ごはん」
「少しは我慢しろ。すぐに、どこかで食べさせてやる」
「史郎、昨日はどうだった?」
「和也さん、驚いていたけど怒ってはいなかった。交際するかは分からないけど、友達から始めようってことになった。ラインから好きとか愛してるとか、そういう言葉が消えたのは寂しいけど、その場で別れ話にならなくてよかった」
決して晴れやかな笑顔ではないけれど、史郎は現実をきちんと受け止めている。
「そうか。うまく両想いになれるといいな」
今日も史郎のノートを手早く写している。
「それにしても、葵は女装に目覚めたのか?」
「いや、足を派手に火傷しちゃって、バスローブかスカートかの二択選択だったんだよ。入院すると学校の単位取れなくなるしで、これでもいろいろ大変だったんだ」
スカートを少し捲って、包帯を見せてやる。
「げーのーせーじんが怪我したらまずいだろう」
いったい誰のせいで、こんな火傷をしたと思ってるんだと思っても、口に出すほど子供じゃない。
「火傷が治るまで、女装で過ごすだけだよ」
周りの視線がやかましい。
普段からよく見られるが、女装している姿をカメラに収めようとスマホを向けられると、イラっとしてくる。
「おい、みんな。肖像権の侵害だよ。写真撮影は本人の許可なしではやめろ」
葵のイラつきが伝播したのか、普段はおとなしい史郎が立ちあがった。
せっかく史郎が声を上げてくれたので、葵も立ちあがった。
「すまないけど、ここは学校だし今はプライベートだから撮影は禁止で頼むよ。どうしても撮りたいなら事務所通してくれるかな?あとで僕のSNSに載せておくから、よかったらそれを見て」
国宝級と呼ばれるスマイルを皆の前で披露して、ついでに宣伝もしておく。
キラキラした笑顔に、女子たちが小さな悲鳴をあげる。
「勝手に撮影したものがSNSに流れてたら、本人を突きとめて、名前と素顔をSNSに拡散してやるよ」
「史郎、それはやり過ぎかもよ?」
「僕はそういうの得意だから、いつでも協力するよ」
スマホを持っていた講義室にいた生徒たちが顔を強張らせた。
「みんな頼むね」
講義室がしーんと静まり返り、皆がスマホを鞄にしまった。
葵は静かに椅子に座って、史郎の方に体を傾げた。
「ありがとう、史郎」
「僕の方がありがとうだからな。学校で葵を守るのは僕の役目だ」
(そんなふうに思っていたのか)
史郎を守っているつもりで守られているとは思わなかった。
いい友達に恵まれた。
「サンキュ」
葵はノートを写しだす。
その隣で、史郎はスマホを取り出し、ラインを開いて見ている。
着信があったのか、にこりと笑い、素早く文字を打ち込んでいる。
嬉しそうな笑顔が、とても眩しくみえた。
「葵、これも似合うんじゃないか?」
篠原はブティックに葵を連れてきた。
値札を見ると、史郎が購入した洋服より桁が一つ二つ多い。
「あのさ、僕はずっと女装してるつもりはないんだけど」
「僕の自己満足だ」
「いらない」
ぷいっと顔を背けて、椅子に座るとブティックの店員がメニューを持ってきた。
コーヒーと紅茶しか載ってないメニューを見て、「アイスティーストレートで」とオーダーした。
葵は夏でも冷たいものはあまり飲まないが、熱い紅茶をこぼして火傷をした後だけに、今は熱い紅茶は飲みたくはなかった。
「篠原さんもオーダーしてあげて、店の人、困ってる」
「僕もアイスティーストレートで」
数着持ってきて、葵に見せる。
「明日は、何を着るつもりなのかな?」
「いつもの普段着」
「それは却下。まだ足を安静にするようにと医者に言われただろう」
「安静にさせてくれないのは、篠原さんだと思うけど」
稽古の帰りに病院に寄って、診察を受けてきた。
『感染はしてないから、できるだけ安静に、清潔にしてください』と言われたばかりだ。
『思い切ってスカートをはいたのは、足への刺激を考えるとよかったと思うよ』
この一言で、篠原はやる気を出してしまった。
「試着はしてみない?」
「したくない」
「僕の好みで選んでいいのかな?」
ちらりと篠原の持っている洋服をみると、まるで普段着とはかけ離れていた。
「パーティーに行くんじゃないんだけど、分かってる?着てくのは仕事場と学校!」
「似合うんじゃないかと思ってね」
「それ、全部却下。自分で探す」
仕方なく立ち上がって、店内を見渡す。
(できるだけ地味で、動きやすいもの)
「そうだ。下着も何着かお願いするよ。サイズは、今、付けてるサイズで」
じろっと篠原を睨む。篠原はクスッと笑うと、下着売り場に移動した。
店員がハンガーラックに洋服をかけて持ってきた。
「学校に着て行かれるなら、この辺りが無難かと思われます。色は五色展開になっておりますので、お好みのものを選んでください」
史郎好みの葵に似合う色合いとデザインが中に混ざってる。
今、着てるのと変わらない。
「それでいいです。色だけ決めればいいか?」
「念のために試着お願いします」
ハンガーラックごと試着室に入れられて、どうしようか迷ってると、篠原が入ってきた。
「僕の好みか確かめないとね」
色違いの洋服を、葵の前にあてがって、気に入った色合いだけを残していく。
「楽しそうだね、篠原さん」
「楽しいよ」
「くれぐれも変な事するなよ」
小さな声で呟くと、篠原は爽やかに笑った。
「手伝うだけだ」
ファスナーを降ろされてワンピースが床に落ちる。
「ブラジャーのサイズ、計りたいそうだが、どうする?」
「今のでちょうどいい」
「店員に計られたくないわけだな?」
「あたりまえだろう。僕の裸はそんなに安くない」
「自覚があって安心した」
「なんだよそれ」
ブラジャーのホックを外され、床に落とされる。
「じっとしてろよ」
篠原がメジャーで葵を測定していく。
床に落ちたブラジャーと一緒に、外に出ていく。
今のうちに洋服を身につける。
どれもきついところはなくて、動きやすそうだ。
篠原が選んだ色合いも、葵によく似合う。
最後のワンピースを脱いだところで、篠原が今度はブラジャーを持ってやってきた。
「サイズの確認してくれ」
「わかった」
腕を通すと背後でホックをはめてくれる。
「パットと胸寄せ効果で、谷間もできるんだな」
感心したように、篠原は呟いて、次のブラジャーを手渡した。
「全部試着するのか?」
「着心地は全部違うだろう。せっかくなら着心地も見栄えもいいものがいいだろう?」
「今のは気に入った。次を着ろ」
「結局は篠原さんの好みのものがいいんだろう?」
「脱がす楽しみができるからな」
「篠原さんのイメージが変わっていく」
「嫌いになったか?」
葵は首を左右に振った。
強姦のようにいきなり襲われて、騙されるように抱かれて、うんざりするほど抱かれても、嫌いになれない。自分から距離を取って、本当に距離を置かれるとは思わなかった。離れていた8年間はずっと寂しくて、ずっと憧れの人で、遠くから見ていただけだった。今、昔のように近くにいるのが、まだ夢を見ているようで、目覚めるのが怖い。
「篠原さんの好きなようにコーディネートしていいよ」
「僕色に染めてやる」
優しくキスされて、頬が赤らむ。
「今、挑発はするな。抱きたくなるから」
「僕はいつもと同じだよ」
「そうだな。僕が浮かれているんだろう」
次々試着して、篠原好みの服と下着をそろえてもらった。着ない下着も混じってはいたが、葵はなにも口を出さなかった。その洋服に合わせた靴や鞄も忘れずに買ってくれた篠原は、ずっと楽しそうで機嫌がよかったから。
「明日は授業があるから」と言ったら、葵のマンションに寄ってくれた。
以前家に寄ったときは、時間がなかったから玄関で待ってもらったが、今回は家の中に招待した。
「部屋は綺麗にしてるんだな」
「必要最低限のものしか置いてないだけだよ」
葵の部屋に上がった篠原は、興味深そうに葵の部屋の中を見て歩いている。
2LDKの部屋は、がらんとして広い。
リビングダイニングは続きになっていて、ダイニングに半円型のテーブルが対面キッチンに付けてある。
椅子はふたつ。
リビングには大型テレビが置かれている以外には、窓辺に脚立のついたカメラが一つと、壁側には大きな姿見が置かれているだけだ。
だだっ広いそこは、まるで稽古場だ。
「自分を撮って研究してるのか?」
「僕は十五の時から2・5次元俳優もしてるから、アニメやコミックの中の人と同じに見えないとダメなんだ」
「僕がその年齢の時は、そういう選択はしなかったな」
「コスプレみたいだから、篠原さんみたいな正統派な俳優には認められないかもしれない」
「そんなことはない。葵のしている仕事も立派な俳優だ」
「篠原さんにそう言ってもらえると、嬉しい。僕が考えて選んだ道なんだ」
ベッドルームに置かれた勉強机から教科書やノートを取ってリュックに詰めて、パソコンバックにノートパソコンを入れる。
荷物はそんなに多くはない。
「もう一部屋は使ってないのか?」
「ほんのちょっとマネージャーが使ってた。ご飯、すごくまずくて。いびきも煩いから翌日出て行ってもらったんだ」
篠原がクスクスと笑う。
「見てみる?」
葵は自室から出て、隣の扉を開けて電気をつけた。
「部屋は十畳くらいあるかな?」
「ピアノを弾くのか?」
「ピアノは三歳の時から習ってた。僕は舞台で歌も歌うから練習用だよ」
電子ピアノの横に椅子が三客並んで置かれて、それ以外はがらんとしている。
「椅子は五客あるのか?」
「普段は小池さんか史郎くらいしか来ないけど、時々先輩たちが遊びに来てくれるんだ。おふとんも五人分あるよ」
「合宿みたいな感じか」
「そう」
葵は自分の部屋に戻っていき、普段ははかないトランクスをクローゼットから取り出し、紙袋に入れる。
数着普段着も入れておく。
ずっと女装するつもりはない。
忘れていけないのは、肌のお手入れをする化粧品類。
メイク落としとパックは必需品だ。
エステのCMに出ている以上、肌の手入れに手を抜けない。
普段使いのバックにスマホの充電器やストールを入れてできあがり。
「お待たせしました」
「荷物はそれだけか?」
「学校のものと身の回りのものだよ。もうしばらくお世話になります」
篠原はにっこり笑うと、荷物を持ってくれる。
「ずっといてくれても構わないよ」
「同居?」
「同棲かな」
「・・・」
顔が熱くなって、言葉が返せない。
「どうして黙るのかな?」
先に歩いていた篠原が振り向いて、葵の顔を見てクスッと笑った。
「・・・取り敢えず、火傷が治るまで」
「了解」
エレベーターのボタンを押すと、すぐに開いた。
地下の駐車場のボタンを押す。
すぐに到着して、葵の部屋の駐車場に止めている篠原の車に荷物を載せる。
車に乗り込むと、スマホの着信の音がした。
バックから取り出して、見てみると史郎からの着信だった。
篠原はスマートに運転している。
ちらりとそれを見てから、ラインを開く。
数えきれないほどのメッセージに、史郎がどんなに心配していたかをくみ取れる。
『仕事が忙しくて見られなくてごめん。またあとで、連絡入れる』
それだけ打ち込んで送信すると、スマホを握ったまま篠原を見上げる。
「小池さんか?」
「史郎から。鈴村さんって葵のどこが好きになったんだ?写真が僕だから、あんなにメッセージ送ったりしたのか?」
「最初は見た目で惹かれたみたいだな。やり取りの中で本気になっていったって言ってたかな」
「史郎と鈴村さんを会わせてみたら、うまくいくと思う?」
「どうだろうな?鈴村が男を好きになるかどうかまではわからない」
「そうだよね」
「それでも会わせてみたいんだろう?」
「うん。うまくいかなくても後悔はさせたくないんだ」
ちらりと時計を見て、篠原は車を路肩に寄せた。
「明日から撮影に入るから時間がなくなるな。いっそ今から顔合わせだけでもさせるか?」
午後の二十時は学生には遅い時間だが、仕事を持っている者にはそれほど遅くはない。
「今から食事に行くつもりだったんだ。ついでだ、鈴村を呼び出す。葵は史郎君の家を教えてくれるか?」
「それはもちろん」
篠原はポケットからスマホを取り出し、鈴村に電話をした。
「仕事中だ?仕事は明日にしろ。今から言う場所にすぐに来い。おまえの葵ちゃんに会わせてやる。来なきゃ一生会えないと思え。場所は―――」
『行く、絶対に行く』と電話越しに聞こえる。
続いて篠原はもう一軒電話をかけた。
「篠原だ。急で悪いが、個室を用意してくれるか?すまないな」
篠原はにこっと笑うと、葵の頬を撫でた。
「史郎君の家の場所教えてくれるか?」
「はい」
篠原はナビを入力して、車を静かに走らせた。
葵も史郎に電話をかける。
「今、車で向かってる。和也さんに会わせるから、準備して待ってて。あと十五分で到着するから」
ナビに出てくる到着時間をそのまま伝える。焦った声の史郎をそのままにして、通話を消した。
「ありがとう、篠原さん」
「もっと早く会わせるべきだった」
「うん」
長い髪をさらりと撫でられる。
ウイックであっても、撫でられると嬉しい。
史郎を車の後部座席に乗せて、葵は助手席に乗った。
説明は後ですると言うと、史郎はおとなしく頷いた。
史郎なりにお洒落してきたのか、普段は見かけない白地に紺のボーダーカットソーを身に着け、紺の上着を羽織っている。
ズボンはベージュのアンクルパンツに白いスニーカーだ。
大学生らしい爽やかないでたちだ。
普段からお洒落をしていたら、女子たちが放っておかないだろうに。
いつも大学に着てくる服装は、くたびれたTシャツとブルージーンズだ。
いつかのために、史郎は準備をしていたのだろう。
新品の洋服と靴に微笑みが浮かぶ。
「さあ、ついたよ」
「ありがとう、篠原さん」
「え?篠原さん?鈴村さんじゃないのか?」
「史郎、この方は俳優の篠原純也さんだよ。僕たちと同じで代理だったんだ。本人に会ってみたいだろう?」
「うん」
「僕も会ったことがないから。篠原さん、あとはよろしくお願いします」
「今日は顔合わせのつもりでね」
「はい。すごいげーのーせーじんが、ここにふたりもいるのか」
葵が唇の前で人差し指を立てると、史郎は何度も頷いてみせた。
鈴村はすでに到着していた。
趣のある料亭だ。
パコーンとししおどしが鳴る。
昼間に来たら、素晴らしい庭園が見えるだろう。
和服を着た女将に案内された部屋は、鳳凰の間。
名前から想像するとかなり高額な部屋のような気がする。
女将が声をかけると、襖が開けられた。
明るい部屋の中には、黒檀のテーブルが置かれて、上座には鳳凰の掛け軸と上品な花が生けられている。
篠原に続いて、葵と史郎が部屋の中に入っていく。
「史郎君は鈴村の隣でいいかな?」
史郎はじっと鈴村を見ていた。
「史郎、ほら」
背中を押すと、我に返ったように動き出す。
「自己紹介をするよ。隣に座っている美女は悠木葵さん。鈴村の隣に座っているのが。名字聞いてないな」
「稲生史郎です」
史郎が答えて、深く頭を下げる。
「鈴村和也です」と史郎の隣で頭を下げた鈴村は、葵の顔をじっと見つめている。
「鈴村、葵は俳優の悠木葵で、鈴村が熱を上げていた相手は、おまえの隣の史郎君だ。葵も僕と同じ身代わりだ」
「えっ!」
「はい、身代わりです。僕はしかも男です」
「嘘だろう」
「訳があって、今も女装してます」
「やっぱり落胆しますか?しますよね」
史郎が項垂れる。
「葵、あとは二人で話をさせよう」
「史郎はまだ大学生なので、帰りは送ってあげてください」
葵は立ち上がると、丁寧にお辞儀をした。
「篠原さん、素敵な席をありがとうございます。お部屋、高額だったんじゃありませんか?」
「葵、なんでそんなよそよそしい話し方をするんだ?」
「なんとなく」
とんと車の背もたれに体を添わせて、葵はウイックの長い髪を指先に巻きつける。
「そうだな、今日の夕食は軽く十万くらいかな?ふたりの俳優をもてあそんだ代償としては高くないぞ」
「十万って、鈴村さん、大丈夫なのか?史郎がパニック起こさなきゃいいけど」
「親友想いなんだな」
「幼馴染で腐れ縁なんだ。あいつ芸能人だからって特別扱いしないんだ。げーのーせーじんとか言って、個性のひとつくらいにしか思ってないところが気に入ってる」
「鈴村も芸能界に疎いな。気づいたと思うが、葵の名前を出しても、まったく反応しなかっただろう?僕のことも芸能人だって知らずに話しかけてきたな。半年くらいたって、まわりに何か言われたのか、馴れ馴れしくしてすまなかったと謝りに来たが、それも、まわりに言わされた感じで、その鈍さが気に入って四年間一緒に過ごしたな。卒業してからも、飲みに行こうぜって誘ってくるのは、あいつだけだったな」
「ふたりともどこか似てる」
葵が言うと、篠原は「そうだな」と頷いた。
出会うことはできた。この先はふたりが決めることだ。
「なんか、ほっとした」
「僕もだ」
ふたりでクスクス笑いながら、車が走っていく。
「おなかすいた」
「なにが食べたい?」
「食べられるものなら何でもいい。コンビニのパンでもいいよ」
「葵はそういうものを食べてきたのか?」
「手軽だし。台本読みながら食べられるから時間の無駄にならない」
「食育しないといけなさそうだ」
「そういう面倒なことはいいから、ごはん」
「少しは我慢しろ。すぐに、どこかで食べさせてやる」
「史郎、昨日はどうだった?」
「和也さん、驚いていたけど怒ってはいなかった。交際するかは分からないけど、友達から始めようってことになった。ラインから好きとか愛してるとか、そういう言葉が消えたのは寂しいけど、その場で別れ話にならなくてよかった」
決して晴れやかな笑顔ではないけれど、史郎は現実をきちんと受け止めている。
「そうか。うまく両想いになれるといいな」
今日も史郎のノートを手早く写している。
「それにしても、葵は女装に目覚めたのか?」
「いや、足を派手に火傷しちゃって、バスローブかスカートかの二択選択だったんだよ。入院すると学校の単位取れなくなるしで、これでもいろいろ大変だったんだ」
スカートを少し捲って、包帯を見せてやる。
「げーのーせーじんが怪我したらまずいだろう」
いったい誰のせいで、こんな火傷をしたと思ってるんだと思っても、口に出すほど子供じゃない。
「火傷が治るまで、女装で過ごすだけだよ」
周りの視線がやかましい。
普段からよく見られるが、女装している姿をカメラに収めようとスマホを向けられると、イラっとしてくる。
「おい、みんな。肖像権の侵害だよ。写真撮影は本人の許可なしではやめろ」
葵のイラつきが伝播したのか、普段はおとなしい史郎が立ちあがった。
せっかく史郎が声を上げてくれたので、葵も立ちあがった。
「すまないけど、ここは学校だし今はプライベートだから撮影は禁止で頼むよ。どうしても撮りたいなら事務所通してくれるかな?あとで僕のSNSに載せておくから、よかったらそれを見て」
国宝級と呼ばれるスマイルを皆の前で披露して、ついでに宣伝もしておく。
キラキラした笑顔に、女子たちが小さな悲鳴をあげる。
「勝手に撮影したものがSNSに流れてたら、本人を突きとめて、名前と素顔をSNSに拡散してやるよ」
「史郎、それはやり過ぎかもよ?」
「僕はそういうの得意だから、いつでも協力するよ」
スマホを持っていた講義室にいた生徒たちが顔を強張らせた。
「みんな頼むね」
講義室がしーんと静まり返り、皆がスマホを鞄にしまった。
葵は静かに椅子に座って、史郎の方に体を傾げた。
「ありがとう、史郎」
「僕の方がありがとうだからな。学校で葵を守るのは僕の役目だ」
(そんなふうに思っていたのか)
史郎を守っているつもりで守られているとは思わなかった。
いい友達に恵まれた。
「サンキュ」
葵はノートを写しだす。
その隣で、史郎はスマホを取り出し、ラインを開いて見ている。
着信があったのか、にこりと笑い、素早く文字を打ち込んでいる。
嬉しそうな笑顔が、とても眩しくみえた。
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