12 / 13
気高く咲く花のように ~モン トレゾー~ 12話
しおりを挟む
12
「純也、ごめん」
ベッドに横向きに寝転んで篠原の腰に腕を巻き付けていた。
葵はまたレイプ検査と肛門裂傷の再手術を受けて、全身の精密検査を受けた。
体中に受けた暴行と昨夜からの発熱で直腸感染の可能性があると言われて、経過観察と検査入院になってしまった。
今回はシャワーを浴びさせてはもらえなかった。
その代わりに、篠原が葵の体を隅から隅まで、綺麗に拭いてくれた。
レイプの痕跡は、篠原のおかげでなくなった。
篠原の優しさのおかげで、以前のように嫌悪感を抱いて泣き叫ぶこともなかった。
「怒ってるよね?」
「怒ってるよ」
篠原は氷嚢で、葵の赤く腫れた頬を冷やしている。
「傷が残ったらどうするつもりだ?葵は自分自身が商品だという自覚がないのか?」
「ちゃんとある」
「あんな危険な男の前で、短いスカートはいたりして」
「でも、あの服買ってくれたの、純也だよ」
「僕の前で着るのとは違うだろう?」
「ごめん」
「謝って済むと思うのか?せっかく治ってきたお尻の傷が開いてしまったんだ」
「ごめん」
「僕とする前に、他の男に入れられるなんて」
「先端で押されただけだよ。ぎりぎり入れられてはないから許して」
「駄目だ。自分を大切にできない子は、お仕置きしないとな」
ぎゅっと氷嚢を押しつけられて、葵はぎゅと篠原にしがみついた。
「純也、痛い」
「顔をこんなに傷だらけにして、お腹も何度も蹴られて内臓破裂していたらどうなっていたか」
「でも、純也が助けに来てくれた」
「助けに行くに決まってるだろう。葵は僕のパートナーだよ。パートナーってわかる?僕は結婚と同じだと思ってる」
「うん」
氷嚢の位置をずらして、額も冷やしてくれる。
「葵、黒川千鶴が来たとき、不安になって逃げただろう」
「だって。黒川さん、本気だったから。本物の女の子には敵わないと思ってしまったんだ。もし、黒川さんに口説かれて、純也が嬉しそうな顔をしたら、僕はもう立ち直れないかと思ったんだ」
「僕は葵だけだと何度言ったら信じてくれるんだ?」
「信じてる。でも、不安になるんだ。純也がどこかに行ってしまったらと思うと怖いんだ」
「僕だって怖いよ。葵は魅力的だし、実力もあるし行動力もある。僕の想像もつかないことを次々やって、時々自分の殻にこもってしまう。僕はどうしたらいいかわからなくなる」
「僕は心が弱いから、いっぱい迷惑かけた。でも、純也のことはずっと好き」
篠原は大きなため息をついた。
「怒った?」
「いや、葵に好きと言われたら怒れない」
「ねえ、純也、抱きしめて。自分で起き上がれないんだ。起こして」
「起こしたら痛いんじゃないか?」
「じゃ、添い寝して抱きしめて」
「こんなに熱が高いのに、抱きしめたら熱がこもるだろう?」
「純也が足りない」
涙声になってしまう。
欲しくて仕方ない。
「純也に抱かれたい」
篠原の体を揺すると、篠原が立ち上がった。
「純也、怒った?」
「怒った」
「僕だって、葵を抱きたいんだ。入れてぐちゃぐちゃにして、葵のイク顔を見たいんだ」
「純也、ごめん」
「怒ってない」
そっと体の位置をずらされて、篠原がベッドに横になってくれた。
「純也、キスして」
「痛くても知らないぞ」
「痛くてもいい」
何度か触れて、徐々にキスが深くなる。
葵は必死に抱きついた。包み込むように抱きしめられて葵はやっとホッとした。
「一緒に寝てね」
篠原の胸に頬を埋めると、葵はやっとすやすやと眠り始める。
葵を抱きしめているうちに、篠原も眠っていた。
翌朝の検温の時間に二人とも看護師に起こされて、二人で顔を赤らめた。
荒井田や大和田は二度目のレイプで現行犯逮捕され、葵の体から採取したDNAも一致した。最初のレイプもシーツの再鑑定で大和田のDNAが発見された。卓也が隠してくれたウイックからは荒井田の指紋とDNAが検出された。ボイスレコーダーの音声を否定できなくなりレイプを認めた。互いに自分だけが逮捕されるのを嫌がった二人は、事件の大筋と共犯者を供述した。そのお陰で、卓也たちにも強姦の被害者と認められた。
有名企業と有名プロダクションのスキャンダルは世間に報道された。被害者だった葵の名前も報道されたが、社会が注目したのはレイプした側だった。
月のシンフォニーは解散したが、ファンからの要望が大きく、ゲーム会社も検討を始めたらしい。
「葵はげーのーせーじんの自覚はないようだな。その顔はなんだ?」
病院に授業のノートのコピーを持て来た史郎は、葵の顔を見るなり大きなため息をこぼした。
「これじゃ、篠原さんがかわいそうだ」
「史郎は僕の味方だろう?」
「味方だけど、篠原さんも僕と和也さんとの恋のキューピットなんだよ」
「好きな人に心配かけてばかりで、愛想を尽かされるぞ」
葵は篠原の顔を見上げた。
「純也、僕のこと好き?」
「どうだろう?」
篠原は洗濯物を集めていた。
「史郎君、葵のこと見ててくれるか?少し洗濯をしてきたいんだ」
「俺がしてこようか?」
「せっかく史郎君が来たのだから、葵も気晴らしになるだろう。何かあったら電話でもいいしナースコール押してもいいよ」
「わかりました」
篠原は病室を出て行ってしまった。
「史郎・・・」
「だから言っただろう。葵は篠原さんに甘えすぎだ」
「甘えすぎかな?」
「いや、違うな。甘えすぎじゃなくて、心配かけすぎだ」
史郎は鞄からコピー用紙を取り出すと、それを応接セットのテーブルの上に置いた。
思ったほど多くなくて、ホッとする。
「お礼は二号館のアイスミルクティーとケーキな」
「わかった」
「はい」とわたされたのは、缶のホットチョコだ。
「これはお見舞い」
「ありがとう」
缶を開けて、一口飲む。
篠原との思い出がいっぱい詰まった甘い味だ。
「さっき、どうだろう?って言った」
「不安になってるのか?」
「泣きそうなほど不安だ」
はあ、と大きなため息をついて、ホットチョコをちびちびと飲む。
季節は初冬だ。
院内は暖かいが、外は冷えている。
「抱けなかったら、飽きるのかな?」
「なんだそれは?」
二度目に襲われたときに大和田に言われた言葉だ。
篠原とは、もうずいぶん抱き合っていない。
再手術をして、またゴールが遠くなってしまった。
直腸の炎症は起きてはいなかった。発熱は疲労と風邪だと言われた。
体中の打撲の痕は、ずいぶん癒えてきている。
退院の許可は出ているが、社長が許可を出してくれない。
世間的に騒がれているから、匿ってもらっているのだが、葵は罰だと思っている。
「俺は会うたびにエッチしてるよ」
史郎が笑顔で爆弾を落とした。
「ラインだけじゃなく、リアルでもラブラブなのか」
「当たり前だろう。しない理由が俺たちにはないもん」
「あ、そう」
史郎は出会うまでは大変だったが、出会ってからは順風満帆だ。
スマホを取り出すと、史郎はアルバムを立ち上げた。
「ほら、見ろよ。今じゃ、二人の写真しかないよ」
指をスライドさせて、次から次へと写真を見せてくれる。
抱き合っている写真やキスしている写真もある。
「葵は、相変わらず撮ってないんだろう?」
最初に一枚撮ったきりだ。
篠原の写真は、たった一枚しかない。
「うん」
「今しかない思い出ってあるんだよ。その瞬間瞬間を撮っておくのも愛情じゃないかな?」
史郎はスマホをしまう。
「葵は有名人だから、いろいろあると思うけど、恋心は有名人も一般人も同じじゃないのか?篠原さんも葵を好きなこと隠してないだろう?」
「うん」
篠原は自分がパートナーだと医師に伝えている。
看護師にも隠したりしない。
社長や小池にもオープンにしている。
葵は自分から言ったのは、社長だけだ。
たぶん皆は察しているのだろう。
隠したりしないが、オープンにもしていない。
「葵のことが好きだから、待ってくれているんじゃないか?」
「え?」
「だからさ。葵の体がよくなるまで、待ってくれていると思うんだ。抱きしめられたりはするんだろう?」
「うん」
ホットチョコを飲みながら、頷く。
「それなら早く治せ」
ツンと頬を突かれて、葵は飛び上がるように頬を押さえた。
「痛いだろ、史郎」
「痛いだろうな、その痣じゃ」
「もう退院したい」
入院して一週間になる。
「学校の単位まだ足りるかな?」
「さあ?」
「もう我慢できない。退院しよう」
「だからさ、そういうことを篠原さんに相談してから決めろよ。葵は突っ走ると、どこまでも突っ走るから」
史郎に言われて、葵は反省した。
篠原にも言われた。
篠原に添い寝を頼んだとき、怖いって確かに言った。
(僕も純也を不安にさせてたのか)
「相談してみる」
史郎が笑った。
トントントンとノックされて、扉が開いた。
篠原がコンビニの袋と洗濯物を持って戻ってきた。
「史郎君、助かったよ。プリン買ってきたから食べないか?」
「葵の好物だから、葵に食べさせてあげて。僕はそろそろ帰ります」
「またな」と言って、史郎は帰っていった。
「何か悪いことでも話していたのか?」
「ううん?思い出は写真に撮っておけって言われただけだ」
葵はベッドから静かに降りると、テーブルの上に置かれたスマホを手に持って篠原の前に立った。
「純也、写真撮ってもいい?」
「いいよ」
「一緒にプリン食べてるところなんてどうだ?」
葵は笑った。
葵はベッドに座って、篠原の手を引っ張った。
「ちょっと待ってくれ。洗濯物は置かせてくれ」
部屋の棚に洗濯物を置いて、戻ってきてくれる。
コンビニのプリンを受け取って蓋を開ける。
「純也、僕たちの家に帰りたい」
「医師からは退院許可が下りたな」
「まだ帰ったら駄目なの?」
「葵はまた世間で時の人になってるんだ。学校の単位を気にしているんだろう?」
「うん」
「葵がレイプされたことは、世間に知られている。学校のみんなにもね。それでも行ける?」
「大学は卒業したいんだ」
「また僕と大学に行くか?」
葵は首を左右に振った。
「純也にも仕事が来てる。純也は僕のマネージャーじゃないから駄目だ」
「それなら、俳優を辞めて葵の専属マネージャーになってもいい」
「それは駄目」
蓋を開けたプリンをベッドに置くと、篠原がそのプリンを手に持って、スプーンでプリンを掬うと葵の口の前に持ってきた。
「僕にとって葵が一番なんだよ。ほら口開けて」
口を開けると、甘いプリンが口の中に広がる。
「僕は純也とまた仕事がしたい」
「そうだね、葵との共演は心が躍る。辞めるのは勿体ないね」
篠原は自分のスマホで顔を近づけた時の写真を撮った。
「あれ?僕のスマホは?」
「指紋認証かかっているだろう?」
「ああ、そうだった」
慌てて、スマホを開けてカメラにする」
篠原が顔を近づけてくれる。
「葵のスマホは二枚目の写真だね」
「純也は?」
篠原はアルバムを開けて見せてくれた。
数え切れないほどの葵の写真がそこにはあった。
撮影の時の顔や眠っているときの顔。葵が眠っているときに撮った二人のキス。怪我して顔が腫れている時の写真まで。史郎の比ではないほど、大量な写真が納められていた。
「純也は撮ってたの?」
「撮らずにいられなかった。葵は僕の大切な宝物だから」
「僕は頭が固いんだね。規則に縛られすぎて、世間に知られるのを恐れてた」
「カミングアウトは別にしなくてもいいよ。僕の気持ちは変わらない」
「純也、本物のパートナーになる方法ってあるの?」
「最近では、そういうのも増えてきてる。でも、急ぐ必要はない。葵の心が僕を求めてくれるまで待てるよ」
プリンを掬って、また口に運んでくれる。
甘くておいしい。篠原の優しさのような甘さだ。
「純也、結婚しよう」
篠原は笑った。
「また葵は唐突だな」
「不安になりたくない。純也を独占したいんだ。僕に独占されるのはいや?」
「大歓迎だよ」
葵は篠原に抱きついていった。
その日の夕方、葵は退院した。
小池が迎えに来て、地下の通用口から出て車に乗った。
「言われていた食料品は購入して冷蔵庫に入れておきました」
「ありがとう」
診察は週に一度来なくてはいけないが、動けるほど体は回復していた。
「葵君の洋服を出すために、クローゼットは開けさせてもらったよ」
「小池さん、ありがとう」
「一時はどうなるかと思いましたけど、顔の腫れもずいぶん引いてきましたね。痣はまだ生々しいですけど」
「そんなに目立つ?」
「かなり目立ちます」
「僕、喧嘩ってしたことなくて、今回も殴られるばかりで手出しができなかったんだ」
「おとなしく殴られてたから、その程度で済んだのかもしれないよ」
篠原は葵の頭を抱き寄せて、頭を撫でている。
「純也って、なにか武道してたんじゃないか?ドアって蹴り破ったんだろう?拳も強かった」
「子供の頃から大学生になるまで合気道を習っていた。後は、スポーツジムで鍛えていただけだ」
「スポーツジムか。僕の場合、ユニセックスな感じにしないといけないから、あまり筋肉つけられないんだ。もともと筋肉はつきづらい体質だけど」
「葵は部屋の稽古場で運動してるから、十分じゃないのか?」
「月のシンフォニーのダンスの練習は確かにきつかったけど、今はダンスレッスンしてないから」
「ダンス続けたらいいんじゃないか?再結成の話も出てきているだろう?」
「うん。そうだね」
再結成は夢の話になるかもしれない。それでも可能性はゼロではない。
ファンのみんなが、ゲーム会社に働きかかけてくれている。ゲーム会社も検討を重ねているらしい。
命をかけて掴み取った可能性を信じてみてもいい。
ゲームは順調だ。新作のストーリーも更新されている。
もう一度、月のシンフォニーが結成されると希望を持とう。
葵は退院した翌日、篠原に連れられて、パートナーシップの証明書の申請を行った。
審査があるらしく、即日発行はされないらしいが、これで正式にパートナーだと証明できる。法律上ではまだ認められないが、それでも今までより二人は近づいたような気がした。
これからは、もっと認められることが増えていくと思う。
「僕の保護者は純也になったんだよね?今回みたいに緊急手術になったとき、純也がサインしてくれるんだよね?」
「もう、あんな怪我はしてほしくはないけど。葵の保証人だ。僕の保証人も葵だよ」
二人は初めて、外で指輪をしていた。
葵は敢えて、女装はしなかった。
ありのままの姿で、篠原の隣に立ちたかった。
互いに眼鏡とマスクははめていったけれど、誰にも二人の正体がバレることはなかった。
そのまま篠原の車で、事務所に顔を出した。
「葵君も篠原さんもいらっしゃい」
三木が出迎えてくれる。
「社長なら社長室にいるわよ。鰻ももうすぐ届くわ」
「ありがとうございます」
「まずは褒めさせろ。今回のドラマも好評だ。葵のアクションは監督やプロデュサーやスポンサーからも素晴らしい評価だ。今回の演技も素晴らしかった。ピンチヒッターで入った篠原君も、素晴らしい評価をもらっているぞ。是非、主演で頼みたいと出演依頼も来ている」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人はソファーに座ったまま、丁寧に頭を下げた。
「葵、その顔はどうするつもりだ?」
「すみません」
「せっかく褒めたのに、これは叱らねばならない」
「はい」
「葵の笑顔は国宝品だと評されるほど美しい。今の傷だらけの顔では評価を落とすだろう」
「はい」
「月のシンフォニーの舞台も中止になったから、今期は休むか?」
「仕事させてもらえないんですか?」
「葵への罰は仕事を与えないことが、一番堪えるだろう?」
「仕事はさせてください。もう無茶なことしませんから」
葵は深く深く頭を下げる。
仕事がなければ、干されていく。
それだけは嫌だし、怖い。
(僕には演技しかないのに、ドラマでも舞台でも映画でも、なんでもいい。仕事がしたい)
「葵の無茶のお陰で、助かった三人もいるから、今回だけは許そうかと思うが、篠原君は甘すぎると思うかね?」
「いいえ、本人は十分に反省しているようなので、仕事はさせてあげてください」
「葵を一番見ている篠原君が言うなら、今回に限っては許そう。次はないよ」
「はい。すみませんでした」
「まずは鰻を食べよう。葵、食べられるな」
「はい。いただきます」
お重の蓋を開けると、湯気が立ち上る。
「いただきます、社長」
篠原も食べ始める。
今日の鰻も特上だった。
笑顔の社長が湯飲みにお茶を入れてくれる。
社長と三人で鰻を食べ終わると、社長は内線を押した。
三木と小池が入ってくる。
三木が食べ終わったお重とお椀を片付けて、小池は自前のマグカップを持って、社長が座っていた場所の隣に座った。社長は立ち上がり自分の机から何枚かの紙を持ってきて、一人がけのソファーに座り直した。
「まず葵からだ。どの仕事を選ぶ?倒れない程度に選びなさい」
テーブルの上に二枚の紙が置かれる。
依頼された仕事が、いくつも書かれている。
「木ノ芽メイ原作のドラマ『ピュアラブ』と作詞作曲の依頼がまた来ている。七回目か八回目か、もう忘れたが、葵ももう二十歳だ。高校生役はリミットがあるぞ。木ノ芽先生は頑固な方らしい。アニメ化はすぐに許可されたらしいが、ドラマ化は葵が主演ではなかったら辞めると言い続けているらしい。アニメ化も成功し、ドラマ化も期待されている。演出家やプロデューサーも有名な方の名前が挙げられている。そろそろ受けてやったらどうだ?」
「原作の本は読ませてもらいました。優しいお話でした。作詞作曲もしました。ストーリーにあったいい曲ができあがったと思います」
「それなら受けるのか?」
「相手役は篠原さんにお願いしました。篠原さんに断られたら、このお話はお断りします」
「篠原君にもたくさんの仕事が来ている」
社長は篠原の前に紙を置いた。
「ドラマも映画も来ている。来期の朝ドラの話も今朝届いた」
「ありがとうございます。まずは、葵にスカウトされた役をこなします」
「篠原君が決めたのなら、その役を演じてくれ。その次の仕事はおいおい決めていこう」
「はい」
「小池、今までは葵の専属マネージャーをやってもらったが、篠原君のマネージャーも兼任してくれ。できるか?」
「はい。できます」
「よろしくお願いします。小池さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。篠原さん」
二人は互いに会釈した。
「小池、木ノ芽メイ先生に、さっそく連絡してくれ。喜ばれるだろう」
「はい。わかりました」
「葵、篠原君。二人は俳優だ。パートナーになったようだが、いつでも共演できるわけではない。わかってるな?」
「はい」
「はい」
「それならいい。互いに違う仕事場で演じることの方が多くなると思うが、葵はわかってるな」
「はい。わかっています」
「それならいい。今回の依頼では相手役は葵が選んでいいと言われていたから、篠原君にお願いするが、我が儘は通らないからな」
「はい」
葵は左手にはめられた指輪を握った。
(もう大丈夫。二人はパートナー―だ。ちゃんと信じられる)
「純也、ごめん」
ベッドに横向きに寝転んで篠原の腰に腕を巻き付けていた。
葵はまたレイプ検査と肛門裂傷の再手術を受けて、全身の精密検査を受けた。
体中に受けた暴行と昨夜からの発熱で直腸感染の可能性があると言われて、経過観察と検査入院になってしまった。
今回はシャワーを浴びさせてはもらえなかった。
その代わりに、篠原が葵の体を隅から隅まで、綺麗に拭いてくれた。
レイプの痕跡は、篠原のおかげでなくなった。
篠原の優しさのおかげで、以前のように嫌悪感を抱いて泣き叫ぶこともなかった。
「怒ってるよね?」
「怒ってるよ」
篠原は氷嚢で、葵の赤く腫れた頬を冷やしている。
「傷が残ったらどうするつもりだ?葵は自分自身が商品だという自覚がないのか?」
「ちゃんとある」
「あんな危険な男の前で、短いスカートはいたりして」
「でも、あの服買ってくれたの、純也だよ」
「僕の前で着るのとは違うだろう?」
「ごめん」
「謝って済むと思うのか?せっかく治ってきたお尻の傷が開いてしまったんだ」
「ごめん」
「僕とする前に、他の男に入れられるなんて」
「先端で押されただけだよ。ぎりぎり入れられてはないから許して」
「駄目だ。自分を大切にできない子は、お仕置きしないとな」
ぎゅっと氷嚢を押しつけられて、葵はぎゅと篠原にしがみついた。
「純也、痛い」
「顔をこんなに傷だらけにして、お腹も何度も蹴られて内臓破裂していたらどうなっていたか」
「でも、純也が助けに来てくれた」
「助けに行くに決まってるだろう。葵は僕のパートナーだよ。パートナーってわかる?僕は結婚と同じだと思ってる」
「うん」
氷嚢の位置をずらして、額も冷やしてくれる。
「葵、黒川千鶴が来たとき、不安になって逃げただろう」
「だって。黒川さん、本気だったから。本物の女の子には敵わないと思ってしまったんだ。もし、黒川さんに口説かれて、純也が嬉しそうな顔をしたら、僕はもう立ち直れないかと思ったんだ」
「僕は葵だけだと何度言ったら信じてくれるんだ?」
「信じてる。でも、不安になるんだ。純也がどこかに行ってしまったらと思うと怖いんだ」
「僕だって怖いよ。葵は魅力的だし、実力もあるし行動力もある。僕の想像もつかないことを次々やって、時々自分の殻にこもってしまう。僕はどうしたらいいかわからなくなる」
「僕は心が弱いから、いっぱい迷惑かけた。でも、純也のことはずっと好き」
篠原は大きなため息をついた。
「怒った?」
「いや、葵に好きと言われたら怒れない」
「ねえ、純也、抱きしめて。自分で起き上がれないんだ。起こして」
「起こしたら痛いんじゃないか?」
「じゃ、添い寝して抱きしめて」
「こんなに熱が高いのに、抱きしめたら熱がこもるだろう?」
「純也が足りない」
涙声になってしまう。
欲しくて仕方ない。
「純也に抱かれたい」
篠原の体を揺すると、篠原が立ち上がった。
「純也、怒った?」
「怒った」
「僕だって、葵を抱きたいんだ。入れてぐちゃぐちゃにして、葵のイク顔を見たいんだ」
「純也、ごめん」
「怒ってない」
そっと体の位置をずらされて、篠原がベッドに横になってくれた。
「純也、キスして」
「痛くても知らないぞ」
「痛くてもいい」
何度か触れて、徐々にキスが深くなる。
葵は必死に抱きついた。包み込むように抱きしめられて葵はやっとホッとした。
「一緒に寝てね」
篠原の胸に頬を埋めると、葵はやっとすやすやと眠り始める。
葵を抱きしめているうちに、篠原も眠っていた。
翌朝の検温の時間に二人とも看護師に起こされて、二人で顔を赤らめた。
荒井田や大和田は二度目のレイプで現行犯逮捕され、葵の体から採取したDNAも一致した。最初のレイプもシーツの再鑑定で大和田のDNAが発見された。卓也が隠してくれたウイックからは荒井田の指紋とDNAが検出された。ボイスレコーダーの音声を否定できなくなりレイプを認めた。互いに自分だけが逮捕されるのを嫌がった二人は、事件の大筋と共犯者を供述した。そのお陰で、卓也たちにも強姦の被害者と認められた。
有名企業と有名プロダクションのスキャンダルは世間に報道された。被害者だった葵の名前も報道されたが、社会が注目したのはレイプした側だった。
月のシンフォニーは解散したが、ファンからの要望が大きく、ゲーム会社も検討を始めたらしい。
「葵はげーのーせーじんの自覚はないようだな。その顔はなんだ?」
病院に授業のノートのコピーを持て来た史郎は、葵の顔を見るなり大きなため息をこぼした。
「これじゃ、篠原さんがかわいそうだ」
「史郎は僕の味方だろう?」
「味方だけど、篠原さんも僕と和也さんとの恋のキューピットなんだよ」
「好きな人に心配かけてばかりで、愛想を尽かされるぞ」
葵は篠原の顔を見上げた。
「純也、僕のこと好き?」
「どうだろう?」
篠原は洗濯物を集めていた。
「史郎君、葵のこと見ててくれるか?少し洗濯をしてきたいんだ」
「俺がしてこようか?」
「せっかく史郎君が来たのだから、葵も気晴らしになるだろう。何かあったら電話でもいいしナースコール押してもいいよ」
「わかりました」
篠原は病室を出て行ってしまった。
「史郎・・・」
「だから言っただろう。葵は篠原さんに甘えすぎだ」
「甘えすぎかな?」
「いや、違うな。甘えすぎじゃなくて、心配かけすぎだ」
史郎は鞄からコピー用紙を取り出すと、それを応接セットのテーブルの上に置いた。
思ったほど多くなくて、ホッとする。
「お礼は二号館のアイスミルクティーとケーキな」
「わかった」
「はい」とわたされたのは、缶のホットチョコだ。
「これはお見舞い」
「ありがとう」
缶を開けて、一口飲む。
篠原との思い出がいっぱい詰まった甘い味だ。
「さっき、どうだろう?って言った」
「不安になってるのか?」
「泣きそうなほど不安だ」
はあ、と大きなため息をついて、ホットチョコをちびちびと飲む。
季節は初冬だ。
院内は暖かいが、外は冷えている。
「抱けなかったら、飽きるのかな?」
「なんだそれは?」
二度目に襲われたときに大和田に言われた言葉だ。
篠原とは、もうずいぶん抱き合っていない。
再手術をして、またゴールが遠くなってしまった。
直腸の炎症は起きてはいなかった。発熱は疲労と風邪だと言われた。
体中の打撲の痕は、ずいぶん癒えてきている。
退院の許可は出ているが、社長が許可を出してくれない。
世間的に騒がれているから、匿ってもらっているのだが、葵は罰だと思っている。
「俺は会うたびにエッチしてるよ」
史郎が笑顔で爆弾を落とした。
「ラインだけじゃなく、リアルでもラブラブなのか」
「当たり前だろう。しない理由が俺たちにはないもん」
「あ、そう」
史郎は出会うまでは大変だったが、出会ってからは順風満帆だ。
スマホを取り出すと、史郎はアルバムを立ち上げた。
「ほら、見ろよ。今じゃ、二人の写真しかないよ」
指をスライドさせて、次から次へと写真を見せてくれる。
抱き合っている写真やキスしている写真もある。
「葵は、相変わらず撮ってないんだろう?」
最初に一枚撮ったきりだ。
篠原の写真は、たった一枚しかない。
「うん」
「今しかない思い出ってあるんだよ。その瞬間瞬間を撮っておくのも愛情じゃないかな?」
史郎はスマホをしまう。
「葵は有名人だから、いろいろあると思うけど、恋心は有名人も一般人も同じじゃないのか?篠原さんも葵を好きなこと隠してないだろう?」
「うん」
篠原は自分がパートナーだと医師に伝えている。
看護師にも隠したりしない。
社長や小池にもオープンにしている。
葵は自分から言ったのは、社長だけだ。
たぶん皆は察しているのだろう。
隠したりしないが、オープンにもしていない。
「葵のことが好きだから、待ってくれているんじゃないか?」
「え?」
「だからさ。葵の体がよくなるまで、待ってくれていると思うんだ。抱きしめられたりはするんだろう?」
「うん」
ホットチョコを飲みながら、頷く。
「それなら早く治せ」
ツンと頬を突かれて、葵は飛び上がるように頬を押さえた。
「痛いだろ、史郎」
「痛いだろうな、その痣じゃ」
「もう退院したい」
入院して一週間になる。
「学校の単位まだ足りるかな?」
「さあ?」
「もう我慢できない。退院しよう」
「だからさ、そういうことを篠原さんに相談してから決めろよ。葵は突っ走ると、どこまでも突っ走るから」
史郎に言われて、葵は反省した。
篠原にも言われた。
篠原に添い寝を頼んだとき、怖いって確かに言った。
(僕も純也を不安にさせてたのか)
「相談してみる」
史郎が笑った。
トントントンとノックされて、扉が開いた。
篠原がコンビニの袋と洗濯物を持って戻ってきた。
「史郎君、助かったよ。プリン買ってきたから食べないか?」
「葵の好物だから、葵に食べさせてあげて。僕はそろそろ帰ります」
「またな」と言って、史郎は帰っていった。
「何か悪いことでも話していたのか?」
「ううん?思い出は写真に撮っておけって言われただけだ」
葵はベッドから静かに降りると、テーブルの上に置かれたスマホを手に持って篠原の前に立った。
「純也、写真撮ってもいい?」
「いいよ」
「一緒にプリン食べてるところなんてどうだ?」
葵は笑った。
葵はベッドに座って、篠原の手を引っ張った。
「ちょっと待ってくれ。洗濯物は置かせてくれ」
部屋の棚に洗濯物を置いて、戻ってきてくれる。
コンビニのプリンを受け取って蓋を開ける。
「純也、僕たちの家に帰りたい」
「医師からは退院許可が下りたな」
「まだ帰ったら駄目なの?」
「葵はまた世間で時の人になってるんだ。学校の単位を気にしているんだろう?」
「うん」
「葵がレイプされたことは、世間に知られている。学校のみんなにもね。それでも行ける?」
「大学は卒業したいんだ」
「また僕と大学に行くか?」
葵は首を左右に振った。
「純也にも仕事が来てる。純也は僕のマネージャーじゃないから駄目だ」
「それなら、俳優を辞めて葵の専属マネージャーになってもいい」
「それは駄目」
蓋を開けたプリンをベッドに置くと、篠原がそのプリンを手に持って、スプーンでプリンを掬うと葵の口の前に持ってきた。
「僕にとって葵が一番なんだよ。ほら口開けて」
口を開けると、甘いプリンが口の中に広がる。
「僕は純也とまた仕事がしたい」
「そうだね、葵との共演は心が躍る。辞めるのは勿体ないね」
篠原は自分のスマホで顔を近づけた時の写真を撮った。
「あれ?僕のスマホは?」
「指紋認証かかっているだろう?」
「ああ、そうだった」
慌てて、スマホを開けてカメラにする」
篠原が顔を近づけてくれる。
「葵のスマホは二枚目の写真だね」
「純也は?」
篠原はアルバムを開けて見せてくれた。
数え切れないほどの葵の写真がそこにはあった。
撮影の時の顔や眠っているときの顔。葵が眠っているときに撮った二人のキス。怪我して顔が腫れている時の写真まで。史郎の比ではないほど、大量な写真が納められていた。
「純也は撮ってたの?」
「撮らずにいられなかった。葵は僕の大切な宝物だから」
「僕は頭が固いんだね。規則に縛られすぎて、世間に知られるのを恐れてた」
「カミングアウトは別にしなくてもいいよ。僕の気持ちは変わらない」
「純也、本物のパートナーになる方法ってあるの?」
「最近では、そういうのも増えてきてる。でも、急ぐ必要はない。葵の心が僕を求めてくれるまで待てるよ」
プリンを掬って、また口に運んでくれる。
甘くておいしい。篠原の優しさのような甘さだ。
「純也、結婚しよう」
篠原は笑った。
「また葵は唐突だな」
「不安になりたくない。純也を独占したいんだ。僕に独占されるのはいや?」
「大歓迎だよ」
葵は篠原に抱きついていった。
その日の夕方、葵は退院した。
小池が迎えに来て、地下の通用口から出て車に乗った。
「言われていた食料品は購入して冷蔵庫に入れておきました」
「ありがとう」
診察は週に一度来なくてはいけないが、動けるほど体は回復していた。
「葵君の洋服を出すために、クローゼットは開けさせてもらったよ」
「小池さん、ありがとう」
「一時はどうなるかと思いましたけど、顔の腫れもずいぶん引いてきましたね。痣はまだ生々しいですけど」
「そんなに目立つ?」
「かなり目立ちます」
「僕、喧嘩ってしたことなくて、今回も殴られるばかりで手出しができなかったんだ」
「おとなしく殴られてたから、その程度で済んだのかもしれないよ」
篠原は葵の頭を抱き寄せて、頭を撫でている。
「純也って、なにか武道してたんじゃないか?ドアって蹴り破ったんだろう?拳も強かった」
「子供の頃から大学生になるまで合気道を習っていた。後は、スポーツジムで鍛えていただけだ」
「スポーツジムか。僕の場合、ユニセックスな感じにしないといけないから、あまり筋肉つけられないんだ。もともと筋肉はつきづらい体質だけど」
「葵は部屋の稽古場で運動してるから、十分じゃないのか?」
「月のシンフォニーのダンスの練習は確かにきつかったけど、今はダンスレッスンしてないから」
「ダンス続けたらいいんじゃないか?再結成の話も出てきているだろう?」
「うん。そうだね」
再結成は夢の話になるかもしれない。それでも可能性はゼロではない。
ファンのみんなが、ゲーム会社に働きかかけてくれている。ゲーム会社も検討を重ねているらしい。
命をかけて掴み取った可能性を信じてみてもいい。
ゲームは順調だ。新作のストーリーも更新されている。
もう一度、月のシンフォニーが結成されると希望を持とう。
葵は退院した翌日、篠原に連れられて、パートナーシップの証明書の申請を行った。
審査があるらしく、即日発行はされないらしいが、これで正式にパートナーだと証明できる。法律上ではまだ認められないが、それでも今までより二人は近づいたような気がした。
これからは、もっと認められることが増えていくと思う。
「僕の保護者は純也になったんだよね?今回みたいに緊急手術になったとき、純也がサインしてくれるんだよね?」
「もう、あんな怪我はしてほしくはないけど。葵の保証人だ。僕の保証人も葵だよ」
二人は初めて、外で指輪をしていた。
葵は敢えて、女装はしなかった。
ありのままの姿で、篠原の隣に立ちたかった。
互いに眼鏡とマスクははめていったけれど、誰にも二人の正体がバレることはなかった。
そのまま篠原の車で、事務所に顔を出した。
「葵君も篠原さんもいらっしゃい」
三木が出迎えてくれる。
「社長なら社長室にいるわよ。鰻ももうすぐ届くわ」
「ありがとうございます」
「まずは褒めさせろ。今回のドラマも好評だ。葵のアクションは監督やプロデュサーやスポンサーからも素晴らしい評価だ。今回の演技も素晴らしかった。ピンチヒッターで入った篠原君も、素晴らしい評価をもらっているぞ。是非、主演で頼みたいと出演依頼も来ている」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
二人はソファーに座ったまま、丁寧に頭を下げた。
「葵、その顔はどうするつもりだ?」
「すみません」
「せっかく褒めたのに、これは叱らねばならない」
「はい」
「葵の笑顔は国宝品だと評されるほど美しい。今の傷だらけの顔では評価を落とすだろう」
「はい」
「月のシンフォニーの舞台も中止になったから、今期は休むか?」
「仕事させてもらえないんですか?」
「葵への罰は仕事を与えないことが、一番堪えるだろう?」
「仕事はさせてください。もう無茶なことしませんから」
葵は深く深く頭を下げる。
仕事がなければ、干されていく。
それだけは嫌だし、怖い。
(僕には演技しかないのに、ドラマでも舞台でも映画でも、なんでもいい。仕事がしたい)
「葵の無茶のお陰で、助かった三人もいるから、今回だけは許そうかと思うが、篠原君は甘すぎると思うかね?」
「いいえ、本人は十分に反省しているようなので、仕事はさせてあげてください」
「葵を一番見ている篠原君が言うなら、今回に限っては許そう。次はないよ」
「はい。すみませんでした」
「まずは鰻を食べよう。葵、食べられるな」
「はい。いただきます」
お重の蓋を開けると、湯気が立ち上る。
「いただきます、社長」
篠原も食べ始める。
今日の鰻も特上だった。
笑顔の社長が湯飲みにお茶を入れてくれる。
社長と三人で鰻を食べ終わると、社長は内線を押した。
三木と小池が入ってくる。
三木が食べ終わったお重とお椀を片付けて、小池は自前のマグカップを持って、社長が座っていた場所の隣に座った。社長は立ち上がり自分の机から何枚かの紙を持ってきて、一人がけのソファーに座り直した。
「まず葵からだ。どの仕事を選ぶ?倒れない程度に選びなさい」
テーブルの上に二枚の紙が置かれる。
依頼された仕事が、いくつも書かれている。
「木ノ芽メイ原作のドラマ『ピュアラブ』と作詞作曲の依頼がまた来ている。七回目か八回目か、もう忘れたが、葵ももう二十歳だ。高校生役はリミットがあるぞ。木ノ芽先生は頑固な方らしい。アニメ化はすぐに許可されたらしいが、ドラマ化は葵が主演ではなかったら辞めると言い続けているらしい。アニメ化も成功し、ドラマ化も期待されている。演出家やプロデューサーも有名な方の名前が挙げられている。そろそろ受けてやったらどうだ?」
「原作の本は読ませてもらいました。優しいお話でした。作詞作曲もしました。ストーリーにあったいい曲ができあがったと思います」
「それなら受けるのか?」
「相手役は篠原さんにお願いしました。篠原さんに断られたら、このお話はお断りします」
「篠原君にもたくさんの仕事が来ている」
社長は篠原の前に紙を置いた。
「ドラマも映画も来ている。来期の朝ドラの話も今朝届いた」
「ありがとうございます。まずは、葵にスカウトされた役をこなします」
「篠原君が決めたのなら、その役を演じてくれ。その次の仕事はおいおい決めていこう」
「はい」
「小池、今までは葵の専属マネージャーをやってもらったが、篠原君のマネージャーも兼任してくれ。できるか?」
「はい。できます」
「よろしくお願いします。小池さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。篠原さん」
二人は互いに会釈した。
「小池、木ノ芽メイ先生に、さっそく連絡してくれ。喜ばれるだろう」
「はい。わかりました」
「葵、篠原君。二人は俳優だ。パートナーになったようだが、いつでも共演できるわけではない。わかってるな?」
「はい」
「はい」
「それならいい。互いに違う仕事場で演じることの方が多くなると思うが、葵はわかってるな」
「はい。わかっています」
「それならいい。今回の依頼では相手役は葵が選んでいいと言われていたから、篠原君にお願いするが、我が儘は通らないからな」
「はい」
葵は左手にはめられた指輪を握った。
(もう大丈夫。二人はパートナー―だ。ちゃんと信じられる)
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる