上 下
84 / 93
第4章

84 大丈夫でしょうか?

しおりを挟む
 研究所から報告が来た。

 やはり大麻だった。

 クローネの邸の畑は全て、大麻が植わっている。

 報告書が来てから、普段着を着た騎士が馬に乗って確かめてきたらしい。


「クローネは、私が辺境区について、暫くしてから中央都市に戻って行きました。8年ぶりに帰ると言っておりました。少なくとも、8年前から大麻が流通していた可能性かあるかと思います」

「8年か?」


 今日は会議に参加している。

 国王陛下に招待された。

 エイドリック王子も参加している。

 国王陛下とエイドリック王子の近衛騎士がサンシャインに殺されてしまったので、新しく任命された近衛騎士は、どこか頼りなく見える。


「全て燃やしてしまったらどうですか?」とエイドリック王子が発言している。

 今は11月。空気は乾燥している。

「今は空気が乾燥しています。大麻自体も乾燥していました。火を付ければ、一気に畑を火が走ると思いますが、燃やした大麻が、他の乾燥した草に飛び火をしたら、何処までも燃えてしまう可能性があります。今度、消すときに大変になりそうですが、消火はどのように考えておられますか?」

 エイドリック王子は腕を組んで黙ってしまった。

 皆さん、起きておいででしょうか?

 誰も物を言わない。

 上位貴族の半分が消え、今まで発言力のなかった貴族しか残っていない。

 近衛騎士達は、国王陛下もエイドリック王子も友人であり、心の支えだった者達だった。発言力もあったに違いない。その者達を全て失って、国王陛下もエイドリック王子もまだ心の傷が癒えていないのだろう。

 皆の覇気がない。


「この際、大麻は後にして、この大麻を作っている者を捕らえたらどうでしょうか?そうすれば、大麻が広まることは抑えられるのではありませんか?」


 私は提案してみると、「そうしよう」と国王陛下が答えられた。

 大丈夫かしら?


「では、クローネ・ビッフェル侯爵邸に捜索に向かう。事情聴取の為に、全て捕らえよ」

「はい」と騎士達が答える。

「明日、日の出と共に出陣いたす。騎士団、人員の確保、選別をしておくように。王宮を守る者を必ず置くように。二度と同じ過ちを起こさないように」

「畏まりました」


 会議は解散となった。

 私は席を立った。大きなお腹を机にぶつけないように、気をつけながら通路に出ると、背後からエイドリック王子が私の手を取った。

「気をつけて」

「ありがとうございます」

 エスコートをしてくださるのは嬉しいのですが、ヴィオレ王女がこの姿をご覧になったら、誤解をされてしまいそうで、困惑してしまいます。

「エスコートありがとうございます。私には侍女がおりますので、ここまでで大丈夫ですわ」

「気を遣ってくれているんだね。ありがとう。少し、話がしたくて、相談に乗ってくれるかな?」

「いいですわ」

「実はヴィオレ王女のことなんだが、男に襲われてから、言葉が少なくなって、側にいても甘えるでもなく、話をするわけでもなく、ボンヤリとしているんだ。一緒にいるようにしているんだが、心も開いてくれなくて」と、溜息をつかれました。

「初めてを、牢屋のような穢らわしい場所で、無理矢理犯されたのですから、ショックだったのだと思いますわ。私なら、きっと泣いていますわ。知り合いのいない王宮で心細いでしょうし。エイドリック王子はヴィオレ王女のことを好きになったのでしょうか?」

「嫌いではない。可愛いし。でも、彼女は口数も少なかったから、レインに協力して貰って、少しでも笑って貰おうとしていたんだ。そんな時に、男に襲われて、顔も殴られたようで、心を閉じてしまっているんだ。大急ぎで作ったウエディングドレスを見ても、喜ばないし、どうしたらいいのか?お手上げ状態なんだ」

「心の扉を開けるには、信頼関係だと思いますわ。ヴィオレ王女のことが好きなら、エイドリック王子のお心を、何度でも伝えるしかないと思いますわ」


「そうだよな」と、エイドリック王子は、また重い溜息をつかれました。


「エイドリック王子のお心は、大丈夫でしょうか?」


 エイドリック王子も近衛騎士を全て殺されている。

 近衛騎士は、幼い頃からの友人で、心を寄せていた者がなる場合が多いと聞く。


「ニナ妃にはお見通しだな。実は俺も、友人を一度に全て失って、その友人の元に行きたいのだ。失った友は、幼い頃から俺の近衛騎士になると決めて、一緒に努力してきた者ばかりだった。泣きたいほど悲しい」

「エイドリック王子のお心も話して、エイドリック王子の喪失感も埋めなくてはなりません。お友達のところにお見舞いに行きたいと言えば、駄目だとは言わないと思いますわ。私とお話してくだされば、お側に行きますが、最初に挨拶しかしておりませんので、私では役に立たないかもしれません」


 私はエイドリック王子にお辞儀をして、迎えに来たマリアの元に行きました。

 ヴィオレ王女のお心を明るい方に向けるのは、エイドリック王子だけです。でも、もしかしたら、会いたい人がいる可能性がありますね。

 私は振り向きましたが、エイドリック王子はもうおりませんでした。

 事件から、そろそろ一ヶ月が経ちますが、王女のお心は、自分で見切りを付けることができないのでしょうか?

 事件が恐怖となり、お心を苦しめているのなら、医師にかかり、お薬を処方して貰うといいと思いますが、恐怖を乗り越えるのは、ご自身なので、私が何か言っても、貴方は他人でしょうにと言われてお終いのような気がします。


 私とレインも、ずっと平坦な道を歩いてきたわけではありません。

 ぶつかり喧嘩して、話し合い仲直りをしたのです。

 結婚する前も、自分の心と戦い、いろんな道を決めてきたのです。

 誰も平坦な道の者などいないと思います。


「マリア、戻りましょう」

「お疲れではないですか?」

「身体は疲れていないわ、でも、少し心が疲れたわ」

「大変ですわ、ベッドで休んでくださいね」

「大丈夫ですわ。お茶を飲みましょう」

 私は微笑んで部屋に戻った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久
恋愛
初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。 弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。 それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。 「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。 生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。 しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。 どうせまた捨てられる。 諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――? ※Rシーンには[*]をつけています。(プロローグのみ夫の浮気R有) ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

処理中です...