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第4章

80 反乱

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 王宮の出入り口に馬車が到着したが、門番の騎士すらいない。

 レインのいない王宮は、氷でできた建物のように冷たく感じる。

 冬の訪れを感じさせ、身体が冷える。

 エスコートしてくれたのは、マリアだ。


「王妃様、足下を気をつけてください」


 王妃様ですって?

 私は馬車から降りると、マリアの顔を見たわ。


「マリア、私のことは、ニナと呼んでください。この王宮に王妃様がいらっしゃるのに、紛らわしいわ」

「ですが、ニナ様も王妃なのですよ?」

「とにかく、レインが帰ってくるまでは、騒ぎを起こしたくはないのよ。だからお願いしますね」

「承知しました」


 私の侍女達は、私に頭を下げました。

 侍女のお辞儀と王妃のお辞儀は違う。

 私に頭など下げたくはないだろうなと思いながら、もう憂鬱になってくる。

 待っていてもお迎えがないので、自分で扉を開けようと、手で押すと、久しぶりに刀傷が痛んで、扉を開けるのを止めた。

 帰ってこいと言うなら、扉を開ける者を置くべきだと思う。


「マリア、私、もうお兄様の邸に戻りたくなったわ」

「扉を開ける者はいないのですか?」とマリアは声を上げた。


 すると、私を迎えに来た使者が、「遅くなり失礼しました。あちらでずいぶん待たされたので、身体の油が切れてしまったのか?」と、わざとらしく、ぎこちなく動く。


「貴方はブリキでできた身体なのですね?後で、風呂一杯の油を届けさせましょうか?」

「私の身体は油という名の酒でできておりますので、差し入れをいただけるなら、旨い酒が嬉しいですね」

「全く、くだらない。さっさと自分の仕事をなさっては如何ですの?」

「承知」


 男は片手で、扉を開ける。

 そんなに簡単に開く扉が、開けられない。

 私はまた刀傷が痛むのに、全く気分が悪い。


「王妃陛下、どうぞ」


 私は、何も言わずに王宮の中に入って行く。

 王宮内は真冬のように、ヒンヤリとしていた。

 王宮の中にいる間は、冷やさないようにしなくてはと、下腹部に手を当てる。


「ニナ様、痛みますか?」

「ここは寒いと思っただけよ、後でストールをください」

「畏まりました」とマリアが答えた。

「お部屋は、以前、借りていたお部屋でいいのですか?」

「私は何も聞いておりません」


 全く使えない従者だ。


「確認に行ってください」

「ちょっくら行ってきますので」と言って、男は姿を消した。


 ちょっくら?

 貴族の殿方は使わない言葉だ。

 王宮内の静けさといい、これは異常に感じる。


「マリア、戻るわ。なんだか様子が変よ」

「そうですね」


 マリアとシェロが、扉を開けて外に出る。


「馬車を出して」


 私達は同じ馬車に乗った。


「どちらに?」

「お兄様の邸に」と言ってから、「やっぱりハイキングに行きましょう。北へ進んで」と言い換えた。


 御者は私の馬車を操る御者だったので、大丈夫だろう。


「王宮を乗っ取られているわよ。どうしたらいいかしら?」


 マリア達は思案顔で何も言わない。


「首謀者は誰かしら?」


 私は考える。


「サンシャインの部下でしょうけど、国王陛下もその従者も、王宮には大勢の騎士がいるはずよ?それを数人で倒せるかしら?」


 いつもの王宮内を思い浮かべる。

 騎士の数は十分過ぎるほどいた。

 どのように倒したか考えるが、いい案が浮かんでこない。

 このまま放置しておこうかしら?


「マリア達、お金を持っていますか?」

「少しだけですわ」と三人が答える。

「そうよね」


 私はお兄様にもらったお小遣いだけだ。

 どうしようかしら?

 今、馬車は辺境区に向かって走っているのだけれど、お金は足りなくなってくるだろう。

 王宮をそのままに放置していいのかしら?

 ゴードン王子はまだ小さい。きっと泣いているでしょう。

 あのつぶらな瞳を思い出すと、放置はできない。

 どうにか、助け出す手段を考える。

 中央都市の騎士達を集めれば、王宮を救い出すことはできそうよね。

 私は鞄の中を探す。

 確か、お兄様の邸の電話番号があったはず。

 御者に、フェルトとリリーが逢瀬をしていたホテルに向かってもらう。

 このホテルは高いが、警備は確かだ。袖の下には、弱いみたいだけれど。

 馬車も止めさせてもらい。一部屋を借りた。

 ホテルからお兄様の邸に電話をする。

 お兄様は帰ってきていた。

 王家から迎えが来たことから順を追って話していく。


『王宮が占拠されたと?』

「どうにか、中央都市の騎士達を大勢集めて欲しいの。お兄様の人脈でできるかしら?」

『やってみよう。ニナは何処にいるのだ?』

「リリーが不倫をしていた、高級なホテルよ。お兄様がくださったお小遣いで、部屋を取ったの。お兄様の邸に戻るのは危険だと思ったのよ」

『そこから動くな。今から人を集める。明朝、日の出と共に攻め入れるように準備をする。迎えに行くまで待っていろ』

「お兄様、子供達を預かりましょうか?」

『ニナより腕の立つ者がいる。安心しなさい』

「お願いします」


 電話が切れた。

 私はホテルの支配人に会えるようにお願いした。

 私の従者は、御者と侍女達だ。

 従業員達は素早く動き、私達を応接室に案内した。


「私はブルーリングス王国の王妃、ニナと申します。盗賊の捕り物をご存じでしょうか?」

 皆さん、頷かれた。

「王宮で、国王陛下達が事情聴取をしているはずでした。今日、私は国王陛下に呼び出され、王宮に行ってみると、王宮は静まりかえっておりました。私を迎えに来た男も隠して紳士ぶっておりましたが、あれは騎士ではありません。ならず者でありました。早急に私達は王宮から逃げ出して、ここに避難させていただきました。私の兄ができるだけ中央都市の騎士達を集めると、今、奔走しておりますが、できましたら、安心できる騎士達を紹介してくださいませんか?明朝、日の出と共に攻め入る予定を立てております。今、王宮は、ならず者に占拠され、国王陛下をはじめ、王家の者が危険に晒されております。万が一、国王陛下、エイドリック王子に何かあれば、この中央都市だけでなく、ニクス王国も危険な状態です。どうか、力を貸してください」


 私は頭を下げた。


「このホテルの支配人のアロージュと申します。私にも騎士の友人がおります。直ぐに連絡をしたいと思います。従業員のうちで、信頼できる知り合いがいれば即連絡して欲しい。明朝、日の出と共に攻め入ると必ず添えて伝えて欲しい」

「どうぞ、よろしくお願いします。ニクス王国のためにお力をお貸しください」


 私は再度、頭を下げた。

 従業員の皆さんも真剣な顔で、お辞儀をしてくださいました。


「王妃様、妊娠されていらっしゃるのではありませんか?休める部屋を用意しますので、そちらで休んでください。国の大事なときに、子を危険に晒してはなりません」

「それでは、お言葉に甘えて」


 私は頭を下げる。

 アロージュは、従業員の一人に、私を託した。


「お部屋に案内いたします」

「お願いします」

 案内されたお部屋は、きっとこのホテルで一番広い部屋に違いない。

 部屋の中に部屋がある。男の御者に部屋を与える事ができる。

 私の侍女も部屋を与えられる。

 主の部屋は、広いベッドに電話も付いていた。

 部屋自体も広い。

 お風呂もあり、ゆったりできる。

 マリアに勧められて、ラソにお風呂に入れてもらう。

 着替えは生憎ないけれど、暢気に休める状態でもない。

 皆に勧められて、ベッドで休むことにした。



 +


 ゴードン王子は泣き疲れて、意識を失うように眠りに落ちた。

 王女達は男達に連れて行かれた。

 お招きでいるヴィオレ王女も男達に連れて行かれた。

 国王陛下とエイドリック王子は、縛られている。

 アルフォード王子と王妃も縛られている。

 国王陛下とエイドリック王子の近衛騎士の屍は、サンシャインの部下が部屋の外に放り投げている。

 床は凄惨な、血の海になっている。

 サンシャインとサンシャインの部下、盗賊達は、リアン第二夫人に開放された。

 娘のシル王女もリアン第二夫人と共にいる。

 この王宮に勤めていたコック、メイド等の使用人達はロープでしっかり縛られている。声が出せないように、口もタオルを押し込まれ縛られている。

 騎士団達は、国王陛下とエイドリック王子の姿を見せられ、手も足も出せない。

 そうこうしているうちに、サンシャインの部下が、武器の類いの物を集めて、縛り上げていく。

 国王陛下はリアン第二夫人を睨む。

 リアン第二夫人は夫である国王陛下を恨んでいた。

 お渡りは、もう17年はない。

 久しぶりに、国王陛下の顔も見た。

 子はシル王女だけである。

 リアン第二夫人は、今回の捕り物での主犯者、サンシャインのことを知っている。

 生まれたばかりの王子を、母親と共に市井に捨てた男がこの夫だ。

 あの男はブルーリングス王国の王子。ブルーリングス王国の血筋ばかり集めていた。

 第一夫人が子を産んだ直後に、亡くなり、二人目の子を宿すために第二夫人として娶った。

 子はなかなか生まれずに、やっと生まれたのがサンシャインだ。

 サンシャインの母親は、リアン第二夫人の姉であった。

 国王陛下も国民も、遊び歩き、誰とでも抱き合うと口にしていたが、そんなことは一度もしていない。小さな頃に誘拐された弟を探していただけである。

 白銀にブルーアイを持ち、身体の小さい弟は、よく女の子と間違えられていた。

 名は、ビオニスといった。

 どこかに売られたか?

 美しい男の子だったから、いかがわしい男にオモチャにされている可能性もある。それなので金持ちの男の邸に忍び込んだり、パーティーに出たりと、金持ちの男の邸を探していただけだ。

 心は第一夫人に残し、身体だけ求められる虚しさ。

 名は第一夫人の名を呼ばれ、子を宿す子宮だけ愛される。

 やっと宿った子は、何処の男の子だと疑われ、貴方の子であると言っても信じてもらえなかったと嘆いていた。


「市井に捨てたら、よかろう」と言ったのが、この国王陛下だ。


 サンシャインと名付けられた白銀でブルーアイの子を姉と共に市井に捨てた。

 シル王女は、ブルーリングス王国の色を持たず、興味を失った。

 王宮の離宮という檻の中に閉じ込め、存在も忘れた。

 第一夫人とは、子は6人も持ったのに、愛さないのならば、自由をくれればいいのに。

 縛るだけ縛って、放置される。

 その寂しさ分かっていますか?

 だから、サンシャインが起こした事件をなかったことにしてあげるわ。

 お姉様の子を守って差し上げるわ。

 王女は、皆、傷物よ。

 貴方が大切にしてきた物をめちゃくちゃにしてあげる。
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