【完結】もう我慢できません、貴方とは離縁いたします。その夫は、貴方に差し上げます。その代わり二度と私に関わらないでちょうだい。

綾月百花   

文字の大きさ
上 下
64 / 93
第3章

64 「も」ってなによ 

しおりを挟む
 リリーは昏睡状態で、意識が戻るか分からないと言われた。

 内臓破裂は腎臓と卵巣に渡り、子宮も破裂していたそうです。子は6ヶ月の子であった。破裂した臓器は摘出したらしい。

 推測では、集団で暴行されたようだという。

 顔は殴られ、頭部は出血しているという。

 子宮と羊水が破裂して、赤ちゃんが死んだ。

 頭部はできる範囲の血腫を取り去ったが、リリーの心臓が一時期、止まり、それ以上の治療は諦めたという。

 意識はおそらく戻らず、余命は数日だと言われた。

 リリーが死ぬわけがない。

 お兄様は、医師に変化があれば、報せて欲しいと電話番号を教えていた。

 お兄様は、私にも電話番号の書かれた紙を手渡してくれた。

 中央都市に引かれた電話線のお陰で、電話が中央都市の中だけは使える。

 エイドリック王子は、もっと遠方まで電話線を繋げるつもりのようだ。

 私はリリーが心配で、病院に泊まり込んだ。

 目を離したら、消えてなくなりそうで、心配でつきっきりでいた。


「ニナ、少しは寝なさい」と、レインに王宮に連れ戻された。

 私の代わりに、マリアとシュロが交代で付き添ってくれるそうだ。


「リリー嬢が目を覚まさないと、何があったのか分からない」とレインは言う。

 しかし、余命は数日だと言われたのだ。

 ハルマ様がどこに行ったのかもわからない。

 私が苛々している間に、エイドリック王子とヴィオレ王女はずいぶん仲良くなったようだ。

 レインも二人の間に入り、親睦を深めているようだ。

 ヴィオレ王女は私には、話しかけてはこない。

 私も話すことがないので、黙っている。

 二人の王子に、チヤホヤされて、ヴィオレ王女は美しい笑顔を振りまいている。

 王女達もいつの間にか、仲良くなっている。

 私一人だけ、除け者になったようだ。

 20才と18才の違いだろうか?

 王女達は同年齢であるから、話が合うのだと思う。


 そうだったわ。


 私の学生時代は暗黒時代だったと思い出した。

 友達の作り方も分からなかったのに、途中から仲間に入れてもらう、難易度の高い友達の作り方などしたこともない。

 ぼっちになってしまった。

 私は一人でサロンから去って行く。

 レインは、私が居なくなったことにも気づかない。

 やはり若い子の方が可愛いし、全てにおいて負けてしまう。

 最初から勝負をしようと思ったわけではない。

 ただ、仲間に入れてくれるだけでいいのに。

 私は部屋に戻って、ソファーで横になる。

 こんな陰湿な女に王妃など務まるのかしら?

 私はリリーが居ないと、正常な生活も送れない。

「こんなところにいたのか?眠るならベッドで眠れば疲れも取れるだろう」

 私をさがしに来たのは、夕食の時間だった。

 それまで私がサロンに居ないことに気づかなかったのね?

 所詮、男は若くて美しい乙女に惹かれるのだ。

「食事の時間だ。ダイニングに行こう。皆、移動しているだろう?ニナを探すのに、時間を取った」

「私を探すのに、どれほど時間がかかったの?サロンから、私の部屋まで来ただけでしょう」

「そうだけれど」

「その時間も手間に思えるようになったのね?そんなに面倒なら迎えに来なくてもいいのよ。レインも若いヴィオレ王女が好きになったの?でも、ヴィオレ王女はエイドリック王子の婚約者よ?」

「何を言っているんだ?」

「可愛いんでしょう?」

「ああ、可愛いな」

「私のことはもう可愛いとは言ってくれなくなったわ」

「ニナも可愛い」

「ニナもですって?“も”ってなによ?ついでのように言わないで」

「どうした。そんなに苛々して」

「分からないなら、もう私に話しかけないで」

「ニナ」

 レインは私に触れようとしてきたので、それを拒絶した。

「今日は食事はいらないわ」

「どこか具合が悪いのか?」

「ええ、悪いわ、頭が爆発しそうよ。お腹も吐きそうよ。だから、もう寝るわ。部屋から出て行ってください」


 八つ当たりだと分かっていても、私は素直になれなかった。

 私よりヴィオレ王女に魅力を感じるなら、エイドリック王子と戦ったらいいわ。

 私と結婚するのは、要は見栄えのためだ。

 血統はいつか途切れる。

 それなら、今でもいい。

 私はレインに背を向けて、ソファーに横になる。

 レインは、私を置き去りにして部屋から出て行った。

 初めて、レインは私を置き去りにした。

 私は悲しくて、一人で泣いた。
しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...