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第3章

64 「も」ってなによ 

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 リリーは昏睡状態で、意識が戻るか分からないと言われた。

 内臓破裂は腎臓と卵巣に渡り、子宮も破裂していたそうです。子は6ヶ月の子であった。破裂した臓器は摘出したらしい。

 推測では、集団で暴行されたようだという。

 顔は殴られ、頭部は出血しているという。

 子宮と羊水が破裂して、赤ちゃんが死んだ。

 頭部はできる範囲の血腫を取り去ったが、リリーの心臓が一時期、止まり、それ以上の治療は諦めたという。

 意識はおそらく戻らず、余命は数日だと言われた。

 リリーが死ぬわけがない。

 お兄様は、医師に変化があれば、報せて欲しいと電話番号を教えていた。

 お兄様は、私にも電話番号の書かれた紙を手渡してくれた。

 中央都市に引かれた電話線のお陰で、電話が中央都市の中だけは使える。

 エイドリック王子は、もっと遠方まで電話線を繋げるつもりのようだ。

 私はリリーが心配で、病院に泊まり込んだ。

 目を離したら、消えてなくなりそうで、心配でつきっきりでいた。


「ニナ、少しは寝なさい」と、レインに王宮に連れ戻された。

 私の代わりに、マリアとシュロが交代で付き添ってくれるそうだ。


「リリー嬢が目を覚まさないと、何があったのか分からない」とレインは言う。

 しかし、余命は数日だと言われたのだ。

 ハルマ様がどこに行ったのかもわからない。

 私が苛々している間に、エイドリック王子とヴィオレ王女はずいぶん仲良くなったようだ。

 レインも二人の間に入り、親睦を深めているようだ。

 ヴィオレ王女は私には、話しかけてはこない。

 私も話すことがないので、黙っている。

 二人の王子に、チヤホヤされて、ヴィオレ王女は美しい笑顔を振りまいている。

 王女達もいつの間にか、仲良くなっている。

 私一人だけ、除け者になったようだ。

 20才と18才の違いだろうか?

 王女達は同年齢であるから、話が合うのだと思う。


 そうだったわ。


 私の学生時代は暗黒時代だったと思い出した。

 友達の作り方も分からなかったのに、途中から仲間に入れてもらう、難易度の高い友達の作り方などしたこともない。

 ぼっちになってしまった。

 私は一人でサロンから去って行く。

 レインは、私が居なくなったことにも気づかない。

 やはり若い子の方が可愛いし、全てにおいて負けてしまう。

 最初から勝負をしようと思ったわけではない。

 ただ、仲間に入れてくれるだけでいいのに。

 私は部屋に戻って、ソファーで横になる。

 こんな陰湿な女に王妃など務まるのかしら?

 私はリリーが居ないと、正常な生活も送れない。

「こんなところにいたのか?眠るならベッドで眠れば疲れも取れるだろう」

 私をさがしに来たのは、夕食の時間だった。

 それまで私がサロンに居ないことに気づかなかったのね?

 所詮、男は若くて美しい乙女に惹かれるのだ。

「食事の時間だ。ダイニングに行こう。皆、移動しているだろう?ニナを探すのに、時間を取った」

「私を探すのに、どれほど時間がかかったの?サロンから、私の部屋まで来ただけでしょう」

「そうだけれど」

「その時間も手間に思えるようになったのね?そんなに面倒なら迎えに来なくてもいいのよ。レインも若いヴィオレ王女が好きになったの?でも、ヴィオレ王女はエイドリック王子の婚約者よ?」

「何を言っているんだ?」

「可愛いんでしょう?」

「ああ、可愛いな」

「私のことはもう可愛いとは言ってくれなくなったわ」

「ニナも可愛い」

「ニナもですって?“も”ってなによ?ついでのように言わないで」

「どうした。そんなに苛々して」

「分からないなら、もう私に話しかけないで」

「ニナ」

 レインは私に触れようとしてきたので、それを拒絶した。

「今日は食事はいらないわ」

「どこか具合が悪いのか?」

「ええ、悪いわ、頭が爆発しそうよ。お腹も吐きそうよ。だから、もう寝るわ。部屋から出て行ってください」


 八つ当たりだと分かっていても、私は素直になれなかった。

 私よりヴィオレ王女に魅力を感じるなら、エイドリック王子と戦ったらいいわ。

 私と結婚するのは、要は見栄えのためだ。

 血統はいつか途切れる。

 それなら、今でもいい。

 私はレインに背を向けて、ソファーに横になる。

 レインは、私を置き去りにして部屋から出て行った。

 初めて、レインは私を置き去りにした。

 私は悲しくて、一人で泣いた。
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