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第2章

61 キランキラン

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 ノックの音がした。

 私はレインの上から下ろされた。

 レインも立ち上がったので、二人は立っている。

 扉が開き、エイドリック王子が部屋に入ってきた。

 その隣にエミリア様の姿は見えない。


「エミリアはどうした?」

「前は私欲にまみれた子ではなかったのに、いつから変わってしまったのだろう」


 エイドリック王子は、レインに向かってきて、そのまま抱きしめられた。


「何があったのだ?」

「それが・・・」



 レインはエイドリック様を支えて、ソファーに座った。

 私はお茶を淹れて、おしぼりも添えた。

 それだけを終えるとレインの隣に座って、語られる言葉をただ聞いていた。

 エイドリック王子はエミリア様を邸に送ってから、帰るまでの話をした。


 +


 エイドリック王子がエミリア様を邸に送っていくと、家主と奥方がエイドリック王子をやたらともてなす。

 メイドが淹れた紅茶を出されて、テーブルいっぱいのお菓子を出された。

「エミリアのドレスを、王妃らしく新調するなら、質素くらいにしてほしい。パーティー用のドレスは、こちらで準備しますので」

「調印を行う国の王子と王妃は、宝石を携えた美しい王子と姫であると聞いておる。それでは、十把一絡げと同じ容姿の我が娘は、光の影になってしまう。たかが小国のくせに、威張り腐っておると聞く」

「何処の情報か知りませんが、王子は、俺と一緒に育った者です。威張り散らすなどない。心優しい王子ですぞ。王妃も両親に愛されず、孤独に育った娘であった。看護師免許を取り、辺境区に来てから王子が口説き結婚をしたという。二人とも苦労をして育ってきた」

「苦労を光に替えるならば、我が娘は愛情を光に替えようぞ」

「何もしないでください。エミリアはそのままで美しい。いらぬ知恵は王妃の座を穢す」

「婚礼の日時まで決められてから、婚約解消いたすか?」

「そうではありません。この際、ご実家から何も持たずに来ていただきたい」

「我が公爵家を侮るな。婚礼に必要な物は、揃えてある。それを捨て置けと言うのか?」

「では、地味にしていただきたい」

「エミリアが選んだ物だ。娘の最後の願いを叶えて悪いか?」

「せめて、ドレスだけでも、地味にお願いします」

「地味よ」と奥方様が言う。

「先ほどのドレスは、パーティー用ですね?」

「まさか、普段着よ」

「派手すぎます」

「ならば、相手国の髪を剃り、カツラをのせよ。目もくりぬいて、眼鏡でも嵌めていては如何だ?」

「ビッフェル公爵は、王族を侮辱するのですか?よく考えて言葉にすべきである。髪も瞳も生まれつきですよ。差別をしているのですか?」

「差別などしておりません。ブルーリングス王国の姫は、我が娘より背が高いようですね。その分、髪の長さが長いではありませんか?ニクス王国では、髪が長いものが、一番美しいと言われておりますのよ。私の娘は、見栄えも髪の長さも負けておりますわ。できるだけ高く結い上げておりますが、比較すると、我が娘は劣るのです」

「比較などしなくてもいいのです。今のままのエミリアで、十分、美しい」

「今も美しいと言われるなら、エミリアが選んだドレスも受け入れてもらえるはずだ」


 ノックの音がして、侍女が扉を開けた。


「お待たせしました」

 ピカピカとドレスも髪も点滅している。

 白い光であるだけマシか?

 それにしても、とうとう電気を使ってきたのだな。


「今すぐ、着替えてこい。今度は一緒にドレスを選ぼう」

「嫌よ、部屋に入らないで」

「俺達、結婚するのだろう?」

「だって」


 俺はエミリアの部屋に入った。

 そこは研究所のようになっていた。

 ドレッサーの枠は、白い電気がぐるっと点いていた。

 正常なドレスは、もはや見つけることができなかった。

 暫く、会わないうちに、全てを魔改造しているなど考えられない。

 そういえば、エミリアは理工学の成績がよくて、上位学位に進んでいたなと思いだした。

 このままでは王宮に連れて行けない。


「いったい、どうしたんだよ?」

「だって、私、もう22才になってしまったのよ。学校はまだ研究も残っているし、エイドリック様にフラれたら、私のような醜女しこめは嫁に行けないわ。私をどうか妻にしてください」

「だったら、普通のドレスに替えろよ?っていうか、エミリア、まだ研究をするつもりだったら、結婚を止めた方がいいと思うよ。俺と結婚すると言うことは、王妃になると言うことだ。王妃の仕事を思い出せ。両立はできない」

「それなら、電気の研究は諦めるわ。でも、今、学術学会の準備をしているのよ。それが終わったら学校も退学をするわ。私と結婚してください」

「ドレスに着替えて?一着くらいあるだろう?」


 エミリアはドレスを避けながら、探している。


「これは、駄目なの」


 真っ白なドレスが出てきた。

 それは、俺に会う前に婚約していた男にもらったドレスだ。

 その一着だけは、綺麗にされている。

 他のドレスは魔改造されていた。

 上位学位に通うときは、ワンピースかズボンスタイルのエミリアは、ワンピースにも着替えるつもりはないようだった。

 それが、答えなのだろうか?

 太陽の光に炙られたときのような、気怠い溜息が漏れてしまう。



 +



「エミリア様は、以前婚約していた殿方を今も愛しているのですか?」

「名前は忘れたが、学校に通っている時に、実験室で爆発が起こって、亡くなったと聞く。

 その丁度後に、婚約したんだ。

 学校の学年で一位を取り続ける才女がいると言ってね。俺は少しデートをしたが、おとなしい公爵令嬢だった。

 事故の事は、ずいぶん、後に、学校関係者に聞いた。誰にでも話せないことはあると思っていた。

 まだ、彼のことが忘れられないのなら、抱えたままでもいいと思った。俺達はどうせ政略結婚だろう?

 王妃の役目を果たしてくれるならば、優秀な者がいい。物静かな乙女だった。

 特に美しいわけではなかったが、一般的な顔ならば、国民に愛されると考えた。

 それがなんだ?自分が地味だからと、ドレスを魔改造して、キラキラにすれば俺に相応しくなるのか?

 おれは、そのままでいいといっているというのに?

 昔の恋人にもらったドレスは、きっと社交界デビューの時に受け取ったドレスであろう。

 着ようとしても着られないと思うが、特別に大切にしているところを見るとね・・・」


「エイドリック、結婚式を遅らせるか?俺達はもう結婚をしている。調印式もしなくてもいい物を国民の為に見せつけるのだ。結婚式も調印式も来年でもいい」

「そう言ってもらえると助かる」

「元気を出せ。エイドリックと結婚したい乙女は掃いて捨てるほどいるぞ」

「父上に相談する。本人にその気がなければ、王妃などできない。それに、最初は恋心がなくても、恋が芽生えてくる相手の方が、俺もやる気が出てくる」

「そういえば、プルルス王国の姫が嫁に来たいといっていたのではないか?」

「そちらもどうにかしなくてはいけない」

「次のパーティーに誘ってみてはどうだ?意外と相性が合うかもしれないよ」

「気分転換にはなりそうだ。性格が合わないようなら断れる」


 エイドリック王子は、たいそう心を傷めていた。

 私達と話した後に、国王陛下の元に出かけていった。

 この婚礼は解消になるのか、それとも続行されるのか?
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